「フリーランスが音信不通」事業リスクを回避する防衛策【社労士解説】

フリーランスが急に音信不通になった際のリスクと防衛策【社労士解説】

フリーランス人材を活用する企業にとって、最も困ることは何でしょうか。

社労士として日々さまざまな相談を受ける中で、もっともよく挙がる困りごとが「いきなりフリーランスと連絡が取れなくなった」というケースです。

これまでプロジェクトの進行を管理していたディレクターや、仕様を全て把握しているエンジニアと、ある日突然、連絡が取れなくなってしまう。

仮に悪意がなくとも、突然の事故、家庭のトラブル、あるいは本人の体調不良……。そんな状況は、誰にでも訪れます。

長く取引をするなかで「〇〇さんに限って、そんなことはないはず」と、「信頼」がいつの間にか「慢心」にすり替わっていないでしょうか。

不測の事態を、個人の責任や不運で終わらせず、組織としてどう守りを固めるか。

今回は、そんな防衛策を解説します。

もひもひ
もひもひ

開業社会保険労務士(東京都社会保険労務士会所属)、特にIT/Web業界を中心に支援している。趣味は同人活動で、評論同人サークル「さかさまダイアリー」より同人誌「村上春樹っぽい文章の書き方」シリーズなど発行。(X:@mo_himo

想定される具体的な「事業停止」のリスク例

フリーランスが突然姿を消すことで起きるのは、作業の遅延だけではありません。事業そのものが停止するリスクもあります。

恐ろしいのは、クラウドサーバーや各種サービスの管理者権限が、フリーランス個人のアカウントに紐付いているケース。

最悪の場合、利用料の決済やアカウントの更新が止まることで、サイトやデータが消えてしまうことも考えられます。

また、ナレッジが消失するリスクもあります。

たとえば、独自の運用手順がドキュメント化されず、フリーランスの脳内だけにある状態は極めて危険です。

実際に、バックエンド開発を担っていた唯一のエンジニアが「飛んだ」結果、残されたソースコードが複雑すぎて、他のエンジニアが誰も手を付けることができず、結局ゼロから開発し直すことになったケースも聞いたことがあります。

受託していたフリーランスがさらに別のフリーランスに外注(再委託)していたケースは、より複雑です。

本人が音信不通になった瞬間、「本来の責任範囲はどこなのか」「実際の作業者は」「データがどこにあるのか」などの情報も不明になってしまいます。

さらに、フォントや素材画像、開発用ツールのライセンスなどがフリーランスの個人契約になっている場合、連絡が途絶えた後は、「本当に利用してよいのか分からない」というコンプライアンス上のリスクが生じることもあります。

端末支給でどこまで防げるか

「端末(パソコン)を会社側で用意すべきか、私物を使ってもらうべきか」というのは難しい問題です。

端末を支給しておけば、万が一の際でも、端末さえ回収できれば中のデータを確認できます。

しかし優秀なプロフェッショナルほど、自分の手に馴染んだハイスペックな環境を好み、こだわりも多いもの。特にクリエイティブ職種は「貸与端末なんてあり得ない」という人も少なくありません。

とはいえ、私物端末を許容すると、フリーランスと音信不通になってしまった場合、成果物がすべてブラックボックス化してしまうリスクが生じます。

これらを踏まえて現実的な落としどころを考えると、端末は私物を使ってもらいつつ、作業は必ず「会社アカウントのクラウドサービス上」で行うよう徹底するのが最適でしょう。

万が一を「不測の事態」にしないための打ち手

この他「サーバーやSaaSの管理者権限は、必ず社員が保持する(会社ドメインのメールアドレスで設定する)」といった手法も有効です。

「設定が面倒だから、とりあえずフリーランスに管理者権限ごと渡す」ような管理は厳禁です。

併せて、フリーランスとのやり取りをDM(個人チャット)で完結させず、必ず複数人が参加するチャンネルやグループで行うのも有用でしょう。

仮にフリーランスが不在になっても、ログを追えば「あの件、どうなってたっけ?」を確認できる状態を作っておくことが重要です。

また、遅延を最小限に抑えるために、「制作途中であっても、週に一度は共有環境にファイルと進捗管理表をアップロードする」「開発と並行して仕様書を更新することを、業務範囲として明確に定義する」などの運用ルールも決めておくと安心です。

念を入れるなら、「連絡が◯日以上途絶えた場合、会社側でこうした対応を取る」と伝えておく(サービスのアカウントを一時停止・権限剥奪など)、プライバシーに配慮した上で、あらかじめ緊急連絡先を任意で共有してもらうなどの対策も考えられます。

プロを信じることと、リスクを放置することは別

「うちのフリーランスは信頼できるから、そんな対策をするなんて水臭い」

そう考える方もいるでしょう。

しかし、本当の信頼関係とは、お互いが「万が一」の事態に陥っても、相手に迷惑をかけない準備をしておくことです。

フリーランス側にとっても、「自分がいなくなったら、会社は大損害を被る(ので、絶対に体調を崩せない・辞められない)」という状態は、過度なプレッシャーであり、不健全です。

「自分がいなくてもどうにかなる」という心理的安全性を担保した上で、さらなる活躍を期待する。これがプロ人材との健全で長期的なパートナーシップを築くための方法なのです。

(執筆:もひもひ、編集:夏野かおる)

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