外注貧乏になってない?「会計思考力」で考える正しいビジネスモデルの作り方

外注貧乏になってない?「会計思考力」で考える正しいビジネスモデルの作り方

フリーランスの魅力のひとつは「働き方の自由さ」! せっかくフリーランスになったのであれば、週休3日・1日5時間労働で年収1000万円を目指したいですよね? 今なら海外ノマドという選択肢もあることですし、リゾート地でのんびりしながら気が向いたときだけ働くなんて最高じゃないですか。

もっとも、フリーランスの働き方は「労働集約型」がメイン。稼働時間に応じて売上が変動することが多いので、どんなに頑張っても、単価を上げても、どこかで売上が頭打ちになる可能性があります。

こうした「稼働時間の壁」を打破するためにはビジネスモデルから考え直すしかありません。たとえば外注。作業を分担してくれるヒトがいれば、トータルで稼げる金額も増えるからです。

ただし、外注は受託費・外注費のバランスを考えないと、外注貧乏になるおそれもあります。実際、チームで仕事をしていて、こうした落とし穴にハマる人も多いとか……。

でも、大丈夫です。この外注貧乏問題も「会計思考力」で解決できます。

数字がわかればビジネスはうまくいく。連載第3回目の今回は、コンサル出身の会計&経営分析のプロ・矢部謙介先生に正しいビジネスモデルの考え方や外注貧乏にならないためのポイントを訊きました。

矢部 謙介(やべ けんすけ)
矢部 謙介(やべ けんすけ)

中京大学国際学部・同大学大学院人文社会科学研究科教授・同大学執行役員学長補佐。専門は経営分析・経営財務。コンサルティングファーム等での経営コンサルティング活動に従事したのち現職。マックスバリュ東海株式会社社外取締役なども務める。著書に『決算書の比較図鑑』、『武器としての会計思考力』『決算書×ビジネスモデル大全』など。(X:@ybknsk

聞き手:ぽな
聞き手:ぽな

こたつとお布団、コーヒーをこよなく愛するフリーライター。法学部出身のはずが、なぜか卒論のテーマは村上春樹であった。やれやれ。(X:@ponapona_levi

フリーランスの目標売上高には限界がある……!?

矢部:
前回までは、儲けを出すために必要な売上……目標売上高の話や、それをもとに単価を決める話をしてきましたね。

ぽな:
はい。「年間数十万円の貯金ができる数字」ということで、500万円を目標売上に。そこから逆算した目標時給をもとに、だいたいの単価を決めるところまでいったんですよね。

  • 目標売上高…年間500万円(1ヶ月あたり約42万円、1日あたり約21000円)
  • 目標売上高を達成するために必要な時給(※週5日、7時間労働の場合)……約3000円
  • 目標単価=3000円×(稼働時間or必要な作業時間)

ぽな:
ただ、フリーランスの働き方って、自分のスキルを売るという都合上、どうしても「働いただけ儲かる」ビジネスになりがちで。どんなに作業を速くして多くの案件を捌いても、どんなに付加価値をつけて高単価を狙っても、稼働時間の問題でどこかで売上高が頭打ちになってしまうんですよね。

矢部:
そうですね。労働集約型のビジネスになりますから、自分のキャパシティの限界が売上の上限になります。

ぽな:
だからといって、稼働時間を増やすにも限界があります。ブラックな働き方で体を壊したら意味がないですよ。だからといって、年に数十万円しか貯金ができないというのもちょっと……。

手元に残る儲けが少ない
=手持ちのキャッシュが少ない

→将来への投資(単価は安くてもブランディングにつながる案件を受けるなど)ができないので、ビジネスが先細りになるリスクがある

→未払い、病気などのトラブルがあったときに手持ちの資金が尽きて行き詰まってしまうリスクがある

ぽな:
目標売上高500万円って、フリーランスとしては相当うまくやっている方だと思いますけど、いろいろ考えると不十分ですよね。将来のためにも、もっと、もっと儲けて、自分の手元に現預金をどんどん積み上げていかなければ……!

矢部:
投資をするためにも、リスクに備えるためにもお金は必要ですね。ただ、労働集約型のビジネスでは売上を伸ばすにも限度があるのも事実です。そういう場合はビジネスモデルを根本から見直して、全体のパイを広げましょう!

