フリーランスの引越し手続き/注意点は? 経験者のFPが引越し前~後まで完全解説!

フリーランスの引越し手続き

「引越し」は人生の大きなイベントのひとつ。しかし、「あまり引っ越しをしたことがない」「引越しの手続きは全部親がやっていた」という方も多いでしょう。引っ越しの際に必要な手続きはたくさんあるため、慣れていない方は苦労するかもしれません。

さらに、フリーランスの場合は一般的な引越しよりも複雑になりやすい一方、情報が少なく困惑してしまうケースもあります。

そこで、今回はフリーランスとして過去に2度の引っ越しを経験したFPの筆者が、「フリーランスの引越し」について解説します。

執筆:齊藤颯人
執筆:齊藤颯人

FP事務所『トージンFP事務所』代表、ファイナンシャル・プランナー。Workship MAGAZINEのマネー担当として、フリーランスや副業にまつわる記事の執筆・監修を行う。自身も現役フリーランスで、当事者ならではの情報発信に強み。

引越しのおおまかな流れ

今回はフリーランスの引越しを中心に見ていきますが、「じつは引越しの流れそのものがよく分からない……」という方もいるかもしれません。

ここでは一般的な引越しでのおおまかな流れをリスト形式でまとめていきます(リストは早めに着手すべきものから並べています)。

【引越し前】

  1. 引越し日程/プラン/業者を決める
    引越しをするには、そもそも引越しの方法を決めなければなりません。自力で引越しする場合以外は、早めに引越し業者の手配などを済ませましょう。
  2. 現在の賃貸物件を解約する
    賃貸物件の退去は、退去する1~2ヶ月前の通知が必要です。こちらも早めに済ませましょう。
  3. 粗大ごみの収集依頼
    引越しにあたっては多くの粗大ごみが出ます。新居に不要なものは処分してもらいましょう。
  4. ライフラインの引越し手続き
    電気/水道/ガス/ネット回線などは自然に引き継がれるものではないので、それぞれ移転(解約)手続きを行いましょう。
  5. 転出届の提出
    別の自治体に引越す場合は、引越し前の自治体の役所で転出届を出す必要があります。転出届けの提出は引っ越しの14日前から可能なため、引越し前に手続きを済ませておくのがおすすめです。
  6. 国民健康保険の資格喪失手続き
    国民健康保険は自治体が管理するため、自治体が変わる場合は国民健康保険の資格喪失手続きも必要です。転出届の提出と同じタイミングで行うと効率的です。
  7. 税務関係の手続き
    自宅を事務所としているフリーランスの場合、引越しによって納税地が変わります。詳しい手続きは後ほどご紹介します。
  8. 郵便物の転送手続き
    フリーランスは自宅に業務関係の郵便物が届くことも多いはず。転送手続きを出して、引越し先で確実に受け取れるようにしておきましょう。
  9. 荷造り
    引越し先へ持っていく荷物はしっかり荷造りしておきましょう。荷造り後は作業場に困るので、一時的に近所のコワーキングスペースなどで仕事をするのもおすすめ。

【引越し後】

  1. ライフラインの利用開始手続き
    引越しが済んだら、電気/水道/ガス/ネット回線などの利用開始手続きを進めましょう。
  2. 荷解き
    まずは必要最低限の荷解きを済ませ、以下の手続きと並行して徐々に荷解きを進めていくことをおすすめします。
  3. 転入届の提出
    転出届と同じく、別の自治体に引っ越した場合は転入届を役所に提出しましょう。印鑑登録なども合わせて進められます。
  4. マイナンバーカードの住所変更
    普通の人であれば転入時の小さな手続きなのですが、フリーランスの場合はかなり大きな意味を持ちます。詳しくは後ほど触れます。
  5. 国民健康保険の加入
    引越しによって国民健康保険の加入資格を喪失しているので、引越し先で再び国民健康保険に加入しましょう。
  6. 各種住所変更手続き
    免許証やクレジットカードなど、住所変更の必要があるものは多いです。フリーランスの場合は事業関係の住所変更手続きも忘れずに。

