フリーランスの支援制度って会社員と比べてどうなの?ITフリーランス支援機構に聞いてみた

ITフリーランスの支援制度

こんにちは、フリーライターの少年Bです。いきなりですがフリーランスのみなさん、将来のことって考えていますか? わたしはまったく考えていません! ダメじゃん!!!

でも、冷静になって考えてみると、先行きって不安じゃありませんか? 会社員に比べると、フリーランスの支援制度や福利厚生は不十分、という話をよく聞きます。それにそれに、怖いからふだんは考えないようにしている年金や保険などの制度のことも……。心配の種はいくらでもあります。フリーランスって大丈夫!?

そこで、今回は2021年2月に立ち上がった一般社団法人・ITフリーランス支援機構の高山さんと近藤さんに、フリーランスの支援制度とその未来に関してうかがってきました。支援機構というからには、きっとわたしたちフリーランスを救ってくれるに違いありません。うわーい! よろしくお願いします~!!!

高山 典久
高山 典久

ITフリーランス支援機構 代表理事。株式会社PE-BANK 常務取締役。2007年、首都圏コンピュータ技術者株式会社(現:PE-BANK)入社。 関西支店支店長、西日本統括、全国統括マネージャー、取締役営業部長、取締役ビジネスプロモーション部長を経て2019年11月より現職である常務取締役に就任。

近藤 綾香
近藤 綾香

ITフリーランス支援機構 理事。レバテック株式会社 ITフリーランス推進室 室長。2012年にレバレジーズグループへ新卒入社して以来、関連会社のレバテック株式会社に所属。営業現場の第一線を経験した後、個人営業組織の統括マネージャー、人財開発責任者を担当。2017年にコーポレート部門を統括する事業推進部部長に就任。2021年より現職。

聞き手:少年B
聞き手:少年B

介護士、建築士と12年の会社員生活を経てライターになったフリーランス4年目。こまかいことは何もわからないままフリーになってしまったので、最近ちょっぴり将来が不安。

会社員とフリーランスの支援制度・福利厚生の違いって?

▲取材はオンラインで行われました

少年B:
さっそくですが、フリーランスって会社員と比べて福利厚生が少なくありませんか? わたしも有給休暇が欲しいんです! ITフリーランス支援機構のほうで何とかしてもらえませんか???

高山:
有給は無理ですが(笑)、フリーランスの福利厚生が不足しているのは事実だと思いますね。

少年B:
ええっ、やっぱりそうなんですか!? じゃあ、会社員とフリーランスの支援制度についてで、一番「違い」を感じているのはどの部分ですか?

近藤:
違いは主に3つあります。まず、フリーランスは「選択肢が少ない」こと。そして「保障が薄い」ことと、「個人の費用負担が大きい」ことです。

フリーランスの支援制度

少年B:
保障が薄い上に選択肢も少なくて、負担が大きいなんてあんまりじゃないですか! いまフリーランスに用意されている支援制度や福利厚生にはどのようなものがあるんでしょうか。

高山:
フリーランスに用意されている支援制度は大きく分けて、「フリーランスに限るもの」と「フリーランスも対象に含まれるもの」の2種類があります。

近藤:
フリーランスに限るものでいえば、昨年から始まった「フリーランス・トラブル110番」が、フリーランスも対象に含まれるものは「iDeCo・NISA」「小規模企業共済・経営セーフティ共済」、新型コロナウイルス感染症対策で行われた「持続化給付金(2021年12月時点では申請終了)」などがあります。

近藤:
健康保険点では、ITフリーランスより文芸の分野が主ですが、「文芸美術国民健康保険組合」に加入すれば国民健康保険よりも保険料が安くなるパターンがあります。

その他にも各自治体で行う健康診査や特定検診を利用することもできます。

近藤:
また、2021年の9月より、労災保険の特別加入対象として「ITフリーランス」も追加されました。こちらは個人が直接申し込むことはできず、特別加入団体を通じて申請手続きが必要です。我々ITフリーランス支援機構でも2021年11月に特別加入団体「ITフリーランス支援機構全国労災保険センター」を設立し、申請受付を行っています。

高山:
このように、我々も業界団体として働きかけを行っています。

少年B:
おお、少しずつ進んでいるんですね……!

フリーランスに支援制度が必要な理由

少年B:
おふたりはITフリーランスを支援するために活動をしていらっしゃいますが、そもそもなぜそのような活動をされているのですか?

