エンジニアの副業は週1からでも可能?副業の例や探し方も解説
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こんにちは。フリーライターの少年Bです。あんまり深いことを考えずに、なんとなくフリーランスとして働くことになって4年が経ちます。これまでぼんやり生きてきたのですが、気付けばアラフォーと呼ばれる年齢に突入。だんだん将来のことが不安になってきました。
そもそも、フリーランスはいったいどうやって生き抜いていけばいいんでしょうか。キャリア形成のためには何が必要なんでしょう……。
そこで、今回はフリーランスに関する研究を数多く発表している、長野大学准教授の松永先生に、フリーランスのキャリア形成や生き残り方についてお話をうかがいました。
長野大学 企業情報学部 企業情報学科 准教授。アニメ産業・IT企業・救急医療などをフィールドとした質的な労働調査に基づき、フリーランサーの働き方・職場コミュニケーション・オフィスデザインなどに関する業績を複数発表している。主著に『アニメーターはどう働いているのか:集まって働くフリーランサーたちの労働社会学』『21世紀の産業・労働社会学:「働く人間」へのアプローチ』(ともにナカニシヤ出版)など。
介護士、建築士と12年の会社員生活を経てライターになったフリーランス4年目。こまかいことは何もわからないままフリーになってしまったので、最近ちょっぴり将来が不安。
目次
少年B:
松永先生はフリーランスの研究をしているとのことなんですが、研究の内容について教えていただけますか。
松永:
はい、私の専門分野は「労働社会学」です。この学問では、かなり昔から労働者の連帯について研究しています。
少年B:
フリーランス=個人というイメージがありますが、なぜその分野でフリーランスの研究を……?
松永:
私はもともとアニメーターの研究をしていたんです。大学生のときにアニメをよく見ていたのと、世間的にもアニメ産業の労働問題についての実態調査が出だした時期だったので、半ばノリでアニメ産業の労働問題についての卒業論文を出したんです(笑)。
少年B:
ノリで!?
松永:
ええ。本当は違う分野の研究がしたかったんですが、あまりいい卒論が書けず、ちょっと悔しいなと思って、大学院生になってからもアニメーターの研究を続けたんですね。実際にアニメーターとして働いている方々に話を聞いてみたり。
ただ、アニメーターの研究って、当初は多くの先生に意義が分かってもらいにくかったんですよ。「おもしろいけどさぁ、これ研究になるの?」みたいな感じで。なぜかというと、この分野でいちばん蓄積のある研究対象は、メーカーなど製造業の大企業なので。
少年B:
あー、なんかイメージ的にもそういう感じがしますよね。
松永:
それにひきかえ、アニメーターは日本全体でも数千人しかいないと言われているので、「そんなニッチな対象を調べてどうなるんだ」と……。
ただ、アニメーターの方々って、約7割がフリーランスなんですよね。私が大学院生のころに、当時の安倍内閣で政策的な課題としてフリーランスや副業といったワードが取り上げられていたので、これも自分の専門分野じゃないか! と思いまして。
少年B:
いわゆる「働き方改革」ってやつですね。
松永:
そうです。だから、元々はアニメーターの研究があって、そこからフリーランスに派生していった感じですね。「新しい働きかた」だけではあんまり話として面白くないので、さまざまなフリーランスの仕事の伝統とかも合わせて研究をしています。
アニメーターを例にあげると、「やりがい搾取だ」とか「環境が劣悪だ」とか言われることも多いけども、意外と持続可能性のある働き方をしている場合もある。彼らが「なぜ、どうやって働けているのか」を研究するのが筋かなと考えていますね。
松永:
こういう言いかたは失礼かもしれませんが、「不安定なフリーランスがどううまく危機をかいくぐっているのか、キャリア形成をしているのか」が基本的な研究テーマということになります。
少年B:
松永先生のこれまでの研究のなかに、「フリーランス同士のネットワーク形成について」という項目がありました。フリーランスとネットワークという言葉はいまいちつながる印象がないのですが……
松永:
フリーランスの研究は日本だとあまりないんですが、アメリカやヨーロッパだとされている方が多くて。
たとえば、ロンドンでは結婚式とかイベントを主体に活躍するミュージシャン(現地では「ファンクションミュージシャン」と呼ばれる)の研究なんてものもあるんですよ。
少年B:
結婚式やイベントでの演奏……。そういえば以前わたしが取材したアルパ奏者の方もそれに近い存在かもしれませんね。
「失敗しても死なないのが日本のいいところ」日本一のアルパ奏者が語る、ニッチ分野で生きていく術
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松永:
ほう、興味深いですね……。ロンドンのファンクションミュージシャンたちはみんなフリーランスで、仕事の依頼が来ないと稼げないので、どうしても「生活が安定している」とは言い難いんです。
でも、おもしろいのはミュージシャン同士が横でつながって、仕事を回し合っていたりするという。
少年B:
ひとり占めせずに、仕事を回し合っているんだ!
