売上いくらから確定申告を外注依頼すべき? 税理士2名に聞いてみた

売上いくらから確定申告を外注依頼すべき? 税理士2名に聞いてみた

フリーランスや副業者にとって大きな障害になるのが「確定申告」。日々の帳簿付けや申告の負担は大きく、「確定申告があるからフリーランスはイヤ」という声もよく聞きます。

そんな確定申告ですが、みなさんも一度は「確定申告を税理士に丸投げしたい!」と思ったことがあるでしょう。しかし、実際に丸投げすることのメリット・デメリットや丸投げすべき売上の基準、外注相場など、素人には分からないことだらけなのが現状です。

そこで、この記事では確定申告の外注を考えているフリーライターが、2名の税理士さんにインタビューを行いました。

伊沢 成貴
伊沢 成貴

税理士。都内会計事務所勤務を経て、2017年に公認会計士山内真理事務所に入所。会計税務の側面からアート・カルチャー・クリエイティブ領域の支援に従事。

飯塚 祐亮
飯塚 祐亮

税理士。上智大学経済学部卒。音楽家と税理士のいる家系に育つ。エレクトーン奏者である母や周辺の音楽家の影響もあり、文化芸術家に対する会計的・税務的な支援の必要性を強く実感して公認会計士山内真理事務所に入所。

聞き手:齊藤 颯人
聞き手:齊藤 颯人

確定申告がダルすぎて溶けそうなフリーライター。

確定申告を税理士に外注依頼すると、何をどこまでやってくれる?

齊藤:
そもそも「確定申告の依頼」をお願いした場合、税理士さんはどこまで・どんな作業をやってくれるものですか?

伊沢:
確定申告の依頼は、2通りが考えられます。

一つめは「日々の帳簿付けから確定申告書の作成まですべて税理士が行うパターン」、二つめが「日々の帳簿付けはお客様にお願いし、税理士がチェックした内容を踏まえて確定申告書を作成するパターン」です。

ただ、最近の税理士は単にお客様の手足となって確定申告の代行をするだけでなく、顧問契約を結んだうえで、経営や資金調達、節税のアドバイスなどを行い、事業運営のサポートをすることが増えてきました。確定申告の代行は、その一環として行うものでもあります。

伊沢先生お写真①

▲伊沢先生

伊沢:
とはいえ、たとえば確定申告ギリギリになって税理士へ依頼し、駆け込みで確定申告の代行だけやってもらうことも可能です。この場合は、「スポット契約」と呼ばれる契約形態になり、文字通り一時的なお付き合いとなります。

飯塚:
詳しくはあとで解説しますが、スポット契約を受け付けるかどうかは税理士事務所次第なのが正直なところです。基本的には顧問契約を結び、継続的に税務トータルの面倒を見させてもらうことが多いので、2〜3月の確定申告シーズンにいきなり税理士にスポット契約をお願いしても、断られてしまったり、特急料金を取られたりするケースがあります。

飯塚先生お写真①

▲飯塚先生

税理士と顧問契約は結ぶべき? メリットとデメリット

齊藤:
先ほど「顧問契約」というワードが出てきましたが、フリーランスが税理士さんと顧問契約を結ぶメリット、デメリットはどんなものが考えられますか?

伊沢:
顧問契約のメリットは、年間を通じてのお付き合いとなるため、いざというときにお金に関して気軽に相談できることでしょう。お客様のビジネスをしっかり理解した税理士が顧問にいれば、「新規事業を始めたい」「融資を受けたい」といった場合の税務的なアドバイスはもちろん、ファイナンスの面でその決断を勧められるか意見できます。

また、年単位で損益・資産・負債といった情報を振り返れたり、経営面でのアドバイスができたりするのも大きいです。期末に向けたおおまかな税金額の予測などもできるので、稼ぎすぎていた場合に、早めの節税サポートが可能になります。

