ひとり社長は個人事業主と何が違う? 現役社長がメリット・デメリットを解説

BUSINESS

個人事業主やフリーランスとして働いていると、個人事業主としてこのまま続けるべきか、それとも法人化するべきかという選択が浮かぶ瞬間があるかもしれません。そんな方にひとつの選択肢としてご検討いただきたいのが「ひとり社長」としての法人化です。

私もその道を選び、ひとり社長も今年で4年目に入りました。今回はその実体験をもとに、ひとり社長の魅力、メリット・デメリットについて解説します。

まてぃ
まてぃ

デジタルマーケティングプロデューサー/株式会社Rdesign factory代表取締役。企画×コンテンツ×マーケティングで価値の最大化を支援している。ツールを活用した仕事効率化には強く、Backlogを13年活用中。(Twitter:@matty3com

ひとり社長とは?

本記事における「ひとり社長」とは、ひとりで株式会社を設立して経営し、社長としてビジネスを行うことを指します。一般的には、起業すると会社自体を大きくしていくことを目的とし、経営者一人の法人で事業を始めて、拡大の流れで従業員を雇っていくスタイルが多いです。

しかしひとり社長は違います。事業スケールを目的とせず、一人で事業を行い、従業員を雇わずに会社を経営し続ける選択をするのです。

そのスタイルを選んでいる方を、ここでは「ひとり社長」と定義します。

ひとり社長と個人事業主の違い

ひとりで事業を運営するという観点では、ひとり社長と個人事業主には大差がないように見えますが、仕組み上異なる点が大きく4つあります。

  • 法的な地位
  • 適用される税制や必要な会計処理
  • 責任の範囲
  • 社会的信用

細かい点は詳しく後述しますが、個人事業主の場合はすべての責任を個人が背負い、手続きや運営が個人主体で行われます。つまり、比較的自由でシンプルです。

ひとり社長の場合は、社員が自分一人でも法人設立手続きを行い、権利や義務などを持つ法律上の人格を認められた組織となります。定められた手続きを踏み、規定に沿った対応が必要となるため、個人事業主に比べると手続きや運営が複雑化しやすいのが特徴。また、士業などの専門家の手を借りる必要も出てきます。

ひとり社長になるメリット

ここでは具体的にひとり社長になるメリットとして大きな3つのポイントを解説します。

メリット1. 社会的信用が増す

ひとり社長として法人を設立する大きなメリットが「社会的信用の向上」です。

個人事業主と比べると、法人としての商号があるだけで取引先やクライアントからの信頼度が違います。わかりやすいところでは、大手企業が相手の場合、個人事業主との取引ができない場合があります。大手企業が法人としての取引を前提とした、安定した取引を期待しているためです。もちろん個人事業主でも依頼が全くないとはいえないものの、入口の段階ではじかれやすいのも事実です。

ご存じのとおり、ひとり会社の社長は、働き方にフリーランスの個人事業主と大きな差はありません。ですが、個人事業主が自身の実績を「受注実績」「スキル」として提示する際、法人は「受注実績」のほかに、法人として掲げるビジネスの方針や経営理念も提示します。

そのせいか、問い合わせの対応や取引先との信頼関係構築は、法人のほうが比較的しやすいように感じます。

とくに初めてお目にかかった方の場合、「見え方が個人事業主から法人に変わるだけでこうも対応が違うのか」と実感することも多いです。法人化してからはあからさまに「社長様」とあげつらわれるため、ちょっとびっくりすることもあります。

ですが、個人事業主の折、たまに言われた「あ、フリーランスなんですか……」という謎の“間”がなくなったので、プラマイゼロと思うことにしています。

メリット2. 税制上のメリットが大きい

ひとり社長が法人を設立する2つ目のメリットは、節税です。法人税率は所得が一定額以下の場合、個人の所得税率よりも低く設定されており、税負担を軽減できます。加えて、税金以上に負担を減らしやすいのは社会保険料で、詳細は別記事にまとめています。よろしければご参照ください。

また、法人の場合、個人事業主に比べて経費計上の範囲に比較的柔軟性があります。福利厚生費や健康診断費、社宅の家賃など、幅広く経費計上が認められています。これにより課税所得を抑えることができるのも、法人ならではの魅力です。

さらに、法人として株や債券などを使った金融資産の形成も行うことができます。ひとり社長でも会社に退職金積立制度を設ければ、積立資金を経費として計上することができ、節税効果に加えて将来事業をたたむ折に退職金を自分に出すことができます。

