「専門スキルを伸ばす VS 幅広い領域に挑戦する」フリーランスの生存戦略討論
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自分の「苦手なこと」って、理解していますか?
私の場合はとくに「事務作業」が苦手です。同じ書類を何度書いてもミスをして、直すとまた別の箇所をミスして、どれだけ書いても書類づくりが終わらない……。だから基本的に、書類づくりは自分でやらないようにしています。
申し遅れました。私、フリーランスでライター/編集者をしている鈴木梢と申します。
働き方事情がめまぐるしく変化するここ数年、「会社員をしながら副業」とか「フリーランスとしていくつも肩書きをもつ」とか、いろんな働き方をしている人が増えています。
そんな風にいろいろやってみるために大事なことって、自分の「得意」と「苦手」を把握していることだと思うんです。
……というのは実は、 「多職種フリーランス」として活動する、はましゃかさんにインタビューさせていただいて思ったこと。はましゃかさんは、美大を卒業してそのままフリーランスとして活動をし始めた「新卒フリーランス」です。
「できる仕事が多すぎて困る… 女優志望で新卒フリーランスの20種類の仕事」というタイトルのnoteが話題となったはましゃかさん。できることが多いのはもちろん、記事の最後に「苦手なこと」をしっかり明記していたことが印象的でした。
「フリーランスとして仕事しよう!」と思ったら、たいてい、できるだけたくさん依頼がくるようにするもの。「苦手なことを羅列したら仕事がこなくなるのでは?」と思う人も多いのではないでしょうか。
じゃあなんで、はましゃかさんは「苦手」を明記するのか。そもそもなぜ就職ではなくフリーランスの道を選んだのか。近い将来に目指すのは何なのか……など、新卒フリーランス2年目のリアルを探りました。
目次
鈴木:はましゃかさんは、大学を卒業してすぐ独立された「新卒フリーランス」なんですよね。1年半フリーランスをやってみて、状況はどうですか?
はましゃか:いやもう、ほんとにギリギリで。でも「私は絶対に会社員をやってはいけない」と心底思ったので、しかたないんです。
鈴木:会社員をやってはいけない?
はましゃか:決まった時間や約束を守り続ける、っていうのがまったくできないんです。それでバイトを何度もクビになりまして……。
鈴木:それって、子供の頃はどうしてたんですか? 学校も、登校時間や時間割は決まってるじゃないですか。
はましゃか:中高がカトリック系の学校で「汝の隣人を愛せよ」って教育だったので、みんなが許してくれたんですよ。失敗をしても、自分にとって損なことが起きても、相手を愛するチャンスになるから。
鈴木:優しい世界だ……。
はましゃか:だから大学に入ってから、めちゃくちゃしんどかったんですよ。それまでは基本的に「みんな愛し合う」って世界だったので、そうじゃない人もいることにびっくりして。一度約束を守れなかったら、そのまま友達関係が終わっちゃうとか。そういう失敗を何回もしちゃって……。
鈴木:急にいろんなことが許されなくなった。
はましゃか:そう。それで大学時代は、外に出られなくなって痩せすぎちゃった時期もあって。心療内科に行ったら自分の得意/不得意が明確にわかって、自分を受け入れられたんですけど。
鈴木:受け入れるって、具体的にはどうしたんですか?
はましゃか:そこからはもう、傾向と対策だけ。周りの人に「私はこういう人間なんですけど、それでもよければ仲良くしてください」ってプレゼンしたんです。
鈴木:自分をしっかりと分析して、相手に知ってもらおうと努力できるのがすごい……。
はましゃか:いえいえそんな……。直せないことはがんばって直そうとしても無理だから、その代わりちゃんと説明する。社会のなかでやっていけそうな面は生かす。そうするしかないと思ったんです。
鈴木:はましゃかさんは苦手なことが多いと言いつつも、noteにもあるように、自分の得意/不得意をはっきりと理解されてるところが強いと思うんです。ただ「あんなに細かく書いたら、仕事が来なくなるんじゃないか」とは思いませんでした?