松永:
以前の顧客から再度依頼を受けた際などに、仕事内容や条件によっては「だったら、もっといいやつ知ってるよ」って紹介し合う関係性が生まれている。
仕事を独り占めしないことで、「不安定ながらも全員がファンクションミュージシャンの仕事を維持できるようになっている」という、ある種のネットワークが形成されているんです。
少年B:
自分だったら絶対独り占めしてしまいそうですね……。どうしてそういうことが起こっているんでしょうか。
松永:
それはフリーランスのコミュニティにおけるテーマのひとつなんですよね。どうやって横並びでやるかという。不況でイベント全体の数が減ると、やっぱり抜け駆けするやつが出てくるそうなんですよ。
少年B:
みんなが仕事にありつけない状態になっちゃうと、そうなりますよね。
松永:
そうです。そして、何人かちょっと抱え込んじゃうやつが出てくると、当然みんな「なんであいつは抱え込んでいるんだ」「じゃあ俺もそうしてやるぞ」みたいな感じになるんです。
だから、結構微妙なバランスの上に成り立ってるコミュニティのかたちですよね。あとは、実際にチームを組んで収入を折半するみたいなパターンもあります。
少年B:
福岡にもフリーライター4名でチームを作っている方がいますね。以前、フリーランスチームのコラムを書いてもらったことがあります。
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松永:
ほかにも、たとえばゲーム業界ではまったく違った職種のフリーランスでチームを組んで、あらかじめギャラの配分を決めておくことがあります。
誰かひとりに仕事が来た場合に、決められた割合でギャラをシェアして仕事をするんです。
松永:
アニメ業界には、スケジュール通りに番組が放送できるように、進捗を管理をする「制作進行」と呼ばれる人たちがいます。ですが、彼らはアニメーターを集めて、仕事を振り分ける役も担っている場合が多いんです。
この場合、制作進行がネットワークのハブみたいな形になって、アニメーターたちの仕事がちゃんと繋がるように支えています。
少年B:
アニメーターの方々は会社員ではないんですよね……?