メリット3. 取引先を拡大しやすい

ひとり社長として法人を設立するメリットの3つ目は、取引先を拡大しやすい点です。

個人事業主のときと比べると、初めてお会いする方との信頼関係の構築がスムーズになった実感があります。最終的には個人の力量や相性で決まるのも事実ですが、法人は一定の法的手続きを経て設立され、経営には透明性と責任が求められるため、ある日突然取引先がいなくなることがないと思われやすいです。この点は、ひとつの強みと言ってもいいと思います。

余談ですが、私が長年働いてきた出版業界では、フリーランスのライターだと連絡が取れなくなる方や、急にいなくなる方がおり、窮地に陥ることもありました。

その点、法人に所属したライターの方に依頼すれば、突然いなくなることはありませんし、別の方を社内で代理に立てて責務を果たしてくださるので安心できました。そういった点で、法人と個人事業主の信頼度の違いは骨身に沁みて感じています。

加えて、法人は専用の銀行口座やクレジットカードを持てるのも大きなメリットです。信用情報の確認や取引の履歴が法人名義で残るため、今後の取引においても信頼を積み重ねられます。個人事業主は長く働いていてもそういった履歴が残りにくく、個人的にはやや不利だと感じていました。

個人事業主でも法人でも、新たな取引先を得るためにブランディングやマーケティング活動を行いますが、個人事業主の場合はプレスリリースの配信プラットフォームで個人名のリリースを出すことができないケースも。

名刺や自社サイト、広報活動など、法人名義での情報発信は取引先や顧客からの認知と信頼が得やすく、広告出稿も法人のほうが手続きがスムーズです。そういった活動において、個人事業主だと若干不便な面や手詰まりとなるときがあります。

ひとり社長になるデメリット

もちろんデメリットもありますので、法人化する前段階で十分に理解し、対策を講じる必要があります。そのうえで法人化するかどうか検討していただけたらと思います。

デメリット1. 手続きが煩雑化し、士業の専門家が必要になる

法人となると定められた手続きと対応が求められますが、まず最初に行うのが法人設立の手続きです。定款の作成、設立届出、印鑑登録など、一連の手続きが必要となります。これらは、特定の書式や法的な要件を満たす必要があります。

続いて、法人をスタートさせると税務申告や経理の取り扱い、労務管理など、専門的な知識が求められる業務も発生します。とくに税務は誤った申告や不適切な節税等を行うと、のちの重大なリスクとなるため、正しく適切な対応が必要です。

そのため、日常的に士業の専門家、税理士や社労士、行政書士などのサポートが必須となります。当然費用がかかりますので、経費を想定した予算を立てましょう。

デメリット2. 法的リスクが増える

法人として事業を運営する場合、労働法、税法、商法、民法といったさまざまな法律が関わってきます。個人事業主の場合は、規模や内容によってこれらの法律の一部が適用されなかったり、緩やかな適用となったりする場合が多いので、特段気にかけていない方もいらっしゃるかもしれません。

法人の場合、たとえば契約に関するトラブルや事故、サービスの欠陥などが原因となる訴訟リスクがありますし、法人税や消費税などの税法に関連する申告や支払いの義務が生じます。不適切な申告や計算ミスによる税務調査のリスクもあります。

ひとり社長がITを多用した業務を行う場合も、法的な知識と対応が必要になります。たとえば有料ウェビナーを行う場合は「特定商取引法に基づく表記」を掲載しなければなりませんし、自社サイトで個人情報を取得する場合は、個人情報に個人関連情報を紐づける際に必要な「確認記録義務」の対応が必須となります。

こういった法的な対応を進めていくには、自身で情報をキャッチアップし、適切な専門家にアドバイスを仰ぎながら進めていくことが求められます。

デメリット3. コストが増える

法人は会計や税務処理が複雑になるため、それに伴う経理の手間やコストが増えます。決算書の作成、税務申告などが求められますが、ひとり社長の場合はそれらを自力で理解して対応するのは非現実的で、専門家の助けが必要になります。かといって、「お金を払って丸投げすればいい」という考えは通用しません。

財務リスクを最小限に抑えるには、適切なツールなどを使った経理・会計の体制の整備や、資金計画、リスク管理ができると好ましいです。と言いつつ、書いている私もこの辺は明るくないため、税理士さん頼りです。必要なツールをひと通り導入し、税理士事務所と顧問契約を結んだ上で年間の財務スケジュールを確認し、各種税金の払い忘れなどのないよう資金繰りを行い、管理運用しています。

