日本一発信する税理士に聞く、フリーランスのセルフブランディング論

目立ちたいけど、目立ちたくない───。

フリーランス2年目の私、山中は葛藤しています。今後もフリーランスとして生き残るために「セルフブランディングをしなきゃ!」という気持ちはあるし、正直ちやほやされて悪い気はしません。でも、SNSで自分について発信するとき、「あまり目立ちたくない」と思ってしまう自分もいるのです。

フリーランスとして、「目立ちたいけど、目立ちたくない」ジレンマとどう折り合いをつけながら、セルフブランディングに取り組んでいけばいいのか。今回はそんな悩みを、税理士の大河内薫(おおこうち かおる)さんに相談してみることにしました。

 

大河内薫

なぜ、セルフブランディングがテーマなのに税理士?と思うかもしれませんが、わけがあります。

大河内さんは税金に関する知識をSNSやメディアでわかりやすく紹介して人気を集め、Twitterのフォロワー数3万人、YouTubeチャンネルは登録者数7万人。「日本一発信する税理士」なのです。

 

▲専門家の視点から「学校では教えてくれないお金や税金」について解説する、大河内さんのYoutubeチャンネル

 

フリーランス税金で損しない方法

▲大河内さんが漫画家の若林杏樹さんとまとめた『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版)

 

大河内さんは自身の税理士事務所を経営しているのでフリーランスではありませんが、個人のセルフブランディングについては一家言あり! ということで、今回の「フリーランスの進路相談室」では、大河内さんにセルフブランディングについて相談してみることにしました。

セルフブランディングの意義

山中:大河内さん、はじめまして! 「スーツを着ない税理士」という異名は知っていましたが、さすがにカジュアル……というか、ユニークなシャツを着ていますね(笑)。

 

大河内薫2

大河内:そうでしょう? 漫画家の若林杏樹さんとの共著『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』の宣伝のためにつくったシャツなんです。

山中:(さすがセルフブランディングの達人……!)おそらくこんなカジュアルな税理士は他にいないのではと思うんですが、まずは簡単な経歴を教えていただけますか?

大河内:はい。僕の経歴はこんな感じです。

 

大河内薫 経歴

山中:税理士として独立以来、大河内さんは「税の知識をカジュアルに発信する」存在として、TwitterやYouTubeなどで積極的に発信をしていますね。なぜセルフブランディングに力を入れて取り組むんですか?

大河内:僕は会社を持ってるのでフリーランスではないですが、セルフブランディングという意味では参考になると思うのでお話しますね。以前僕は「スーツを着ない税理士」と名乗っていて、「カジュアルでチャラい」という方向性でセルフブランディングしていました。それは、税理士のイメージを壊すための戦略だったんですよ。

山中さん、税理士ってどんなイメージがありますか?

山中:うーん。スーツを着て、眼鏡で、頭が良さそうなおじさん、みたいなイメージですね。偏見で申し訳ないですが…。

 

大河内薫3

大河内:いえいえ。税理士って、多くの方も山中さんと同じようなイメージを持っていると思います。それが「税金はちょっと難しいもの」というイメージにもつながっている気がしていて。

そうしたなかで、税金に関する知識を経営者だけでなく、学生やフリーランス、アーティストなどたくさんの方に知ってもらうために、税理士に対するカタいイメージを壊したかったんです。

山中:税金について、もっと多くの方に知ってほしいと。

大河内:その気持ちは強いですね。税金って誰にでも関係がある、超大切なことじゃないですか。なのに、多くの方にとってよくわからないものになってしまっています。教育現場でも、税金について学ぶ機会はないですからね。

だからこそ、僕がこうしてカジュアルに税金についての知識を紹介することで、これまで税金のことを考えてこなかった人たちにも税金のことを知ってほしい、という想いで活動しています。

山中:ご自身の承認欲求を満たすというより、社会的な意義のためにセルフブランディングをしているんですね。

大河内:ああ、正直、承認欲求はありますよ。僕、すごく目立ちたがり屋ですから。でもそれだけじゃなくて、社会的な意義のためにセルフブランディングをしている面も大きいですね。

目立ちたくないジレンマを超える

山中:さて、ここから進路相談っぽい話をしてもいいですか?

