エンジニアの副業は週1からでも可能?副業の例や探し方も解説
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「好きなことで、生きていく」というフレーズが日本中を駆け回った平成の終わり。
会社の歯車として働くことを嫌い、 ”自分自身の人生を生きる” ためにフリーランスとして独立する人も少なくないと聞きます。かく言うぼくも、そのひとり。
しかし、好きなことを仕事にできる生活は素晴らしいなと思う一方で、収入も未来も不安定。余裕がなくなると、好きなこともどんどんと稼ぐための “仕事” になっていく。
そして、ふと我に返った瞬間に頭をよぎる「自分は何を求めてこの生活をしているのだろう?」という答えのない問い。そんな日々が続くうちに、金銭的な安定を得られる会社員生活に心動かされることも。
「会社員とフリーランスって、どっちがいいんだろう」
この疑問は心躍らせる “ライフワーク” を追い求める人たちにとって、永遠の悩みかもしれません。
そんなぼくらの相談に乗ってくれるのは、タムラカイさん。
タムラさんは日本を代表する大手メーカー・富士通株式会社の社員として働きながら、ブログでの個人発信をつづけ、2015年には著書「ラクガキノート術」を上梓。
そして、2017年には富士通グループの社員を中心に「グラフィックカタリスト・ビオトープ(以下、GCB)」を結成し、社内外のイベントにおいてグラフィックレコーディングやワークショップなどさまざまな活動をしています。
日本を代表する大企業・富士通の会社員として日々働きながら、個人の活動領域を広げるタムラさん。しかし彼は「独立することは考えていない」と言い切ります。
「フリーランス」として独立するにあまりある実力を持つタムラさんは、なぜ「会社員」であり続けるのでしょうか?
1979年京都生まれ、神奈川在住。富士通デザイン株式会社フロントインテグレーションデザイングループに所属。グラフィックカタリスト・ビオトープ 発起人&突破担当/NPO法人SOMA副代表理事&PRディレクター。著書は「ラクガキノート術」、「アイデアがどんどん生まれる ラクガキノート術 実践編」(ともにエイ出版社)。
「好きなこと」以外の仕事ができないゆえに、万年金欠のフリーライター。そろそろ文章を書くこともしんどくなってきたのが最近の悩み。現在は東京を離れて、北陸某所で季節労働中。
目次
しんたく:タムラさんは、いわゆる大企業の会社員だと思うのですが、なぜ書籍の出版やイベントのファシリテーターなどの副業で、いわゆる「ダブルワーク」を始められたのでしょうか。
タムラ:もともと「副業」をしたかったわけではないんですよね。別にお金を稼ぐ目的ではなくて。
しんたく:え、どういうことですか?
タムラ:会社に入って5年目くらいで、「このままだと、オレは『富士通社員』という肩書きしかなくなってしまう」と思ったんですよ。
しんたく:富士通社員の肩書きでも充分なような気がしますけど……。日本を代表する企業じゃないですか。
タムラ:ちょうどその時期、自分にとって予期せぬ異動があったんです。自分の好きな仕事をしていて、キャリアプランができてきた最中のことだったので、大きな衝撃でした。会社を辞める選択肢も頭をよぎったんですよ。「自分は仕事ができる」と天狗になっている真っ最中でしたからね。
しかし、改めて冷静に独立や転職を考えたときに、社内ではそれなりかもしれないけれど、外に出たら自分は平均程度の能力しかないのだろうなと感じたんです。そこで、自分がいかに会社の名前で仕事をしているかということに気付かされたんですね。
そんな時期に、とあるブロガーさんと出会う機会があったんです。彼らは個人のブログ名が、会社の肩書きと同等。ならば、ブログをはじめて彼らと同じような立場で仲良くしたいと思ったのが、社外活動のはじまりですね。
しんたく:その後、ブログ発信によって知名度を上げられたわけですが、ブロガーやライターになる選択肢はなかったのですか?
タムラ:はい。正直、あまり向いていないなと思って(笑)。自分にとっては生業としてやっていけるほどかというとそうでもないなと。
さらに言うなら、WEBの世界で繰り返されてきた「会社員とフリーランス、どっちがいいか」の論争をずっと見てきたのも大きいです。ある時期は「プロブロガー最高! フリーランス最高!」みたいな話題で盛り上がるし、少しすると「やっぱり会社員もいいよね」という声が大きくなる。
だから僕としては二者択一の考えかたはナンセンスだなと思うようになって。そもそも会社員やフリーランスって、肩書きではなくて状態だと思うんですよね。
しんたく:フリーランスは「状態」……ですか?
