フリーランスが仕事中にケガしたら「治療費10割負担」の危険も!知っておきたい労災保険の特別加入とは?
- お金
- コラム
- フリーランス/個人事業主
フリーランスとして働くあなたは、仕事中のケガや事故への備えは十分でしょうか?
「自分はデスクワークだから、労災は関係ない」と思っている方も多いかもしれませんが、最近はアフターコロナで対面での打ち合わせが増えたり、現場仕事が増えたりしてきたことで、思わぬケガや事故の相談を受けることも増えてきました。
万一、業務によるケガが原因で医療費の負担が発生した場合、健康保険だけでは対応できず、知らずに「10割負担」となる可能性もあります。
本記事では、フリーランスでも加入できる労災保険の特別加入制度について、社会保険や労働問題のプロである社労士(社会保険労務士)の私がわかりやすく解説します。
開業社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)、特にIT/Web業界を中心に支援している。趣味は同人活動で、評論同人サークル「さかさまダイアリー」より同人誌「村上春樹っぽい文章の書き方」シリーズなど発行。(X:@mo_himo)
労災保険とは、労働者が業務中や通勤中にケガをした場合に、治療費や休業補償などを受けられる制度です。
そもそも本来、業務中に発生したケガは、雇用元である会社が治療費や休業補償を負担しなければなりません。でもそれだと、あまりに大きな事故が起きたときに会社が補償しきれずに倒産してしまう可能性があり、労働者が保護されないリスクがあります。
こうしたリスクを防ぐために存在するのが「労災保険」。労働者を雇っている会社は必ず加入し、普段は会社が保険料の全額を負担することで、もしものときは国が会社に代わって労働者に補償する仕組みです。
ところが、個人事業主や「ひとり法人」の代表は、業務中にケガをしても「補償をする人」と「される人」が同じなため、労災保険は本来は必要ないことになります。このような制度のため、フリーランスが万が一ケガをした場合、治療費が全額自己負担になってしまうリスクがありました。
▲働けなくなるうえに治療費ももらえない状況に陥ると、生活が成り立ちません
通常は「会社が、労働者を対象に加入」するのが労災保険。ただしこの制度だけでは、「一人親方」(労働者を雇用せず、自営業者として建設現場で仕事する職人)などが事故の際に補償されないといった問題があります。
これでは、もしもの際の生活費に困るのはもちろん、場合によっては健康保険の「3割負担」も適用されず、治療費が「10割負担」になってしまう危険性もあります(健康保険は、原則として業務災害は給付の対象外なため)。
▲仕事中のケガに健康保険は使えない(出典:厚生労働省)
そこで労災保険には、「特別加入」といって、自営業者や中小事業主が保険料を自己負担することで、労働者と同じように労災保険の保護を受けられる制度が設けられています。
この対象職種は長らく、建設業の一人親方や、個人タクシー運転手など限定されたものに限られていたのですが、2024年11月からは広くフリーランス全般(個人事業主や、労働者を雇用していない法人)に対象が拡大されました。
フリーランスが労災保険に特別加入するにあたっては、労働組合組織である「連合」が設立した「連合フリーランス労災保険センター」という機関を通じて申し込むことになっています。この機関では「フリホケ」という愛称で申込みを案内しています。一見、民間のサービスのように見えますが、この機関が取次をしているだけで国が運営する公的保険なので安心です。
なお、エンジニアやWebデザイナーなどのITフリーランスは、特別加入団体である「ITフリーランス支援機構全国労災保険センター」に加入をして申し込む必要があるなど、職種によって加入すべき団体には差異があります。
ただ「労災保険への特別加入」という大枠は同じなので、実際に加入を検討する際は各「特別加入団体」に確認しましょう。
気になる保険料は、日給にあたる「給付基礎日額」によって変わり、これが2万円(年間で730万円)の場合の保険料は年間21,900 円、1万円(年間で365万円)の場合の保険料は年間10,950円。ちなみにこの保険料は社会保険料控除の対象となるため、所得控除することで節税にもつながります。
この金額を払っておけば、業務中の事故の際は、治療費は自己負担ゼロで済むほか、休職期間中の給与の80%相当額が補償されたり、万が一死亡した際には遺族に対する年金・一時金や葬祭料が支払われるなど、労働者と同等の手厚い補償が受けられます。
例えば給付基礎日額が1万円(年間365万円)の場合、死亡した際に遺族には一時金として約1300万円、葬祭料として約60万円が支給されることになります(遺族の人数や間柄・年齢・障害状態などにより支給額や形態は大きく変わるため、あくまで一例です)。
▲何が起こるか分からない人生。様々な手当てが受けられるのはありがたいですね
人によっては、業務とプライベートの線引きが曖昧になりがちなフリーランス。「こんなケースは労災認定されるの?」という疑問は尽きないことでしょう。
労災認定は最終、労基署の判断になるわけですが、原則は「労働者の場合に準ずる」ということになっているので、例えば…
・クライアント企業のオフィスに、打ち合わせに向かう移動中の交通事故
・取材で建設現場に行き、事故に巻き込まれた
・自宅で業務をしている最中に、「私的行為や恣意的行為ではないことを十分に確認」できる状況下で、業務に起因するケガをした
以上のような状況であれば、問題なく補償の対象となるはずです。
フリーランスにとって、普段はなかなか意識することがなさそうな「労災保険」。ですが、業務が多様化する中で、労災保険の特別加入は万一のリスクに備える重要な手段です。
特別加入の手続きはちょっと複雑ですが、各団体がなるべく分かりやすく案内しているので、この記事を読んで少しでもリスクを感じた人はぜひ、一度加入を検討してみてください。
▲出典:Workship
『Workship』は、フリーランス・副業向けマッチングサービスです。
公開案件の80%以上がリモートOKと働く場所を選ばず、エンジニア、デザイナー、マーケター、ディレクター、編集者、ライター、セールス、人事広報など、さまざまな職種の案件が紹介されています。
さらに、トラブル相談窓口や会員制優待サービスの無料付帯など、安心して働ける仕組みがあるのも嬉しいポイント。時給1,500円〜10,000円の高単価な案件のみ掲載しているため、手厚いサポートを受けながら、良質な案件を受けたい方におすすめです。
(執筆:もひもひ 編集:夏野かおる)