「インフルエンサーマーケティング」

最近、とくにマーケティング担当者やWeb担当者のあいだでよく飛び交うようになった言葉です。

簡単に説明すると、インフルエンサーとは「各種SNSにおいて一定の“ファン”を抱える一般ユーザーのこと」で、インフルエンサーマーケティングとは「インフルエンサーに企業が商品やイベント等のPRを依頼すること」です。

もともとブログ文化がより活発だった00年代にあっても、似たようなマーケティング手法は見られてきました(その中で所謂ステマ、やらせ等の問題も認知されてきています)。そして誰もが発信者かつ受信者となる、アクティブユーザー数が年々増加するSNSの興隆によって、2016年頃からインフルエンサーマーケティングは大幅に規模が拡大。依頼内容も多様化してきたのです。

本連載では日々変容し、しかも未だ不透明な部分の多いインフルエンサーマーケティングをさまざまな角度から解剖・分析しながら、よりよいあり方を探っていきたいと思います。

筆者、海坂 侑について

海坂 侑(うなさか ゆう)
海坂 侑(うなさか ゆう)

28歳。都内IT企業に新卒入社し、マーケティング系ソフトウェアの企画営業職に2年半従事したのち退職。現在はフリーの編集・ライター・マーケティングプランナーを生業としている。Twitter

2011年3月に大学在学時にTwitterを始めたわたしは、私生活のよしなしごとをつぶやいているうちにフォロワーが3.7万人にまで膨らんでしまいました。いわば自身も“一定のファンを抱える一般ユーザー”、つまり「インフルエンサー」と認知されているのです。

現在はインフルエンサーとして依頼を受けることもあれば、インフルエンサーマーケティングを仕掛ける側として企画を立て、インフルエンサーへ依頼をする場合もあります。誰よりもインフルエンサーマーケティングの恩恵を受け、同時に問題点を感じている者のひとりとして、誠意と良心をもって向き合っていくつもりです。

それではさっそく根掘り葉掘り、インフルエンサーマーケティングの何たるかを詳らかに……していきたいのは山々ですが、まずはマーケティングというものが時代とともにどう変化してきたのかを振り返ってみたいと思います。

なぜなら、インフルエンサーマーケティング流行の理由と今後の展開を考える上で、マーケティングのあり方を知っておくことは必要不可欠だからです。

そもそも「マーケティング」って何だっけ?

やたら初歩的なところから始まったな!? とお思いの方、ブラウザのBackアイコンを押そうと動く手を止めて、いま一度考えていただきたいのです。みなさんは「マーケティング」を、企業側が市場(つまり消費者側)の動向やニーズを調査・分析することだと認識してはいませんか?

実はその認識、半分正解で半分は誤っています。上記は「マーケティングリサーチ」と呼ばれるもので、確かにマーケティングにおける重要なプロセスではありますが、それがすべてではありません。マーケティングは商品・サービスそのものの企画・開発から、実際の流通や販売、広告宣伝やブランディングに至るまでのあらゆる分野における効果向上を目指す、実に幅広い概念なのです。

時代の変化に見るマーケティングの進化(1950〜2010年代)

マーケティングは近年ますます存在感を増し「マーケティングとは企業活動そのものである」とまで言われるようになっています。その理由を、時代にともなうマーケティングの変遷とともに辿っていきましょう。

書店に山と積まれたビジネス書に『新・マーケティング3.0』『次世代マーケティング4.0』などといった文言(※実在の書名とは関係ありません)を目にしたことはありませんか? この数字に注目してください。「なぜわざわざ小数点をつける必要があるのか?」「ただのカッコつけじゃないのか?」……ということではなく、この数字こそがマーケティングの進化レベルを表すものだということについて、お話をしていきます。

マーケティング1.0

マーケティング1.0 が生まれた時代。それは1950年代以降、欧米での工業生産が大幅に発展した産業革命期と言われています。つくればつくるほど売れていく、大量生産・大量消費の時代。