儲けるための仕組み…ビジネスモデルを考えよう

矢部:
一般的なフリーランスのビジネスモデルは労働集約型です。本人の稼働時間に応じて売上が増えます。そして、労働集約型のビジネスで売上を増やすポイントは、単価を上げる、こなせる件数を増やす、稼働時間を増やす、の3つでしたね。

しかし、こうしたやり方で売上を増やすにも上限があります。いくら単価を上げ、件数を多くこなしても、稼働時間には限界はありますから。そこで売上は頭打ちです。

労働集約型……
単価を上げる、こなせる件数を増やす、稼働時間を増やす
→キャパがいっぱいになったら売上が伸びない

ぽな:
すぐに上限が来そうです。業種にもよりますが、感覚的には600~800万円で限界じゃないでしょうか。

しかも、労働集約型の働き方って自分が働かなかったら、その分収入が減るわけですよね。風邪を引いて2週間休んだだけでヤバいです。考えてみたら、結構リスキーですね……。

矢部:
だからこそ、別のビジネスモデルを考えてみようということです……! この場合、大きく分けて考え方は2つの考え方があります。

モノに働いてもらう

矢部:
1つ目は、モノに働いてもらう方法です。

モノに働いてもらう……
書籍、ストックイラスト、有料noteなど。魅力的なモノやサービスを制作し、それを売って稼ぐ。

矢部:
この場合、労働時間を増やさなくても、モノやサービスが売れればどんどん儲かります。

ぽな:
いわゆるストック収入ですね。あ、モノに働いてもらうといえば、書籍もそうですね。出るまではものすごく大変だけど、一度出てくれれば自分のブランディングにもなるし、何より印税が……。

矢部:
そうですね。出版された後は本が売れるほど収入が増えることになります。

ぽな:
いいなあ、夢の印税生活……! ライターの憧れです!

矢部:
ベストセラーを連発できれば可能ですね。ただ、出版不況もあって難しいことだと思いますが。

ぽな:
確かに、書籍って労力がかかるわりに儲からないみたいな話も聞きます。1万部売れたって、印税に換算したら200万いくかいかないかの世界で……ですよ。そう考えると、ものすごく効率が悪い仕事ですよね……。

矢部:
そうですね。効率の問題もありますが、モノに働いてもらうタイプのビジネスモデルにはそれ以上に大きな問題点があります。それはモノやサービスが売れなければ、お金は入ってこないということです。

ぽな:
ああああああ、せっかくコストをかけてモノやサービスを作っても1円も回収できないリスクもあるわけですね。そういう意味ではハイリスク・ハイリターンのビジネスモデルなのかなあ。若干参入障壁も高そうな気もします……。

ヒトに働いてもらう

矢部:
もう1つは、ヒトに働いてもらう方法です。自分がとってきた仕事を他の人に割り振って、実際の作業はその人たちにやってもらいます。自分はその人たちのマネジメントや営業活動に徹して、その分のマージンをもらう……と。

ヒトに働いてもらう……
自分が取ってきた仕事を他人に依頼し、その「手数料(マージン)」で儲ける。

矢部:
この場合、取ってきた仕事の報酬(受注額)と、人件費(外注費や給料)の差額が儲けになります。

ぽな:
いわゆる外注ですね。そういえば、一般的な会社もこのビジネスモデルですよね。従業員を雇って働いてもらう。労働力が増えればこなせる仕事の量も増やせる分、売り上げも上がりそうです。

矢部:
ヒトに働いてもらえれば、キャパシティの問題はある程度解決ができますから。

ぽな:
実際、周りのフリーランスを見ていても、事業規模の拡大を目的に他のフリーランスへの外注を考える……というパターンはあるような気がします。営業や交渉が得意な人なら、比較的ビジネスモデルとしては挑戦しやすいかもしれないですね。

矢部:
ただ、このビジネスモデルには注意点もあるんですよ。自分の利益が確保できるだけのマージンを外注先からもらわないと、かえって損をしてしまいます。

ぽな:
外注したのに損しちゃうんですか……? どこかで聞いたことがあるような……はっ、これがいわゆる外注貧乏……!?

外注貧乏はなぜ起きる?

ぽな:
思い出しました。そういえば、「売上を増やしたくて他のフリーランスへの外注を始めたものの、大変なわりに利益が出なかった」経験のあるフリーランスの人って結構多いみたいなんですよね。

矢部:
なるほど……。そうですね、「とりあえず外注しよう」という発想で外注をすると、うまくいかないかもしれません。やり方を間違えると、外注しても利益は出ないんですよ。

ぽな:
儲けるための外注のはずがなぜ……。皮肉ですね……。

マージンをもらうのは搾取なのか?