大河内:どうぞどうぞ!

山中:フリーランスにとってセルフブランディングが超大事!というのは頭ではわかるんですが、僕は目立ちたくないという気持ちもあるんです。「目立ちたいけど目立ちたくない」というか……。

大河内:なるほど。目立ちたくないのはどうしてですか?

山中:やっぱり、批判されたらどうしようって思いますし。あと、たまにTwitterやFacebookで仕事のことを投稿すると、古くからの友人から「遠い存在になっちゃった気がする」と言われて、なんか寂しい気持ちになるんですよね。

大河内:あぁ、ありますよね。僕はもともと目立ちたがり屋で、表に出ることにストレスはないんですけど、そのジレンマはわかります。ただ、そうしたジレンマは越えなきゃいけないですよね。やっぱり目立ったほうが新しい仕事が来る確率や、やりたいことが実現できる確率も上がるわけですし。

 

大河内薫4

山中:そうですよね。僕のような「目立ちたくない」という気持ちがある人間は、どうしたらストレスなくセルフブランディングができるでしょうか?

大河内:目立ちたくない人は、「ストレスの引き算」をするといいと思いますよ。つまり、なにがなくなれば、ストレスなく発信することができるか考えるんです。

たとえば炎上のリスクがなくなればいいのか、仲のいい友達に「遠い存在になった」と思われなければいいのか、実名を出さなければいいのか、顔を出さなければいいのか、とか。ストレスの要因がわかったら、それを引き算して発信すればいいんです。

山中:僕の場合、批判されることのリスクと、友達に「遠い存在になった」と思われることかなあ。それらを引き算すれば、少し楽な気持ちで発信できる気がします。

大河内:あとは「突き抜ける」と雑音は減りますよ。僕もTwitterのフォロワーが3,000人とか4,000人の時は、「税理士なのにチャラチャラして、なにやってんだ」みたいな意見があったんですよね。でもフォロワーが1万人を超えたあたりから、そういう声が届かなくなりました。そこまで突き抜けると、業界内からも世間からも、一目置かれる存在になってくるんですよね。

自分が横綱になれる土俵をつくる

山中:ストレスの引き算ができて、いざセルフブランディングに取り組もう!となったとき、なにから取り組んだらいいんでしょう?

大河内:まずは「横綱相撲がとれる土俵をつくる」ってことですね。

山中:土俵?

大河内:僕の土俵に上ってきたら、たとえ朝青龍が来ようが白鵬が来ようが、僕には絶対勝てません、という土俵です。僕の場合、税理士という土俵には日本で7万8千人いるんですよ。その中には、税金に関する知識だったら僕よりずっと上の方がたくさんいる。だから税理士という土俵で戦うんじゃなく、自分が勝てる土俵をつくるために、税理士に何かを掛け合わせていこうと思ったんです。

 

大河内薫5

山中:掛け合わせるというのは、具体的にどういうことですか?

大河内:税理士という肩書きに、「スーツを着ない」とか「芸術学部出身」とか「日本一カジュアルに税知識を発信する」とかいう要素を掛け合わせていくんです。そうすると、たとえば「税理士×見た目フランク×カジュアルにわかりやすく発信」という土俵では、たぶん僕に勝てる人はいなくなる。まずは自分が横綱になれるようなちっちゃい土俵でトップになって、その土俵をどんどん広げていけばいいのかな、って思いますね。

山中:なるほど……!

大河内:相撲の例えでいうと、得意な決まり手を持っておくのも大事です。つまり、なにが得意技なのか。ライターさんも、「どんな記事でも書けます」っていう方に限って、どんな記事もクオリティがそこそこなことってありませんか?

山中:ああ〜……あると思いますね。

大河内:だから「私は経営者の話を引き出すのが上手です」とか「エッセイを書けます」とか、得意な決まり手を持っておくのも、セルフブランディングをする上で重要だと思っています。そのほうが、相手も仕事をお願いしやすいですからね。

何者かになろうとする必要はナシ!