フリーランスの引越し手続き【税金編】

上記の引越し手続きのうち、以下では特に「フリーランスに関係のある手続き」を、ジャンル別にピックアップしてくわしく解説します。

【引越し前】税務関係書類の提出

フリーランスのなかには自宅を事務所としても利用している方もいるでしょう。この場合、「引越し=事務所移転」となるため、納税地の変更に関する手続きを行う必要があります。

人によって必要な手続きは変わりますが、代表的な手続きは以下のとおり。

  • 納税が必要で、事務所を変更したフリーランス:
    所得税(消費税)の納税地変更手続き
  • 個人事業税の納税が必要(所得290万円以上)で、居住都道府県を変更したフリーランス:
    個人事業税の納税地変更手続き

これらの注意点は、引越し後ではなく引越し前の税務署/都道府県の税事務所での手続きが必要ということ。なお、引越し後の手続きは必要ありません。

手続き先 引越し前の納税地の税務署/都道府県の税事務所
期日 原則転居前
持ち物 身分証、申請書類、印鑑、マイナンバーカード(個人事業税の場合必要なことがある)

【引越し後】マイナンバー関連の手続き

引越し後はマイナンバーカードの住所変更手続きが必要ですが、e-taxを利用しているフリーランスの場合はマイナンバーカード内の「電子証明書」に関する手続きがとても重要です。

e-taxの主要なログイン方法に、カードリーダーでマイナンバーカードを読み取ってログインする「マイナンバーカード方式」があります。ここでカードリーダーがマイナンバーカードを読み取る際、本人確認に利用されているのはカード表面の印字ではなく、カード内にある「署名用電子証明書」です。

公的個人認証サービスの解説

▲公的個人認証サービスの解説(出典:地方公共団体情報システム機構)

この署名用電子証明書は、住所や氏名の変更があると失効し、そのままでは利用が不可能になります。そのため、マイナンバーカード方式でe-taxを利用している場合、券面の記載を変更するタイミングで署名用電子証明書の更新も忘れずに行いましょう。

手続き先 引越し後の居住地の役所
期日 記載事項の変更から14日以内(未手続きで転入から90日が経過するとマイナンバーカードそのものが失効します)
持ち物 マイナンバーカード

フリーランスの引越し手続き【国民健康保険/年金編】

【引越し前】国民健康保険の資格喪失手続き

フリーランスは会社の健康保険ではなく、国民健康保険の被保険者となります。国民健康保険の管理者は各自治体であるため、引越し前の自治体の役所で資格喪失手続きをしなければなりません。

手続きは転出から14日以内に行う必要があるため、転出届の提出と同時に済ませるのがもっとも効率的です。

手続き先 引越し前の居住地の役所
期日 転出から14日以内
持ち物 身分証、国民健康保険証

【引越し後】国民健康保険の加入手続き

引越しが済み、転入届を提出するタイミングで国民健康保険の加入手続きも済ませるようにしましょう。

国民健康保険への加入が遅れると医療費の負担が増えたり、保険料の二重払いの可能性が出てきたりするので、注意が必要です。

手続き先 引越し後の居住地の役所
期日 転入から14日以内
持ち物 身分証、転出証明書

フリーランスの引越し手続き【住所変更編】

【引越し前】郵便転送の手続き

旧居を引き払っても、リアルタイムで郵便物の送り手に情報が届くとは限りません。フリーランスの場合、取引先からの書類が古い住所に届いてしまうと、仕事に支障をきたす可能性が高いです。

そのため、郵便局で旧住所あての郵便物を1年間新住所に転送してくれる「転居・転送サービス」を利用しましょう。ただ、こちらは郵便局へ行かなくてもオンラインで手続きできる『e転居』というサービスがあります。

e転居

▲出典:日本郵便

転送開始日は指定できますが、情報の登録に3日〜1週間程度かかるため、即日対応はできません。引越しの1週間前を目安に手続きを進めるのがおすすめです。

手続き先 郵便局(オンライン手続き可)
期日 なし
持ち物 旧住所が確認できる身分証(郵便局へ行く場合)

