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【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?

【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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「ジョブ型雇用」という単語を耳にする機会が増えてきました。旧来のメンバーシップ型(日本型)の雇用が「ジョブ型」へと移行することで、会社員の働き方も変わってくると言われています。

そのとき、フリーランスの働き方はどう変わるのでしょうか?

「ジョブ型雇用になると、フリーランスが有利」って本当!?
ジョブ型雇用が進む未来に、フリーランスはどのように生き残るべき?

この記事では、労働問題のプロである社労士(社会保険労務士)がジョブ型雇用の見通しと、フリーランスに求められる生存戦略について解説します。

もひもひ
もひもひ

開業社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)、特にIT/Web業界を中心に支援している。趣味は同人活動で、評論同人サークル「さかさまダイアリー」より同人誌「村上春樹っぽい文章の書き方」シリーズなど発行。(X:@mo_himo

そもそも「ジョブ型雇用」とは?

メンバーシップ型(日本型)雇用=新卒一括採用、終身雇用

「ジョブ型雇用」に触れる前に、まずは「日本型」とも言われる「メンバーシップ型雇用」を理解しましょう。

メンバーシップ型雇用とは一般に、職務内容や勤務地を限定せずに雇用するシステムです。これは新卒一括採用・終身雇用・年功序列と相まって、日本型の雇用の特徴として長く機能してきました。

メンバーシップ型雇用は、人事部門が強い裁量権を持ち、常に社員を自由に差配することで、経営状況の変化に応じた柔軟な配置転換ができるのが特徴です。新卒採用した「まっさら」の社員にゼロから様々な業務を徐々に経験させることで「幹部候補」「ゼネラリスト」として長期的な育成ができるメリットがあります。

戦後の日本では、この雇用システムが高度経済成長を支えました。一方で1970年代に入り経済成長が落ち着くと、管理職ポストが準備できなくなってしまったため「部下なし管理職」制度が広まります。

こうして人件費が高止まりしたタイミングで、バブル崩壊。非正規・派遣社員の活用と就職氷河期に突入、という経過を経て今の日本に至ります。

ジョブ型雇用=職務内容に基づいた雇用

一方の「ジョブ型雇用」とは、職務内容(=ジョブ)を明確に定義した上で労働者を雇用するスタイルです。

日本企業についてよく語られる言説は、「新卒一括採用で入社し、年功序列で給与が上がっていくメンバーシップ型雇用では、定年までしがみつくしかない。その結果、長時間労働が常態化し、イノベーションが生まれない」というもの。この背景から、「欧米のような効率的なジョブ型を導入することで、生産性を向上するべきだ」という議論があるわけです。

こうした議論は戦前から100年以上にわたって続いており、「好景気のときはメンバーシップ型へ、不景気のときはジョブ型へ」というサイクルを繰り返していると言われます。平成以降について言えば、バブル崩壊後の「従業員の非正規化」や「成果主義の導入」も、ある意味で「ジョブ型雇用」の導入と言えるでしょう。

政策主導でも導入が進む

近年では岸田政権が「新しい資本主義」の一環として「ジョブ型雇用」を打ち出し、政策主導で語られるようになってきました。

内閣官房が2024年8月に公表した「ジョブ型人事指針」には、以下のように書かれています。

内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、社外からの経験者採用にも門戸を開き、労働者が自らの選択によって、社内・社外共に労働移動できるようにしていくことが、日本企業と日本経済の更なる成長のためにも急務であり、個々の企業の実態に応じたジョブ型人事の導入を進める。

日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める。
従来の我が国の雇用制度は、新卒一括採用中心、異動は会社主導、企業から与えられた仕事を頑張るのが従業員であり、将来に向けたリ・スキリングがいきるかどうかは人事異動次第。従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくいシステムであった。個々の職務に応じて必要となるスキルを設定し、スキルギャップの克服に向けて、従業員が上司と相談をしつつ、自ら職務やリ・スキリングの内容を選択していくジョブ型人事に移行する必要がある。
従来の制度では、ⅰ)最先端の知見を有する人材など専門性を有する人材が採用しにくい、ⅱ)若手を適材適所の観点から抜てきしにくい、ⅲ)日本以外の国ではジョブ型人事が一般的となっているため社内に人材をリテインすることが困難、との危機感が日本企業から提示されている。日本企業の競争力維持のため、対応を図る必要がある。

