「仕事内容とか、働く場所とか、時間とか、だれかに決められたくない!」

そう思ってフリーランスになった方や、フリーランスを目指している方は多いのではないでしょうか。

そう、僕もその一人。編集者兼キャリアコンサルタントとして独立して約3年が経ち、もがきながらも、好きなことを好きなところで好きな人と取り組む生活が、ちょっとずつ実現できつつあります。

 

でも、喜びと同時に、不安な気持ちがむくむくと湧いてきたんです。

それは、「自由であることの不安」

 

自由であるということは、仕事内容も、働く場所も、時間も、自分で決めなきゃいけないということです。「今日のランチはカレーか、ラーメンか」なんてことすら迷うのに、なにからなにまで自分で決めるのは精神的にしんどくて、「もう、だれか決めて!」と言いそうになっている自分がいます。

 

そんな「自由であることの不安」に対して、「家を買うと安心感を得られますよ」と語るのが、フリーランスのイラストレーター・つぼいひろきさん。

つぼいひろき

▲自身の描くキャラクターの特徴である「フ」の口を片手にほほえむ、つぼいさん。名刺の裏側に印刷し、写真撮影の際などに使って場を和ませているそう

つぼいひろき イラスト

▲つぼいさんの手がけるイラスト。コミカルなタッチで、雑誌の挿絵や書籍の表紙など、幅広く活動している

 

現在44歳のつぼいさんは、25歳でイラストレーターとして独立、36歳のときに一軒家を購入しました。

家を買うと安心感を得られるってどういうこと? 家を買ったら自由を失うのでは? というかそもそも、フリーランスって住宅ローンを組みにくいイメージがあるけど、どうしたら家を買えるの???

そんな疑問をたずさえて、フリーランスの先輩であるつぼいさんの話を聞いてみることにしました。

KO負けして病院送り、そして転身へ

山中:フリーランスならではの住宅購入の体験を漫画で紹介した、つぼいさんの連載漫画「フリーランス家を買う」を拝見いたしました。フリーランスが家を買う、ということのリアルがわかってとても面白いなと。

 

 

つぼい:ありがとうございます!

山中:なので今回は漫画の内容を踏まえて、「フリーランスが家を買う」とはどういうことなのか、お話を伺えればと思っています。

まずはこのテーマについて聞く前に、つぼいさんの経歴から。

 

つぼいひろき プロフィール

山中:……つぼいさん、もともとはプロボクサーだったんですか!?

つぼい:そうなんですよ。僕、小さい頃からマンガの読みすぎで「主人公になりたい」って気持ちがありまして。中学生のときに、これまたマンガの読みすぎで「プロボクサーってかっこいいじゃん!」って思って、ジムに入ったんですね。で、高校2年生の時にプロテストに合格して。

 

つぼいひろき ろくろ

山中:そこから世界チャンピオンへの道をまっしぐら……とはならなかったんですね?

つぼい:ええ。大学2年生の時、コテンパンにKO負けして、呼吸が止まってしまって。

山中:呼吸が止まったんですか!?

つぼい:そうなんです。そのまま救急車で運ばれて。命に別状はなかったんですけど、しばらく右半身が痺れてたこともあり、それ以上ボクシングを続けることはジムに止められました。まあ、なにか命に関わることになったらジムとしても大変ですからね。それが19歳のときのことです。

山中:それからイラストレーターとしてフリーランスになるまでに、一度就職されているんですね。

つぼい:そうですね。またまた漫画の読みすぎで、もともと興味があった絵に関われると思って、印刷会社に新卒で入社したんです。興味があったといっても描くスキルはないので、営業担当として。

ただ「ボクシングの次にやりたいことを見つけて3年でやめる」とか言いながら就職したんですよね。ほんと生意気ですよね……。

そのせいか、これが本当に向いてなくて。いま振り返ればですけど、なんとなく、フリーランスになる人って「やりたいことは燃えるけど、やらされたことはぜんぜん燃えない」傾向、ありません?