松永:
会社のスタジオに集まっている働く方が多いですが、あくまで就業形態としてはフリーランスの方が多いです。
ただ、フリーランスのアニメーターの場合、制作会社の規模によっては十数人~数十人規模での仕事になることもあるので、見た感じでは会社感が出ちゃいますよね。ただ会社との違いとして興味深いところでは、指揮や命令感が出るといけないので、発注側も指示っぽいコミュニケーションは徹底して避けていたんです。
少年B:
指示や命令があると、指揮監督関係があるとみなされて、偽装請負になってしまうという問題がありますもんね。
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松永:
もちろん法律的にいけないという理由もあるんでしょうが、私が調査してきた現場で見ていて受けた印象では、「最終決定権はフリーランスにある」という規範を守る意識が強いんじゃないかと思いました。
だから、仕事を割り振る担当の人も、アニメーターに対して「やってくれ」と命令的な感じでは言わないんですよね。もちろん「この人がやってくれたほうがいいだろう」って仕事を持っては来るんですけど、アニメーターが断ったら即撤退。あくまでも、仕事を依頼するだけです。
少年B:
そんな仕事のやりかたがあるんですね……! フリーランスと発注元の関係は微妙なバランスの上に成り立っているんだ。
松永:
先ほどのファンクションミュージシャンの例もそうなんですが、フリーランスの関係性は一歩コミュニケーションを間違えると崩壊するんです。そこを間違えない人が多いから成り立っている部分もある。
アニメーターの話に戻ると、会社の中で作業中に寝てても起こさないとか、寝ている人宛ての電話が来ても、窓口になっている人は居留守を使うことがあるんですよ。「会社のなかでも、フリーランスがどう時間を使うかは自由だ」という考えですね。
少年B:
おもしろい! そんな世界があるんですね。なんというか、ひとりと会社の中間みたいな感じがします。
松永:
私のイメージもそんな感じですね。こういうチーム体制というか、「フリーランスが場を共有して働く」メリットはいろいろあるんです。
まずは仕事が入ってきやすいということ。そして、数々のリスクを吸収できること、それから、同業の場合はスキルアップにつながることです。フリーランス同士が仕事を教え合える機会は貴重ですから。
少年B:
確かに、「こういう時どうすればいい?」って気軽に聞けるのはありがたいですね。教える側としても成長する機会になりますし、場合によっては教える側と教えられる側が逆転することもある……。
松永:
逆に、デメリットになるのは「ひとりでやってる気楽さが失われる」という部分でしょうね。指揮や命令はないにせよ、大人数で集まって働いていると、なんとなく会社っぽさが出てしまうというか。
少年B:
自分もやらなきゃ!って思っちゃいますもんね。ひとりでのんびり気楽にやりたいって人には向かない……。
少年B:
おなじフリーランスとはいえ、自分の知っている世界とはまったく違っていて興味深いんですが、なぜこのような微妙なバランスが成立するのでしょうか。
松永:
ひとつは、制作会社によっては企業理念に反映されている場合もあります。アニメ業界の主役はアニメーターで、いわば芸能事務所のタレントのようなイメージで捉えているような会社もあります。だから、企業側もアニメーターが第一。
やりがい搾取だとか、ブラックだとか言われることもあるんですが、会社によってはそうとも言い切れないと私は思っています。
少年B:
普通の企業だって、まともなところからブラックなところまで、千差万別ですもんねぇ……。
松永:
そして、もうひとつはアニメ業界の人手不足です。企業はアニメーターを抱えておく必要があるので、つなぎとめることに苦心しているわけです。
もはやアニメ業界は「代わりは誰でもいる」という状況ではないので、いわゆる「元請け」となる企業側が気を使っているんだと思います。一度悪い評判が立ったら、その後発注ができなくなりますから。
少年B:
わたしは前職が建築会社だったんですが、いまは職人が不足しているので、こちらがけっこう気を遣っていましたね。似たような状況なのか……。
松永:
最後に、コミュニケーションです。私のやっている労働社会学という分野では、職場で行われている相互行為を細かく分析したりもするのですが、フリーランスの職場を見ていて大事なのは「話し方をひとつ間違えたら壊れるコミュニケーションがどうして成り立っているのか」ということになるんですね。
これは、先ほど話した「指示っぽい言い方は避ける」「受注を強制しない」というような、ある種の対等性を保つためのコミュニケーションが歴史の積み重ねによって形成されている部分も大きいと思います。「業界のなかで研修をしてるわけじゃないけど、ずっとそのようなコミュニケーションが行われてきたから」という話ですね。
少年B:
うーん……なるほど。ただ、ライター業はいま人気なので、買い手市場なんですよ。正直なところ、元請けのほうが圧倒的に強いなと感じる場面も多々あります。
わたしのようなフリーライターだと、会社が変わってくれるか、「自分が代えの利かない人材になるしかないのでは?」という印象を受けてしまいました……。
松永:
「実力をつけて切られないようにする」のはひとつの方法論ですが、私はそういった方向性の話はフリーランスという働き方と一般的な雇用の働き方を過度に切り離した考えにつながってしまうので、好きではないですね……。
フリーランスといっても、実力のある人ばかりではないし、最初は誰でも初心者です。だからこそ私は、フリーランス同士のネットワークが大切だと思っています。
少年B:
そこでネットワークの話に戻ってくるんですね。具体的にはどのようにネットワークをつくるべきなんでしょうか。
松永:
アニメ業界では「制作進行とちゃんと関係をつくっておけ」とよく言われますね。まずは振られた仕事をちゃんとこなしていくこと。どの業界もそうだと思いますが、信頼が積み重なると、評判が高まっていきます。
期限を守ってしっかりといいものを作っていけば、制作進行からまた仕事の依頼が来るし、それを積み重ねていけば「○○さんはいい仕事をするよ」って話になって、いろんな会社から引き合いがくるようになります。ライターさんも同じではありませんか?