飯塚:
いわば、税理士を「二人三脚で事業をサポートしてくれるパートナー」にすることができるので、その部分に魅力を感じていただけると思います。

伊沢:
反対に、デメリットとなるのはやはりコストの高さでしょう。当然ですが、年間を通じてのお付き合いとなるため、報酬額もスポット契約に比べると高めです。

参考までに、「税理士と顧問契約を結ぶ場合」と「税理士にスポットで確定申告を依頼する場合」、「自力で確定申告をする場合」のメリット・デメリットや費用感を整理してみました。

顧問契約 スポット 自力
確定申告の代行 ×
確定申告の正確性
経営サポート × ×
費用 高め 低め ほぼゼロ
その他メリット ・節税提案ができる
・継続的な税務アドバイスができる
・副業の場合は効果が大きい
その他デメリット ・副業や一時的な収入の場合、コストパフォーマンスが合わない ・依頼時期によっては節税が難しい ・確定申告作業が面倒
・申告ミスで税金を誤って多く計算してしまうなどのリスク有

確定申告を税理士に外注依頼するときの料金相場

齊藤:
ここまでのお話から、確定申告の外注はすごく魅力的に感じました。でも、ぶっちゃけ費用はお高いんでしょうか……?

伊沢:
費用の負担感は人それぞれだと思いますが、じつはお客様の事業や売上の規模、取引先や領収書の数で相場はけっこう変わってきます。また先で述べたように、記帳を税理士がするか否か、顧問契約なのか、スポット契約なのかでも相場は変動しますね。

では、まず顧問契約で税理士に記帳~確定申告代行を依頼する場合の一般的な相場感を見てみます。

  • 副業で雑誌や書籍に寄稿するサラリーマン(売上100万円)
    →20万円~/年
  • ガッツリ働く本業フリーランス(売上600万円)
    →30万円~/年
  • かなり稼げている本業フリーランス(売上1000万円over)
    →40万円~/年

スポット契約の場合は、以下のようになります。

  • 副業で雑誌や書籍に寄稿するサラリーマン(売上100万円)
    →10万円~
  • ガッツリ働く本業フリーランス(売上600万円)
    →30万円~(※ほぼ顧問契約と変わらなくなる)

全体的に、どれだけ安くても最低10万円~/年は必要だと思ってください。なお記帳だけお客様がする場合は、上記から数万円割引になるイメージですね。

齊藤:
なるほど、売上によって外注費用も変わってくると! ただ、記帳を自分でやっても数万円しか引かれないんですね……。

飯塚:
じつは、確定申告業務における帳簿入力は、そこまでウエイトが大きくないんです。お客様にご入力いただいた場合も、一度こちらで誤りがないか全ての記帳内容を確認する必要があり、誤っている事項があればそれらを全て修正することもあります。

飯塚先生お写真②

齊藤:
そう言われると納得です。ちなみに、領収書によっても費用が変わってくるとのことですが、具体的に何枚くらいだと費用が高額になりますか?

飯塚:
領収書の枚数が、1ヶ月に100枚を超えてくるようだと金額が上がるイメージです。領収書の多さは業種によって変わってくるので、たとえば経費が少なくなりやすいエンジニアは領収書の枚数も少ないですし、取材などで持ち出しが多めのライターは領収書の枚数が多くなりがちです。

齊藤:
少しでも外注費用を抑えたいんですが、何か良い方法はないですかね……?

伊沢:
事務所側とお客様の双方が対応できる場合、クラウド会計ソフトなどで書類や帳簿のやり取り、管理をすると、作業が効率化されて費用も減少します。マネーフォワードやfreeeの操作方法を学んでいただき、ご自身である程度正確な帳簿付けをしていただくのも有効かと。

売上がいくらになったら確定申告を税理士に外注依頼すべき?