山中:ああ、ありますよね。僕もそれが理由で、会社を辞めました。

つぼい:僕もその傾向が顕著で。仕事は成果を出せないし、会議でも眠くなっちゃうし。これはどうも自分は会社員に向いてなさそうだから、「よし、フリーランスのイラストレーターになろう!」と思ったんです。

 

つぼいひろき 手

つぼい:でもスキルがないので、まずは会社に行きながらデザインの学校とイラストの学校に通ったんですけど、そこの先生が特殊で、「面白い絵が描けたら、売り込みに行け」っていうんですよ。

山中:つまり、描くだけじゃなくどんどん営業に行けと。

つぼい:最初は「なに言ってんのかな。いきなり仕事なんてもらえるわけないじゃん」と思ったんです。けど、ダメもとのつもりでアルバイト情報誌に売り込みに行ったら、いきなり仕事がとれちゃった。

山中:とれちゃったんですね。

つぼい:編集部に電話したら「来てください」と。実際に行ったら、編集部の方が10人ぐらい集まってきて名刺交換して、「面白いからウチで描いてください」って。「ええ? いいんですか!?」って感じですよね。当時はサラリーマンだったから、たまたまスーツ姿だったのも好印象だったのかもしれません。

 

つぼいひろき 笑顔

山中:いまだと売り込み方は違うかもしれませんけど、「自分で自分の価値を決めつけず、営業してみる」というのは、フリーランスにとって大切かもしれませんね。それにしてもプロボクサーからイラストレーターへ、まさかの転身です。

つぼい:それが、自分のなかの根っこにある「主人公になりたい」っていう価値観と通じていて

山中:……というと?

つぼい:僕は、自分にスポットライトが当たる瞬間に憧れてたんですよ。ボクシングのリングのスポットライトはめちゃくちゃ気持ちよかったけど、諦めざるを得なくなった。

でも、自分のイラストが売れた瞬間に、存在が認められて「自分にスポットライトが当たってる」感覚にまたなれたんですね。「主人公になれた」感覚といってもいいかもしれない。自分のつくったものが売れたときの「自分が認められた感」はたまらないですよ。

山中:そうか、プロボクサーとイラストレーターってまったく別の仕事のようですけど、つぼいさんのなかでは共通項があったんですね。

つぼい:そうですね。ただし、いまは主人公はイラストレーターである自分ではなく、媒体そのものや記事で、そこにスポットライトを当てるのがイラストだと思って仕事をしています。

バイトと並行する時期もあった

山中:でもフリーランスが家を買えるほど稼ぐって、けっこう大変じゃないですか? 収入も不安定ですし。

つぼい:もちろん。そもそも最初は会社員を続けながら、副業でイラストの仕事をする「二足のわらじ生活」だったんです。当時の会社では副業はダメだったかもしれないけど、こっそりと。

山中:それからイラストレーター一本で稼ぐようになったのは、どのような経緯で?

つぼい:会社を辞めるのもイラストの学校の先生からもらった一言がきっかけでしたね。「君がエリート社員だったら続けた方がいいけど、どう見てもそうじゃないからイラストやった方がいいよ」って。

山中:結構ストレートに言いますね(笑)。

つぼい:でもたしかに、会社員としては会議で眠くなっちゃうような僕でしたけど、イラストレーターとしては営業にいけば、コンスタントに仕事をとってきていたんですよ。

山中:まさに「やりたいことは燃えるけど、やらされたことはぜんぜん燃えない」傾向があらわれてますね。

つぼい:当時は25歳だったんですけど、やりたいことであるイラストの仕事に手応えは感じていて。「人生一度きりだし、3年ぐらいやってみて、だめでも28歳だからやり直しきくな。やってみるか」という感じでしたね。

 

つぼいひろき 説明

山中:イラストレーターとして食べていけるようになるまでに、どれくらいかかりましたか?

つぼい:1年半くらいかな。会社をやめてから、イラストの仕事とは別にアルバイトをしてた時期もあったんです。それぞれで月15万ずつ稼ぐ、みたいな。

でもそういう生活も、慣れるとだんだん居心地がよくなっちゃうんですよね。そんな生活を1年続けていたら、いつの間にか会社員時代に貯めた100万円の貯金がなくなっちゃって。

山中:おお、それはピンチ!

つぼい:その時は、当時付き合っていた今の奥さんに17万円借りました。「来月に大きいお金入るから、お願い!」みたいな。やばい奴ですよね。ほんと奥さんには感謝です!