少年B:
確かに、わたしも納期を守って自分がいいと思える品質の記事を出してきたつもりです。記事を読んだ編集さんが声をかけてきてくれたり、同業者からの紹介で仕事が増えていきましたね……。
松永:
それはもう、ちゃんとネットワークが機能している状況だと思いますよ。だから、特にフリーランスになりたての人にお伝えしたいのは、キャリアの初期こそ、できたネットワークを大事にしてほしいということです。
松永:
面と向かって「代わりはいくらでもいるんだ」って言う発注者はそうそういないでしょうが、内心思っている人もいるだろうし、現実問題として「誰でもいいからあと5人ほしい!」って状況はあると思うんですよ。そういう時に声がかかるフリーランスって、初心者でもしっかり信頼を得られている人だと思うんですよね。
少年B:
信頼を裏切ると、あとが辛いってことですよね……。
松永:
まさにそうです。助け合いのあるコミュニティは、逆に制裁もあるんです。
先ほどのファンクションミュージシャンの例では、仕事をひとり占めしたやつにわざわざ仕事を紹介しようという同業者はいませんよね。じつは、アニメーターのなかにも抜け駆けする人はいます。
少年B:
アニメーターが抜け駆けするって、どういうことですか?
松永:
アニメの仕事は、単価が決まっている場合が多くて、簡単な絵だろうが難しい絵だろうが価格は変わらないんですよ。だから、簡単な絵ばっかりを描いて荒稼ぎするという技があるんですね。こういう人は、業界で「山賊アニメーター」なんて言われてますけど。
少年B:
山賊アニメーター……ワードが強い!!!
松永:
でも、そういうことをしていると、徐々に悪名が広がるわけですよ。スタッフ編成に関わる制作者達のなかで、ブラックリストに入ることもあります。調査の過程で「どんなに切羽詰まっても、あの人にだけは発注しないでください」という声も聞きました。
少年B:
短期的には得かもしれないけど、長期的に見ると損だという。
松永:
長く続いているコミュニティでは「抜け駆けをする人が出たときにどうそれを治めるか」という仕組みができている場合が多いですね。
それでも抜け駆けはゼロにはならないと思うんですけど、「何を抜け駆けと定義して、破ったらどういう制裁をするか」を取り決めれば、ある程度抑えられるとは思います。あとは、「それを破ってでもやる価値があるか」の問題になってくるので。
少年B:
ルール化して、メリットよりもデメリットが上回る状態にするのが大事ってことなのか……。
松永:
フリーランスのネットワークは、営業にも繋がります。さまざまなプラットフォームもあるけど、安定したコミュニティでよく聞くのは人づてのほうだし、プラットフォームで知り合った人と直に契約をするって話もありますよね。継続的に仕事を得るためには、つながりで仕事を獲得していく。
少年B:
地道なことだけど、「身の回りの人たちを大切にしていく」ってことが大事なんですね。
松永:
そうですね。アニメ業界だともちろん実力ベースという傾向にはあるんですが、実力とは関係ない部分で月給が増えているケースもあります。制作進行が元請けに「この人は子育て中だから」って交渉して、手当が上がっているとか。
少年B:
「ミルク代」ってやつですね。ライターにもくれないかな……(笑)。
松永:
近年アニメの労働問題が話題になりがちですが、賃金云々よりまずこうしたつながりを維持しきれなくなっていることが背景にある気がしますね。最近のアニメは3ヶ月くらいで作品が変わってしまい、数年単位で続く長期の作品が減ってきています。
作品ごとにチームも変わるし、人と人とのつながりが確保しづらい。だから、ちゃんとお互いに意識をしないと関係が切れてしまうという。
少年B:
なるほど……。じゃあ、単発と長期の仕事を選ぶなら、なるべく長期の仕事を受けたほうがいいってことでしょうか。
松永:
それはそうですね。私のやっている労働社会学には「ポートフォリオワーク」という概念があります。