山中:横綱相撲をとれる土俵を見つけて、自分の得意な決まり手で勝つ。これって、どう自分を理解するかっていう話ですよね。でも、自分を理解するのって難しくないですか?

大河内:おっしゃる通りです。自己理解がすごく重要で、かつ難しい。自分が理解できてない方って、TwitterとかYouTubeで「何者かになろうとする」んですよ。

山中:「何者かになろうとする」とは?

大河内:人って全員、違う人生を生きてきたわけじゃないですか。みんなすでになにか輝くものや自分だけ経験を持っていて、「何者かになってる」んですよ。だから「何者かになる」必要はないわけです。なので、すでに持っている自分の魅力を見つけて、発信しましょうと。その持っているものを理解するのが自己理解だと思うんです。

山中:大河内さんはどうやって自己理解を深めてきましたか?

大河内:めちゃくちゃ時間がかかるんですけど、僕の場合は自分の好きor嫌いなワードやニュアンスを、紙にズラーっと書き出しましたね。やってみると、100個とか200個ぐらいで詰まるんですよ。でも慣れてくると、1,000個とか2,000個とか、場合によっては1万個とか書けるんです。

山中:1万個!?

大河内:そうです。100個、200個じゃ全然駄目で、その向こう側に行かないといけないんです。「もうほんとにでないよ」って思ったとこからが勝負で。なんでもいいんですよ。モフモフというワードが好きとか。正義は大事とか。雨は好きだが梅雨は嫌いとか、もうなんでも思いつくままに(笑)。

そうやってリストアップしたワードをざーっと眺めていく。するとフッと「自分はこんなニュアンスにこだわっていて強みにできるかも」と気付くときがあるんですよね。そうやって自分にしかないものを見つけていくと、自分の土俵や決まり手が見えてくるはずです。

「あいつは俺が育てた」とファンに言ってもらう

山中:自分の土俵や決まり手をみつけたら、次はそんな自分の存在を多くの方に知ってもらう「プロモーション」ですよね。その際に意識していることはありますか?

大河内:プロモーションの話でよく引き合いに出すのが、アイドルのことですね。山中さん、なんで「AKB48」はヒットしたと思います?

山中:なんだろう……総選挙や握手会の仕組みなどでファン参加型にしたから、ですか?

大河内:いいところをついてますね。僕は、ファンも一緒に夢を見ることができたからだと考えています。総選挙で一位をとるとか、ライブでセンターに立つとか、ファンがアイドルの夢に乗っかって一緒に走っていけるのが、いまの時代に合っているんですよ。

山中:大河内さんも、ファンに一緒に夢を見てもらえるように工夫してるんですか?

大河内:はい。僕には「税金を義務教育に」って夢があって。これは30年後ももしかしたら達成されてないかもしれない、壮大な夢です。だけど僕と一緒に歩めば、みんながお金に対して不安を抱えない世界を目指していけますよ、って打ち出し方をしてます。

でも夢を見せるのは、ある種の賭けでもあるんですよ。

山中:賭けというのは?

大河内:夢を見せる以上、成長し続けないといけないからです。「あいつは俺が育てたんだよ」っていろんな人に言ってもらえるのが大事なんですけど、そのためにも自分がちゃんと成長している姿を見せないと、人は応援してくれないですから。

僕は幸い、順調にTwitterやYouTubeのフォロワーが増え、本が売れ、テレビに出て……と成長してるので、「あいつは俺が育てた」っていろんな方に思っていただけてると思います。

山中:「あいつは俺が育てた」って、言われてみたいですね(笑)。

 

大河内薫6

大河内:そのためには、やっぱりちゃんとTwitterやYouTubeで定期的に自分の現在地を発信して、「成長してる感」を出すことが欠かせないですよね。「フォロワー3万人達成しました」とか「書いた本の12刷が出ました」とか「今度テレビに出ます」とか、そういう成果をきちんと報告していくんです。

そうしていると「いや、そんなに君の栄光を報告しなくていいよ」って人はフォローを外してくれる。それでいいんです。そういう方は僕が届けたい方ではなかったということなので。勇気を持ってバシバシ報告していくのが、ブランディングにはいいと思いますよ。

山中:みんなに応援される必要はないですよね。これまでは批判や、応援されなくなることを恐れて発信をためらっていましたけど、割り切りも大事だと思えてきました。

コアなファンに特別感を与える

山中:ある程度プロモーションが成功してフォロワーが増えてきたら、次のステップはどうすればいいでしょう?