それでなんとか持ちこたえて、このままアルバイトとイラストレーターを並行する働き方を続けるのは良くないということで、営業に力を入れて、26歳くらいでなんとかイラストレーター一本で食べていけるようになりました。

そして彼女と30歳で結婚、32歳で子どもが誕生し、36歳で住宅を購入したんです。

自分の自由が、家族にとっての幸せとは限らない

山中:その「家を買う」ということが、まさに今日聞きたいところで。「フリーランスが家を買う」って、場所も自由に移れなくなるし、ローンものしかかってくるし、ある意味自由でなくなるということじゃないですか。会社員として縛られることに違和感を感じて、自由でいることが好きそうなつぼいさんが、どうして家を購入することに?

つぼい:僕も、もともと賃貸でいいって考え方でした。それが変わったきっかけは「子どもに地元をつくってあげたい」と思うようになったことですね。

山中:子どもの存在がきっかけだったんですね。

つぼい:はい。僕自身、子どもの頃に転校したことがちょっとしたトラウマになっていて。もともと東京で生まれたんですけど、小学校3年生のときに関西へ転校して、中学生で東京に戻ってきたんです。

山中:それでつらい経験を?

つぼい:関西にいたときもちょくちょく東京には帰ってきていたので、友達はいたんですけどね。やっぱり中学生くらいになると、お互い価値観も変わっているじゃないですか。だから、東京に転校して戻ってきたときに、なんか友達とうまくコミュニケーションがとれなくなってしまって。

山中:中学生の頃って学校で過ごす時間が長いわけで、そこの居心地が悪いのはつらいですね。

つぼい:結局戻った先も、慣れたらいい場所だったんですけどね。いま思えば転校って大きい出来事で、余計な悩みをたくさん抱え込んだなあと。それと結構微妙なタイミングで転校したので、自分はどっちが地元なんだろうと考えることがあって。「俺の戻る場所ってどこだ?」みたいな。

それで地元らしい場所への憧れがあるんですよね。だから、子どもには地元をつくってあげたいなと。そのためには、転校することがないように、持ち家があったほうがいいだろうと思ったんです。

 

転校生のなやみ なやみと〜る

▲つぼいさんは自らの転校生としての経験をもとに、『転校生のなやみ』という本を書いた

 

山中:なるほど。自分が自由でいたいからフリーランスになったとしても、その自由が家族やパートナーにとっての幸せにつながらないこともある。そうしたときに、自分の自由と家族のしあわせをすり合わせていくのって、すごく大事なことですね。

つぼい:そうそう。自分は自由がいいかもしれないけど、子どもには果たしてそれがいいのか、とは考えました。僕の場合、フリーランスの自由は、もし子どもがいじめにあったときに駆けつけるとか、なにか急なトラブルがあったときに活かせばいい、という結論に落ち着きましたね。

山中:そうか。僕、フリーランスにとって自由は目的だと思っていたのかもしれません。でもつぼいさんの話を聞いて、自由は自分が望む生き方を実現するための手段だなと。なのでときには、望む生き方の実現に向けてあえて自由を放棄する、という選択もあり得るのだな、と気づかせてもらった気がします。

ローンを組むためには「頭金」と「確定申告」が大事

 

山中:でも、フリーランスって住宅ローンを組みづらい印象があります。そのあたりで苦労することはありましたか?

つぼい:僕の場合は、世の中で言われているほどの苦労はなかったように思います。

山中:あ、そうなんですか……?

つぼい:というのも、「やっていてよかったこと」がひとつあって。これは声を大にして言いたいんですけど、フリーランスで家を買うなら頭金をしっかり貯めるのは大事です。

山中:頭金を貯める。

つぼい:そう。僕の場合、運よく頭金となるお金が貯まっていたんです。夫婦共働きで、奥さんがあまり飛行機が好きじゃないこともあって旅行もめったに行かないし、大きな出費もなかった。だから自然とある程度の額が貯まっていたんですね。

それで、「子どもを転校させたくないし、今の家賃より月々のローンの支払額が安くなるのであれば、家を買うのもありかな」と。順番としては、家を買おうと思って頭金を貯めたのではなくて、頭金があったから家を買うことにした、という流れでした。

山中:フリーランスでも、住宅ローンはすんなり組めましたか?

