【フェイク・ノンフィクション】菊池良が見た、ハイパーノマドワーカー #01 – 植物になる男

「自分はね、キティちゃんみたいなものなんですわ」

全身を手作りの樹皮で覆った山田さんは笑いながらそう言った。

「どういうことですか」と筆者が聞くと、一つのキーホルダーを見せてもらった。それはナマハゲの格好をしたご当地キティちゃんだった。「つまり、どういうことですか」と筆者がもう一度聞くと、山田さんは言った。

「すべてを受け入れるってことです。キティちゃんは、かわいい猫でしょ。なのに、ナマハゲにも歌舞伎役者にもなる。反発するんじゃなくて、受け入れる。わたしとプラントの関係も、そういうことですよ」

今回、紹介するノマドワーカーは山田さん(38歳)。彼は植物になりながらノマドワークをしているという。

「植物になる──まぁ、まだなれていないんですが、とにかく植物と同化しようと毎日森のなかに入っていますね」

山田さんは大学を卒業後、大手IT企業にプログラマー職として入社。誰もが知るウェブサービスの開発に携わった。給料も高く、待遇も悪くなかった。すきやばし次郎で寿司を食べ、武蔵小杉のタワーマンションに帰る日々を繰り返しながら、「自分はこのままでいいのだろうか」と思っていた。

「ぼくの作るものなんて、こうしたら……(コンセントを引っこ抜く動作をする)ポンッ! すべて吹っ飛ぶわけですよ。あるいは充電し忘れていたとか、そういうちょっとしたことで使えなくなるのがね」

自分が作るものの「脆さ」が気になりだしたという山田さん。そこから植物──プラントへの興味が高まっていった。

「コンピュータが生まれたのは1946年──植物はそれ以前からあるでしょ? それに日本の国土の66%が森林だと言われています。なんでそんなにシェアが取れているのか──ウェブではシェアを取っている競合を分析するのが基本です」

そして、植物と一体になりながら仕事をすることを決意したのだ。彼が退職を告げたときのことを、当時の上司はこう振り返る。「当然、ぼくは引き止めたんです。でも、彼は職場内の観葉植物を指さして言うわけです。『うちのサービスがサーバダウンしている間でも、植物は何事もなく生えている。専務、そっちのほうが強いと思いませんか』ってね。ぼくは『思わない』って言ったんですが、今なら彼が何を言いたかったのかわかります」。山田さんは退職するとすぐ、植物になるための活動を始めた。

しかし、そもそも「植物になる」とはどういうことなのだろうか。山田さんはこう定義する。

「それは光合成をすることですね。最終的には何も食べず、光合成だけで細胞分裂をする。これが目標です。今はまだできていませんが。早く光合成したいなぁ」

彼は武蔵小杉のタワーマンションを引き払い、八王子に引っ越した。

「それはなんとなく。都心から遠いほうがいいかなって。でも、いきなり東京から離れるのもどうかなって──たまには東京ドーム天然温泉 スパ ラクーアにも行きたいし──まぁ、完全になんとなくですね」

そして毎朝、樹皮を着込んでは、自然公園に入っていく。森のなかにたたずみ、パソコンを開いてノマドワーカーとしてクライアントワークをこなす。手がけているのは主にアプリの開発だ。

「まぁ、パソコンを使うのは妥協しています。しょうがない。食べるためなんだから──光合成できるようになったら食べないんですが──まぁ、パソコンを使う植物が1つくらいあってもいいんじゃねーの? そういう気分ですわ」

皮肉なことに、彼の働き方が実現できているのは、現代のテクノロジーのおかげである。彼はそこに多少の負い目を感じているようだった。

「妥協ですわ。すべてが妥協。テクノロジーこんちくしょう、と思いながら自分の生活はテクノロジーで成り立ってんだからね。(泣き出す)悔しいよ。あ~、悔しい。妥協したくねえなあ! でも、するんだよ」

八王子のカフェで、彼はそう自嘲した。そして、樹皮を脱ぐと、「クライアントと打ち合わせがあるので」と言い、新宿行の特急列車に乗っていった。

 

世の中にはさまざまな働き方がある。この連載ではハイパーメディアジャーナリスト・菊池良が目撃した多様なノマドワーカーの世界を紹介していきたい。

 

企画・文:菊池良

イラスト:見る目なし

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