大河内:コアなファンに特別感を与えるのはすごく重要です。僕の場合、Twitterのフォロワー3万人、YouTubeのフォロワー5万人という一番広い枠がある。その枠の内側にコミュニティをつくって、そこでしか聞けない話や、SNSに載せないような話をしています。そうするとコアなファンが特別感を感じてくれて、より応援してくれるようになります。

山中:オンラインサロンなどは、まさに「コアなファンに特別感を与える」ためには有効ですよね。

大河内:そうですね。あと、コアなファンに特別感を与えるという意味では、YouTubeを有効活用するのがいいと思います。YouTubeのフォロワーは、それ以外のSNSと比べて「濃い」感じがするんですよ。YouTubeで僕を知ってくれて、Twitterの発言も見たいから僕を見るためにTwitterをはじめました、っていう人がかなりの数いる。

山中:それはうれしいですね。

大河内:YouTubeでは個人への応援の熱量が高い方が集まるのかもしれません。それこそ、YouTubeでファンがついている人のほうが、Twitterの投稿への反応も大きいので。そういう意味では、YouTubeで配信を頑張ってから、そのフォロワーをTwitterに誘導するって流れはオススメです。

最近だったら、「キャリア・副業」とか「生き方」みたいなテーマでYouTubeで配信するのはいいですよ。多くの方々が興味あるテーマなので、フォロワーも増えやすいと思います。

ちゃんと撮影して編集もする、となると大変ですが、今だったらスマホで撮影して配信もできますしね。僕はYouTubeでの配信はおすすめしたいです。

確定申告は怖くない!

山中:最後に、セルフブランディングとは関係ないんですが……そろそろ確定申告の時期で、戦々恐々としている僕のようなフリーランスもいます。そんな方々に、税理士の立場からメッセージをいただけますか?

大河内:本にも書いたんですけど、不安がることはないですよ。ほとんどのフリーランスが、100点満点の確定申告書を提出できてるわけじゃないですから。

山中:100点満点じゃなくていい! 勇気が出る言葉です。

大河内:とりあえずルールの中で自分で考えて確定申告書を作って、提出することができればオッケーです。そのルールをどこで確認するのかっていったら、手前味噌ですけど、やっぱり税理士や国税OBの人といった税金の専門家が言ってることを信じたほうがいいですね。

たとえば確定申告のハウツーが書いてあるアフィリエイターのブログみたいなものは、あまり信じないほうがいいんです。「これは経費にできました」とか書いてあっても、ただ確定申告を提出しただけかもしれない。経費にできるかどうかを判断するのは税務調査だけど、ブログの書き手のところに税務調査が来てるかどうかはわかんないですからね。

山中:ピンチだと藁にもすがりたくなりますけど、情報の取捨選択は必要ですね。

 

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大河内:あとは税務調査が入ったとしても、基本的に嘘さえつかなければ大丈夫なんです。「それはさすがに経費になりませんよね」「ああそうでした、ごめんなさい」みたいなやりとりで終わるので。もちろん、悪意のない間違いの場合ですよ。税務調査も決して怖いものじゃないんです。

山中:てっきり、もっと厳しく叱られるのかと思っていました……。

大河内:芸能人が脱税して大変なことになっている、みたいなニュースを見て怖く感じてしまうかもしれませんが、ああいうケースはレア中のレアなので。あんまり過度に不安に思う必要はないですよ、と伝えたいですね。

山中:なんだかセルフブランディングも確定申告も、大丈夫な気がしてきました。「目立ちたいけど、目立ちたくない」というジレンマがなくなった訳ではないですが、そういった気持ちとも折り合いをつけつつ、フリーランスとしてセルフブランディングに取り組んでいくことができそうです。

大河内さん、今回は進路相談にのっていただきありがとうございました!

(執筆:山中康司 編集/撮影:Huuuu)

フリーランスの進路相談室

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