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なにかと将来が不安な時代。かつては当たり前だった、「今の会社に定年まで勤め上げて、あとは悠々自適の年金生活」なんて時代ではもうないから、将来のために何かスキルを身に付けたいと考えている人は多いはず。
「老後まで一生の飯のタネになるようなスキルが欲しい」
「でも、いつ役に立つかも分からないことを学ぶために、何十万円も払いたくない」
「わざわざ休職や転職をするのは難しい」
「副業で経験を積みたい。でもすぐにプロフェッショナルとしてお金を貰えるほどの専門性やスキルはない。だからといって、誰にもできそうな単純作業はしたくない」
3年前、そんな風に考えていた私が、「フルタイムで働きながら独学で資格を取得し、スモールスタートで副業を始められ、しかも『一生稼げる』資格」として、社労士(社会保険労務士)を選んだ理由をお伝えします。
開業社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)、特にIT/Web業界を中心に支援している。趣味は同人活動で、評論同人サークル「さかさまダイアリー」より同人誌「村上春樹っぽい文章の書き方」シリーズなど発行。(X:@mo_himo)
社労士(社会保険労務士)とは、社会保険労務士法に基づいた国家資格者です。
給与明細にある恨めしい天引き項目の数々のうち、「雇用保険」「健康保険」「厚生年金」「介護保険」あたりに関わるのが社労士になります。(「所得税」「住民税」は税理士の範囲。)いわば、「労働や社会保険」のプロフェッショナルですね。
ただ、会社員だと計算や手続きは勤務先がやってくれるので、日常生活でこれらのテーマに接することはあまりなく、社労士に馴染みのない人も多いかもしれません。
「社労士って、なんだか地味そうな資格だなあ」と感じた方、たしかにその通りかもしれません。
たしかに業務は多岐にわたるとはいえ、従業員の入社・退社に伴う保険関連の手続きや給与計算、助成金の申請代行など「縁の下の力持ち」的なものが中心。
また『社会保険労務士白書 2023年版』によると、社労士の平均年齢は56歳。「39歳以下」よりも「70歳以上」の方が多く、最年長は101歳となっています。どちらかというと私たちの「親世代」がウェイトを占めているのも、地味なイメージの原因かもしれません。
このように地味なイメージのある社労士。加えてネット上では、他の法律系資格と比較した平均年収などのデータをもとに「稼げない資格」「コスパ悪い」という言説もあります。本当でしょうか。
私から見ると「稼ぐつもりがそこまでない社労士」が一定いるのが、平均を押し下げている原因に見えます。
社労士は横のつながりが強く、さまざまな年代の同業者とお話する場面も多いのですが、そこで出会うのは、こんな方々。
「唯一無二の専門性を身に付けて、ガッツリ稼ぐ!」という姿勢の人は、約4万人いる全国社労士の中ではごく一握りな気がします。
このように、社労士の意欲にはばらつきがある一方で、ビジネスチャンスは拡大しています。
たとえば、身の回りのベンチャー経営者からは、
といったお困りの声を聞くことが多いです。
コロナ禍で注目を集めた「雇用調整助成金」を始めとする各種助成金や、社内人事制度のコンサルティングなど、潜在的な需要は大きいブルーオーシャンな資格だと感じます。なぜなら、ヒトに関わるテーマは会社の規模や業界を問わず、必ずついて回る話だからです。
資格取得後のメリットが大きくても、試験合格までの労力がコスパに見合わなければリスク大。そこで肝心の、会社員が社労士試験に合格するまでの難易度をご説明します。
まず、年に一度ある試験の合格率は、例年6〜7%ほど。
<第56回社会保険労務士試験の結果概要>
受験者数 43,174人
合格者数 2,974人
合格率 6.9%(前年 6.4%)
この数値を見るとどうしても難関資格に見えますが、私の身の回りの体感値としてはそこまで壁の高さは感じません。
というのも、社労士は15,000円の受験料を払って出願さえすればほぼ誰でも受けられる試験だからです。
翌年の合格を目指す人が練習感覚で受けたり、「マークシート式なので、もしかしたらまぐれで受かるかもしれない」と挑んだりと、記念受験も多いのが実情。なので、「一握りの人が受かる」試験というよりは、ちゃんと勉強すれば受かる資格という印象です。
ちなみに必要な勉強時間は、一般に「800〜1000時間」と言われています。私自身も、時間を測っていた訳ではないものの、このくらい勉強した気もしますし、一定の勉強時間を投下する必要があるのは事実です。