高山:
ITフリーランスが増えている一方で、それを支える仕組みがまだまだ不足しているからです。かつてITフリーランスとして活躍する人々は少なかったのですが、近年はスキルの高いエンジニアたちをはじめITフリーランスが増えてきています。

少年B:
確かに、2021年になってITフリーランスが急増しているというニュースもあります。

高山:
ハイスキル人材のキャリアプランが二極化しているんです。たとえばスキルの高いエンジニアさんだと、会社内で昇進していくだけでなく、スピンアウトしてITフリーランスになるという道も選ぶようになってきました。これは日本における大きな流れの一つだと思っています。

近藤:
社会全体のIT人材が不足しているという問題もあり、企業側も「ITフリーランスをどんどん活用したほうがいい」という意識が徐々に芽生えつつあります。

とくに地方自治体において、IT人材不足はかなり深刻です。「地方の企業にはなかなか優秀なIT人材が集まらない」というお悩みが関係省庁や自治体から寄せられています。そこで我々は、近年のIT人材の動向を説明し、もっとITフリーランスを活用してはどうか、というご提案をさせていただいております。

高山:
「ITフリーランスとして稼いでいく」という人がどんどん出てきている中で、そういう人たちを支援していかないとIT人材不足は解消できないんですよね。しかし先ほど話したように、会社員と比べてITフリーランスには圧倒的に支援が足りない。

たとえば将来家族を作って、家族の幸せも守らなきゃいけないっていう中で、いま生涯を通じてITフリーランスを選択できるのか?と考えると、まだまだ思いきれない人が多いんじゃないかと思うんです。これは日本全体の大きな損失になる、というふうに考えています。

少年B:
なるほど……。そうなると、PE-BANKさんやレバテックさんなど、個々のITフリーランス仲介事業社だけで解決するのは難しそうですね。

高山:
なかなか個社ではやりきれない部分もありますので、同業他社と一緒に業界として変えていきたいと思っています。なのでPE-BANKとレバテックさんはもう思いっきり競合なんですけど(笑)、ご一緒させていただいてまして。

近藤:
三井住友海上さんとも共同で団体設立をしており、仕事をしていく上でバックアップになる保険の設計も並行して進めていますね。

少年B:
保障が足りていない現状を、業界として変えていきたいということですね。

高山:
このITフリーランスに特化した業界団体って、実はありそうで全然なかったんですよね。PE-BANKもレバテックさんも、ITフリーランスは身近な存在なので、そういう保障問題を解決していきたいといった部分で立ち上がっています。

「フリーランス=すべてが自己責任」ではない

少年B:
一方で「自分から望んでフリーランスになった人たちに、支援を受ける権利はあるのか?」という自己責任論的な声もあります。フリーランスとしてはこれが本当に怖いんですが……。

高山:
確かに、ITフリーランスの世界が実力勝負なのは事実です。仕事が継続するかどうかは、その人の持っているスキルや知識、身の振る舞いによります。

会社員は、会社の方針や戦略にそって適材適所に配属され業務を遂行していくのが普通です。「仕事がなくなり給料がもらえなくなった」ということは少ないわけですし、労働関係法令で雇用が守られています。

少年B:
た、たしかに……。

高山:
スキルアップについてもそうですよね。たとえば会社員であれば、人材育成の責任は会社側にありますので社員の成長・育成の機会は会社が与えていきます。

一方、ITフリーランスだと自分でスキルを磨かなければならない。スキルアップ含めた自己成長への取り組みについては個人差があるのが事実だと思います。みなさま、厳しいITフリーランスの世界に覚悟を持って飛び込んできていらっしゃいますし、「自己投資をしなければならない世界で働いている」のはもちろん自己責任だと思います。

少年B:
確かに、会社員だったころはよくわかんない研修にたくさん行かされていたな……。いま思うと、あれはありがたいことだったのか……。

高山:
さらに言うとスキルアップだけではなく、顧客企業含めた関係者との良好な関係性を構築するなど、ITフリーランスとして安定してお仕事を継続していくためには、総合的に高い意識をもってお仕事に取り組むことが大切です。そういう意味では完全に自己責任ではあります。

少年B:
うっ、耳が痛い……!

高山:
ですので、我々としてもITフリーランスにの方々にはスキルアップを含めた総合力を高めていただくような啓蒙活動をしていかなければと思っています。ただ、それとセーフティネットを整えるのはまた別の話ですよね。

近藤:
セーフティネットが不足していることから「フリーランスは貧困に陥りやすい」とよく言われています。将来フリーランスを中心に低所得者層が拡大した場合、所得税収が減少する一方で社会保障費は増加する可能性があり、日本全体としても大きな問題にも繋がりかねないんです。

さらに、一度貧困に陥るとフリーランス個人だけでなく、ご家族にも経済的・精神的な負担がかかるとも言われています。そういった負のスパイラルを断つためにも、最低限のセーフティネットを整えることは、社会全体にとっても非常に重要だと思っております。

