フリーランスチームで失敗しないために。意外と知らない落とし穴【弁護士直伝】

フリーランスチームの落とし穴

足りないスキルを補い合える、1人では難しいプロジェクトに挑戦できる……といった理由から、フリーランスの「チーム化」に興味がある人もいると思います。

みんなで力を合わせれば、仕事の効率も収入も爆上がり間違いなし……! なんて考えていたんですが、そんなにうまい話ではなさそうです。。得られるメリットも倍なら、背負うリスクも倍。今回はフリーランスチームならではの法律トラブルについて河野弁護士に伺いました。

河野 冬樹(かわの ふゆき)
河野 冬樹(かわの ふゆき)

法律事務所アルシエン 弁護士。主に個人クリエイター向けにリーガルサービスを提供している。ミステリをこよなく愛する活字中毒者。(Twitter:@kawano_lawyer

聞き手:ぽな
聞き手:ぽな

こたつとお布団、コーヒーをこよなく愛するフリーライター。法学部出身のはずが、なぜか卒論のテーマは村上春樹であった。やれやれ。(Twitter:@ponapona_levi

モメる最大の原因は、やっぱりお金?

ぽな:
前回はチームでの著作権トラブルについてうかがいましたが、まだまだ他にもトラブルの種はあるとのこと……。先生が見聞きした中ではどういうきっかけでモメるパターンが多かったんでしょうか。

河野:
以前、法人成りの話をした際に、複数人で会社を立ち上げた場合に想像できるトラブルについてお話しましたよね。ぶっちゃけた話、複数人で仕事をしている場合って、会社組織にしても、個人同士で組んでいるにしても、似たような問題が起きてくるんですよ。

まず、なんといってもお金ですよね。お金の分配をめぐってモメるパターン、これは非常に多いです。

ぽな:
なんと身も蓋もない! しょせんこの世は金なのか……!

河野:
たとえば、会社のお金を社長が勝手に使い込んだらいけませんよね。これはわかりやすい話だと思います。

ぽな:
横領になっちゃいますもんね。

河野:
これと似たようなことがチームでも起きるんですよね。フリーランス同士でチームを組む場合、便宜上チームメンバーで共通のお財布を作る場合があると思うんです。ただ、ここで難しい問題が生じてきます。

というのも、フリーランスって、プライベートと仕事の境界が曖昧な場合が多いじゃないですか。経費に関する感覚も人によって変わってきますよね。

ぽな:
た、たしかに……!

河野:
個人の金銭感覚って人それぞれですから。もちろん、共通のお財布からの使い込みは論外ですが、それ以外にも経費の扱いは争いのタネになりやすいです。

自分が経費だと思っているものをメンバーに認めてもらえなかったりとか、逆に「明らかに経費じゃないだろ」というものをみんなの経費扱いにされたりとか……。

ぽな:
ありそう……。長く一緒に活動すればするほど不満が溜まっていくやつですね……。

河野:
あと、お金の関係の話でもうひとつ。ギャラの問題です。これについては、「ギャラをクライアントに請求できる権利は誰にあるのか」というところから考えていく必要があるんですが……。

ぽな:
えーと、ギャラを請求できる権利がある人って、クライアントと契約を結んでいる人ですよね? あ……れ……? そもそもチームを組んでいる場合って、クライアントとの関係ってどうなるんですか?

河野:
これについては、チームメンバー同士の関係をどう考えるかで結論が変わります。ひとつは、チームメンバーのひとりが元請けとなってクライアントと契約を結び、他の人は下請けになるパターン。

もうひとつは、組合のような場合ですね。メンバー全員が平等で、ひとりがみんなを代表してクライアントと契約を結んでくると。責任も権利もみんなでシェアするイメージです。

ただ、実務上は誰かひとりがリーダーシップを取らないとプロジェクトが進まないことが多いので、前者の元請け・下請けっぽい関係に落ち着くことが多いように思います。

ぽな:
一人が窓口役になってくれると、クライアントさんもやりやすいでしょうしね。

河野:
そうですね。それが本来チームを組むメリットのひとつでもあるはずです。ただ、このとき忘れてはいけない問題があります。ギャラの未払いがあった際に誰がリスクを取るのか。