ポートフォリオっていうのは組み合わせって意味なんですけど、フリーランスがどういう仕事を組み合わせて生計を立てていくかという話ですね。
ポートフォリオワーカーとは?仕事やスキルを分散投資する新しい働き方
Workship MAGAZINE
少年B:
はい。
松永:
それで考えると、単発仕事よりは長いほうがいいけど、長い仕事だけというのも、その会社に依存している状態になるのでリスキーですよね。だから、「相対的に長めの仕事がありつつ、ちょくちょく単発の仕事がある」という状況が一番安定していると言えます。
少年B:
それ、まさに今の自分だな、と思いました。Workship MAGAZINEの編集部で定期的に働きつつ、個人でもライターとして活動するという。知らない間に理想の働きかたができていたのか……!
松永:
あと、これは声を大にして言いたいんですが、仕事を取ることも大切なスキルのひとつなんですよね。フリーランスのみなさんはもちろん何かしらのスキルを持っていますが、仕事を取ること自体もスキルとして評価されるべきだと思うんですよ。
真の安定は、長い案件をずっと確保できる状態だと思うんです。でも、「発注側に切られるリスク」を考えると、2、3個単発のものも確保しておいたほうがいいし、すべて長期案件になると、「仕事を取るスキル」が衰えていく危険性があります。
少年B:
なるほど、そういった意味でも組み合わせが大事なんですね……!
少年B:
「フリーランスは群れない、ひとりだ」というイメージがありましたが、フリーランス同士の横のつながりや、仕事相手との関係性って大事なんですね……。
松永:
フリーランスの働きかたを見ていると、やはり最大のリスクはセーフティーネットが乏しいということなんですよね。ひとりでやっていけなくなったときが辛い。
でも、セーフティーネットが乏しいってだけでフリーランスという働きかたが批判されるべきではないとも思います。
少年B:
以前お話をうかがった、ITフリーランス支援機構の方々もそうおっしゃっていました。セーフティーネットが乏しいのは事実だけど、それはフリーランスの自己責任とは別の話だと。
フリーランスの支援制度って会社員と比べてどうなの?ITフリーランス支援機構に聞いてみた
Workship MAGAZINE
松永:
そうやって、実際に動いている方がいらっしゃるのはありがたいし、心強いですね。
大事なのは、何かあったときのための受け皿があるって状況なんですよ。今であればファンクションミュージシャンやゲーム制作の例で出したような、「コミュニティ」やアニメーターが集まる会社がその役割を担っていると考えられます。
少年B:
仕事のやりとりができる場というか。
松永:
そこまではいかなくても、たとえば顔なじみになって雑談を交わす程度の「場」でも必要だと思うんですよ。これはバーなどのお店であったり、オンラインコミュニティでもいいので。
ひとりで働いていると、トラブルが起きた際にもよくある事例なのか、特別な出来事なのかが判断できませんよね。ヤバい仕事相手の話は、同業者しか分からないんです。
少年B:
最近オンラインサロンが流行っているのはそういう部分があるのかもしれませんね……。Workshipにも「フリラボ」というオンライン上のゆるいフリーランスコミュニティがあります。
松永:
それは有益なことだと思いますよ。フリーランスのトラブルは個別性が強いので、人の数だけ問題があると言ってもいいぐらいなんですね。
だから、たとえ仕事のやり取りがなくても、雑談からトラブルの解決法が生まれたりする。同業者の集う場があれば、ある程度リスクを吸収できるんです。
少年B:
会社じゃなくて個人でもないとすると、組合とかが目指す形になるんでしょうか。
松永:
うーん、機能的には似ているかもしれませんが、組合っていうと基本的には労働者が団結して交渉していくための組織なので、ちょっと違うのかな、という感じがしますよね。
