エース級フルタイムワーカーを“副業フリーランス”として活用する際の3つの壁【社労士解説】

フルタイムワーカーを「副業フリーランス」として活用する際の「3つの壁」【社労士が解説】

最近、経営者や人事担当者から、「本業のあるフルタイムワーカー(正社員)に、副業として業務を委託したい」という相談を受けることがあります。

昨今の副業解禁の流れもあり、他社で正社員として活躍するエース級の人材が、夜間や土日を使って副業を検討するケースも増加。企業からすれば、希少なハイスキル人材を、スポットとはいえ確保できる絶好のチャンスに映るでしょう。

しかし、対策ナシでの副業人材の活用には落とし穴が潜んでいます。

業務委託契約さえ結べば、あとはお任せでいい。そう考えているなら、少し危険です。相手が「専業フリーランス」か、「本業を持つ兼業フリーランス」かによって、企業が負うべきリスクの種類は異なるからです。

本記事では、日々多くの労務トラブルに接している社労士の立場から、フルタイムワーカーを副業フリーランスとして受け入れる際に立ちはだかる「3つの壁」と、その具体的な乗り越え方について解説します。

もひもひ
もひもひ

開業社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)、特にIT/Web業界を中心に支援している。趣味は同人活動で、評論同人サークル「さかさまダイアリー」より同人誌「村上春樹っぽい文章の書き方」シリーズなど発行。(X:@mo_himo

第一の壁:労務面でのリスク

最も厄介で、かつ見落とされがちなのが、労働基準法が絡むリスクです。

「え? 業務委託契約なんだから、労働基準法なんて関係ないでしょう?」

そう思われるかもしれません。たしかに、原則はその通りです。しかし、肝心なのは契約書のタイトルではなく、実態です。

ケース1:残業代請求と過重労働

あるスタートアップ企業は、週1回の定例会議への参加と、チャットでの随時対応を条件に、大手企業のエンジニアAさんと業務委託契約を結びました。当初は順調でしたが、リリース直前の繁忙期、Aさんの稼働は深夜や休日に及ぶことに。

そしてある日、Aさんが体調を崩し、本業も休職することになってしまったのです。

そして後日、Aさん側から内容証明が届きました。

それは、「実態は雇用契約に近く、労働者性があるため、過重労働であった。本業の労働時間と通算した残業代を請求する」という内容です。

企業側は「業務委託だった」と主張しましたが、チャットでの細かい指揮命令の履歴や、会議への強制参加の実態から、労働者性が高いと判断されるリスクに直面。解決金の支払いを検討することになってしまいました。

この事例の恐ろしい点は、「労働時間の通算」という論点に直面したことです。

兼業フリーランスの場合であっても、実態として「労働者」である(労働者性がある)と判断された場合、労基法の規定により、労働時間は「通算」されます。つまり、本業で既に8時間働いている場合、「割増賃金(残業代)」の支払い対象となる可能性があるのです。

また、仮に労働者性が否定され、労基法上の「労働者」ではなかったとしても、企業には「安全配慮義務」に類するものが求められます。

最近の判例では、業務委託契約で働いていたフリーランスライターへのハラスメント事件で、企業側に「使用者として、労働者に対する安全配慮義務」が不履行だったとして損害賠償が認められたものもあります。

たとえ「本業でどれだけ疲れているか」を知らなかったとしても、副業としての業務がトリガーとなって健康被害が生じた場合、「知らなかった」では済まされず、責任を問われる場合があるのです。

対策:労働者性の排除と健康配慮

「どこからが労働者にあたるか」の判断は難しく、「使用従属性」「指揮監督下」「報酬の労務対償性」などの専門用語を使わなければ、正確な説明はできません。

そのうえで、ざっくりと言うと、労働者性が認められるリスクを下げるには、

  • 日々の仕事量の配分や進め方を、フリーランス側の裁量で決めている。
  • 就業場所や就業時間(始業・終業)を、フリーランス側が自由に決めている。
  • 稼働日数や時間に対してではなく、仕事の出来高見合いで報酬を決めている。