たとえば、チームで総額50万円で仕事を受注したとします。ここでクライアントとの窓口役になっている人、いわば元請け的なポジションの人が「私の口座に入金された50万円のうち、20万円は私の取り分です。ほかの30万円はみんなに払います」という話になったとしましょう。

ぽな:
はい。ここまでは、チームで仕事をするならよくありそうな話ですよね。

河野:
ところが、みんなちゃんと仕事をしたものの、何らかの理由で50万円入ってきませんでした。

ぽな:
げっ……。

クライアントと50万円の業務委託契約を結び、メンバー1人10万円で発注した場合

河野:
そうなったとき、下請け的な立ち位置にいるメンバーとしては、元請けにお金が入ってこようがこなかろうが、自分の仕事をやった以上は元請けにその分のギャラである30万円を請求できるということになります。

ぽな:
なるほど……。その場合、元請けポジションにいる人は、自分のポケットマネーから30万円を出さないといけないって話になってきそうですね。これはたまったもんじゃないですよ。

河野:
窓口役の人としては「いや、もともとチームだし、メンバーはみんな平等で、リスクも分担するものでしょ」って反論したいですよね。ただ、こういう主張って、きちんとチーム作る際に契約書を作っていないとまず認めてもらえないだろうと思います。

そもそも根本的な問題として、お金が入ってこないケースって、クライアントとの契約書をちゃんと作っていないケースが大半なんですよ。でも、クライアントとの契約書を作らない人が自分たちがチームを作る際に契約書を作るかというと……。

ぽな:
十中八九作らないでしょうね……。

あのー……。こう言ってはなんなのですが、こういうケースってもうチームを結成する時点で既につまずいていませんか? 「一緒にやろうぜ!」って声をかけた時点で、すでにトラブルの種がまかれてるような気がしてならないんですが……。

河野:
そういうことですね。ぶっちゃけた話、クリエイティブ系の仕事でチームを組んだ場合って、この手の金銭トラブルでモメることが非常に多いんですよ。

とはいっても、実際フリーランスの方の場合、誰かとチームを組まないと仕事にならない、という側面もあります。それに、チームを組むことで、自分ひとりでは作れないような実績を作ることもできますしね。

ぽな:
そうですよね。私自身、この連載も含め、ひとりじゃできなかった仕事って結構あります。

河野:
ただ、実績を含むメリットも倍になる代わりに、リスクも倍になるということは知っておいてもいいかもしれません。

そもそも元請け・下請けパターンになっちゃうのであれば、必ずしもチームである必要はありませんよね。1回の案件ごとに、誰かに仕事を振る形にしてもいいわけです。恒常的なチームを組んで動く必要がどれくらいあるのか、という話になってしまうんですよね。

ぽな:
むむむ……。たとえば動画制作のように、必然的に長期間チームで動かざるを得ないプロジェクトもあると思うんですが、そうでない場合は本当にチームの形にする必要があるのかという部分から考える必要がありそうですね。

誰かとチームを組んで仕事をする際に気をつけるべきこと

ぽな:
では、実際に誰かと組んで仕事をする場合、どんなことに気をつければいいんでしょうか?

河野:
法律以前の話ですが、組む相手を選ぶことでしょうね。

ぽな:
信頼できる人と組みましょう、ってことですね。

河野:
その上で、契約書を作るなどして、トラブルが起こらないように、内部の関係性を明確にしておいた方がいいです。

ぽな:
関係性を明確にしておくことでトラブルが防止できると。

河野:
もちろん、誰も悪くないのにモメてしまうパターンもあります。たとえばチームそのものが外部の大きなトラブルに巻き込まれてしまったり、メンバー同士の不公平感が積り積もって爆発したり、といったパターンが考えられるでしょう。

