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「即戦力フリーランス」が機能しないのはなぜ?契約外こそ明文化しよう

「即戦力フリーランス」が機能しないのはなぜ?契約外こそ明文化しよう

「今月から入ってもらっている、フリーランスのデザイナーさん。たしかにスキルは申し分ないのだけれど、なぜかうまく噛み合わない」

「Slackで事務的な報告は来るけれど、現場の手ざわり感がつかめない」

「やっぱりフリーランスではなく、社員の採用を考えるべきなんでしょうか?」

社労士として、企業からそんな嘆きの声を聞くことは少なくありません。こうした声は、よく聞くとどちらかが悪いというより、ボタンの掛け違いがあることが多い。契約上はきちんと整理されていても、現場では「働き方のスタンス」や「期待のポイント」がすれ違っているのです。

実際に相談を受けていても、現場で起こるトラブルは、法律で解決するような労務トラブルよりも、人間関係や期待のズレに起因するケースの方がずっと多いと感じます。それだけ、フリーランス採用の難しさは「契約書に書かれていない部分」に潜んでいるのです。

もひもひ
もひもひ

開業社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)、特にIT/Web業界を中心に支援している。趣味は同人活動で、評論同人サークル「さかさまダイアリー」より同人誌「村上春樹っぽい文章の書き方」シリーズなど発行。(X:@mo_himo

「働き方のスタンス」のギャップ

「即戦力だったはずのフリーランスが、うまく戦力になっていない」。この原因を突き詰めると、契約形態と「働き方のスタンス」のギャップに行き着きます。

企業側は「すぐに戦力になって最大のパフォーマンスを挙げてほしい」と考え、フリーランス側は「契約の範囲で成果を出したい」と考える。どちらも正しいのですが、前提が異なります。

フリーランスは業務委託契約に基づき、事前に合意した成果物の完成・品質・納期に責任を負うのが基本です。一方、企業はプロジェクトを円滑に進めるため、「報連相」を求めたり、指示を出したりする場面も多い。つまり、企業は「メンバーの一員」としての働き方を期待し、フリーランスは「成果ベースの仕事」を想定しているわけです。

「チーム全体で成果を出したい」企業側と、「任された範囲で最善を尽くしたい」というフリーランス。このスタンスの違いが、トラブルの温床になります。どちらかが間違っているわけではありませんが、前提が異なると、同じ行動でも受け取り方が変わってしまうのです。

よくある2つのすれ違い

「週3稼働」とは、誰の週3だったのか

実際のトラブル事例を見てみましょう。

とあるWeb広告制作会社では、フリーランスのエンジニアに「週3稼働」で広告効果測定ツールの開発を依頼しました。会社としては、このツールを使いやすいものにするため、ユーザーである社員との頻繁な意見交換を期待していました。そのため、「週3日はフルタイムで稼働」という想定でした。

一方、フリーランスは「自分の総稼働時間の約6割を充てる」という意味で理解し、他案件の隙間時間に開発を進めるつもりでした。

結果、開発力は申し分ないエンジニアだったにもかかわらず、お互いにコミュニケーションで疲弊。ちょっとした仕様確認のQ&Aも翌日、翌々日へと持ち越され、納期が遅延してしまいました。

「自走できる人」を採ったのに、「放置された」形に

とあるクラウドサービスのスタートアップの事例です。

社長はUI改善のため、経験豊富なフリーランスデザイナーを「自走できる人」として採用しました。「口を挟まれるより、のびのびデザインさせてくれた方がうれしいです」という希望もあり初回ミーティングではサービスの方向性だけ共有し、以降は任せる方針に。

ところが数週間後、フリーランスは不満を募らせ、いきなり稼働を停止。「詳細な指示を出されたくはないが、全くフィードバックもない中では、何を基準に動けばいいのか分からない」というのが理由でした。社長に悪意はなく、「信頼して任せた」つもりだったのです。しかし、フリーランスとしては「放置してほしいとは言っていない」「デザインの手法に口を挟まれたくはないが、制作過程での反応は業務遂行に必要」とのこと。

こうして、意図せぬボタンの掛け違いが起きていました。

契約の前に共通認識にしておきたい、3つのこと

社労士として契約の中身や働き方の相談を受けた際、「契約うんぬんの前に、そもそもこの部分について、共通認識ができていますか?」とよく聞くのは、以下の3つのポイントです。

1. 「働き方のスタンス」をすり合わせて、言語化する

「週3」とは、いつなのか。Slackのリアクションはどの頻度を求めるのか。働き方を明文化しておくだけで、ほとんどのトラブルは防げます。

契約上は業務委託であっても、その力を最大限発揮してもらうには、「チームの一員」として文化の共有が不可欠。会社のルールや進行の「クセ」を伝えてすり合わせることは、コラボレーションのための重要な下準備です。

2. どこまで貢献してくれたら「ベスト」なのかを明確にする

成果物を納品すればそれで十分なのか。レビューや改善提案、その後に残る仕組みづくりまで含めて貢献してほしいのか。

本音で期待している貢献の範囲を明確にしておかないと、「こんなことまでやらされた」「頼んでもいないのに無駄なことをされた」といったすれ違いが生まれます。

目に見える「契約上の納品物」だけでなく、「ここまで貢献してくれたらベストであり、お互いハッピー」を共有しておけると、お互いに納得感のある働き方ができます。

3. うまくいかなかったときの出口を決めておく

契約期間の途中であっても、「一度整理して話しましょう」と言えるタイミングをあらかじめ作っておく。引き継ぎやデータの取り扱い方法も、あらかじめ決めておく。

ギクシャクしてからルールを定めるのは難しいので、うまくいっているうちに「出口」(非常口)を設計しておくのが現実的です。

信頼に基づく働き方を設計する

フリーランス参画の失敗は、人の問題というより、仕組みの問題であることが多いです。社員は労働関係諸法令によって働き方がある程度定まりますが、フリーランスは柔軟な設計の余地が残されています。

だからこそ、契約書では定めきれない心理的な約束、つまりお互いの期待や関わり方をどうすり合わせるかが、社員採用以上に大切になります。ここがしっかり握れていれば、フリーランスはチームの一員としてすぐに力を発揮してくるでしょう。

(執筆:もひもひ、編集:夏野かおる)

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