タムラ:「会社員かフリーランスか」って、その人のことを何も表していないんですよね。それよりも「何をしている人なのか」のほうが大事じゃないですか。デザイナーやライターなどの「やっていること」が先にあって、その上で「フリーランス」や「会社員」という属性が生まれる。
だから「好きなことをしたいから、フリーランスになりたい」というのは少しずれているのかなと最近よく感じています。
しんたく:「好きなことをする=フリーランス」ではないと。
タムラ:はい。会社員だって、好きなことを仕事にしている人もいるじゃないですか。だから働き方を考えるときに「会社員」か「フリーランス」という二択の疑問は、あまり意味がないなと。
しんたく:意味がない、ですか……。とはいえ、会社員の枠組みが嫌でフリーランスになる方も少なくないわけですよね。
タムラ:そういう選択肢を否定したいわけではありません。でもたとえば、組織的な動きが苦手だからという理由でフリーランスになるとしても、仕事によっては組織のなかで動かなければいけない場面もありますよね。
一方、会社員でも上司と信頼関係を築くことができれば、ある程度の自由を得ることができる。いかに周りとコミュニケーションを取りながら仕事を進めるかによって、どちらの場合でも楽しめると思うんです。
結局、仕事を「もらう」という感覚がある限り、どんな技術を磨いたところで、いつまでも使われてしまうだけです。逆にいうなら、仕事を生み出す感覚があれば、どこにいてもやっていけるはず。
しんたく:なるほど。ではタムラさんは、会社の中でも仕事を生み出す立場なのでしょうか?
タムラ: “いま” はそういう形になりましたね。まあ「仕事を作れ」なんてえらそうなことを言ってはみたものの、実はこの状況に身を置くことができているのも、完全にいまの上司のおかげなんです。
しんたく:タムラさんくらい新しいことを生み出すことができれば、上司の存在は全く関係なさそうな印象ですけど。
タムラ:いえ、会社員にとって、直属の上司ってすごく大事なんですよ。殺すも生かすもそれ次第と言ってもいいかもしれません。僕はいまの上司がいなければ、未だに死んだ目で仕事をしていたかもしれないし、富士通にもいなかったかもしれないです(笑)。
しんたく:そうなんですか? 順風満帆な人生を送っていそうな印象だったのですが……。
タムラ:いいところばかりを抜き出したらそうなりますよね。でも、実際はそんなことありませんよ。いまの上司と別の部署のときは、仕事に対するモチベーションが完全になくなっていました。ちょうど30歳前後のことですかね。
しんたく:え!? そんな時期があったんですか。
タムラ:はい。ちょうど社外での活動に積極的になり始めたころでした。外の仕事が楽しくなるにつれて、会社でのルーティンのような仕事に徐々に熱意を持てなくなっていって……。
タムラ:徐々にやる気をなくしていく僕を見かねて、上司が新規事業を考えてみろと背中を押してくれたんです。それはそれでとても楽しかったのですが、まだ結果も出していない若手の企画ですから、どんなに面白いことを提案しても、大企業特有のよくわからない理由で頓挫してしまう。まあ、いま考えると自分の実力不足を会社のせいにしていたところはあるのですが。
チームにもいいメンバーが集まっていたんですけど、みんな諦めて「普通の会社員」のルートへと戻っていった。そこで僕も疲れ切ってしまったんですね。
しんたく:「仕事を作った」としても、消えてしまう。
タムラ:そして再び異動になってしまったので、もういいやと。そこから数年は本当にやる気のない会社員だったと思いますよ。暇だと言うと仕事を振られてしまうので、ぼうっとしている。しかもいいのか悪いのか、定時に来て、定時までいれば、ほとんど何もしていなくても怒られないって気づいてしまったんですよね。
しんたく:ちょっと現在のタムラさんからは想像できないです。
タムラ:人生で一番心が病んでいた時期ですよね。人間って、自分の興味のないことをずっとしていると、どんどんと参っていく。その時期、個人のほうでありがたい仕事の話をもらう機会が多かったので、あまり心の動かない社内の業務はしたくないと思ってしまった。
その結果、1日の3分の1である8時間も無駄に過ごしているわけですよ。人間ってなにもしていないと心が死ぬんだなと思い知らされました。家に帰って、副業で自分の好きなことをして、ようやく人間の形を保っていたのだと思います。もし個人の活動を全くしていなかったのであれば、会社員ってそういうものなのかもしれない、と割り切れたのかもしれないですけどね。
しんたく:独立や転職は考えなかったのですか?