結局、「うまくいっているうちはいいけど」ってある意味、正鵠をついているんですよね。変なトラブルに巻き込まれないようにしよう、というのが一番大事です。

ぽな:
一度何らかの形で地雷が爆発したら、チーム自体も終わっちゃうということですね。

河野:
うん。チーム自体がトラブルに巻き込まれた場合は、誰がその責任を取るのかという話になりますから。たとえば納品物に問題があった場合、対外的には表に出ている人が責任をとらざるをえない流れになると思うんですよ。

ぽな:
クライアントと契約しているのは、その窓口役の人ということになりますもんね。でも、窓口役としては納得できないでしょうね。特に、ほかのメンバーのミスが原因だった場合は……。

河野:
対外的な問題を処理した後は、責任の所在をめぐって内部でモメますよね。しかしそもそも無責任なことをする人って、トラブルが発覚したとたんにトンズラしちゃうケースが多いんですよね……。

ぽな:
うわぁ、そうなると結局、対外的に表に出ている人が損をかぶって終わりということになりますね。うまくいっているときは「チーム万歳」って感じですけど、何かあったときは地獄絵図……!

河野:
でも、チームで動くってそういうことだと思うんですよ。自分以外の功績や責任が、自分にかかってくる。

ぽな:
実績もリスクもみんなでシェアというか。

河野:
チームで動く場合、何事も自分だけの問題じゃ済まなくなりますから。プラスもマイナスも、全部引き受ける覚悟が必要だと思いますね。もしメンバーが何かやらかして自分が責任をとらされたとしても、許せるかどうか……。

フリーランスは「トラブルは自己責任」って、よく言いますよね。ただ、「ほかの誰かに対する責任があるから、トラブルを避けなきゃいけない」という発想にはあまり至らないように感じます。自分が「大丈夫だ」と思っていても、他の人にとってはそうじゃないかもしれない。そこは意識しなければならないポイントだと思いますね。

ぽな:
そう考えると、ますます人選は大事ですね。ただ、「相手のリスクを引き受けてもいい」と思えるだけの愛情を持てる人がどれだけいるのか……。

河野:
まあねぇ……。ただ、フリーランス同士でチームを組む場合、一度トラブルが起きたら終わり、という性格がどうしてもあります。なので、「喧嘩別れを防ぐ」というよりは、何かあったらすぐにお別れできるようにしておくことが重要じゃないかと思うんですよ。

ぽな:
組む前から別れ話を考えておくんですか!?

河野:
そもそも人って変わっていくものですし、お別れしないようにするというのは無理だと思うんですよ。むしろ、別れるべきときは別れるべきだし。

逆に、何かあった場合にすぐに解散できるのが、会社組織ではないチームのメリットともいえます。だからこそ会社組織にせず、チームというゆるい形を選んでいるんだと思うんですよね。これが会社だと、退社の手続きが大変ですから。

ぽな:
なるほど……。

河野:
バンドが「音楽性の違い」で解散するじゃないですか。あれもフリーランスチームのトラブルの一種とも言えなくもありません。

特にクリエイティブ系の仕事だと、感覚的に合う・合わないの問題を避けるのは無理だと思うんですよ。となると、モメないようにするのではなくて、むしろスムーズにお別れできるようにすることが大事なんです。

ぽな:
むむむ……。ある意味、ドライさが求められるのかもしれないですねえ。

河野:
きれいにお別れできないと大変ですから。ほら、SNSで乱闘が起きたりね……。

チームがうまくいかなかったときのことも最初から想定しておくべき?

「別れるべきときに、きれいに別れられるようにしておくことが大事」という河野先生のコメントが胸に突き刺さりました。

「それはそれで寂しい話だな」とも思ったのですが、お金や責任問題が絡むと人間関係がこじれやすいのは、河野先生がおっしゃるとおり。大モメしないようにするためにも、フリーランス同士でチームを組むときは最初から「ドライな感覚」を忘れないようにしておいたほうがいいのかもしれません。

人間、楽観的な想像をするのは得意な反面、「うまくいかなかったとき」の想像をするのは難しいものです。

別れるべきときは、すっぱりと。これからの座右の銘にしようと思います!

(執筆:ぽな 編集:少年B 協力:河野冬樹弁護士 イラスト:はこしろ)

【連載】フリーランスのための白熱法律教室

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