はましゃか:仕事がもし減ったとしても、苦手なことは言っておかないと後からやばくなると思ったんですよね。それであのnoteを書いたんです。絶対に出会っちゃいけない人っていると思うんですよ、私と。
鈴木:絶対に出会っちゃいけない人? 相性の話ですか?
はましゃか:そうそう、私と一緒に仕事をしちゃいけない人です。もしも私の不得意なところを「絶対に許せない」みたいに思う人と一緒に仕事をしたら、お互いにボロボロになってしまう。
鈴木:お互いハッピーになれない。
はましゃか:お互いに不幸になってしまうくらいなら、最初からお仕事を発注されないようにしてしまう、というか。「どうしてもできないことを、わかってくださる方だけ……よろしければ……」という気持ちなんですよね。
それだけ仕事の機会を回避しまくっているので、本当にめっちゃギリギリで……。2回くらい、銀行の残高が3桁になりましたもん。
鈴木:えー! 東京で一人暮らしされているんですよね? ご実家からの支援などもなく?
はましゃか:3桁になってしまったときは、さすがに親に助けを求めました……。でも、援助はそのときくらいですかね。基本的には自活できています。
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▲写真に手書き文字やイラストを組み合わせる、オリジナルの表現「しゃかコラ」
鈴木:はましゃかさんは「しゃかコラ」などのイラスト仕事もされてると思うんですが、どういうきっかけで始めたんですか?
はましゃか:美大にいたこともあって、自分のイラストが別にすごいものだとは思ってないんです。周りにもっとすごい絵を描く人がたくさんいたんで。
ただ、私が描いたものを「いいじゃん!」と言ってくれる人がいて、「私のイラスト、需要あるんだ」と思ったんです。アートに精通している人からの発注はないかもしれないけど、ちょっとしたところに使いやすいのかもしれないなって。
鈴木:それ自体が飛び抜けてうまいとかじゃなくても、需要はある。
はましゃか:そうそう。と言いつつ「描けます!」って自分で言うのはちょっと恥ずかしかったんですけど……やれることはちゃんと言った方がいいかもしれないと思って。
鈴木:それって能動的なエネルギーというか、勇気が要ることですよね。
はましゃか:「受け身でいちゃダメだよ、自分からやりたいことやっていかないと!」とはよく言われます。でも難しいですよ。能動的に動くのって難しい。私は本当に受け身な人間なんだなって思いました。
鈴木:そうなんですか?
はましゃか:それこそ「芝居したいです!」と言い続けてますが、舞台に出たのは1年以上前だし。自分がやりたいことに向かっていくエネルギーよりも、来た球を打ち返すことに必死になっていて。気づいたら1年半経って、毎日が「もう、やばいー!」みたいな感じです。
鈴木:でも1年以上フリーランスで、ご自身で生計を立て続けられてはいるじゃないですか。いろいろやってみて、しっくりきた仕事って何ですか?
はましゃか:なんか……「行って帰ってくる仕事」は得意だなと感じました。
鈴木:行って帰ってくる仕事?
はましゃか:イベントや番組で喋る仕事です。ゲストとして登壇したり、司会をしたり。他のお仕事に比べれば連絡の頻度は少ないし、あとから確認や修正の作業も発生しないので。
鈴木:たしかにはましゃかさんの適性を考えると、取り組みやすそうですね。
はましゃか:その日の100%を出し切って帰ってくれば終わりなので、私に向いているお仕事だなと思いました。
鈴木:夢である役者になるために、別のルートを考えることはありますか? たとえばイベント司会とか出演仕事が多いから、まずはそこで有名になって芝居の道へ進むとか。
はましゃか:そういう方向もあるのかなーとは思います。でも、とにかく本当に実行力と着地力がないまま、ふわふわと1年半を過ごしてきたので、まずはとりあえず「今日返さなきゃいけない連絡をちゃんと返す!」みたいなとこなんですよ。だからもう、何も言い訳できないですね。
鈴木:依頼がきた仕事を断ることってありますか?
はましゃか:私に送ってきてるけど、私じゃなくてもいい仕事だな、みたいな依頼もあるんです。フォロワー数だけ見てるな、とか。そういう案件はお断りしてます。
鈴木:指名でくるお仕事を断ることはあまりない?
