脱セルフブラック!“貧乏ヒマなし”から抜け出す、正しい単価の決め方

脱セルフブラック!“貧乏ヒマなし”から抜け出す、正しい単価の決め方

フリーランスにとって悩ましい「値付け」の問題。「1日9時間稼働しても、月の売上は30万円ほど」「担当者がいい人そうだから、つい安く受けちゃう」なんて、ため息をついた経験はありませんか?

セルフブラック状態・万年貧乏フリーランスから脱出するためには、適正な価格設定が欠かせません。ちゃんと稼働時間や手間に見合った適正額の報酬がもらえれば、貧乏にはならない……はず。

「それがわからないから困っているんだよ!」という皆さんのお叱りの声が聞こえてきそうですが、実はこれ、「会計」の発想で簡単に解決できます!

会計的にロジカルに考えれば、本当に損しないための値段の決め方がわかるんです。それも、誰でも再現可能な方法で。

連載第2回となる今回は、コンサル出身の会計学・経営分析のスペシャリスト・矢部謙介先生に、正しい値付けの考え方や、単価が安すぎる場合に考えるべきことを訊きました。

矢部 謙介(やべ けんすけ)
矢部 謙介(やべ けんすけ)

中京大学国際学部・同大学大学院人文社会科学研究科教授・同大学執行役員学長補佐。専門は経営分析・経営財務。コンサルティングファーム等での経営コンサルティング活動に従事したのち現職。マックスバリュ東海株式会社社外取締役なども務める。著書に『決算書の比較図鑑』、『武器としての会計思考力』『決算書×ビジネスモデル大全』など。(X:@ybknsk

聞き手:ぽな
聞き手:ぽな

こたつとお布団、コーヒーをこよなく愛するフリーライター。法学部出身のはずが、なぜか卒論のテーマは村上春樹であった。やれやれ。(X:@ponapona_levi

目標売上高が決まれば「自分の値段」がわかる

ぽな:
フリーランスって、セルフブラック、ひとり社畜状態になる人も多いって聞くんですけど……こうした事態を防ぐためにはどうすればいいでしょうか? 実際、わたしも以前、1年360日働いて、売上高がようやく300万円ということがありました(笑)。

矢部:
それが、まさに値付けの問題です。まず、前提部分から考えてみましょうか。まず、儲けを出すためには、適正な価格で自分のサービスや商品を売らなければなりませんよね。

フリーランスの皆さんであれば、自分のスキルが商品になることが多いと思います。つまり、仕事あたりの単価が「商品の価格」ですね。ということで、まずは損しないための単価を決めましょう……!

ぽな:
単価ですか。どう決めるのがいいのかなあ。いつも迷っちゃうんですよね。実際の働き方によっても違うと思うんですけど……。

【フリーランスの働き方と報酬の決まり方】

  • 請負タイプの仕事:
    記事執筆やデザイン制作、セミナー開催といった、一定の仕事の完成と引き換えに報酬が発生する仕事。1件あたりいくらで報酬が決まる。
  • 準委任タイプの仕事:
    業務委託で編集者やデザイナー、エンジニアとして一定の作業をこなす仕事。作業時間に応じて報酬が決まることから、1時間、もしくは1ヶ月あたりいくらで報酬が設定されることが多い。

矢部:
ちなみに、ぽなさんの場合はどうでしょうか?

ぽな:
わたしはライターだから、1記事あたりいくらですね。典型的な請負タイプの仕事になるかな、と思います。同じライターでも、社内で業務委託で働く場合は月◯万円といった準委任タイプの仕事になりそうですが。

矢部:
なるほどね。じゃあ、順番に考えてみましょうか。ぽなさんは前回、目標売上高を決めましたよね。

ぽな:
はい、こんな感じです。

【目標売上(500万円)の場合(税額・健保の金額は概算)】

売上500万円
—経費(60万円)
—所得税・住民税・健保・年金(約109万円)
—生活費(240万円)
約91万円

これなら、インボイス登録して消費税を納めても50万円くらい残りそう!

