【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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画像生成AIがおそるべき進化を見せる昨今、企業やクリエイターの中にはAIイラストやAI画像を商用レベルで積極的に活用する動きも出てきています。
一方で、特にイラスト系のクリエイターを中心に、AIイラストを商用利用することに反対意見が相次いでいるのも事実です。
そもそも、画像生成AIは仕事で使ってもいいのか。また仕事で使う場合、どのような点に気をつけなければならないのか。画像生成AIをめぐる問題点や利用の心構えを、AIと著作権に詳しい出井甫弁護士に訊きました。
骨董通り法律事務所弁護士。エンタテインメント法務が専門。主にアニメ、ゲーム、AI、ロボット、VR業界の方をサポートしている。実はドラマーでもある。(Twitter:@hajime_idei)
こたつとお布団、コーヒーをこよなく愛するフリーライター。法学部出身のはずが、なぜか卒論のテーマは村上春樹であった。やれやれ。(Twitter:@ponapona_levi)
目次
ぽな:
そもそも画像生成AIやAIイラストを商用利用することに問題はないのでしょうか?
出井:
結論から言えば、基本的に商用利用は可能です。少なくとも現在、画像生成AIやAIイラストの利用自体を禁止する法律はないと認識しています。
ただ、法的にはOKでも社会的にNGというケースもありますし、AIサービスによっては商用利用に制限をかけていることもあります。商用利用したい場合は、サービスの利用規約にも注意が必要です(例:Midjourneyの無料版は商用利用が禁止されている)。
ぽな:
ひとつ気になったのですが、大前提として「商用利用」ってどこまでのことを言うんでしょうか?
たとえばクリエイターがSNSにAI画像をアップしているケースなんかはどうなんでしょう。ビジネスアカウントでそれをやった場合、商用利用といえるんでしょうか。
出井:
これは非常に難しい問題ですね。たとえば、SNSの登場で「趣味でやっていたこと」が、気づいたら収益化できるようになっていたなど、商用利用の線引きが曖昧になっています。現在、明確な線引きは確立されていないと思われます。
最終的には、そのAI画像を制作した目的や背景、具体的な投稿内容などを踏まえて「お金を稼ぐことにつなげる意図があるか」という観点から判断することになるのだと思いますが。
ぽな:
その感じでいくと、「生成AIに強いこと」を売りに活動しているクリエイターが、AI生成画像をSNSにアップしているケースだと、「自分のスキルの宣伝」として商用利用と判断されるかもしれませんね。
出井:
その可能性はあると思います。たとえばその投稿の近くに、「ご依頼はこちら」などのフレーズが入っていたら……。意図はより明確ですね。
出井:
現在、私の知る限り画像生成AIを商用利用すること自体を禁止する法律はありません。ただ、利用用途やサービスの内容には気をつけた方がいいかもしれませんね。
たとえば、法的に問題のあるものを作るのは、もちろんNGです。また、法的に問題がなくても、社会的に物議を醸すような使い方をしてしまうと、炎上する危険性があります。
ぽな:
画像生成AIをめぐっては、すでにさまざまな事件が起きている印象があります。今のところ出てきている法的な問題にはどんなものがありますか?
出井:
まず、深刻な問題になりつつあるのがディープフェイクですね。また、クリエイターに直接関わることとしては、著作権などに代表される権利侵害、特定のデータを集中的に学習することによる作風のコピーといった問題があります。
ぽな:
作風のコピーについては、たびたびSNSでも議論になっていますね。
出井:
これについては、私のところにも相談が来ています。現状、著作物を学習させること自体は法律(著作権法30条の4)で認められていますが、「わざと既存の著作物に似た作品を出力させる」ために特定の作品を集中的に学習させる場合は、この法律の適用範囲外になるという指摘もあります。
文化庁が開催している文化審議会でも、「意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現 をそのまま出力させることを目的としたものを行うため、著作物の複製等を行う場合」は、著作権法30条の4が適用対象としている「非享受」の範囲外という見解が示されていますね。
※享受:精神的にすぐれたものや物質上の利益などを、受け入れて味わいたのしむこと
結局、AI創作とどう向き合うべき? 知られざる著作権の落とし穴と対策【弁護士解説】
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ぽな:
でも、AI画像って法律とは関係ないところで炎上しているケースも多い気がして。たとえ法的な問題がなくても、画像生成AIを使用して作った作品、あるいは画像生成AIサービスそのものが炎上するケースもよく見かけます。
出井:
法律と直接関係ない炎上案件はもう数え切れないくらいありますね。画像生成AIで制作した作品が美術品評会で優勝して問題になったとか、有名美大のAI絵画コンテストが中止に追い込まれたとか……。
ぽな:
一つ気づいたんですけど、AIの出力精度が高いケースほど、問題になることが多いような……。これ、AIで作った作品のクオリティが高いほど燃えるという皮肉な話になりませんか?
出井:
そうなんですよね。クオリティの高いAI作品は、クリエイターたちにとって商売敵ともいえます。結果、「AIに仕事が奪われるかも」という印象を与えてしまい、彼らのファンを巻き込んで燃えやすい傾向にあると思います。
加えて、これまでクリエイターを育成・支援してきた教育機関や企業が生成AIを利用するなど、仕事を奪われる以外に「生成AIの利用を許容できない事情」が加わったとき、ドカンと燃えてしまう傾向があるのではないでしょうか。
ぽな:
感覚的には分かるのですが……。どう対策すればいいのでしょうか?