少年B:
えええ、貧困になりやすい!? 聞けば聞くほどフリーランスでいるのが心配になります……。現状、フリーランスを取り巻く支援制度とか福利厚生に関しては、まだまだ十分ではないという認識をされていらっしゃるわけですね。

近藤:
ここ数年で改善しつつあるように思いますが、まだ不足している点はあると考えます。これは私事ですが、父がインフラエンジニアで3年前に大動脈剥離と脳梗塞を起こしてしまい、仕事に復帰できなくなってしまったんです。その際はずっと休職してリハビリ生活を送っていたのですが、手術費だけでも700万円近い請求が来て、入院や介護の費用も含めると総額で1,000万円以上はかかったと思います。

幸い、父は正社員だったので労務の方が迅速かつ丁寧に高額療養費制度や傷病手当金等の利用をサポートくださって、経済的にも精神的にも救われました。もし父がフリーランスだったら、付加給付制度や傷病手当金は無かったですし、家族だけでは冷静に諸々の手続きを終えるのは難しかったでしょうし、想像するだけでゾッとしますね。金銭的な補償だけではなく、緊急時に各種制度の手続きを迅速に行えるように周知活動やサポート体制整備も重要だと考えます。

少年B:
本当に深刻なんですね。「有給が欲しい~!」とか言ってるレベルじゃなかった……!

現状のフリーランス支援の課題とは?

少年B:
高山さんは昔フリーランスとしてハウスクリーニングをされていたそうですが、その頃と比べて、フリーランス支援の動きは進んでいると思いますか?

高山:
わはははは! そんなことまでよく調べましたね!(笑) でも、業種が違うのでそこは参考にならないかな。

僕がPE-BANKに入社した15年ほど前の話ですが、当時はITフリーランス向けの仲介事業社って他にそんなになかったんですよ。でも、今は競合他社さんが何社も出てきていて、そうすると差別化として、福利厚生を充実させる企業が出てきますよね。

少年B:
確かに、お給料以外の待遇面で差をつけやすい部分かもしれませんよね。契約するITフリーランス側としてもうれしいですし。

近藤:
そうですね。コロナ禍で世間でもフリーランスに関心が集まり、国の制度も拡充してきたように感じています。まだまだ取り組むべき課題はありますが、徐々によくなってきている、という認識です。

少年B:
なるほど……。では逆に、現状のフリーランス支援の課題はありますか?

高山:
たとえば、労働者とITフリーランスの境界線問題があります。

ITフリーランスは当然、事業主として独立して事業を行うわけですよね。しかし労働関連法規では、お客様の現場で直接お客様とやりとりすることで、「適正な請負ではない」と判断されるケースもあるんです。

少年B:
????? どういうことですか?

高山:
もう少しやさしく説明しますと、どこかの企業に雇われてる社員であれば、雇われている企業の責任者の指揮命令下で業務を遂行します。社員として当然ですよね。では、雇われていない会社から指揮命令されたらどうしますか?

少年B:
A社の社員なのに、なぜかC社から命令されると……。それはおかしいですよね。聞く筋合いはなくないですか?

高山:
でも、日本のITの現場ではそういった状況が発生しやすいと言われております。派遣契約を結んでいれば、派遣先の指揮命令者からの指示により業務を遂行するんですが、請負契約(含む準委任契約)の場合はNGな行為です。ITフリーランスはあくまでも「労働者」ではなく「事業主」として活動しますから、誰からも指揮命令は受けません。

ただ、日本のIT現場って、どうしてもお客様と現場で直接コミュニケーションしないとプロジェクトがうまく進行しないケースが多いんです。そういう実態があるため指揮命令されていると誤解されることもあります。

少年B:
実態が反映されていない可能性があると……。

高山:
はい、そういう課題があるように思います。政府によりガイドラインが策定されたことは大変有意義であり、また、ありがたいことです。次のステップとしてはさらに実態に即した内容にバージョンアップしていただくことができれば、もっとITフリーランスが活躍できる社会になっていくものと思ってます。

なぜなら、ITフリーランスを活用する企業は適正な請負を遵守するために政府が策定するガイドラインを参考にしますので、ITフリーランスの活躍を推進するためにも、より実態に即した内容になればよいと願ってます。

少年B:
それは確かに……。会社側も、リスクを背負うのは怖いですもんね。

高山:
ただITフリーランスの中にも、「実質的に労働者」という意識で働かれている方々については労働者として保護されることが望ましいです。労働局においても「実態に基づいて判断する」という方針を出してます。

そのあたりをどうルールとして整備するのか、さきほども話しましたが、それは本当にITフリーランスの実態に基づいたルールになるように当機構や仲介事業者が声を大にして行政に伝えていかなければならないと思っています。

少年B:
ありがとうございます。近藤さんのほうからはいかがですか?