【引越し後】各種住所変更

引越し後は、多くのサービスや書類などで住所変更が必要になります。具体的には以下のものが代表例です。

  • 運転免許証
  • クレジットカード
  • 銀行口座
  • サブスク
  • 通販サイト
  • 会計ソフト
  • 保険
  • 請求書/納品書/発注書などの宛名

ほとんどのサービスはオンライン上で住所変更できますが、銀行や保険などはたまに現地でしか手続きができないパターンもあるので、どういった手続きが必要かはよく確認しましょう。

転入届を提出したタイミングで新住所の住民票の写しを取っておくと、住所変更手続きが楽に進められます。

フリーランスの引越しポイント/注意点

引越しに際して必要な手続きは整理できたかと思いますが、「フリーランスの引越しは何がポイントになる?」「フリーランスならではの注意点を知りたい!」など、フリーランスならではの引越しのコツを知りたい方もいるかもしれません。

ここでは、筆者の経験からフリーランスの引越しのコツを解説します。

ポイント1. 引越し前後はスケジュール調整が肝心

引越しは荷造り/立ち合い/荷解きなどいろいろな作業が発生するのはもちろん、引越し前後の手続きにも意外と時間をとられます。最近はデジタル化も進んできましたが、役所や税務署まわりの手続きは現地に行く必要があるものがほとんど。

そのため、フリーランスの場合はできる限り引越し前後のスケジュールに余裕をもたせておきましょう。筆者の場合、引越しの直前に泊りがけの取材が入っており、準備が大変になってしまいました。

目安として、引越しの前後1週間は余裕のあるスケジュールを組み、引越し後には1日で役所まわりの手続きを終えられる日を設定しておくと効率的です。フリーランスは平日に休めるケースも多いので、一般的な会社員よりは役所まわりの難易度は下がると思います。

ポイント2. 引越しは閑散期の平日にできると割安

先ほども触れましたが、フリーランスのなかには平日に休める方も多いはず。一般的な会社員の場合は、基本的には有給を使わなければ平日に休めないので、引越しのタイミングとして土日を選ぶケースは多いようです。しかし、一般的に平日よりも土日、さらに連休のほうが引越し費用は高く、予約も取りづらくなる傾向にあります。

また、学生や会社員の進学・転勤と重なりやすいタイミング(特に3~4月)は引越し業者の「繫忙期」と呼ばれ、こちらも費用は高く、予約も取りづらくなります。

せっかくなので、フリーランスの強みを活かして引越し業者の閑散期かつ平日に引越しができれば、費用を抑えつつ希望の日程を実現できるでしょう。

ポイント3. クライアントへの住所変更通知を忘れずに

引越し後は、なるべく早くクライアントに住所変更を知らせましょう。

「請求書を出すタイミングで知らせればいいのでは?」と思われるかもしれませんが、たとえば最近は取引先のマイナンバー収集が義務化されているため、いきなりマイナンバー提供のための書類が送られてくることもあります。

書類が届いた、届かないでクライアントと揉め事になるのは避けたいので、目安として新住所が決まった段階で直近1年間に取引があったクライアントには住所変更を連絡しておくといいでしょう。

ただ、ライフスタイルや働き方の変化により、フリーランスのなかには頻繁に引越しをする人もいます。その場合、いちいち住所変更の連絡を入れたりするのは面倒ですよね。郵便物の受け取り場所や事業用の事務所としてバーチャルオフィスを契約すると、手間を大きく削減できます。引越しが多い方は検討してみてはどうでしょうか。

フリーランスは賃貸入居審査に通る?