出井:
燃えにくいプロジェクトの特徴は、権利者の協力が得られているなど、第三者が共感しやすい“ストーリー”があること。たとえば、生成AIを使って手塚治虫の新作を描くプロジェクトは、ご遺族を含む手塚プロダクションの協力を受けています。そのためか、世間の反応も好意的な印象です。
商用利用の際は「AIと市場が競合する方々がどんな声を上げるのか」を考え、人々の共感を得られるようなストーリーを見せていくことも必要になるかもしれませんね。
ぽな:
今後、画像生成AIを利用して作品を作る人も増えてくると思います。とくにフリーランスのような個人のクリエイターが、案件でAIを活用する場合に気をつけるべきことを教えてください。
出井:
まず、AIを利用して出力したものが、法的に問題ないかを確認するのが前提です。そのうえでクライアントワークなら、クライアントに業務でAIを使っていいかはしっかり確認すべきですね。
今後、契約に「生成AIを使っていいか」という内容が含まれるケースも増えてくると思います。実際、すでにイラスト発注サービスの『Skeb』では、一部または全部をAIで生成した作品を納品することを規約・ポリシー違反としています。
ぽな:
でも、AIイラストのクオリティはどんどん上がっていますよね。私たちがイラストを見ても「AIを使っているか」はあまり判別ができなくなっている気がします。
出井:
実際、最近は「その作品がAI製か否か」が論争になるケースもあるため、クリエイターが作者であることをアピールしたい場合は、「制作過程を記録しておく」ことが重要になると思います。
クライアントはもちろん、たとえばSNSでAI疑惑をかけられた場合にも、記録があれば証明に焦るリスクは減るでしょう。今はAI検知ツールも開発されてるので、もしAIの利用を見抜きたければ、こうした検知ツールを導入する対応も必要になるかもしれません。
ぽな:
しかし、こうしたAI検知ツールには誤検知のリスクもあるという話も聞きます。
出井:
そうですね。なのでツールは参考情報としておくのが無難かと思います。誤検知のリスクに備える意味でも、制作プロセスを記録化して残すことは重要と考えます。さらに、検知ツールの精度が今後争点化する可能性もありますね。
ぽな:
ツールに関連して、最近は『Adobe Firefly』のように、学習対象の著作権にも配慮した画像生成AIも登場しています。こうしたツールの利用は、商用利用のリスクを減らすことにつながるでしょうか?
出井:
Adobe Fireflyは著作権が切れた素材や、許可された素材のみを学習対象にしています。生成AIは学習データを基に生成するため、著作権の存続している著作物と似たものが出てしまうリスクが減りますね。
ユーザー同士で似たような画像を生成した場合に著作権の問題が起きる可能性はありますが、リスクヘッジをするには良いツールだと思います。
ぽな:
今後もAI画像を商用利用する動きは加速すると思うのですが、機械学習やAIに対する法規制が強まる可能性はあるのでしょうか。クリエイターからは学習も含めて規制してほしそうな雰囲気も感じるのですが……。
出井:
海外では規制の流れもあり、可能性はゼロではないと思います。ただ、AIに限った話ではないのですが、日本は基本的に法改正や新たな立法には消極的なんですよね。AIについても議論は始まっているんですけど、既存の法律の解釈やガイドライン制定で対応しようとしているのが現状です。
ぽな:
でも、最近のAIの進歩を見ていると、将来が見えず少し怖くなるところはあります……。これからAIや人間の在り方はどうなってしまうんでしょうか。
出井:
AIの未来を考えるうえでは、意外とSFアニメが役立ったりするんですよ。最近だとAIが統治する世界を舞台に、社会制度の矛盾や人間の葛藤を描く『PSYCHO-PASS』という作品があります。私はそういうものを見ながら、AIの進歩した世界をイメージし、あるべきAI政策を考えたりすることもあります。
ぽな:
なるほど、とても興味深い視点です……。一方でAIを使うことで盛り上がるクリエイティブの形もありますし、規制すれば良いとも限らないのが難しいですね。
出井:
おっしゃる通り、AIがクリエイティブ業界にプラスの影響を与える側面もあります。架空の設定をもっともらしく表現する「創造的なウソをつく」能力の高さから、アイデア出しや下地作りなどでAIを活用している企業もあります。
また、漫画家のアシスタント不足解消に生成AIが役立つのではないか、という話もあります。なので「あくまでも中心は人、AIはアシスタント」と位置づけるのであれば、生成AIの可能性は広がってくると思います。
ぽな:
感情的に難しい問題もありますが、うまく付き合えれば作品をさらに良いものにできそうですね。
出井:
そうですね。一方、今の法律では、AIは結果に対して責任を負えません。「責任あるAI」という言葉がニュースで話題になっていましたが、使う側の人間が責任を持ちつつ、人間の意思が中心になる世界というものを考えていかなければならない、と感じています。
(執筆:ぽな 編集:齊藤颯人 監修:骨董通り法律事務所 出井甫)
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