齊藤:
私を含め、多くのフリーランスが「売上がいくらになったら税理士さんへの依頼を検討するべき?」というポイントで一番悩んでいると思います。税理士さんの視点から見て、依頼を検討するタイミングはどのくらいがベストでしょうか?

伊沢:
もちろん絶対の正解はありませんが、私たちの見解としては「売上500~600万円」のフリーランスで、かつ「売上1000万円が現実的な目標になってきた」タイミングが良いと考えています。

この売上であれば、すでにサラリーマンの平均年収を超えているので、本業に専念したいと思う方も多いはず。金額的に帳簿付け・税金計算などが面倒になってくるラインでもありますし、これから売上1000万円を目指して活動していく場合、今後を見越して税理士に声をかけても良いでしょう。

伊沢先生お写真②

飯塚:
実際に売上が1000万円を超えてから依頼される方もいますが、そうなるとご自身で申告されていた過年度分が間違っていた場合の修正が多くなり、税金面でも損をするリスクがあります。そのため、1000万円が見えてきたラインで相談していただきたいですね。

齊藤:
今後、インボイス制度の施行により消費税計算の必要性も出てきます。インボイス制度の施行後は、依頼を検討する基準が変わったりするものですか?

伊沢:
いままでは、売上1000万円を超えると消費税計算の必要が生じたため、これも1つの基準でした。しかし、インボイス制度によって多くのフリーランスが売上に関係なく課税事業者になり、消費税計算が必要になると思われます。消費税計算は複雑で面倒なので、売上が500~600万円に届いていなくても、外注のメリットが高まるかもしれません。

確定申告を税理士に外注依頼するときのスケジュール感

齊藤:
実際に「税理士さんにお願いしよう!」と思った際は、いつまでにご相談をすれば良いんですか?

伊沢:
たとえば毎年10月くらいまでなら、当年分の確定申告を依頼することが可能な事務所が多いです。しかし11月、12月に入ると繁忙期になるため、新規のご依頼を受けられない可能性が出てきます。

齊藤:
(12月のいまはマズいじゃん……!)税理士さん的には、いつぐらいに依頼が入るとありがたいですか?

伊沢:
繁忙期以外は基本的に大丈夫ですが、3月にいったん前年度の確定申告を終え、4月頭あたりに相談に来ていただくのがベストではあります。フリーランスの皆さんとしても、ちょうど確定申告が終わって、大変さや面倒くささを痛感したあとだと思いますので(笑)

齊藤:
たしかに……。では、仮に4月頭のタイミングで顧問契約のご相談をしたとして、その年の確定申告書提出までのスケジュール感を教えてください。

飯塚:
まず、お客様の帳簿や申告書をお預かりし、年間の打ち合わせ回数などをご相談して見積もりを出します。当事務所の場合、打ち合わせは最低年2回で、回数が多くなれば料金も上がるシステムです。

飯塚先生お写真③

飯塚:
また、帳簿についてはおおむね上半期と下半期に分けて作成し、上半期分は6~7月までに資料をお預かりして8月までに完成。下半期分は10月までに資料をお預かりし、11月までに完成させます。下半期のほうが期間が短いのは、12月に一度打ち合わせをして必要な節税策などがあれば実行できる時間を確保するためです。

そして、年が明けたら最終的な帳簿を完成させ、打ち合わせでお客様の認識とズレがないか確認。翌年度に向けた展望なども話し合い、ここからは事務所側で申告を完了させます。お客様は所得税が振替納税式だと口座から自動引き落としとなり、住民税のみはご自身で納付いただくことになります。これが一連の流れです。

齊藤:
ありがとうございます! 「確定申告の丸投げ」とはよく言いますが、私たちがやるべき作業も意外とあるんですね。

伊沢:
そうですね。上記で書いた以外でも、経費の確認・追加の資料要求など、日常的に密なコミュニケーションをお願いすることにはなります。

良い税理士の選び方・探し方

齊藤:
私たちが普通に生きていると、なかなか税理士さんと知り合う機会はないものです。税理士さんから見て、良い税理士さんの選び方はどんなものが思い浮かびますか?

