元フリーランスが就職してわかった「キツかったこと」「意外と大丈夫だったこと」
- 【連載】34歳フリーランス、会社をたたんで公務員になる
- フリーランス/個人事業主
- 働き方
フリーランスから国家公務員という、なかなかの急ハンドルでキャリアチェンジした夏野。
このミニ連載では、フリーランスからの「正社員回帰」傾向が高まるなか、夏野はなぜ勤め人(サラリーマン)へのキャリアチェンジを決断したのか?勤め人生活のメリット・デメリット、転職時のエピソードなどを追いかけていきます。
連載第3回にあたる今回のテーマは、「自由と安定のトレードオフ」。
フリーランスから就職して、実際にしんどいと感じたのはどのような点だったのか。反対に、「これは絶対にしんどいだろうな」と覚悟していたものの、意外と問題なかったことは何か。勤め人生活のリアルを振り返りつつ、将来的にどのような働き方を選びたいのかについても考えます。

フリーランスの編集者・ライター。コンテンツマーケティングやディレクション、マネジメントに仕事の幅を広げ、2021年7月に会社を設立。非常勤の国家公務員になり、2026年2月で会社を畳む。博士(京都大学)。趣味は無限に歩くことと放浪。(X:@Natsuno_Kaoru)
目次
まずは、フリーランスから就職したことで感じた、一般的なデメリットから紹介します。
私の都合ではあるのですが、就職したことで通勤時間が発生しました。しかも片道1時間半。往復だと、なかなかの時間を取られます。
常勤職としての採用なら、迷わず職場の近くに引っ越します。しかし私は非常勤なので、そこまでするわけにもいかず。仕方なく、読書を楽しみながら乗り越えています。
最初は紙の本を持ち歩いていたのですが、読むのが速いため、常に2冊持ち歩く羽目になりました。さすがに重さがつらくなり、途中からKindle端末を購入。背面にゴムのベルトをつけたことで保持しやすくなり、かなり快適です。

定時がはっきりしているということは、業務時間中にプラプラ立ち歩いたり、グ〜スカ昼寝したりはできないということです。
人間なので、たまには「今日はやる気出ねえな」という日もあります。それでも、デスクからは逃れられません。
これは結構つらいことですが、逆に言えば、そういう日でも職場に行くことで、否が応にも何かを進めなければならない状態になります。そのため、結果的にはタスクの進みがよくなる一面もあります。
どうしても無理……という日は、後述するローテクシステムと戦う日に充てることもあります。本当に何も詳しいことは言えないのですが、ちょっとした申請をするだけでも、かなりの時間を取られちゃいますのでね。
まず、言わせてください。
少なくとも夏野の職場に関しては、テクノロジーのレベルは、2000年代相当です。
誤解のないように言っておくと、セキュリティは万全です。万全というか、なんつうか、厳しすぎて業務を遂行できないときもありますけど。あんまり詳しいことは言えないんですけど。
ただ、本当に、ありえないレベルの業務フローで回っていることがあるのも事実です。ほんと。何も詳しいことは言えないんですけど。
このへんは、入職前から「覚悟しておいてね」と言われていました。いかんせん夏野の得意分野はITで、そこを買われて入職したところもありますので……。
「びっくりしちゃうと思うし、嫌になるだろうけど、そこさえ耐えればいい職場だから」と説得されたのですよね。
結論、適応はできました。できましたけど、入職1週間目にして、人生でこんなんできたことねえぞ、というレベルのクソデカニキビが鼻の頭にでき、心と体に大きな傷を残しました。
ローテク、嫌〜〜〜〜!