タムラ:もちろん転職は考えました。日中の8時間を有意義に使うことができれば、もう少し個人の活動にもつながるのかなと。まあ、うまくはいかなかったんですけどね(笑)。
というのも、独立するにしても、収入的にかなりしんどくなるわけです。ブログだけで稼ぐのも厳しいし、グラフィックレコーディングも定期的に収入を得られるようなものではない。だからその時点では会社員としての収入はやっぱり必要だなと思ったんです。使えるものは使ってしまえ、と。楽しいことで小金を稼ぎつつ、死んだ目をしても会社で安定した収入を得る生活を送っていました。
そんなあるとき、別の上司に呼ばれたんです。もうサボっているのなんて、周りには全部バレてるわけですよね。怒られるのかな、と思ったら違う。彼は心配そうな顔でこう言ったんです。
「そんなんじゃ、40歳になったときにつらいぞ」と。
タムラ:当時、僕は35歳でした。声をかけてくれた上司からすると、窓際族へのルートがはっきりと見えるわけですから、本当に将来を案じてくれたのだと思います。実際「普通の会社員ルート」に戻るために仕事の提案もしてくれて。
ただ僕としては、普通の会社員として成り上がるルートにはもう興味がなかった。だから申し訳ないですけど、と答えてそのまま席に戻りました。結局それ以降もほとんど仕事らしい仕事はしていなかったですね(笑)。
ただ、その時のことはいまでも忘れられないですね。今年でちょうど40歳になりましたし。
しんたく:結局 “窓際族” にはならず、心配されていた未来にもならなかったわけじゃないですか。その5年の間に、一体何がタムラさんを変えたんでしょう?
タムラ:一番大きな転機となったのは、お世話になっていた上司の元に戻ったことでした。彼にはずっと社外で色々とやっていることを伝えていたのですが、僕にこう言ってくれたんです。
「僕は社内で君をうまく使うから、君も僕をうまく使えばいい」と。
やりたくてもできないことが色々ある中で、「会社を使え」と言ってくれた上司の存在は、本当に大きな力になりました。
しんたく:上司の方の大きな助けがあったわけですね。
タムラ:そして、もう一つ。著書の出版も大きかったと思います。不思議なもので、本が出た途端に社内での仕事の振られ方が変わったんですよ。それまで「やってみたら?」くらいのニュアンスだったのが、「タムラカイ」指名のしっかりした依頼になった。こうした流れで、社内で初めて開催したワークショップの評判がすこぶる良かったんです。
タムラ:そこで、僕の中で大きく意識が変化しました。これまで会社から「代わりはいる」と言われ続けていたので、会社は生きるために金を稼ぐ場、副業は副業として線を引いていた。それが副業で得たものを会社にフィードバックしたら、もっと面白いことがあるかもしれないと思えたんですよね。
しんたく:一度のワークショップが、考え方を大きく変えた。
タムラ:はい。友人がよく「あふれた分だけおすそ分け」と言うんですよね。まず自分から人に与えようとする「give」の精神が大事だとよく聞きますけど、そもそも持っていないと人に与えることはできない。だからまず自分がきちんと満たされて、そこからあふれたものを人に渡すくらいがちょうどいい、と気づいたんです。
しんたく:タムラさんにとって、ワークショップで満たされたことで、初めて「あふれる」経験をしたと。
タムラ:はい。「ラクガキ」という僕でしかできないことを会社で評価してもらったことで、初めてきちんと満たされました。ただ、これも本当に上司のおかげなんですよね。彼が僕を理解して、活用してくれなければ、会社員としての僕が満たされることは絶対になかった。
でも、彼が僕を活用してくれるまでに至ったのって、社内での信頼関係をきちんと結び続けていたからこそなんですよね。上司に黙って、こそこそ副業をしていたら、ここまで来ることは絶対になかったと思います。
しんたく:かなり社内でのことまで赤裸々にお話いただきましたけど、大丈夫なんですか?
タムラ:わかりません。「お前のせいで、社内でサボるやつが増えた!」って怒られるかもしれないですね(笑)。でも別にいいんですよ。というのも、ここまで話すのって、単なる黒歴史自慢というわけじゃなくて、次の世代に繋いでいきたい意図があって。
しんたく:どういうことですか?