得意不得意はあるでしょうが、基本的には法律条文の暗記が求められるので、センスや思考力よりも暗記力が問われます。
そんなに勉強が大変なのであれば、予備校に通うべきでは? と思う人もいるかもしれません。私も1度目の受験で不合格になり、勉強法について悩んだ時期もありましたが、結論から言うと独学のまま、2度目の受験で合格しました。
もちろん予備校の講師の説明を聞いた方が理解は早いのでしょうが、そもそも試験方法は全問マークシート式で、記述や論述は一切ないのが特徴。
「添削を受けないと自分の答案が合っているかどうか分からない」なんてことはなく、常に自己採点が出来るので、独学に向いている資格と言えます。
試験のテーマも、例えば労働基準法(残業時間の上限)や、育児休業、確定拠出年金、パワハラなど、会社勤めの中で「詳しくは知らないけど、よく聞く」テーマが多く含まれます。
なんとなくイメージが湧きやすいため、とっつきやすいのも会社員に向いている理由です。
社労士になるには、試験に合格するだけでなく、各都道府県の「社労士会」(会費は年間10万円弱)に入会(=社労士連合会の名簿に登録)しなければいけません。実は、これをせずに社労士を名乗ったり独占業務を受けたりすると、法律違反になります。
とはいえ、「登録をしないでおく」ことは可能です。
つまり、今のうちに試験に合格して未登録のままにしておき、いつか実務をするときに備える(もしくは知識を活かしながらも、社労士を名乗らずにコンサルティングなどの「独占業務」でない仕事だけ受ける)、ということができるのです。
実際に私の身近にも、若いときに社労士事務所で働き、たまたま社労士試験に合格していたものの登録はせず。30年以上経ち、キャリアに行き詰まったタイミングで社労士試験に合格していたことを思い出して開業したシニアの方がいらっしゃいます。
このように、リスクヘッジとして動けるうちに取得しておくのも悪くない選択肢かもしれません。
社労士としての業務は幅広く、その難易度もさまざまですが、例えば従業員の入退職に伴う労働保険・社会保険の取得・喪失の手続きなど、スモールスタートしやすい定型業務は多いです。
「難しいことはしなくていい。これまで労務や保険周りをはこれまでかなり適当に済ませてきちゃった分、定型業務だけでも、きちんと出来る人にまるっと投げたい」と考える経営者は思いのほか多いのです。
プロとして責任を持って受ける必要はありますが、実際の申請方法は都度調べたり、労働局や年金事務所の職員に聞いたりすれば優しく教えてくれます。さらには、手続きミスや情報漏洩が発生したときのための損害賠償保険もあります(年間約1万円、基本的には加入している社労士がほとんど)。
しかも、「顧問料」として月額固定契約を結ぶことが多いので固定収入化しやすく、いちいち価格交渉をしたり、「いきなり来月から収入が減る!」という心配をしたりする必要もほとんどありません。
年に一度、税で言う「確定申告」にあたるような「年度更新」というイベントが6〜7月頃にあるので、そこが繁忙期になります。しかし、顧問料は月額固定にして年単位の契約をすることが一般的なので、フリーランスの他職種でありがちな報酬のアップダウンやそれに伴う金額交渉はあまり考える必要がなかったりします。
社労士は「ヒト」に関わる資格なだけに、顧問先の人材教育や離職予防、働き方改革、ハラスメント防止、女性活躍、社員のみならず派遣・パートなどを含めたモチベーションアップといったテーマにつながることが少なくありません。
実際に、特定業界の現場業務への深い理解を武器にしている社労士が最近、目立ちつつあります。
私の周りにも、「本業の医療業界での経験を活かして、クリニック向けに特化した社労士として現場職員の働き方改善に貢献している」人や、「アニメ好きが高じて、アニメ制作現場の労務環境改善に向け業界団体に働きかけようとしている」人がいます。
「ヒト」にまつわるテーマは他の経営課題と密接に関連しやすいので、自分の興味のある業界・業務の知見と掛け合わせて専門性を発揮することで、「第一人者」として唯一無二のキャリアが形成しやすい領域といえます。
将来のキャリア形成のために、「リスク少なく学習に自己投資して、スモールスタートで副業を始める」のにおすすめの資格として、今回は私が社労士を選んだワケをお話しました。
社労士に限らず、潜在的なニーズがあるのに「地味〜」なイメージの国家資格は、他にもあるはず。「地味そうだから興味が湧かないな」から「地味ゆえに面白さが隠れているのかも」と考え方を変えると、新たなキャリアのきっかけに気付けるかもしれません。
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(執筆:もひもひ 編集:夏野かおる)