こればっかりは、「私の力では改善できない」という無力感も相まって、かなり大きなデメリットに感じています。
ほんと、何も詳しいことは言えないんですけど。何も言えないんですけど、まじでいい加減にしてほしいシステムが、いろいろと、あります。
▼公開されている情報から、いろいろと察してください
https://digital-agency-news.digital.go.jp/articles/2025-01-16
次に、私の仕事ならではのデメリットとして、出張ルールの厳しさがあります。学会参加が業務として扱われるようになった分、移動や滞在の自由はかなり減りました。
あとは、私の仕事ならではのデメリットです。学会参加が業務になるということは、遊びじゃねえよ、というわけで、移動ルートや勤務時間の管理が非常に厳密になりました。
職場のお金で出張する以上、ルールが厳しいこと自体にはまったく文句がありません。ただ、ちょっと厳密すぎるのでは?と思うことはあります。
たとえば、ある学会では、プログラムとプログラムの間に20分ほどの空き時間がありました。普通、こういう時間には発表の準備をしたり、ほかの研究者と立ち話をしたりして、しっかり情報収集しているんですよね。プログラムには載っていないけれど、こちらとしては業務をしている認識です。
ところが職場としては、「20分空いているけれど、この間は何をするのか」「休憩時間にあたるなら、業務時間、つまり手当の対象から差し引きます」という判断になります。その説明をするのが、なかなか大変です。
いや、分かります。分かりますよ。けどさ!?
この20分で自宅に帰れるわけでもなく、「業務ではない」としたら、私は何をすればええねん。学会会場にとどまって何かに取り組む以外の選択肢、常識的に考えて発生しなくね……?

▲仕事に誠実に取り組むことは大切ですが、毎回こういう説明を求められると、(ただでさえ学会前は忙しいのに)地味に時間が取られてつらいんですよ
このレベルの厳しさなので、当然ながら「せっかくだし周辺を観光して帰ろ!」もできません。帰路も業務時間にあたるため、当然、飲酒もNGです。
学会でもなければ、なかなか訪れない土地なのにな……と思いつつ、その土地を何も楽しまずに離れるのは、なかなか寂しいものがあります(大学ってちょっと鄙びた土地にあることも多いので)。いや、理解はできるし、ルールは守りますけどね。
これと同じ考え方で、学会参加などにあたっては、不要な宿泊は一切認められないことになっています。具体的にいうと、土曜の朝9時から学会がある場合、前泊してもよいのか、それとも当日の朝に向かうのか、という話です。
しかし、どこからが「不要な宿泊」にあたるのかは、省庁によって微妙にルールが違うらしいです。なんで?
私の所属先はかなり厳しく、たとえ夜明け前の出発になっても、当日の移動で間に合うなら宿泊せず、始発の新幹線で行ってください、というルールになっています。
というわけで夏野、2月に参加したある学会では、朝3時半に起きて名古屋まで移動しました。
朝3時半ですよ。むしろ徹夜した方が起きられるまである。
この記事でも何度か触れているとおり、「理由は分かるし、従うけれど、さすがにちょっと過剰じゃないかなあ……」というルールが結構あります。
安定した雇用や保証された権利とのトレードオフだと考えて、耐えるしかないですね。
ここまでは、就職してしんどかったことを中心に書いてきました。一方で、「これは絶対につらいだろうな」と思っていたら、意外と大丈夫だったこともあります。
フリーランスの大きなメリットとして、よく挙げられるのが「好きなときに休めること」です。
確かに、平日の昼間に出かけたり、今日はもう無理だと思ったら仕事を切り上げたりできるのは、フリーランスならではの自由でした。就職すると、この自由を失うことになります。
ただ、正直なところ、フリーランス時代の夏野はかなり狂った働き方をしていたので、今の方がむしろ働いていない気さえします。
いまは年休も振替休日もあるので、事前に調整すれば平日に休むことができます。好きな瞬間に休めるわけではないものの、権利として休みを確保できるため、思っていたほど窮屈ではありませんでした。
ちなみに、学会は2月、3月、8月、9月、12月あたりに集中しています。この時期はほぼすべての土日が学会で埋まるので、その分だけ振替休日もどんどんたまります。
多いときには6日ほどたまることもあり、3月末は2週間くらい、ほとんど働いていませんでした。
「いつでも休める自由」はなくなりましたが、「きちんと休める仕組み」は手に入った、という感じです。