ぽな:
生活はカツカツですけど、家賃を下げれば一人暮らしもできるのではと思いまして。500万円を下回ると、うーん、結婚して二馬力なら何とかなるかもしれないけど、独身の場合は実家に帰るしかなさそうです。……500万円。このラインが目標売上高ということでお願いします!

矢部:
わかりました。目標売上高がわかったので、ここから逆算して値付けをしていきましょう。そうすれば、損しないで済みますよ!

儲けを出すためには?会計的に正しい値付けのやり方

ぽな:
目標売上高からの逆算で単価を決めるんですか?

矢部:
そうです。目標売上高から逆算して決めた金額以上の単価で仕事を引き受ければ、目標売上高は勝手に達成できますからね。

目標売上高
=自分の生活費+利益がきちんと出る売上。
ここから逆算して、値付けをしよう。

ぽな:
なるほど……うーん、どうやって考えていけばいいのかなあ。とりあえず、欲しい時給から考えてみるか……。

【目標時給はいくら?】

  • 目標売上高を12で割れば、1ヶ月あたりの目標売上が出る
  • 1ヶ月あたりの目標売上を稼働日数(「月あたり20日」など)で割れば、1日あたりの目標売上が決まる
  • それを1日あたりの稼働時間(8時間など)で割れば……目標とするべき時給もわかる!

ぽな:
つまり、この時給で働けば、損しない!!

矢部:
そうですね。そこから、「損をしない」単価を考えていきましょう。

ぽな:
ええと、業務委託の形で働く場合は……。こんな感じかなあ。

【損をしないための単価はいくら?】

  • まず目標売上高を決める
    1日の目標売上がわかる
  • 請負タイプの仕事:
    仕事の完成ごとに報酬が支払われるので、必要な作業時間に応じた適正額の時給(目標時給以上の時給)がもらえれば損しない
    目標時給×必要な作業時間=目標単価に設定
    (例:目標時給が2000円として、5時間かかる仕事なら「1万円以上に設定」)
  • 準委任タイプの仕事:
    1時間/1ヶ月いくらの契約なので、稼働時間の時給が目標時給以上であれば損しない。
    (例1:1時間あたりの時給で動く場合→「目標時給をそのまま設定」)
    (例2:「1ヶ月あたりいくら」で働く場合→「目標時給×1日あたりの稼働時間×日数をもとに設定」)

ぽな:
ええっと、年間売上高が500万円とすると、月あたりの目標売上が約42万円。月に20日働くとして、必要な1日の売上は21,000円くらいか。7時間労働だとすると、ええと、1時間あたり約3000円……。企業に常駐して働く場合(準委任契約の場合)は、それくらいの時給じゃないとダメってことですね。

矢部:
そうですね。ただ、ぽなさんはライターだから。記事1本あたりいくら、という計算になりそうですね。さて、いくらくらいに単価を設定しましょうか。

ぽな:
ええと、1本いくらの仕事の場合、作業時間×時給で単価を計算すればいいから……。

【請負型の仕事、損をしないための単価はいくら?】

3000円×5時間
→執筆に5時間かかる記事なら、1本あたりの単価を15000円以上に設定しないと売上が達成できない。

矢部:
請負型の場合、毎月何本の記事を書けるのか、自分自身のキャパシティも考慮して値付けをする必要がありますね。

ぽな:
たしかに、キャパの問題は重要ですね。だとすると、こっちの計算式の方がいいのかな。

【こなせる仕事量も考慮した単価の決め方】

月の目標売上÷1月あたりの執筆本数=目標単価

上記の例で、1ヶ月あたりの執筆本数が20本の場合なら……
目標売上42万円÷1ヶ月あたりの執筆本数20本=21,000円
→1本あたりの目標単価は21,000円

ぽな:
おおお、同じ単価の決め方でも計算方法によってだいぶ数字が変わりますね。

でも先生、いずれにしてもですよ。ぶっちゃけ、これ相当厳しいですよ。

実は、今の単価って目標売上から出した単価とかけ離れているんです……。これじゃあ、365日、1日10時間働かないと、目標売上に届かないよぉ……。

「自分の単価安すぎ!」と思った場合に考えるべきこととは?