フリーランスのなかには引っ越し以前の問題として「そもそも賃貸の入居審査に通るのか」を不安視されている方も多いようです。

結論から言えば、若干不利になる側面があるものの、安定した収入があるフリーランスなら入居審査は普通に通ります。実際、筆者のまわりのフリーランスも賃貸に住んでいるケースがほとんどです。

入居審査で重視されるポイントは「家賃をしっかり払い続ける能力があるか」なので、フリーランスでも支払い能力を客観的に証明できれば問題ないでしょう。目安として、3年程度の安定的・継続的な収入があれば問題はないといわれています。

問題になるのは、フリーランスとして独立した直後で収入が低い場合です。この場合は多少工夫が必要ですが、「どこにも入居できない」というケースはあまり聞きません。具体的には、以下のような工夫が考えられます。

工夫1. 会社員を辞める前に引越しを済ませておく

独立する直前なのであれば、会社員時代に引越しを済ませてから退職するのは効果的です。

少々グレーな手法ではありますが、独立後に住むことを前提に引っ越しておけば、入居審査を通過できる可能性は高いでしょう。

工夫2. シェアハウスなどに入居する

次に考えられるのは、シェアハウスを利用する方法です。シェアハウスのコンセプトによって審査の基準はさまざまですが、なかにはフリーランス専門のシェアハウスもあります。

フリーランスであることが不利にならないのはもちろん、住人同士で知識やノウハウを共有することで、お互いの技術の向上も見込めます。

工夫3. フリーランス特化の不動産会社にお願いする

昨今のフリーランスブームから、フリーランスに特化・フリーランスに手厚い不動産会社もちらほら増えてきています。

以下の記事で一例を紹介していますので、物件がうまく決まらない方は利用してみてもいいかもしれません。

工夫4.「人気薄」の物件をねらう

最後に、入居審査にかける物件を「人気薄物件」にしてみるのも有効でしょう。大家の立場としても、申込が殺到する人気物件なら入居者を選ぶ余裕はありますが、「築古」「駅から遠い」「都心から遠い」「事故物件」など、敬遠される要素がある場合は別。なるべく早く入居者を入れて、家賃収入が欲しいはずです。

そのため、人気のない物件は入居審査がゆるくなることが多いです。家そのものに問題はないものの、立地的に都心から離れていて割安の物件を狙ってみるのはおすすめです。

なお、Workship MAGAZINE編集部内にも「引っ越し当時の年収は100万円以下だったけど、事故物件だったので審査は余裕でとおった」と語るメンバーがいます。(あまり再現性はありませんが……)

フリーランスの引越しは経費になる?

「フリーランスのなかには自宅を事務所としている人も多い」という話にはすでに触れましたが、そう聞くと「自宅の引越し=事務所の引越しだし、引越し代は経費にならないの?」と思う方もいるかもしれません。引越し代の経費処理はどのような感じになっているのでしょうか。

じつは、引越し業者に払う費用のうち「事業に使う分」が経費になると考えられています。

自宅兼事務所の家賃を経費にする場合、家の面積や使用時間帯を基準に「家のどのくらいの割合を事業に使っているか」を算出し、家賃を私的な支出と経費に分ける「家事按分」という作業を行います。

引越し代も同様で、「今回の引越し代のうち、どれくらいが“事務所移転費用”なのか」を算出し、その割合を経費にできます。

なお、引越し代の勘定科目はピッタリとはまるものがないため、以下の3つの勘定科目のいずれかを使うべきとされています。

  • 雑費
  • 荷造運賃
  • 支払手数料

どれを使っても問題はありませんが、大切なのは使う勘定科目を統一すること。どれか1つを使い始めたら、次に引越しをする場合も同じ勘定科目を使うようにしましょう。

まとめ

ここまで「フリーランスの引越し」についてまとめてきました。手続きや考えなければいけないことも多く、「ちょっと面倒くさいな……」と思われた方が大多数かと思います。

ただ、引越しがひと段落して落ち着けるようになったら、新しい街でお気に入りのカフェやコワーキングスペース、居酒屋などを探してみるのも楽しいです。思わぬ出会いが生まれ、仕事にもいい影響が出るかもしれませんよ。

(執筆:齊藤颯人 編集:少年B)

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