“こういうモノがある”という情報さえ消費者に伝われば、マーケティング的には成功でした。製品主体の考え方「プロダクトアウト」の時代と言われています。

マーケティング2.0

1970年代に入ると世の中にはモノが豊かになり、消費者の選択肢が広がりました。しかし時代はオイルショック。景気は低迷、消費者の購買意欲も落ちていきます。そうなると企業側は“消費者のニーズ”を把握し、それに応える製品を開発する必要性が生じてきました。「マーケットイン」と呼ばれる消費者中心志向、「マーケティング2.0」の到来です。

テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアの発達により宣伝手法も多様化し、「いかに消費者のニーズに応えた製品を生み出し、いかに他社と差別化し、いかに届けるか」というマーケティングの重要性が認識されました。

マーケティング3.0

「マーケティング3.0」は1990年代、インターネットの発展によるものと語られます。モノも情報も氾濫したこの時代を、元電通の佐藤尚之氏は「情報“砂の一粒”時代」と名付けています。

一方的に与えられる広告を信じなくなった消費者は、製品の比較・検討を行なう手段に口コミやレビューを重視するようになりました。くわえて品質に大きな差異がなくなった製品には独自の“価値”が求められるようになります。「それを使うことで自分にどんな利益がもたらされるか」が重要になったのです。

また企業のイメージや姿勢が注目され、企業側はCSR活動やブランディングイメージの向上に注力し始めることになります。「価値主導」のマーケティング時代です。

マーケティング4.0

2010年以降は「自己実現」の時代と言われる「マーケティング4.0」が提言されました。物質的欲求を満たされた消費者は、精神的欲求である”自己実現”をモノの購買によって満たすようになったのです。たとえば有名ブランドの製品を持つことでハイソサエティなライフスタイルを表現したり、オーガニック製品を使うことで環境保護に貢献している実感を得たり……。

そういった、消費者がアピールしたい趣味・思考・ライフスタイルを表現するための手段として製品が選ばれるのです。企業は、消費者が「どういう自己実現を望んでいるのか」をリサーチし、製品を開発し、イメージに合わせた訴求を行なわなければならなくなってきています。

マーケティング3.5時代のネット戦略

さて、私たちはまさにマーケティング3.0 から4.0 への過渡期に立っている、狭間の世代であるといえます。テクノロジーの進歩によってマーケティング手法や広告のトレンドもどんどん進化し、呼応するように消費者動向も変化し、また新たなマーケティング戦略が練られ……まるでイタチごっこの様相です。

現在、具体的にはどんなマーケティング戦略が取られているのでしょうか。今やマスマーケティングと並ぶほどの費用規模にまで膨らみ、2020年には逆転するとまで言われるWebマーケティングをここでは見ていきましょう。

マス広告同様に、Web広告もまた膨大な情報の“一粒”として消費され、忘れられていきます。ネット広告の配信技術や分析方法はアド・テクノロジーという一大分野として日々研究・工夫され、今やWebマーケティングを語る上でなくてはならない存在となっているにも関わらず、です。

では、消費者は何を見ているのでしょうか? ブログやSNSなどを介して個人としての発信力を持つようになった彼らは、相互にフォローし合う友人や知人が発信する情報を見ているのです。製品・サービスを使った感想もまた、口コミサイトやECサイトのレビュー枠を飛び出して、個人のアカウントとともに共有されていきます。

消費者は、キャッチーで耳障りのいい広告ではなく、実体のある人間のリアルな体験を求めるようになったのです。

企業が持つ、ふたつの顔

こうした消費者動向に伴い生じてきた変化のひとつに「企業が“人格”を持つようになってきた」ことが挙げられるでしょう。より詳しく言えば、企業が戦略的にキャラクター性を持ってSNSを運用し、積極的に発信するようになってきました。

有名なところを挙げると、SHARP、タニタ、キングジムなどのTwitterアカウントが印象的です。それぞれいわゆる“なかのひと”と呼ばれる運営者が広報活動もしつつ、ある程度自主性を持った(ように見える)発言をしながら一般ユーザーと交流し、親近感を高めています。そしてこのSNS運営方針は今や一般化しつつあり、企業が公式アカウントを持つ上で“なかのひと”というキャラクターをつくることはもはや常識となっています。

これはマーケティング3.0 段階において企業側の姿勢やビジョンが重要視されるようになったことと、そしてマーケティング4.0 で消費者がより個人的な繋がりを重視するようになったことが、まさに地続きになった戦略と言えるでしょう。

Instagramでも同様の変化が見られます。ビジュアル重視のメディアであるInstagramがブランディングに向いていることは、皆さんご存知だと思います。では企業の公式アカウントのブランディング戦略はどのようなものでしょうか?