伊沢:
20代後半~30代のフリーランスの方で考えてみると、大前提として「若い税理士」を選んだほうが良いと思います。意外かもしれませんが、日本税理士会連合会の実施した調査によれば、現役税理士の半数は60代以上。平均年齢も60歳を超えているといわれ、若手税理士は貴重な存在です。

若い税理士の場合、クラウド化に対応できている可能性が高く、オンラインでもストレスなくやり取りができるでしょう。また、事業のパートナーとしても多様な働き方への理解が深まりやすく、気軽に相談しやすいという側面もあります。

伊沢先生お写真③

飯塚:
税理士を選ぶにあたって大切なのは、「性格的な意味で自分と相性の良い税理士かどうか」ですね。密なコミュニケーションが必要になる以上、相性が悪いと接するのが苦痛になると思います。

初回無料相談を実施している事務所も多いので、複数の事務所に話を聞いてみて税理士の人柄を確認してみてください。「コミュニケーションにストレスはないか」「気軽に相談しやすいか」などをチェックするのが大切です。

伊沢:
あと、事務所にはそれぞれ得意分野があります。たとえば、当事務所はアート・クリエイティブ領域に強みを持っていますし、相続専門の事務所さんなどもあります。その分野を得意とする税理士に依頼することでプラスアルファの価値が期待できます。

公認会計士山内真理事務所 ホームページ

▲お二人の所属する山内真理会計事務所のサービス紹介ページ。アート・クリエイティブ領域に強みを持っていることがわかる

飯塚:
依頼者の事業分野と事務所の得意分野が一致していれば、事業内容やつまずきやすいポイントを理解してもらえたり、過去の事例をもとにした事業アドバイスなどの制度も高まっていったりするものです。そのため税理士の得意分野は要チェックです。

齊藤:
税理士さんも人柄重視で選ぶべき、というのは意外と見逃しがちなポイントでした。では、良い税理士さんを見つけるためにはどんな方法で調べるのが良いんでしょうか?

伊沢:
最近はマッチングサービスなんかもありますが、個人的にはシンプルに「◯◯(職業) 税理士」とググっていただくのが良いかなと。じつは、HPを持っていない税理士事務所は多いので、HPが見つかるだけで最低限のデジタル化ができていることも確認できます。

それと、freeeマネーフォワードが提供する税理士検索プラットフォームを活用したり、アナログですが地域の税理士会に紹介してもらったりする方法もおすすめです。

税理士と依頼主は「二人三脚」

齊藤:
失礼ながら税理士さんは「確定申告の丸投げ先」と思っていた節がありましたが、ここまでのお話を聞いていると全然違うことがよく分かりました……。

伊沢:
なかなか税理士の仕事を知る機会はないと思いますからね(笑)。コンサルタント的な業務も行うことが多いですし、事業パートナーとしての側面もあるんですよ。

飯塚:
人によっては、「契約中の税理士さんに遠慮して質問できない」という声も聞きます。しかし、コミュニケーションが取れないとアドバイスや検討事項の精度が下がり、税務リスクが増大します。むしろ、分からないことは遠慮せず何でもご質問いただきたいですし、そのほうがこちらとしてもありがたいです。

当然ですけど、私たちもお客様に損をしてほしくありません。だからどんどん頼っていただき、最も精度の高い税務申告を提供いたしたく思っています。税理士とお客様は二人三脚のパートナーですから。

伊沢:
私たちにとって仕事がしやすいお客様は、「積極的に頼ってもらえる」方々なのですが、結局そういった方々には質の高いアドバイスができるので、節税もしっかりとできるんです。

ぜひ、税理士を活用して本業に専念できる環境をつくってみてください。

(執筆:齊藤颯人 編集:コヤ 協力:公認会計士山内真理事務所

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