ぽな:
どうして儲けられるはずの外注で儲けられないのでしょうか?

矢部:
厳しい言い方になりますが、それは自分の人件費・儲けを考えずに外注費を決めるからですよ。

ぽな:
なるほど……でも、ある意味とても真面目で誠実というか、マージンをいっぱい取ると搾取になりそうで嫌だ。能力あるフリーランスの方には適正な単価をお出ししたい」と考える発注者もいるらしいんですよね。

矢部:
いやいや、適正な額のマージンを受け取ることは搾取ではありません。というのも、マネジメントやクオリティコントロールって、とても大変な作業なんですよ。

ぽな:
わかるかもしれません……。わたしは専門的な記事を書いていることもあって、他のライターさんには執筆作業を任せられないです。

矢部:
クオリティコントロールの問題って大きいんですよ。

ぽな:
まさに。上がってきた成果物に問題があった場合、自分で全部イチからやり直すことになる可能性もありますしねえ。それでも外注するとなると、半分はマージンを取らないと割にあわないかもしれないですね。

矢部:
そうでしょう? マネジメント担当って大変なんです!

適切なマージンを確保しないと外注貧乏に!?

矢部:
一般的に、現場で作業するプレイヤーより、マネジメントを担当する人の時間単価は高くなります。それを前提に、自分の人件費や利益を確保できるだけのマージンを取らないと、外注しても利益が出ないんです。

ぽな:
まあ、外注先のフリーランスさんにも「営業しなくていい」「事務処理を人任せにできる」といったメリットはありますからねえ。その分の手間賃をもらうのは搾取とはいえ……ない……のか……も……。

矢部:
適正な金額の報酬を外注先に払いたい、というニーズはよくわかります。その場合は、受注単価で調整しましょう。

矢部:
ぽなさんが、「ライターへの適正な報酬が1本2万円」と考える仕事があったとします。これを外注するとしたら、いくらでクライアントから受注しますか?

ぽな:
あ、だんだん話が見えてきました……! 4万円です。4万円で受注します! これなら、自分でイチから作業した場合でも手元に利益が残りそうなので。

矢部:
外注のライターさんが2万円、ぽなさんも自分の取り分を確保して2万円ということですね。これなら外注先も満足ですし、ぽなさんも外注貧乏になりません。

ぽな:
本当ですね。ということは、クライアントからの受注額も考えないといけないですね。あまり高すぎても仕事が取れないかもしれないし……。どうやって受注額を決めればいいのでしょうか。

会計的に正しい受注額の決め方

矢部:
ここでも「会計思考力」を使って考えましょう。クライアント側が外注をするのは、簡単に言えばコストカットしたいからです。社員を雇うことで人件費を固定費化させたくない、という事情もあるとは思いますが、「社員に支払う人件費より外注費のほうが安い」という状態だからこそ、外注する意味があるわけです。

ぽな:
あ、そうか。

矢部:
つまり、「企業側(クライアント側)の人件費より安く、かつ外注費を引いても自分の儲けが出る金額」を「受注額」にすれば失敗しにくいと思いますよ。

ぽな:
クライアント、自分、外注先……関係者全員がウィンウィンの関係になる金額というわけですね。

でも、「企業側の人件費」なんて、どうやって計算すればいいんですか?

矢部:
企業側の人件費を推測するには、その会社の平均給与などの数字が使えます。具体的には、「この社員は1日あたりこのくらいの給料をもらっている。自分に外注することで○日分の人件費が浮いているのだから、○円くらいはもらってもいいだろう」といった感じです。

ぽな:
そうか、社員ひとりあたりの時給を推測して、それよりちょっと安いくらいの金額で仕事を引き受ければいいんですね。

【外注を前提とした受注額の決め方】
・一般に出回っている情報から、企業側の人件費や社員の時給を推測する
・受注額<人件費になるように調整しながら、自分が最低限ほしい金額を決める
(※受注額=外注先への報酬+自分の人件費+自分の利益)

【具体例】
クライアント企業の社員の時給が5000円、10時間かかる仕事であれば、クライアント自らがその仕事をするのに必要な人件費は50000円。
→受注側が45000円で受注すれば、クライアント側は損しない。
→自分の人件費は4000円×5時間=20000円
→外注先に20000円で発注すると、トータル40000円
=自分には5000円の利益が残る。

ぽな:
おお、この状態で10件仕事を受注すれば、自分の人件費をしっかり確保しながら、さらに50000円の利益が出る計算ですね。自分ひとりで仕事をするより、ずっと効率的に利益が出せるぞ……!

