【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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「源泉徴収って、誰がいつするの?」
フリーランスになると耳にする、源泉徴収。「それってなに?」と思いながら、曖昧にすごしていませんか?
かくいう私も、海外在住のフリーランスライター2年目にして、よく分かっていませんでした。
住んでいる国の確定申告のために重い腰を上げて調べたら、なんと源泉徴収が発生しないケースもあるとのこと。
源泉徴収は、税金を払うことです。理解していないと、自分が損をする可能性もあります。この記事では源泉徴収の基本と、源泉徴収する・しない場合の例をご紹介します。
前川秀和税理士事務所代表。お金の苦手が変わる、難しいことも分かりやすく伝える税理士。オンラインに強く、全国からの相談に対応。フリーランスや独立を目指す方へのオンラインコンサルティングに力を入れている。個人ブログ:https://www.hmj-blog.
目次
そもそも源泉徴収とは、税金を支払う仕組みのことです。
次の3つの基本をおさえれば、源泉徴収についてスッキリ理解できます。
以下でそれぞれわかりやすくご説明します。
源泉徴収とは、簡単にいうと「税金の前払いシステム」です。収入から所得税を計算し、国に治めることを指します。
源泉徴収には、以下の2通りがあります。
- 会社が社員の給与から、所得税を天引きする
- 仕事の依頼主が、仕事の発注先への支払いの際に所得税を徴収し、国に治める
会社勤務の人は、①の方法で会社が源泉徴収をおこないます。毎月の給与明細に所得税の額が記載され、給与から天引するというケースです。
一方で仕事の依頼主は、②の方法で源泉徴収を行う必要があります。仕事を外注している会社や一部のフリーランスは、これに当てはまります。
「源泉徴収」という単語だけ聞くと難しいイメージを抱くかもしれませんが、「払うべき税金を前払いするシステム」だと理解しておきましょう。
(参考:国税庁 源泉徴収制度について)
フリーランスで、源泉徴収を行うのは誰なのでしょうか? 正解は、仕事を依頼する側の人です。
個人に仕事を依頼して、報酬を支払う側の人が、源泉徴収として所得税を国におさめます。こうした立場の人を「源泉徴収義務者」と呼びます。
もしあなたが従業員を雇っているようなフリーランスで、外注パートナーに仕事を依頼しているならば、源泉徴収義務者として源泉徴収を行う必要があります。ここを知らないと源泉徴収の仕組みで混乱してしまうので、しっかり覚えておきましょう。
(参考:国税庁 源泉徴収義務者とは)
さて、ここまでで以下の2点の基本をご説明しました。
もうひとつの重要なポイントが、すべての支払いに源泉徴収が必要なわけではない、ということです。支払いの種類によって、源泉徴収されるもの・されないものがあります。
源泉徴収の対象になる支払いは、以下のように定められています。
【個人へ支払われる料金で、源泉徴収の対象になるもの】
- 給与
- 利子
- 配当
- 退職手当
- 公的年金
- 報酬 等
このうち、フリーランスと主に関係するのは「給与」と「報酬」です。
たとえばフリーランスが自身の事務所でスタッフを雇用している場合、「給与」を支払い、そこから源泉徴収をする必要があります。会社が雇用している社員の給与から、所得税を天引きするのと同じ仕組みです。
では、外注パートナー等に仕事を依頼して支払うお金はどうなるでしょう。これらは「報酬」と呼ばれます。そして、この「報酬」の種類によって、源泉徴収の対象になったりならなかったりします。
源泉徴収した税金を国に治めるのは原則、仕事を依頼する側の人です。しかし受注した側は、請求書に源泉徴収額を記載する必要があります。そのため、もっぱら受注だけのフリーランスの方も、どんな仕事が源泉徴収の範囲になるのか把握しておきましょう。
(参考:国税庁 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは)
国税庁はウェブサイトで、源泉徴収される報酬の範囲を公開しています。
- 原稿料や講演料
- 弁護士、会計士、司法書士等に支払う料金
