【MBTI診断】16タイプ別・フリーランスに向いてる仕事/働き方
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いまでは一般にひろく普及した「副業」。2021年には就業者の約12%が副業しているという推計もあり、副業はけっして珍しいものではなくなりました。
収入を増やせるのは魅力ですが、気になるのは税金のこと。副業でもできるだけ税負担を減らそうと、世の中には多くの節税テクニックが出回っています。
しかし国税庁から「副業の税金」をめぐる法解釈の改正案が出され、非常に大きな騒動になりました。一時は「副業大増税か!?」と非難が殺到したものの、最終的には国民の猛抗議により改正案は変更され、事態は収束しました。
今回は、SNSを中心に大きな批判を集めた改正案の内容と影響、撤回に至る経緯をまとめていきます。
目次
この改正案は、2022年8月1日に国税庁より発表されました。正式名称を“「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)”といい、分かりやすくいえば「法律の解釈を変えるつもりです」というお知らせです。
中身を見てみましょう。国税庁は今回の改正理由を以下のように述べています。
シェアリングエコノミー等の「新分野の経済活動に係る所得」や「副業に係る所得」について、適正申告をしていただくための環境づくりに努めているところ、これらの所得については、所得区分の判定が難しいといった課題がありました。
(引用:国税庁)
かんたんにまとめると、「副業をする人が増えたけど、国税庁側で副業の所得をどう分類していいか紛らわしい!」ということ。
こうした背景から、以下の2点を改正するつもりだと通達しています。ここでは原文をほぼそのまま引用し、一部重要な部分を太字にしています。
- その他雑所得の範囲の明確化
その他雑所得(公的年金等に係る雑所得及び業務に係る雑所得以外の雑所得をいいます。)の範囲に、譲渡所得の基因とならない資産の譲渡から生ずる所得(営利を目的として継続的に行う当該資産の譲渡から生ずる所得及び山林の譲渡による所得を除きます。)が含まれることを明確化します。- 業務に係る雑所得の範囲の明確化
業務に係る雑所得の範囲に、営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得が含まれることを明確化します。
また、事業所得と業務に係る雑所得の判定について、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定すること、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証がない限り、業務に係る雑所得と取り扱うこととします。(引用:国税庁)
一つめに関しては、いままであいまいに決められていた「譲渡所得に分類されない資産の譲渡に関する所得」を「その他雑所得」として明確に定めるというもの。
これは、たとえばメルカリやヤフオクなどで商品を売買する副業で得た所得が、雑所得のなかでも「その他雑所得」という区分に該当することをハッキリさせる意味があると考えられます。
重要なのは二つめの後半。ここでは、「副業収入が300万円を超えない場合、原則は所得区分を雑所得と判断する」ということを言っています。
これだけ聞いても「なんのこっちゃ?」という感じですが、ざっくり述べると、いままで副業者が慣例としておこなってきた節税対策が封じられ、実質的な増税につながると考えていいでしょう。
では、改正の影響はどんなところに出るのかを考えていきます。
これは読者のみなさんもご存知かもしれませんが、副業で得た所得が20万円を超えると「確定申告」が必要になりますよね。
副業300万円問題がついに決着。批判が殺到した「所得税にまつわる改正案」を解説
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確定申告にあたっては、自分の所得を国税庁が用意する10種類の所得区分のうち「どれにあてはまるか」を判断し、分類する必要がありました。
副業で得た所得をあてはめる場合、多かったのは「事業所得」と「雑所得」の2種類です。それぞれのおもな特徴を以下で表にします。
事業所得 | 雑所得 | |
あてはまる所得の特徴 | 事業から生じる所得 | ほかの9種類のどれにもあてはまらない所得 |
青色申告特別控除 | 〇 | × |
損益通算 | 〇 | × |
純損失の繰越控除 | 〇 | × |
青色申告専従者給与 | 〇 | × |
30万円未満の少額減価償却資産特例 | 〇 | × |
細かくは解説しませんが、事業所得と雑所得を比較すると「事業所得」のほうがめちゃくちゃ有利なことはわかります。
なので、副業者はみんな副業で得た所得を「事業所得」として税務署に申告したいワケです。実際、事業所得で申告している方はかなり多いと思います。
ただ、事業所得と雑所得の区分について、これまでは「事業から生じた所得なのか、そうじゃないのか」で区別するしかなく、「じゃあ事業の定義ってなんなのよ?」と解釈が分かれる一因になっていました。
そこで今回の改正案が登場したわけです。
国税庁は「副業収入300万円以下の人の所得は、基本的に雑所得です!」と宣言。事業所得と雑所得のあいまいな線引きに「数値」という定量的な基準でケリをつけると同時に、大半の副業者が届かないであろう「300万円」の基準を設定したのでした。
そうなると困ってしまうのは、副業収入を事業所得で申告していた会社員のみなさんでしょう。この改正案がほんとうに採用されてしまえば、300万円以下の副業収入は雑所得として申告するしかなく、事業所得で得られる数々の特典が失われます。結果として税負担が増えるので、大騒ぎになっているわけです。