ちなみに:
そういう長い休みに何をするのかというと、まとまった時間でしか進められない研究をします。「おい」と思われるかもしれませんが、研究者には、そういう人が結構います(良いことではないです)。
あと、これは私の職場の性質による部分が大きいと思うのですが、各種の権利はかなりしっかり保証されています。
たとえば17時30分が定時なら、17時31分にタイムカードを切ってダッシュで帰っても、まったく問題ありません。「若いんだから、もう少しやる気を見せてよ」みたいな空気もありません。
服装についても、想像していた以上にルールがありませんでした。
今の夏野は、同じ上下をユニクロで3セット購入し、毎日それを着回しています。上半身はほぼパジャマ。髪の毛は一つにまとめ、前髪はでかいピン4本で留め、もちろんすっぴん。
たまに退勤後に用事があるとき、化粧をして出勤すると「!?!?!?」という顔をされます。
休憩時間についても、良くも悪くも、きっちり取ることになります。空いている部屋で爆睡していても、何も言われません。このへんは、かなり「お役所」のよさを感じています。

▲定時ダッシュの夏野
メリット・デメリットが分かったところで、将来的にまたフリーランスや会社経営に戻る可能性はあるのか。
これは、研究者としての私と、いち個人としての私で、答えがまったく違います。
まず、研究者として考えるなら、フリーランスに戻る選択肢はありません。
理由は単純で、研究機関に所属している場合と、個人で研究している場合とでは、得られるチャンスに雲泥の差があるからです。
学会や研究者コミュニティでの扱いも違いますし、研究費の獲得、資料へのアクセス、共同研究の進めやすさなど、実務面でもかなり差があります。
フリーランス時代も研究はできましたし、実際に論文も書いていました。ただ、できることの範囲や、次のチャンスにつながる速度は、今とはまったく違いました。
そのため、今後「より待遇のよい大学や研究機関を探す」という可能性はあっても、研究者としてフリーランスに戻ることは、現時点では考えていません。
一方で、いち個人としての本音を言えば、今すぐフリーランスに戻りたいです。テクノロジーがある世界に行きたい。本当に、このひと言に尽きます。
前述のとおり、出張のルールや各種の手続きも、とにかく煩雑です。別にズルをしたいわけではありません。ルールを破りたいわけでもありません。ただ、単純に時間がかかりすぎるんですよね。
学会前なんて、発表資料の準備や移動の手配だけでも忙しいのに、大量の書類作成に時間を取られる。これは本当にしんどいです。
収入面を見ても、同じだけ働くなら、民間企業やフリーランスとして仕事をした方が、よほど高くなると思います。
では、なぜ続けるのか。
結局のところ、今の私は、お金ではないものを求めているからです。
研究者として得られるチャンスや、取り組めるテーマ、残せる成果を考えると、多少の不便は受け入れるしかありません。
とはいえ、選択肢の中に「いつでもフリーランスに戻れる」が残っているのは、精神的にかなり楽です。
どうしてもしんどくなったら、またフリーになればいい。そう思えるだけで、職場で面倒なことがあっても乗り越えられます。
もちろん、実際にはそんな簡単に辞めるつもりはありません。ただ、「ここにしがみつかなければ生きていけない」という状態ではないことが、自分にとって大きな余裕になっています。
フリーランス経験があったからこそ、就職という選択ができた。そして今は、フリーランスに戻る道が残っているからこそ、組織の中でも比較的気楽に働けている。
自由と安定は、どちらか一方を完全に選ぶものではなく、行き来できる状態をつくっておくことが大切なのかもしれません。
フリーランスから就職してみて、自由を失ったと感じる場面は確かにありました。通勤時間は増え、手続きやルールに縛られ、働き方を自分だけで決めることもできません。
その一方で、収入や休暇が保証され、研究者として得られる機会は格段に増えました。結果として、今の私は、個人としての快適さよりも、研究者としての可能性を優先しています。
フリーランスに戻りたいと思う瞬間は、普通にあります。というか、テクノロジーのレベルを見るたびに思っています。
それでも、今ここでしかできないことがある以上、しばらくはこの場所で頑張るつもりです。それはそれとして、ネ申Excelは一刻も早く廃止してくれ……。
【連載】34歳フリーランス、会社をたたんで公務員になる
自由、安定、信用、評価。元フリーランスが考える働き方の選び直し