▲出典:内閣官房「ジョブ型人事指針」

ざっくり言うと、

「会社はジョブ型雇用を導入することで、専門人材の採用や若手抜擢を進めよう」
「労働者も、キャリア形成を会社任せにせず、主体的を持って人生を設計しよう」
「これらを通じて、日本の競争力を上げていこう

というわけですね。

「ジョブ型雇用」の実態とは

政策主導で「ジョブ型雇用」の導入が進むなか、最近は日本でも新卒採用で職種別コースや勤務地確約の導入が進んでいます。また社内の業務を職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)に落とし込み、スキルベースで給与を決めるような人事制度の導入もトレンドです。

実際に私のまわりの経営者からも、

「社員のスキルを可視化し、最適な配置を考えたい」
「市場を反映した最適な報酬体系を考えたい」
「これまで自社が取り組んだことのない領域にチャレンジしたい」

といった悩みが寄せられます。そして、これらの悩みに対して、いわゆる「ジョブ型」の導入がひとつの解決策になるようなケースが増えています。

社労士が予測する「ジョブ型雇用」時代の未来予測

「ジョブ型雇用」が進む中で、働き方や雇用形態がどのように変化していくのかを考えてみましょう。

働き方はどう変わる?

「ジョブ型雇用」の導入で起こる働き方の変化としては、「キャリアを自らの責任で形成していかなればならない」ことが挙げられます。

「メンバーシップ型」では、(たまに配属希望や異動希望を出すことはあれど)、基本的には人事部門からの配属命令に従ってキャリアを形成していくことになります。

たとえば営業職なら、「初期配属は地方支店。最初3ヶ月は先輩に同行、そこからは個人向け営業を担当。2年目から中小企業向け営業、3年目に本社に異動し後輩のマネジメントも始まり、4年目で大手法人向け営業へ」とスキルアップしたのち、「5年目で管理部門へ異動し、まずは経理の伝票処理からはじめて徐々に月次決算、管理会計、しだいに財務を経験し、やがて役員候補として頭角を現す(かつ、年次とともに給与もアップ)」のように、受け身であってもキャリアアップが可能でした。

これが「ジョブ型」になると、常に「即戦力として成果を出す」ことが求められます。

業務内容をベースに人事配置を行うジョブ型では、「営業としては6年目」であっても、「給与水準はそのままに、経理部門へ異動」のような動きは難しくなります。もし本人が経理にキャリアチェンジをしたければ、「1年目」としての職位(給与)に下げて異動するか、自ら簿記や会計のスキルを身に付けるなどして、経理部門のミドルクラスの職務(ジョブ)を実現しうる「即戦力」になるしかありません。

あれ、これってもしかして、フリーランスの働き方に近付いていませんか?

そうなんです。業務を明確に定義し、そのスコープでジョブを全うし、対価をもらうというフリーランスの働き方は、ある意味で「ジョブ型雇用」の先駆者と言えます。

フリーランスの案件内容に起こる変化とは? 追い風、それとも向かい風?

ジョブ型が普及すると、抽象的で曖昧だった業務を細分化・定義する流れが進みます。

その結果、特に社員のリソース不足が事業成長のボトルネックになっていたような成長企業において、業務を切り出してフリーランスに発注する流れは確実に来るでしょう。そういう意味では、ジョブ型の導入はフリーランスにとって追い風要因と言えます。

また、案件内容にも変化が見込まれます。これまでのフリーランスには、仕様書に基づくシステム開発やデータ入力、クリエイティブ制作といった切り出しやすいタスクを外注することが主でした。しかし、企業がメンバーシップ型にこだわらなくなれば、今後はより経営課題に近い領域の案件も増えてくることが考えられます。

兆しとして、例えばエンジニア職では、CTO(最高技術責任者)のような自社の経営陣とは別に、「技術顧問」や「テックリード」といった、社内のエンジニアに必要に応じて知恵を与える存在としてフリーランスを配置することが一般的になっています。

営業職でも、人事査定権者や管理監督者といった役割の「マネージャー」とは別に、メンバーのリードや育成などのマネジメントに外部から携わる事例は増えています。経営層の懐刀である「メンター」としての参画も増えてきており、フリーランスに抽象的な役割が期待される場面は今後ますます増えてくるでしょう。

「ジョブ型雇用」時代のフリーランスの生存戦略

ジョブ型雇用の時代を生き抜くために、フリーランスが取り組むべきポイントを整理します。

キャリアを自ら作っていかなければならないのが、フリーランス

これからは会社員・フリーランスを問わず、「それぞれのジョブを高い品質でやりきり、自社の事業価値向上に寄与すること」がより厳しく、スピード感を持って求められる時代になります。