今回の改正案を見て「大増税だ、ふざけるな!」と怒りたい気持ちはよくわかります。もちろん筆者も増税はイヤです。
ただ、今回の改正案以前に、そもそもの問題として「副業を事業所得として申告すること」は現状でもほぼNGになっていることをご存知でしょうか。
さきほども触れましたが、事業所得と雑所得の判断基準は「事業と認められるか否か」です。副業者の場合、この基準が非常に厳しいといわれています。
過去には「副業収入が事業所得と認められるか」の基準が最高裁判所で示されたケースがあり、判決では以下の基準をクリアすることが必要だとしています。
事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得
(引用:最高裁判所HP)
ムズかしい言い回しですが、過去に副業収入の事業所得と雑所得の区分をめぐって争われたほかの裁判などの内容なども踏まえ、筆者なりに解釈すると「片手間の仕事(たとえばスキマ時間だけ)ではなく本業と同じくらいのリソースを割いて、本業に並ぶような収入を手にしており、社会的にも認知される仕事」によって得られた所得が「事業所得」といえるのでしょう。
そう考えると、いわゆる「副業」の大半は事業所得にあてはまらないといえそうです。
事業所得にあてはめるなら、「複業」「パラレルワーク」と呼ばれるような、複数の仕事に同じくらいのリソースを割いてとりくむ働き方になるでしょう。ただし、くわしくは後述しますが、「300万円」の基準ができれば複業者・パラレルワーカーにも増税の可能性が出てくるかもしれません。
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副業収入を事業所得で申告するのは、大前提として難しいことをご理解いただけたかと思います。しかし実際は、副業を事業所得として確定申告している人が多いですよね。これはどういうことなのでしょうか。
ハッキリ言ってしまうと、多くの場合ではルール違反の状態で確定申告をしていることになります。
確定申告は、自分で税額を計算して納付するシステムです。しかし、間違った知識のまま確定申告することも可能で、しかも税務署は「所得の区分がルール違反ですよ~」とは教えてくれません。
間違いが発覚するのは、税務署がいわゆる「税務調査」にやって来たときです。「みんなが間違えているなら、ルールのほうがおかしいのでは?」「もっと分かりやすく情報発信をしてほしい」という気持ちは分かりますが、税務署は私たちの言い訳を聞いてはくれないでしょう。
また、有識者からは「副業赤字で節税を試みるスキームが問題視されたのでは?」という指摘もあります。
これは、副業収入を事業所得として確定申告した場合、事業で発生した赤字をほかの所得で得た黒字と相殺できる「損益通算」という仕組みを利用したスキームです。
会社員の場合、給料への課税額が決まる基準となる「給与所得」とも相殺できるので、「副業で赤字を出し、それを給料の黒字と損益通算して手取り額を増やす」ということができてしまうのです。(そもそも損益通算をするには事業所得として認めてもらう必要があり、そのハードルは極めて高いのですが……)
このスキームはマネー系のインフルエンサーや税理士の発信で有名になり、手を出す人が多かったのでしょう。そのため今回の改正案でにて「300万円」というラインを設定することで、強引な赤字との損益通算をキッパリと否定した、とも考えられます。
今回の改正案によって副業を事業所得として申告することが難しくなったわけではなく、もともと副業を事業所得として申告するのは難しいという事情をご理解いただけたかと思います。
ただ実際のところ、副業の事業所得申告は、少額であれば黙認されるのが一般的でした。それが300万円ラインの明確化により、キッパリと否定された意味で、大きな改正案といえるかもしれません。
しかし、このニュースを見て筆者が一番気がかりだったのは、「複業」「パラレルワーカー」の所得がどう判定されるのか、という点です。
たとえば、会社員として週3日勤務して250万円を稼ぎ、ほかに個人事業主として週2日250万を稼ぎ、さらにまた別の仕事で週1日稼働して250万円を稼いだ場合。
こうした働き方をしている人もいるはずですが、仮に税務署が「週3日勤務」を本業とカウントした場合は、2つの事業で300万円の基準をクリアできないことになります。
もちろん、改正案でも「収入300万円以下」という条件にくわえ、「反証がなければ」雑所得と扱うと述べられています。また、「社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうか」という判定基準もありますので、「300万円以下は絶対に雑所得!」と決まっているわけではないでしょう。
しっかり根拠を説明できれば大丈夫だとは思いますが、個人的には国として「多様な働き方」を推進する以上、最初から複業やパラレルワークまで考慮した制度設計にしてほしかったかなと感じました。
ここまで見てきたように、国税庁の出した改正案には一定の意義があると考えられます。しかし実質的な増税となる可能性が高いこと、収入基準を300万円という高いハードルに設定したことから、批判が殺到したのも納得です。
本通達が出された直後から、各メディアやSNSでの意見は批判一色となり、政府にパブリックコメントを提出して改正案の撤回・修正を求める動きも出てきました。
そしてパブリックコメントの募集が閉め切られてから約1ヶ月後の2022年10月7日。国税庁は“「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募の結果について”という文書を発表。