矢部:
このサイクルがうまく回れば、どんどん儲かります。これがヒトに働いてもらうビジネスモデルのメリットなんです。

うまく外注できれば売上は伸ばせる。ただし……。

ぽな:
外注貧乏にならないように気をつければ、年商数千万円も夢じゃないかも……そういえば、法人成りするようなフリーランスって、だいたい外注したり、チーム化したりしていますよね。なんでそうなるのか、数字を見てよくわかりました……。わたしも外注チームを立ち上げようかな……。

矢部:
待って、ぽなさん! このビジネスモデルには、ひとつ注意点があるんですよ。

外注費は経費です。外注先が増えるということは、その分の支払いも増えます。

ぽな:
そうか。外注すると、その分経費として出ていくお金が増えるんですね。

矢部:
そうです。「払うべきものが払えない」という事態を防ぐためにも、経費分のキャッシュは手元に確保しておかないといけません。外注先に支払いできるだけのキャッシュがないと、何かあったときに大変なことになります。

ぽな:
ああああ、忘れてた! 未払いのリスクですね……!

矢部:
ええ。たとえ自分が未払いにあったときでも、外注先にはきちんと支払いをしないといけませんからね。

ぽな:
たしかに……フリーランス新法も施行されたことですし、法人成りを目指せるくらい稼ぎたいなら余計に考えておかないといけませんね……。

▼ちなみに、チームで働くスタイルにはこんなリスクも

楽しく仕事を続けるために「数字」がある

ぽな:
いやはや、数字ってすごいんですね。これまであまり考えてこなかったことを反省しています。なんとなく苦手意識があるんですよね。

矢部:
実際、数字が苦手な人は多いかもしれないですね。それは税金の計算なんかでマイナスのイメージがあるからだと思うんですよね。「なんで払う税金を計算するために、こんな手間をかけなきゃならないのか」って(笑)。

ぽな:
確定申告で嫌気が差している人は確かに多そうです(笑)

矢部:
それに、フリーランスのみなさんって、ライティングとかデザインとか専門のスキルがあるわけでしょう。「自分の専門を活かせる仕事は楽しいけど、それ以外の作業はなんとなく楽しくない。お金にもならないし……」って思うかもしれない。それが数字に対する苦手意識を持たれる理由かな、と思うんですけど。

でも、自分がどうやって稼ぐのかということを設計するのに必要なものって、数字なんですよ。こうした数字の話って、自分が今の仕事を続けられるのか、という点にダイレクトに響いてくると思うんです。

ぽな:
そうですね。それは今回、身にしみてわかりました。

矢部:
「働いても働いてもカツカツで貯まらない」「取引先が潰れてキャッシュが足りなくなるかも」と感じながら仕事をするのって、安心できないじゃないですか。でも、継続的に数字を見て、「これなら大丈夫だね」と思えたら、安心して仕事を回していけます。好きな仕事を楽しく続けていくためにも、ぜひ数字を味方につけてほしいなと思います。

今回のまとめ

「仕事を楽しく続けるためには、数字の知識が必要なんだ」という矢部先生の話を伺い、「そうだよなあ」と思いました。働いても儲からないって、悲しいですものね。

なお、今回は矢部先生のご配慮により、ほぼ会計の専門用語抜きで話が進みましたが、もう少し専門的な知識を身につければ「決算書から企業のビジネスモデルを調べる」「財務上のリスクを評価する」といったこともできるようになるのだそうです(詳しくは、矢部先生の著作『決算書の比較図鑑』や『決算書×ビジネスモデル大全』をどうぞ!)。

今回の記事中には盛り込めませんでしたが、矢部先生のご専門は「決算書に現れた数字から企業の実態を分析すること」。

実は今回の取材中も、実在の企業を題材にした企業分析をリアルタイムで見せてくださいました! 表に出ている決算書の情報からいろんなことを紐解いていくさまは、まさにミステリ小説の謎解きを読んでいるよう。今まで何となく苦手意識があって避けていましたが、改めて考えると数字の世界は奥深いようです。わたし自身、会計を頑張って勉強しようと思えました。数字に強くなって、儲かる体質のフリーランスになれるように精進します……!

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(執筆:ぽな 編集:夏野かおる)

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