- プロスポーツ選手やモデル等に支払う料金
- ホステスやコンパニオンに支払う料金
- プロ野球選手等、一時的な契約金
- 広告宣伝のための賞金や、馬主に支払う競馬の賞金
これだけだと、「フリーランスのお仕事であてはまるのはライターだけ?」「写真やデザインのお仕事は?」と思われるかもしれません。
しかし上記の範囲はあくまで一例であり、細かい種類は国税庁の『給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引』にまとめられています。
以下に、フリーランスに関係しそうな報酬を一覧でまとめました。源泉徴収の対象となるもの、似ているけれど対象とならないものを見分ける参考にしてください。
報酬の種類 | 源泉徴収の対象になる | 源泉徴収の対象にならない |
ライティング |
|
|
デザイン |
|
|
著作権の使用料 |
|
|
翻訳・通訳の料金 |
|
|
挿絵や写真 |
|
(参考:国税庁 報酬・料金等の源泉徴収事務)
なお、これらはあくまで一部です。
ご自身の仕事が源泉徴収の範囲になるか不明な場合は、税理士さんなど専門家にご相談ください。
「仕事を依頼する側」の人が、「報酬」の種類に応じて、源泉徴収を行うと説明しました。
しかし、例外もあります。以下のケースにあてはまる場合は、源泉徴収をする必要がありません。
以下でそれぞれのケースを詳しくご紹介します。
フリーランスが、自分の事務所で従業員を雇用したとします。通常、社員に支払う「給与」は源泉徴収の対象です。
たとえば漫画家さんが、アシスタントにお給料を支払うケース。この場合は「給与」にあたるため、通常であれば源泉徴収をする必要があります。
ただし、給与の支払い先が「家事使用人」であり、その人数が2名以下であれば給与の源泉徴収をする必要がありません。
退職金についても同様です。
■源泉徴収されない例
常時2人以下のお手伝いさんなどのような家事使用人に支払う、給与や退職金
(引用:国税庁 源泉徴収制度について)
ここでいう家事使用人とは、お手伝いさんや家政婦さん、メイドさんなど、身の回りのお世話を仕事とする人を対象としています。
ふたつ目の源泉徴収をしなくていいケースは、完全に個人で働くフリーランスです。
仕事を依頼して報酬を支払っているフリーランスでも、以下に該当する場合は源泉徴収をする必要はありません。
■源泉徴収されない例
給与や退職金の支払がなく、弁護士報酬などの報酬・料金だけを支払っている人
(引用:国税庁 源泉徴収制度について)
つまり、「個人で事業を経営しており」「給与を支払う従業員がおらず」「外注でのみ仕事を依頼している」場合は、源泉徴収をしなくてよいことになります。
わかりやすい例として、フリーランス同士の仕事の依頼が挙げられます。たとえば個人でWebデザインの仕事を請け負っている人が、ライティングをフリーランスに依頼したとします。ライティングは「原稿料」の名目のため本来は源泉徴収の対象です。しかし、仕事の依頼主が一人で働いているフリーランスであれば、源泉徴収の必要はありません。
最後に、源泉徴収が原則必要のないケース。それは、海外在住で日本と取引しているフリーランスです。
こうした人に仕事を依頼する場合、それが源泉徴収に該当する種類の報酬でも、源泉徴収の対象になりません。
これは、日本の法律(所得税法)が、海外在住者を「非居住者」とみなしているからです。たとえば以下のようなケースで、非居住者と判断されます。
- 日本に住所を持たず、海外に永住している人
- 1年以上にわたり、日本以外に住んでいる人
- 期間の定めがない海外留学や海外転勤
このとき、単純に住民票の有無で非居住者と判断されるわけではないことに注意してください。
国税庁のウェブサイトによれば、非居住者について以下のように説明されています。
■居住者と非居住者の違い
- 居住者:国内に住所を有している、または、現在まで1年以上日本に居住を有する個人
- 非居住者:居住者以外の個人
つまり、日本に住所がある人、もしくは海外からやっていて1年以上日本に滞在している人が「居住者」となり、それ以外は「非居住者」となるのです。
この際の「住所」については、国税庁は以下の項目をベースとした客観的事実をもとに判断するとしています。