はましゃか:生活と仕事を天秤にかけてお断りすることはあります。たとえば作業期間が1週間くらいかかるけど、月4分の1のエネルギーをかけてやる仕事と考えると、単価として厳しい場合とか。そこまでじゃなければ、なるべく断らないようにはしています。
鈴木:ブランディングとかは考えてますか?
はましゃか:あんまり……。でも、「なるべくいい方向に向かうように返す」って努力はします。自分のことを見てくれる人に楽しんでもらえるようなアウトプットをしよう、みたいな。それがブランディングなんですかね?
なんか、全然自分の興味と違うことをやってるわこの人、みたいに見えちゃうのはいやで……うーん、いや、ブランディングはわからないです。なるべくいい形に見えるようにだけ。
鈴木:得意なことや苦手なこと、興味が明確っていうのは、一種のブランディングですよね。それが明確になっていることが、フリーランスとしてまず大事というか。はましゃかさんは、自分をすごくしっかり見ているように感じました。
はましゃか:いやいや、ありがたい……。以前はかわいい、ぶりっこな感じのファッションにもしてたんです。でも最近は髪をピンクにして、あえてちょっと強めの印象にするのも楽しいなと思ってて。そうやって変えてきたのも、ブランディングになるんですかね?
鈴木:ブランディングですね。それを人はブランディングと呼ぶ……。
はましゃか:そうなんですね! なるほど!
鈴木:無意識でできているんですね、すごい。
はましゃか:内面はあんまり変わってないんです。ただ、黒髪ロングのときはアイドルみたいな扱いをされることがあって、なんか違うなと思っていたんですよね。
鈴木:違和感があった。
はましゃか:そう。「違和感がある!」と思って。しかも、外見と内面が全然違うってびっくりされることもあって。だから周りからの印象との齟齬をなくすために、外見を変えてアピールするようになりました。
鈴木:やっぱり、すごく自分のことを客観視できていると思います。普通は違和感をおぼえても、自分をもっとこうしていこうってうまく考えられないことが多いので。
はましゃか:飽き性なんです。変えたらおもしろいって思っただけで。
鈴木:モチベーション管理をどうされてるのかも気になります。
はましゃか:ああ、モチベーション……。気持ちが「もうダメだ」となったら1週間とか半月とか動けなくなっちゃって、残りの期間で目の前の仕事をなんとかするってサイクルが多くて。できるときにまとめて稼いで、ダメなときに備えてる感じです。
鈴木:フリーランスってどうしても仕事に波が起こりやすいし、請けすぎてパンクしてしまうこともあって、なかなか難しいですよね。
はましゃか:なんだか私、第一印象で期待されやすいんです。「いい人ですね」とか「接しやすい」とか「意外と常識人」みたいに言われるんですよ。でもいざ仕事をしてみると、すごい失敗してがっかりされる。がっかりされたくないんです。だから自分のキャリアプランとか以前に、まずは人間的に成長したいんです。自己管理ができる人間に。
鈴木:それは仕事面でも、プライベートでも?
はましゃか:ちゃんと仕事ができないのは、プライベートがちゃんとできていないからだと思うんです。基盤がしっかりしていないから。体調管理とか、モチベーション管理とか。落ち込んだときのリカバリーとか。メンタルがダメになっちゃったらまったく仕事できないって、さすがにまずい。
鈴木:そうなったときのリカバリーって、今まで何かうまくいったことありますか?
はましゃか:ダメになったらそのまま落ちていく、っていうのを何度かやって……それを経験して気づいたのは、大事なのは落ち込まないことじゃなくて、落ち込んだときにどうやって回復してまた戦っていくかってことでした。
鈴木:そうですね。
はましゃか:人に仕事で迷惑かけて「もう仕事できないかもしれない、起き上がれない……」と落ち込んで、時間をかけてなんとか持ち直して。昔は持ち直すために、2ヶ月とか3ヶ月とかかかってたんです。だんだんかかる期間が1ヶ月くらいになって、2週間くらいになって、ダメになるときのパターンを見つけたりして。リカバリーは以前よりも早くできるようになってきました。
鈴木:試行錯誤されてるんですね。仕事のなかで、前に進むためにやってみていることはありますか?