ひとり社長になるべきか判断するポイント

ひとり社長として法人化することは、単なるビジネス形態の選択ではなく、その方にとってのビジョンや将来の成長戦略、リスクマネジメントに関わる重大な決断となります。では、このステップを踏むタイミングはいったいどんなときでしょうか。その答えは「事業規模」「将来の目標」「リスクマネジメント」の3点をどう考えるかがカギになります。

ポイント1. 現状の事業規模はどれくらいか

法人化を考える際、最も重要なポイントは「現状の事業規模」です。事業規模は単純に売上や利益だけでなく、クライアント数や取引先、事業の安定性など、何を重視して考えるかにもよります。小さなビジネスからスタートすると、最初は個人事業主としての運営で十分と感じますが、クライアント数や収益が一定の水準を超えたとき、法人化を真剣に考えたくなるタイミングがやってきます。

最も多いケースが、年間の売上が一定の額を超えると個人事業主の税率がぐんぐん上がるため、法人化したほうが有利になる場合です。私もそうですが、知人でひとり会社をやっている方もこのケースがほとんどです。事業内容や事業経費の過多によってその分岐点は異なりますので、税理士の方に相談しながら進めるのがベストです。

ポイント2. 将来の目標をどう設定するか

法人化の検討をする際、現状の事業規模だけでなく、将来のビジョンや目標を明確にすることが極めて重要です。

ひとり社長として自分の事業をどのくらいの規模に成長させたいのか、どんな方向性を持たせたいのかによって、法人化の必要性は変わります。

たとえば地域に密着した小規模なサービスを提供し続けることを目標とする場合、個人事業主としての運営でも問題ありません。しかし、全国展開や海外進出を視野に入れ、いずれは大規模投資や人材採用を考える場合は、法人化が必要と考えられますよね。

この過程で大切なのは、短期的な利益の追求だけでなく、中長期的な視点で事業展開を考えることです。ひとり会社は煩雑な手続きや義務が多く、生半可な気持ちで続けていくには、手間とお金がかかります。一般的に、設立から10年後の会社の生存率は1割を切っていると言われています。

自身のビジョンと事業の可能性を擦り合わせながら、実現可能な目標を設定し、より確実なステップを踏みたいところです。

私が法人化した理由は前述の税率の問題もありますが、将来やりたいことを考えたとき、法人化しているほうが都合がいいとわかったからです。どのくらい続けられるかはわかりませんが、細く長く続けていけたらと思っています。

ポイント3. リスクをどれくらい許容できるか

事業には必ずリスクが伴うため「どれくらいリスクを許容できるか」という心構えやお金の準備が必要です。

許容度は、資金の余裕がどのくらいあるかに直結します。余裕があればあるほど、計画通りに進まなくても、ダメージを和らげることができます。しかし、資金には限りがあるため、損切のタイミングを決めておかないと、身動きが取れなくなることも起こり得ます。

次に、心理的な許容度もあわせて考えておきたいところです。自分がどの程度まで失敗を受け入れられるか、取引先との関係においてどれくらいの緊張や我慢(?)ができるかも関わってきます。

少し話が逸れますが、私自身も起業する前に、起業した先輩方数人にお話を伺いました。みなさん口をそろえておっしゃっていたのは、「最初にイメージしていた仕事とは全然違う仕事をして、今に至っている」という話です。

自分が得意で必要とされることを基盤に起業したものの、始めてみたら「なんか違う」「なんかうまくいかない」という事態に。試行錯誤の末、リスクを取って新しいことを始めた結果、今に至るという方が多かったのです。

当時会社員だった私にはあまりピンと来なかったのですが、実際に起業してから私にも同じことが起こり、リスクをある程度取らないと前に進めないことも、身をもって実感しました。この話を聞いていなかったら、怖くて立ち止まってしまっていたかもなあ……と時々思い出します。

まとめ

ひとり会社を設立することは、個人事業主として活動する以上の多くの責任とリスクを伴い、会社の維持や経営に関する複雑な手続きや責任も増えます。

ですが、法人化することで得られる社会的信用や融資の受けやすさなど、もたらす利点は無視できません。社会的信用や事業拡大を目指すなら会社を作るメリットは大きいですし、設立・運営にかかる費用や税金の負担を抑えたい場合は、個人事業主のほうが適していると考えられます。

それぞれの方が描く希望する働き方やリスクの許容度によって、選択のしかたは変わります。興味がある方は実際に個人事業主を経て法人化した方や税理士さんに具体的な話を聞いてみるのもおすすめです。

また、法人化を目指して売上や業務の幅を増やしたい方は、幅広い業務と高単価案件を受注できるフリーランス・副業者向け案件検索プラットフォーム『Workship』も参考にしてみてください。

(執筆:まてぃ 編集:少年B)

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