ここではただハイセンスで計算し尽くされた製品のビジュアルだけをアピールするのではなく、「どのように使うとより効果的・魅力的なのか」「他の人は、実際どのように使っているのか」を積極的に紹介する流れが起きています。

そこで活用されているのが「ストーリー」と「Instagram LIVE」の機能です。これらは主にフォロワー向けに表示されるもので24時間後には消えてしまう、非常にリアルタイム性の高いツールです。また、使い方によってはフォロワーからのコメントや反応を拾いながら配信することも可能なので、双方向の交流が可能です。たとえば以下のような例があります。

  • ストーリーでは広告で起用されている海外モデルではなく、普段お客様と直に接している美容部員が登場し、実用的なメイクの手法をレクチャーする
  • 宣材写真で見られるスタイル抜群のモデルではなく、実際にブランドの商品を購入し着用した一般ユーザーの投稿を紹介する

そういった親しみやすい“なかのかお”を見せることで、ユーザーとの距離を縮める戦略が最近では特に多く見られるようになっています。
ブランドイメージを保持する上で重要な正規投稿(フィード)を乱すことなく、かつ双方向のコミュニケーションによって実体のある人間同士の繋がりを実現する……。これが、今のInstagramブランディングにおけるひとつの正解のカタチとなっているようです。

インフルエンサーとは何者なのか?

さて、そんな昨今において「SNS発の有名人たるインフルエンサーとは、いったい何者なのか?」を考えてみましょう。友人でなく知人でもない、はたまた芸能人でも企業アカウントでもない彼らは、いわばそれらの中間的立ち位置にいる「何らかの理由ですごく目立っている一般人」です。

ただの一般人だからこそ親近感が持たれますし、ただの一般人でありながら注目度が高く、ファンも一定数いるために影響力があります。そこで登場したのが「インフルエンサーマーケティング」という、インフルエンサーを起用したPR手法でした。

カンペキな容姿の芸能人が「このファンデーションとってもいいですよ♩」と宣伝するよりも、リアルに子育て生活を公開しているママインフルエンサーが「忙しい朝でもちゃんとメイクできました!」とアピールする方が、共感できるし信頼できる。まさに体験がフィーチャーされる現代だからこそ有効なマーケティング手法と言えるでしょう。

とはいえ、インフルエンサーマーケティングにも当然さまざまな課題や問題点があります。次回以降の連載では、そういったことにも触れていきたいと思います。

まとめ

モノも情報も少なく、広告された製品を消費者みんながこぞって買う時代から、モノも情報も溢れかえり、消費者が自分に合った商品を自発的に探し求め、さまざまな角度から検討する時代へと移り変わりました。企業側も、ただ優れた製品を生み出すだけでなく、いかにその魅力を伝えるのか、果てはいかに企業の姿勢そのものを理解してもらうのかを試行錯誤するフェーズへと突入しています。

そんな中でSNSは、誰もがいちアカウントの運営者というフラットな立場でコミュニケーションできるツールとして、現代のマーケティングになくてはならない存在となっています。「企業⇔消費者」間はもちろん、口コミや評判が交わされる「消費者⇔消費者」間の動向も、企業としては見逃すわけにはいきません。

インフルエンサーマーケティングは、いわば「企業⇔インフルエンサー⇔消費者」の繋がりであり、インフルエンサーを媒介した宣伝手法です。しかし「企業⇔インフルエンサー」間で見ればそれはあくまで契約であり、一転、「インフルエンサー⇔消費者」間で見れば、それは口コミであり、実体験。そこに良くも悪くも“ねじれ”が生じていることが、今後の論点となってくるでしょう。

今回はこれにて。海坂侑でした。

(メインビジュアル撮影:mao nakazawa

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