ぽな:
先生、私はどうすればいいんでしょうか。今の単価が安すぎることは分かったけど、値上げもなあ……。

矢部:
そうですね。理想の単価を決めるのと、実際に自分の希望単価で仕事を発注してもらえるかどうかは別の問題です。クライアントとの交渉も必要になりますし。

ぽな:
やはり……。値上げ交渉はできればやりたくないですよね。正直、切られるリスクもあるので。

▼単価交渉についてはこちらの記事も参考にどうぞ

矢部:
値上げができないなら、発想を変える必要がありますね。「単価が安すぎる」と感じた場合に、単価を上げるための戦略は大きく分けて2つあります。

作業を効率化してこなせる件数を増やす

矢部:
単価が安すぎる場合の対策その1は、作業の効率化です。1件あたりに必要な作業時間が減らせます。そうすれば、多くの仕事をこなせるようになります。

ぽな:
量で稼ぐ感じですかね。たしかに1件あたりの作業時間を減らせれば時給は上がります。売り上げも伸びそうです。

矢部:
AIのような新しい技術・ツールを利用するのもいいですね。こうしたツールを使うとイノベーションが起きます。1件あたりの作業時間も減りますし、頭を使う作業により多くの時間を使えるようになりますから仕事の質も上がる。こうして量をこなしていけば、トータルの売上は上がっていくはずです。

【具体例】
AIツールなどのツールを使ったら作業時間が1/2になった
→2倍作業をこなせる
=時給が倍になる

ぽな:
業種にもよりますが、たしかにツールの力で効率化できるところはありそうです。ライター業だと、文字起こしツールのおかげで取材案件がものすごく楽になりました。作業時間も従来の半分以下になったんじゃないですかね。その分、値崩れもしそうで怖いところでもあるんですけど……。

矢部:
そこはまた別途考える必要がありますね。値崩れに負けないようにより速く仕事をこなすか、もしくは単価を上げる方向に持っていくか……。そこで、もうひとつの戦略——付加価値をつけて単価を上げる話が出てきます。

付加価値をつけて、1件あたりの単価を上げる

矢部:
単価が安すぎる場合の対策その2は、付加価値をつけて高単価を狙う。

ぽな:
付加価値……わたし、このパターンかもしれないです。法律の専門知識とライティングの組み合わせでやってます。

矢部:
そうですね。専門知識と文章の組み合わせはニーズがあるんですよ。さらに、ライバルが気づいていないようなブルーオーシャンが見つかると、もっと良いですね。先行者利益が取れますから。新しい市場に最初に参入した人って、ライバルより有利にビジネスを進められるんですよ。

【ビジネスにおいて価値や強みを生み出すには?】

  • スキル同士の組み合わせで、誰も真似できない価値を生み出す
    →ライバルが減るので高単価(専門知識×ライティングなど)
  • 新しい市場を見つける→ライバルがいないので有利
    (企業の例だと、OpenAI(生成AI)、テスラ(電気自動車)など)

ぽな:
それはめっちゃ儲かりそうですね……! 私、ワクワクしてきました!

時間単価はどれだけ上げられる?儲けはどこまで伸ばせる?

ぽな:
お話を伺っていて、だんだん自分でも単価を上げられる気がしてきました。でも、ちょっと気になることがあるんです。これって結局、わたしが作業しないと儲けが出ないですよね。

矢部:
いわゆる「労働集約型」の働き方ですからね。

ぽな:
これだと、どこかで売上が頭打ちになる気がするんですよね。機械じゃあるまいし、稼働時間ってどうやっても限界があるじゃないですか。そう考えると、効率化して件数を増やす作戦にも、高単価戦略にも限界がある気がしてきました……。

フリーランス個人の売上には限界がある!?