はましゃか:クライアントワークだけに必死になっていても先がないので、自主制作に取り組んでます。自分で自分の時間をつくって、自分が新しくやりたいことをやるのはがんばろうと思ってて。大学の同級生と、去年からZINE(個人で作る雑誌)をつくってるんです。
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鈴木:ZINE! いいですね。しゃかコラとか、はましゃかさんの特技や世界観がすごく生かされそう。
はましゃか:去年はじめてZINEをつくったとき、企業にスポンサーでついてもらえたんですよ。別件でPRのご相談をいただいたので、ZINEの中で実現できるんじゃないかと思って提案して。自主制作のスポンサーになってもらって企業PRにつながるような内容を入れたら、自分の作品はつくれるし、企業としても目的は達成できるし、win-winになると思ったんです。
鈴木:自分がおもしろそうと思う活動にスポンサーが継続的につけば、作品づくりのお金だけで食べていけるようになるかもしれない。相手に言われたものをつくるんじゃなく、相手の要望を叶えるために自分の作品をつくるって、めちゃくちゃ面白いですね!
はましゃか:おもしろいことになりそうですよね! もっとZINEを頻繁に出して、生活ができるくらいのお金をもらえるようになったら一番ですし、そうなっていけばいいですね。
鈴木:フリーランスで生活をしていて「うまくいかない!」としんどさを感じるなら、会社員のほうが逆によさそうとは思わないですか?
はましゃか:とにかくこれ以上、迷惑かけてしまう相手を増やしたくないんです。どうにもならない自分が働ける会社なら、入りたい……入りたいですけど……。
鈴木:入りたくない理由が「これ以上、人に迷惑をかけたくない」ですもんね。
はましゃか:そうですそうです。フリーランスでいるほうがご迷惑をおかけしてるかもしれないんですけど、会社に入ったときの自分の働き方のイメージがまったくつかなくて。週5日働いて土日休むって決まったサイクルが想像できないんです。
鈴木:会社員経験が一度もないんですもんね。
はましゃか:そう、フリーランスの経験しかないのでわからないです。会社で働いてみたら意外とうまくいくのかも。イメージが湧かなくて尻込みしてる、っていうのはあります。
鈴木:しんどいな、難しいな、と日々思うことはあると思うんですが、将来の不安とかはありますか?
はましゃか:お金とか、仕事とか、将来とか、不安が常につきまとってるので、その状態に慣れてしまってる気がします。いいのかわからないですけど。でも、お金がないと病んじゃうし、お金がないとメンタルももろくなると思うので、心の健康のためにもちゃんと稼いでおこう、と。
鈴木:不安にならないだけのお金を稼ぐことが、自己管理につながる。
はましゃか:そうです。だから別に、めっちゃお金がほしい!ってわけでもない。あったら使うし、なかったら使わないで暮らすこともできます。お金がないならないで、素うどんみたいな「限界メシ」を食べてるのがおもしろくなっちゃう。
鈴木:ないならないなりに、楽しめる。近い将来、たとえば2025年とかってどうなってると思います?
はましゃか:ええ〜どうだろう、ちょっと想像つかない……。もしかしたらまだ、来た球を打ち返し続けてるかもしれないですね。ウケてればいいな、とは思います。あとから思い出したときに、おもしろいのがいいんです。お金なくて素うどんを食べてるのとか思い出したら、きっと懐かしくなるだろうなって。貯金残高が3桁になっても、ネタになるし。
鈴木:めちゃくちゃ前向きな……。
はましゃか:うまくいってそうな人も実は苦しんでいるかもしれないし、私だって他の人から見たらうまくいってるのかもしれない。そう考えたら、先が見えなかったり不安だったりしても、やっていけそうな気がするんです。
鈴木:記事を読んで、「はましゃかさんも不安なんだ」って救われる人も多いと思います。今日はリアルなフリーランス事情や心情を聞かせてくださって、ありがとうございました。
(執筆:鈴木梢 編集/撮影:Huuuu)
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