などの実態が望ましいです。

また契約書に「健康管理条項」として、「本人の責任において健康管理を行い、本業を含めた過重労働とならないよう業務量を調整する」旨の条項を入れたり、月間の想定稼働時間を設定し、「これを超える場合は事前に申し出る(または業務を中断する)」というルールを設けたりする仕組みも、安全配慮義務の観点で考えるべきです。

第二の壁:突然の契約終了リスク

次に立ちはだかるのが、ビジネス上のリスクです。

兼業フリーランスにとって、生活の基盤はあくまで「本業」にあります。どんなに優秀で誠実な方であっても、そこは変えられない事実です。

考えたいケース2

ある企業で、システム改修という重要プロジェクトのリーダーを、副業フリーランスのBさんに任せていました。ところがある日突然、Bさんから「申し訳ありません、契約を終了させてください」と連絡が入りました。

理由は、本業での突然の人事異動。激務の部署に異動になり、副業を続ける余裕が物理的になくなったのです。

契約上は「1ヶ月前の予告」となっていましたが、本業の辞令には逆らえないケースがほとんどです。結果、引継ぎもままならない状態でBさんは去ってしまいました。

兼業フリーランスを活用する場合、専業フリーランス以上に「いついなくなってもおかしくない」という前提で動く必要があります。兼業フリーランスにとって副業は、詰まるところ「余剰時間の切り売り」だからです。

対策:依存しない業務設計

重要な業務であればあるほど、兼業フリーランス一人に任せきりにするのは危険です。

社内の正社員をペアにつけたり、ドキュメントの作成を業務要件の最優先事項としたりするなど、専業フリーランス以上に「いつでも他人が引き継げる状態」を維持させるのが重要です。

契約期間を比較的短期間にして、本業の繁閑に併せて稼働ボリュームを調整できる余地を残しておくことが、お互いのためにもなります。

第三の壁:コミュニケーションの不一致

最後の壁は、日々の現場で起きる摩擦です。

実はこれこそ、ジワジワと現場マネージャーや正社員を疲弊させるポイントかもしれません。

考えたいケース3

フルタイムの正社員チームの中に、副業のCさんが加わりました。Cさんの稼働時間は、本業が終わったあとの平日20時以降と土日です。

社内の若手社員たちは、Cさんに質問や確認を投げかけますが、返事が来るのは深夜か週末。

しかも、月曜日の朝に出社すると、週末にCさんから大量のチャットが飛んできており、週明けからその処理に追われることになりました。また、若手社員が気を使い、Cさんに合わせて深夜までチャットに付き合うようになり、結果として正社員側の残業時間が増えてしまいました。

「時間帯のズレ」は想像以上に、組織のストレスになります。

また、「熱量のズレ」も問題です。社内が「全社一丸となってこの目標を達成しよう!」と盛り上がっている中で、副業の方はあくまで「お手伝い」のスタンス。

この温度差が、既存社員のモチベーションを下げてしまうこともあります。

対策:コミュニケーションのルール化

正社員に対し、「副業フリーランスへの連絡は日中に行う。夜間に返信が来ても反応しない」などコミュニケーションルールを定めたり、リアルタイムでない非同期コミュニケーションを前提にした業務フローに組み直したりすることが大切です。

また稼働時間が短いからこそ、「量より質」の帰属意識の醸成もカギです。

全社キックオフ動画のダイジェストを見てもらったり、「あなたはこのプロジェクトにおいて、この部分で重要な役割である」という期待値を簡潔かつ明確に伝えることで、本業の隙間時間であっても高い熱量を維持してもらうことが可能です。

まとめ:特有のリスクを回避するための「分離と統合」

兼業フリーランスの活用は、人手不足の現代において非常に有効な選択肢です。

しかし、そこには本業を持つがゆえの特有のリスクが潜んでいます。指揮命令や労働時間管理においては、自社の社員と明確に分離し、独立したプロフェッショナルとして扱いましょう。

一方で、マインド面においては、組織の一員として「ワンチーム」でコミットしてもらいやすい環境を作りましょう。このバランスを取ることが、人事担当者や現場マネージャーの腕の見せ所です。

たとえ有名企業に在籍中の人材から副業を打診されたからといって、「今すぐに参画して欲しい」と安易に飛びつくのは危険。まずは契約フォーマットの見直しと、受け入れ体制の整備から始めてみてください。

(執筆:もひもひ、編集:夏野かおる)

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