タムラ:もし「あなた」の部下にすごくトリッキーな存在がいるとするじゃないですか。仕事を振っても全然やる気がないように見える。何やら影でこそこそとやっているらしい。その時に目先の業務をさせるために押さえつけるのか、会社をうまく使えと言えるのか。
僕の場合は、上司が「会社や僕をうまく使え」と言ってくれたからこそ、いまがある。結果として会社にも少なからず還元できたわけですよね。「あなた」自身がトリッキーな存在だったとしても、僕自身の経験が何かのヒントになるかもしれない。
既存の枠組みに捉えられてしまっている人が多いのだとしたら、僕自身の人生を示すことで他にも選択肢があることを伝えたいんです。
だってこれからの時代において、与えられた選択肢の中に「正解」はないわけですから。
タムラ:僕はいつもワークショップをするときに「正解ではなく、解釈が大事」と話しているんですね。
というのも、これまでの時代って、提示された「正解」までいかに正確に早くたどり着けるかのゲームだったと思うんです。すごく簡単に言うなら、いい大学に入って、大企業に入社、そこから着々と出世を目指すとかね。
ただ、いまは何が起こるかわからない時代。大企業だっていつ潰れるかわかりません。だからこそ自分の目できちんと世界の最前線を見て、肌で感じて、それを自分自身できちんと解釈する必要がある。だって、もう万人に通用する「正解」なんてないわけですから。それをどんどんと飛び越えていかなきゃいけない。
しんたく:自分の想定の範囲を越える、みたいなことでしょうか。
タムラ:はい。長く生きるほど想定内に収まろうとしがちですけど、それってあんまり面白くないなと思っていて。
正直、こうして僕の働き方にフォーカスした取材の話が来ている時点で、もうこの方向はいいかなと思うところもあるんですよ(笑)。「グラフィックレコーディング」にせよ「ダブルワーク」にせよ、名称が多くの人に認知されはじめたくらいで満足して飽きちゃうというか。
しんたく:なんだかもったいないような気がしますけど……。
タムラ:そこからは、領域内の精度をいかに高めていくかの勝負になってくるわけですよね。それって僕はあまり好きではないし、もっと得意な人がいっぱいいる。
だから僕がやるべきことは、新しい道をどんどんと開拓していって、みんなをワクワクさせられるような状態でいることだと考えているんですよね。常に「なんかよくわからないけど、面白そう」と思われるような状態でいたいというか。そのためには、多くの人が想定する外に出なければいけない。
予想外のことはリスクが高いんだけど、やっぱり新しい世界の扉を開くのって、すごく面白いんですよ。見ている人もそうでしょうし、何より僕自身がめちゃくちゃワクワクする。
これまでは、ずっと1年後の未来を想定しながら、いろんなことを進めていたんです。でも、いつも想定外でいることを心がけていたら、自分の予想以上に面白くなるケースが増えてきた。だから、先のビジョンを全然考えなくなりました。
しんたく:とはいえ、変化を伴うアクションを起こすことに、抵抗がある人も多くいるのではないかと思います。
タムラ:その気持ちはとてもよくわかります。というのも、僕は子供のころ、どちらかというとチャレンジが苦手ないわゆる“いい子”だったんですよ。何も考えずにいい大学に入って、そのまま大企業へ。いわゆる「メイン」のルートです。
だから、自分から意識して新しいアクションを起こすようになったのは30歳のときです。そこからでも、ここまで来ることができた。なにかを始めるのに遅いことってないんだと思います。まあ、時間はかかりましたけどね(笑)。
しんたく:「始めるのに遅いことはない」という言葉に、勇気づけられる人は多いと思います。
タムラ:先日、友人と「人生ってブランコみたいなもの」なんじゃないかという話をしたんです。ブランコで楽しそうに遊んでる人って、めちゃくちゃ大きく揺れているじゃないですか。でも実際にこぐと、はじめは全然大きく振れない。徐々に揺れの幅が大きくなっていきますよね。
タムラ:たとえばSNSで大きな成果を出している人ばかり目についてしまうけれど、たぶんブランコと同じで、初めの動きはすごく小さかったはずなんです。だから、最初の小さなアクションをいかに作るか。
しんたく:焦らずに、まずは小さくてもいいから動いてみる。
タムラ:僕自身も、社内でコツコツと積み上げた結果があってこその、いまだと思っています。一度動きだしてしまえば、あとはリズムを合わせるだけ。
そして生まれたうねりを一度経験すれば、今度は自分がアクションをした人を応援できる。その瞬間の楽しさを知っているから、次の人にも味わってもらいたいじゃないですか。だから僕も誰かのブランコを押して、動きを大きくする手伝いをしたいと思っています。そうやって、どんどんと世の中が良くなっていけばいい。
デザインやアート……あらゆる表現って、元々は世の中を良くしたかったり、面白がってもらいたい思いからはじまると思うんですよね。だったら、目先の選択肢にとらわれる必要なんてない。「会社員 or フリーランス」なんてどっちでもいいですよ。問題はそこじゃない。そんなの飛び越えて、もっとその先にあるワクワクを見つけたら、さらに新しい世界がひらけてくると思うんですよね。
(執筆:しんたく 編集/写真/アイキャッチデザイン:Huuuu)
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