フリーランスでも、さまざまな意識を持っている方がいると思います。「いち労働者」という意識が強いフリーランスなら労働組合がほしいと考えるでしょうし、いち個人・いち起業家という意識が強ければ、ちょっとミスマッチかな?と思います。
少年B:
フリーランス側の意識の問題もあるんですね。
松永:
今のUberとかを見ていても思うんですが、今後フリーランスという働きかたが広まっていくと、フリーランスも会社員と変わらない「いち労働者」としての側面が強くなるんじゃないかと考えています。
ただ、会社員のように「お金を稼ぐため」にフリーランスをやる人だけじゃなくて、仕事や業界にコミットするためにフリーランスになる人もいますよね。後者はたとえば「作家でありたい」「音楽で食っていくんだ」みたいな動機で、フリーランスを選ぶ人もいる。
少年B:
「この仕事で食っていきたい」みたいな、夢を追うタイプの人ですよね。確かにフリーランスには多い気もします。
松永:
前者と後者にはどこかに線を引ける部分があると思うんです。前者は労働組合でいいと思うんですが、後者のコミュニティをどう作っていくかが社会としての課題じゃないかなと思います。
少年B:
なるほど……。
松永:
少年Bさんの言う「ゆるいコミュニティ」がヒントになるのかな……。ガチガチの組織というわけではないけど、助け合いの機能はあるという。
そういったコミュニティは世の中にちょこちょこあるんですが、これをもう少し制度化するにはどうしたらいいか、どういう法律に基づいてそれを考えていけばいいのか、というのは研究者を含めてみんなが頭をひねっている状態です。
少年B:
先ほども話に出た、ITフリーランス支援機構の方々に取材をした際、「フリーランスの方々には個人事業主として意識を高く持って働いてほしい。我々もそれを支援するためにがんばるから」とおっしゃっていたのが印象的だったんですが、「仕事や業界にコミットするフリーランス」のコミュニティ不足の話を聞いて、繋がっているなぁと思いました。
フリーランスの支援制度って会社員と比べてどうなの?ITフリーランス支援機構に聞いてみた
Workship MAGAZINE
松永:
まさしくそうだと思いますね。労働者には長い歴史があるので、世界中にノウハウが蓄積されているんですが、フリーランスはノウハウが不足している部分があると思います。
また、これはフリーランスに限らず、一部の会社員もそうなんですが、今は「自分で仕事を作りたい」「市場を開拓したい」と、ある種の経営者意識がある人が多いんですよね。
少年B:
あー、いわゆる意識の高い人たち。
松永:
意識を高く持っている人もそうですし、仕事が好きだったり、やりがいを求めて働いている人たちは、労働者ではあるんだけど、意識の上では伝統的な労働者とはちょっと違う。そういう人は、訴えたいことの中心が労働条件の改善や経済的地位の向上ではない場合もあると思うので、やっぱり労働組合とは相性が悪いんです。
これは研究者のなかでも意見が割れていて、「労働者は労働者なんだから」という人もいるんですが、私個人としては、時代の変化による不可逆的なものだと考えています。
少年B:
わたしは会社員時代「給与をもらうために毎日8時間耐えるぞ」って意識だったので、思いっきり労働者意識がありましたが、今はそういう時代ではないと……。
松永:
そうです。ただ、現状だと成功者と失敗者がはっきり分かれてしまう状態ですよね。夢が破れてしまった人に対してのセーフティーネットがない。
だから、今後はフリーランスはもちろん、そういう会社員の人に対してもどういう受け皿を用意するかといったことが大きな課題になってくると思います。
少年B:
「労働者意識でなく働いている人」へのセーフティーネットが必要で、そのカギはゆるいコミュニティにある、ということですね。本日はどうもありがとうございました!
(執筆:少年B 編集:齊藤颯人)