近藤:
そうですね。たとえば厚労省での「雇用類似の働き方に関する検討会」では、契約条件の明示や、ハラスメント防止、社会保障などが課題に挙がっています。

ただ、少しずつ状況が整理され、改善の方向に向かっているのが今なのかな、と認識しております。「フリーランス・トラブル110番の開設」「労災特別加入制度の範囲拡大」は、まさに検討会での結果を踏まえて行われています。

少年B:
今後、さらなる拡大に期待ということですね。しかし、フリーランスは昔から一定数いるのに、なぜ今まで改善策が生まれなかったのでしょうか。

近藤:
実は、フリーランスを包括的に所轄する官庁がないんですよ。フリーランスに関する事案は厚生労働省や経済産業省、公正取引委員会等、さまざまな省庁にまたがっているんです。なので、まず「どの省庁がボール持つか」を決めるところから始めなければいけない、というのが時間がかかった要因のひとつだと思います。

少年B:
そんなことあります????? 縦割り行政の弊害ですね。

近藤:
ボールを持つ方がいないので、実態の把握もブラックボックスになってしまっていたんです。そこを内閣官房が中心となって取りまとめ、整理しはじめたのが今、というような状況ですね。

また、業種によっても特性が異なるため、一人親方であれば国土交通省、芸能従事者であれば文化庁等と管轄が決まっているようですが、ITフリーランスはどの省庁が管轄するのかまだ定まっていないようです。先ほど高山が言ったように、まずは実態を「見える化」するところから始めるのが大事ですし、加速度的に進めるためには、我々のような業界団体も必要だと思っております。

ITフリーランス支援制度の未来と展望

少年B:
ありがとうございました。最後に、フリーランスやそれを取り巻く環境は、今後どのように変わっていくべきだと思いますか?

高山:
正直、顧客企業とか行政とかITフリーランス本人とか、どこか一方が頑張ってもよくならないと思っています。なので、業界のネットワークを作り、ネットワークの中で相互連携しながらやっていかないといけない。

顧客企業にも現状の課題をご理解していただいた上で、ITフリーランス活用のルールを学びながら、積極活用してほしいですね。それが顧客企業のITプロジェクト成功の一番の近道だと思っております。

少年B:
うっ……。厳しいお言葉ですが、わたしもがんばります。できる範囲で……。

高山:
そういう意識の醸成というのも、我々のミッションのひとつだと思っていますので、そういう課題感を持ってやっていきたいですね。

もちろん、我々も「ITフリーランス支援機構」という枠組みを作ったので、支援規模も拡大していきたいと考えています。今後、我々以外のITフリーランスの仲介事業者にどんどん参画していただくようにお声かけしていく予定です。PE-BANKとレバテックさん、その他の会社も含め、業界全体のパイを奪い合うのではなく、パイをどうやって大きくするかを考えていきます。

少年B:
行政に対して訴えていくだけではいけないと。

高山:
はい。もちろん行政にも実情をしっかりとお伝えた上で、「デジタル人材不足の課題を解決するにはITフリーランスのことをもっと知って頂き、ITフリーランスが活躍しやすいルールや支援制度の整備をする必要がある」と理解してもらうつもりです。誰かひとりが得をするのではなく、ITフリーランス良し、行政良し、発注企業良し、仲介事業者良し、でまわるようにしていきたい。

近藤:
将来はITフリーランスという選択が当たり前になり、フリーランスと会社員の境界がもっと曖昧になってくると考えています。

少年Bさんは会社員からフリーランスになったとおっしゃっていましたが、そういうこともありますし、逆にフリーランスから会社員に戻ることもあるでしょうし、そこから起業するなど……。働きかたはもっと多様化していくのではないかと。

少年B:
確かに、以前Workship MAGAZINEでも、フリーランスから会社員に戻った方の話をうかがったことがありました。

近藤:
現行の制度は、会社員ならずっと会社員、フリーランスならずっとフリーランスというように、固定的な考え方で制度が設計されているんですよね。人材の流動化を前提に、制度を作り直していかなければならないと考えています。

また、いまは0.1%くらいですが、今後は国をまたいだ受発注が増えていくとも考えています。海外にいながら日本の仕事を受ける人も徐々に増えていますし、国をまたいだフリーランス活用も考えていかなければなりません。

少年B:
わたしの友達にも、ニュージーランドやアメリカで日本の仕事を受けているフリーランスがいます。そうか、そう考えると本当にフリーランスの課題はたくさんあるんですね……。

高山:
はい、わたしたちもみなさんを支援できるよう、力いっぱいやらせていただきますので、ITフリーランスのみなさんも高い意識を持って、しっかり仕事をがんばってください。

少年B:
厳しい~! でも甘えてばっかりじゃいけないのでがんばります……!

(執筆:少年B 編集:じきるう)

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