つぼい:どうだろう、不動産屋さんと相談しながらやったんですけど、フリーランスだからといって下に見られることはなかったですよ。頭金がいくらあるかを伝えて、それならこのローンがいけそうですね、みたいなことを話しあって。

山中:頭金の存在が信頼感を生んだのかもしれないですね。

つぼい:あ、でも借りられる金額は少なかったかもしれないですね。本当は短い期間で返済したかったんですけど、35年ローンしか組ませてもらえなかったり。

山中:それでも、借りることはできたと。

つぼい:ですね。あとは確定申告が大事です。個人事業主の場合、住宅ローンの審査に最低でも直近3期分の確定申告書のコピーの提出が必要とされるので、変に過少に申告していると、収入が少ないと思われてローンで組める金額も少なくなってしまいます。

山中:それはジレンマですよね。フリーランスはいかに節税するかを考えがちですけど、節税しすぎるとローンを組むときに苦しむかもしれない。僕はどうするか悩むなあ……。

つぼい:僕は税理士さんをつけて、無理な節税はせずに確定申告をしてましたが、それでもローンは希望の額より減額されました。なので、頭金はもともと貯めていた額もありましたけど、さらにかき集めることになって、それで貯金がほとんどゼロになりました(笑)。

家を買うことで、心の安定を得ることができた

山中:さて、最後に、家を買ったことによるメリットってどんなことでしょう?

つぼい:一番は、心の安定を得ることができたことですね。

山中:心の安定?

つぼい:そう。フリーランスって自由なイメージですけど、自由すぎるのもストレスじゃないですか。選択肢を絞ることで得られる安心もあるんですよ。

住まいっていう点で言えば、賃貸だと気軽に引っ越せるから、僕は更新の時期になるとモヤモヤ考えてしまっていたんですよね。「契約を更新するか、どこかに引っ越すか」って。

そうすると、頭のリソースを使っちゃうので、ヘトヘトになっていた。家を買うとそのストレスがなくなるので、心の安定を得ましたね。

 

 

山中:あえて選択肢を絞ることで安心する、というのは住まい以外でも言えそうですね。働く場所にしても、相手にしても、仕事内容にしても、自分にとって「これは自由じゃなくていい」っていう部分は選択肢を絞ってみる。そうすると、「なんでも選択しなきゃいけない」っていう不安は少なくなりますね。

つぼい:そう思います。あとは僕の場合、35年のローンがいい意味でのプレッシャーになっているっているかもしれません。

 

つぼいひろき 意味ありげな顔

山中:ローンがいいプレッシャーに?

つぼい:昔、実業家の高橋がなりさんが「締め切り直前にならないと作業ができない」というクリエイターの質問に対して「それでいいんだ。創造性っていうのは追い込まれた時に爆発するんだ」みたいに言っていて、その通りだよなと。

その意味では、ローンを組むとある意味追い込まれるから、「やらなきゃ!」って気持ちになりますよ(笑)。

山中:なるほど。「やりたいことは燃えるけど、やらされたことはぜんぜん燃えない」というつぼいさんですが、自由すぎるのもストレスがたまってしまう。そこで、ローンを組むことで「やらなきゃ!」って環境に自分を追い込んだのですね。

つぼい:いいプレッシャーという意味では、僕はいま44歳なんですけど、フリーランスだと50歳の壁があると言われることがあります。僕も若い頃、先輩に「50歳を過ぎると仕事がなくなるよ」って言われてたので。

山中:発注者側が年下になるので、仕事がこなくなる、ということはたまに聞きますね。

つぼい:以前とは状況が違うので、いま本当にそうなのかはわからないですけど。少なくとも僕は50歳になる前に準備をしなきゃと思って、固定収入となる仕事をつくろうとしています。学校で講師業をやるとか、本を出して印税の収入を増やすとか。

山中:そうか、フリーランスが年齢とどう向き合っていくのか、というのも考えるべき大事な問いですね。今日はたくさんの気づきがありました。ありがとうございました!

おわりに

今回の進路相談では、フリーランスはあえて選択肢を絞る、つまり家の購入などで、ある意味自由でなくなることが、精神的な安定につながることもあるんだ、という気づきがありました。

そう考えると、自由は目的ではなくて、自分が望む生き方を実現するための手段なのでは?

フリーランスは、その手段としての自由を、自分の裁量でコントロールしやすい。だから、ときには「あえて自由でなくなる」という選択ができる。そういう意味では、フリーランスは「自由な働き方」というより、「自由であることもできる働き方」といったほうがいいのかもしれません。

(執筆:山中康司 編集/写真/アイキャッチデザイン:Huuuu)

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