- 職業
- 資産の所在
- 親族の居住状況
- 国籍等
そのため、海外と日本を行き来したり、複数の国を転々とする人でも、日本に生活する本拠があると判断されれば、居住者としてあつかわれます。
なお居住者・非居住者の源泉徴収の範囲は、以下のとおりです。
- 居住者:日本国内・国外の両方で得た収入が源泉徴収される
- 非居住者:日本国内で得た収入のみ、源泉徴収される
以上の理由により、実質的な居住を日本国内に持たず、1年以上海外に滞在する人が海外で得た収入は、源泉徴収されません。
海外在住でも、日本国内の銀行に報酬が入金されていれば「日本国内の収入」になるのでしょうか? 疑問に思ったため、国税庁に問い合わせてみました。
答えは、NO。日本国内の収入にはならないとのこと。
そのため海外に住み、現地で完了した仕事は、たとえお金のやり取りが日本国内で発生しても、源泉徴収されない国外収入としてみなされるとのことでした。
不明な点は、国税庁に問い合わせてみるといいでしょう。
(国税庁問い合わせ先:税についての相談窓口)
源泉徴収の基本と、源泉徴収しなくてもよい例をおさえた上で、最後に実務の基本をご紹介します。
源泉徴収をするのは報酬を支払う側の責任です。しかし仕事を受注する側は請求書を作成するときに、源泉徴収税の金額を記載する必要があります。
源泉徴収税は以下のとおりです。
源泉徴収税10%+復興特別消費税0.21%=10.21%
対象となる報酬に、10.21%をかけて源泉徴収額を記載します。なお、1回の支払いが100万円以上の場合は税率が20.42%となるのでお気をつけください。
報酬を支払う側は、その額を報酬から差し引き、残りの金額を振り込みます。
源泉徴収は、基本的には消費税を含めた報酬に課せられます。
ただし、請求書に消費税を別で記載した場合は、消費税を除いた金額のみを源泉徴収の対象として問題ないとされています。
10万円(税抜)のお仕事を、消費税を別記載で請求したケースと、そうでないケースを比べてみましょう。
■消費税を別記載にしたケース
- 消費税は【10,000円】
- 源泉徴収の対象となる額【100,000円】
- 源泉徴収額【100,000×10.21%=10,210円】
- 手元に入る報酬【(100,000+10,000)-10,210=99,790円】
■消費税を別記載しなかったケース
- 源泉徴収の対象となる額【110,000円】
- 源泉徴収額【110,000×10.21%=11,231円】
- 手元に入る報酬【110,000-1,021=98, 769円】
くらべてみると、請求書に消費税を別で記載したほうが、わずかですが手元に振り込まれる金額が多くなります。
もちろん源泉徴収は所得税の前払いですので、確定申告をして不足分があれば、追加で支払う必要があります。一方で多く払いすぎていたら、還付金として戻ってきます。
消費税区分を別に請求しても収入の総額が増えるわけではありませんが、一時的に手元に入る金額を多くする効果はありますね。
支払調書とは、仕事の依頼主が年度末に発行する、源泉徴収額が記載された書類のことをいいます。
支払調書は、フリーランスにとってはあると便利な書類です。なぜなら、確定申告時にいくら税金を前払いしているか、支払調書で確認できるからです。
ただし支払調書の発行は義務ではありません。支払調書を発行しない依頼主もいます。
自分で受け取った報酬に対していくら源泉徴収されているか、こまめに記録しておくことが大切です。
源泉徴収する責任は、基本的に報酬を支払う側にあります。ただし、どんな仕事が源泉徴収の対象になるのか知っておくことは、フリーランスすべての人にとって大切なこと。
源泉徴収は「税金の前払いシステム」です。前払いした分は確定申告で納める必要がありません。
すでに自分がいくら税金を払ったかを把握することで、残りの税金額を正しく計算できます。知らなければ、無駄に多く税金を払うことだってあり得るのです。
仕事を受ける側のフリーランスも、どの報酬が源泉徴収されているのか、かならず確認しましょうね。
(執筆:サトウカエデ 編集:じきるう、まつもと 監修:前川秀和税理士事務所)
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