冒頭では、寄せられたパブリックコメントの数がなんと7,059件を数えたことが明らかにされました。その多くが批判的な意見だったことは確かで、国税庁は以下のようなコメントが寄せられたと明らかにしています。
「副業を推進する政府の方針に逆行するものでは?」
「 これって結局は増税では?」
「300万円という基準の根拠が不明」
文書のなかではこうした意見に反論こそしているものの、国税庁は抗議の声の大きさから「副業300万円ライン」の事実上の撤回を表明せざるを得なくなったのです。
従来、パブリックコメントは「国民の意見を募集する」という形式的なもので、コメントの内容が実際の政策に反映されることはほとんどなかったといいます。そう考えると、今回の一件はまさに異例の事態といえるでしょう。
では、今回の通達によって修正案にどのような変更が加えられたのか。変更点は「副業300万円基準」にかかわる部分のみで、以下のような修正が加えられました。
(注)事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。
なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。
(引用:国税庁)
大切なのは筆者が太字で示した部分。つまり何を言っているかというと、「事業所得の判断基準は今までと同じだけど、帳簿を保存していない場合には原則雑所得と判断しますよ」ということ。これを裏返すと、「帳簿を保存していれば基本的に事業所得と考えていいですよ」とも言い換えられます。
従来の修正案では「収入額(300万円)」を事業所得の判断基準としていたものが、「帳簿保存」が事業所得の判断基準となるわけです。また、本業と副業の区分も関係なくなりました。
要は、副業であろうと帳簿保存さえしていれば、原則は事業所得として申告できることを意味します。
ちなみに、なぜ「帳簿保存」を基準としたかについては、以下のように解説されています。
事業所得と業務に係る雑所得の区分については、上記の判例に基づき、社会通念で判定する
ことが原則ですが、その所得に係る取引を帳簿書類に記録し、かつ、記録した帳簿書類を保存している場合には、その所得を得る活動について、一般的に、営利性、継続性、企画遂行性を有し、社会通念での判定において、事業所得に区分される場合が多いと考えられます。(引用:国税庁)
ようは「帳簿を保存している人は事業として所得を得ている場合が多いよね」と国税庁は言っているわけです。帳簿の保存はクラウド会計ソフトなどでかんたんにできるようになったので、個人的には「帳簿の保存=ほぼ事業所得」は副業者に有利すぎる気もしますが、国税庁がその基準でいいと言うのですから問題ないでしょう。
今回の通達で、「副業300万円問題」についてはおおむね解決したといっていいでしょう。
しかし、国税庁は「帳簿を保存していればぜんぶ事業所得!」と言っているわけでもありません。この通達では、次のようにも書かれています。
(注)その所得に係る取引を記録した帳簿書類を保存している場合であっても、次のような場合には、事業と認められるかどうかを個別に判断することとなります。
①その所得の収入金額が僅少と認められる場合
例えば、その所得の収入金額が、例年、300万円以下で主たる収入に対する割合が10%
未満の場合は、「僅少と認められる場合」に該当すると考えられます。※「例年」とは、概ね3年程度の期間をいいます。
②その所得を得る活動に営利性が認められない場合
その所得が例年赤字で、かつ、赤字を解消するための取組を実施していない場合は、
「営利性が認められない場合」に該当すると考えられます※「赤字を解消するための取組を実施していない」とは、収入を増加させる、あるいは
所得を黒字にするための営業活動等を実施していない場合をいいます。(引用:国税庁)
①のケースに該当するのは、たとえば年収500万円の会社員が、副業で50万円を稼げない年が3年続いた場合。副業の収入を事業所得と区分するには「副業収入が少なすぎる」と判断される可能性が高いです。
②のケースに該当するのは、先ほども説明した「ずっと赤字の副業を事業所得として申告し、損益通算を使って本業の所得を減らす行為」を行った場合でしょう。
②に関しての規制は分かりやすいですが、①に関しては今回の通達で「副業収入が1円でもあれば事業所得!」という誤解が出回っている印象も受けます。あくまで、帳簿保存だけが事業所得の条件ではありませんので、ご注意ください。
とはいえ、そもそも副業所得(副業収入-経費)が20万円以下なら確定申告は不要ですし、①の基準にあてはまる人はそれほど多くないかと思われます。
ここまで、初回の改正案が出されてから内容が修正されるまでの流れを見てきました。
筆者の感想としては、初回の改正案でも「事業所得と雑所得の基準を明確化する」という点は評価していたものの、肝心の基準がイケてないと感じていました。ただ、今回の修正で示された「帳簿保存の有無」という基準は、私たち納税者目線だとクリアしやすく分かりやすいと思います。
同時に「副業収入が3年程度主たる収入の10%以下」「改善する気もなくずっと赤字経営」の場合は、帳簿保存を問わず個別判断の対象になるという基準も、透明性があって比較的妥当な基準なのではないかと思いました。
なにより、事実上の決定事項と思われていた国税庁の改正案が変更されたという事実は、非常にインパクトが大きいです。SNSなどで積極的に反対し、国にパブリックコメントを届ける重要性が証明されたと思います。
今後も税金やフリーランス関係の法律については解説を続けていきますので、記事を読んで納得できない箇所がある場合は、ぜひ国に声を届けてみてください。
(執筆:齊藤颯人 編集:じきるう)