その一方で、意外な副次的効果として私が推測しているのは、いわゆるゼネラリスト型の動き方ができるフリーランスの価値が高まる、ということです。

「ジョブ型雇用」が広がると、「こぼれ球を全部拾う、何でも屋さん」といったゼネラリスト型のスキルは社内で評価されにくくなります。すると、全体の進行管理を積極的に担う社員がいなくなるため、“やわらかい業務”がフリーランスへと外注される可能性があるのです。

その代表例が「マネジメント」です。社員の代わりにこぼれ球を積極的に拾えるフリーランスならば、個別のタスクを受注するよりも高い報酬を受け取れる可能性が高くなります。

ただし広義のマネジメントスキルは、これまで通り「タスク」を受注しているだけでは経験が積みづらいものです。ある程度経験に「投資」しなければ、スキルを身につけるのは難しいかもしれません。無償であっても同業者コミュニティの活動に参画してみるとか、スモールカンパニーを起業して経営者の視点を身に付けてみるとか、若干のコストを投下することで掴めるチャンスがあるかもしれません。

「名もなき雑務」が貴重な経験になる可能性

企業が求めるのは、あなたのスキルそのものではなく、あくまで「そのスキルを活かして、どこまで自社の事業価値を高めてくれるか」です。

フリーランスは自分自身が商品である以上、自分をブランディングする必要があります。そして、「事業をどう伸ばせる存在か」をブランディングするという観点では、これまで雑務だと思っていた、取るに足りない経験が生きるかもしれません。

例えば、自分の役割は「SNSマーケター」である、と思っている人にとって、事業部門向けのレポーティングや他部門との折衝や調整、根回しなどは、「本来の役割ではない雑務で、なんの糧にもならない」と思っているかもしれません。

しかし、今後は「すでに明確に定義されているマーケティング課題を解決する」以上に、「経営課題をマーケティング課題に落とし込み、なんとか成果につなげる」といった“やわらかい”業務の価値が大きくなってくることが考えられます。

将来の可能性を最大化するために、フリーランスには何が出来る?

「ジョブ型雇用」時代において将来のキャリアの可能性を最大化させるために、フリーランスは何をすべきでしょうか。

ここでおすすめしたいのは、「この仕事を請けると、ポートフォリオにどんな実績が書けるだろうか」という考えをあえて捨ててみること。

「得意なこと」「すぐやれること」「好きなこと」「取り組みたいこと」だけではなく、「自分も得意なわけではないけれど、人よりはちょっとだけうまくやれそうなこと」に取り組むと良いかもしれません。

例えば、数値の集計やExcelでできる程度の傾向分析、それをグラフにするような、わざわざエンジニアやアナリストに頼むほどではない分析スキルは、今後より高く評価される可能性があります。

月商数十万円以上を安定的に売り上げているような「中級」以上のフリーランスであれば、「今はまだ名もなき仕事の、第一人者に自分はなるぞ」というスタンスがおすすめです。今、言語化されているような役割は新規参入も多く、数年後には飽和している可能性があるからです。

もちろん目先の報酬や、短期的に身に付くスキル・実績も大事ですが、中長期的に活きるかもしれない「名もなき仕事」にもバランスよく投資しながら、来たるべき「ジョブ型雇用」に備えるのが、私が提案したい生存戦略です。

まとめ

「ジョブ型雇用」の導入により、所属する会社が「タグ」(個人の属性)として機能した時代から、ジョブごとに役割が付与される世の中へと徐々に移り変わって行くでしょう。現時点でフリーランスとして活躍している人は、時代を一歩先取りしていると言えます。

一方で警戒しておきたいのは、会社員とフリーランスの垣根がなくなっていくと、フリーランスを目指す人が増える可能性があることです。初心者を含めて多くの人材が参入していくなかで、「自分はこんな初心者とは違う」「スキルがあるから大丈夫だ」などと慢心していると、時代が求める資質とのギャップが生まれ、「ゆでガエル化」してしまうかもしれません。

どのような時代であっても、フリーランスは自己のキャリアを常に律する意識を持ち続けたいものです。先行者利益をキャリアの土台に、戦略的にキャリア形成をして、来たるべき「ジョブ型」時代に備えていくと良いでしょう。

▲出典:Workship

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(執筆:もひもひ 編集:夏野かおる)

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