矢部:
おっしゃるとおり、労働集約型のビジネスでは自分のキャパシティ=売上の限界です。だからこそ、限られたキャパシティの中で今の自分にとって一番良い内容になるように、仕事のポートフォリオを組み替えていく必要があります。

仕事のポートフォリオを考える上では、単価だけでなく、やりがいや将来への投資といった側面も重要になります。

もちろん売上を上げるという意味では単価は大事ですけど、仕事を選ぶ基準は、単価が高い安いだけじゃないですからね。やりがいもそうですし、将来への投資も重要です。たとえば、有名な雑誌に記名記事を書ける、とか、自分のブランディングに役立つような仕事なら、多少単価が安くても受けたいでしょう?

ぽな:
そうですね。多少安くても受けると思います。それで箔がつけば、将来単価が上がるかもしれないですし。

なるほど、だから投資なんですね。将来を見据えて仕事を選ぶのも、投資の一種なのか……。

矢部:
そうです。自分への投資です。企業がビジネス拡大のために設備投資するのと同じです。

「稼働時間の壁」を突破して売上を伸ばすには……?

ぽな:
でも、先生、こうした割安価格でも仕事を受けられるのって、そもそも手元にお金があるからだと思うんですよね。そもそも生活費や貯金がなかったら、目の前の仕事を捌くだけで余裕がないというか……。将来への投資まで考えて動けないですよ。

矢部:
たしかにそうした側面は否めないかもしれませんね。

ぽな:
年間の目標売上500万って、フリーランスとしては上限に近い数字だと思うんです。ですが、これだと年間数十万しか貯まらない。そうなると先の手が打ちようがない気がするんですよ。だから、自分の将来に投資するためにも、わたし、もっと、もっと儲けたいです!

矢部:
なるほど。

ぽな:
そうです! ただし、儲けたいっても、1日12時間労働は絶対に嫌です! 1日5時間、週休3日制で1000万くらい売上が立つようにしたいんです!お金はめちゃくちゃ欲しいけど、働きたくなーい!

矢部:
正直ですね(笑)。それなら、ビジネスモデルから見直してみましょう。労働時間を増やさずに売上を増やす方法は、次の2つです。

【ビジネスモデルの見直し】

その1:に働いてもらう
その2:モノに働いてもらう

ぽな:
人やモノに働いてもらう?本格的なビジネスっぽい感じの話になってきましたね。ここまでいくと、法人成りも見えてきそうです……!

矢部:
夢がある話になってきたでしょう? 次回、詳しく解説しましょう!

今回のまとめ

目標売上高がわかれば、そこからの逆算で「損しない」単価をロジカルに決めることができます。まずは自分のほしい売上から、理想の単価を考えてみましょう。もっとも、現在の単価とほしい単価に乖離がある場合には、こなせる件数を増やす、付加価値をつけるといった対策も必要になる模様。やっぱりラクして儲ける……というわけにはいかないですね。

今回、矢部先生の話を伺っていて、わたし自身「自分に合ったやり方で単価を上げる努力をしてきたんだな」と再確認することができました。ただ、それでも稼働時間の限界=売上の限界になってしまうんですよね……。この悩みを解決するにはどうすればよいのでしょうか。詳しい話はまた次回……!

矢部先生の最新著作『会計指標の比較図鑑』購入はこちら→ Amazon楽天

会計指標の比較図鑑

▲会計指標・決算書・ビジネスがつながる!決算書分析を楽しく学べる実践入門書

より多く稼ぎたいフリーランスなら「Workship」!

Workship

▲出典:Workship

最後に、より多く稼ぎたいフリーランスのために『Workship』をご紹介します。Workshipは、フリーランス・副業向けの案件検索プラットフォームです。

公開案件の80%以上がリモートOKと働く場所を選ばず、エンジニア、デザイナー、マーケター、PM/ディレクター、編集者、ライター、セールス、人事広報など、Web系のさまざまな職種の案件が紹介されています。

さらに、トラブル相談窓口や会員制優待サービスの無料付帯など、安心して働ける仕組みがあるのも嬉しいポイント。時給1,500円〜10,000円の高単価な案件のみ掲載しているため、手厚いサポートを受けながら、良質な案件を受けたい方におすすめです。

(執筆:ぽな 編集:夏野かおる)

SHARE

  • 広告主募集
  • ライター・編集者募集
  • WorkshipSPACE
週2日20万円以上のお仕事多数
Workship