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「2025まで働けますか?」 悩めるフリーランスに伝えたい、脱・自己責任のすすめ

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「はたして将来、フリーランスとしてやっていけるの?」

 

日本には現在、341万人(※1)から390万人(※2)程度のフリーランスがいると言われています。2年前にフリーランスになった筆者も、そのはしくれ。「これで自由に働けるぞ!」と希望に胸を膨らませたのもつかの間、だんだんと冒頭のような不安が胸に重くのしかかってきました。

 

なにしろ、フリーランスはなにをするのも「自己責任」。僕も今年31歳を迎え、おそらくこれから結婚や子育て、両親の介護などが待ち構えています。

 

しかも聞くところによれば、2025年には日本は団塊世代が75歳を超え、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上という「超高齢社会」に。そして、いまの社会保障の仕組みは維持することが難しくなるらしい。そうなれば、結婚・子育て・介護などにともなうライフリスクは、これまで以上に個人の背中に重くのしかかってきそうです。

 

そんな状況で、不安を抱えているフリーランスやフリーランスを目指す方は、僕だけではないはず。

はたして僕らは今後、フリーランスとして働いていけるのか? 上手に働いていくためにはどうしたらいい? そんな不安を、フリーランスの働き方をサポートしている『一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア ・ フリーランス協会(以下:フリーランス協会)』の平田麻莉さんに相談してみることにしました。

 

※1 内閣府「日本のフリーランスについて―その規模や特徴、競業避止義務の状況や影響の分析―」(2019)
※2 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)「雇用類似の働き方の者に関する調査・試算結果等(速報)」(2019)

 

平田麻莉(ひらた まり)
平田麻莉(ひらた まり)

大学卒業後、PR会社で国内外50社以上の広報業務に従事。修士号取得、専業主婦を経て、現在はフリーランスで広報や出版を行う傍ら、プロボノの社会活動として、2017年1月にプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。 政策提言を始めとする8つのプロジェクト活動や、フリーランス向けベネフィットプランの提供など、 新しい働き方のムーブメントづくりと環境整備に情熱を注ぐ。

聞き手:山中康司
聞き手:山中康司

ITベンチャーやNPO法人勤務を経て編集者として独立し、フリーランス2年目。30歳という節目を迎え、これからフリーランスとして働いていくべきか悩んでいる。

 

フリーランスが増えていくのは世界的な流れ

平田さん1

山中:というわけで平田さん。今日は取材というより、不安を相談しにきたような気持ちなんです。

平田:はい。なにかヒントになれば嬉しいです。

山中:まずは相談の前に、いまのフリーランスの現状を知りたくて。日本のフリーランスの数って増えているんですか?

平田:増えていると思います。これまで日本でフリーランスの数について定点観測した調査はないのですが、2019年の調査では340万〜390万人と言われています。ちなみにアメリカでの調査によると、この5年間でフリーランス人口は1000万人増加して、アメリカの全労働人口の35%に達しているそうですよ。

山中:労働人口の35%?! すごい数字ですね……。

平田:この調査からもわかるように、フリーランスが増えていくことは世界的な流れになっています。

山中:どうしてフリーランスが増えているんでしょう?

平田:背景として、「機会」と「脅威」の両方があります。

「機会」としては、ITの進展によって独立・開業・副業のハードルが大幅に下がり、スマホ一台あれば仕事ができるようになったこと。そのため、現在ではフリーランスの方の職種も多様化していますし、副業でフリーランスとして働く方も増えてきましたよね。

一方で「脅威」としては、「2025年問題」も叫ばれているように、少子高齢化で労働力不足になるなかで人材が貴重になってくるわけです。なので、終身雇用でひとつの会社がずっと人を囲い込むのではなく、雇用の流動性を高めて、人材をシェアしていかなければいけなくなってきています。個人にとっても、人生100年時代で労働寿命が長期化するなかで、柔軟で多様な働き方に対するニーズが増しています。

あとは労働寿命も延びているので、長く働けるような働き方が求められている。そうした「機会」と「脅威」があるなかで、フリーランスという働き方が可能かつ求められるようになってきているんです。

山中:なるほど。ITの進展や少子高齢化は今後も進んでいくことを考えると、たしかにフリーランスは増えていきそうですね。意識せずとも僕は世の中の時流に乗っていたのか……。

フリーランスが抱えがちな「3つのトラブルとリスク」

山中:最初にお伝えしたように、フリーランスとして僕も将来に対して漠然と不安があって。でもいまいち、具体的になにを考えていいのかもわからなんですよね。恥ずかしながら……。

平田:将来に不安を抱えるフリーランスの方は多いですよね。山中さんのような漠然とした不安に関していえば、私はフリーランスのトラブルやリスクとその対応を、次の3つに整理しています。

 

フリーランスの法的保護に関する論点

▲平田さんより提供

平田:ひとつは「仕事上のトラブル」。報酬の未払いや一方的な減額、支払い遅延、ハラスメントなどのトラブルに悩むフリーランスの方は多いんです。フリーランスの働き方は法律による規制がなかったり、相談窓口のようなサポートがなかったりするので、泣き寝入りしてしまう方が多いんですよ。

もうひとつが、「仕事上のリスク」。フリーランスのなかには不当に低い報酬で働くことを余儀なくされていたり、キャリアアップやスキルアップの機会をなかなか得ることができない方もいます。ただ、この「仕事上のリスク」は、フリーランスのなかでも賛否両論ある点で。「値段や働く時間を自由に決める裁量が欲しいのに、規制されちゃったら派遣と同じになるじゃないか」「自ら学び続けられることも含めてプロフェッショナルの要件だ」みたいな声もあったりします。

最後が「生活健康のリスク」。たとえば健康や出産、育児、介護などのセーフティーネットが、フリーランスは会社員と比較して十分でない現状があります。日本の社会保障の仕組みは高度経済成長期に会社員の働き方を念頭に置いてつくられたので、フリーランスはそうしたセーフティネットから漏れてしまいがちなんです。

山中:まさに、僕やまわりのフリーランスもこの3つのいずれかで悩んでいることが多いです。こうして整理されると、なにを考えたらいいのか少し具体的になってきますね。

フリーランスを取りまくセーフティネット

平田さん2

山中:とはいえ、やっぱり「フリーランスは自己責任だよね」というイメージは強いんです。これらのトラブルやリスクを一人で抱え込まなきゃいけない気がしていて。

平田:フリーランス協会では、まさにその「フリーランス=自己責任」という考え方を変えていきたいんです。

山中:フリーランスは自己責任ではない?

平田:もちろんフリーランスである以上は一人一人が「経営者」なので、一定のビジネスリスクは負わざるを得ません。でも、先ほど紹介したようなビジネストラブルやライフリスクについては、働き方に中立なサポートがあった方がいい。行政や民間が用意している、セーフティネットとなる仕組みを上手に活用することで、個人にかかる負担を減らすことができるんです。

山中:具体的にどんな制度や仕組みがあるんですか?

平田:たとえば行政の制度や法律として、以下のようなものがあります。

 

 

山中:(なんとなく名前は聞いたことがあったけど、どれもよく知らないな。あらためてちゃんと調べてみよう。)では、民間が提供するサービスはどのようなものがありますか?

平田:手前味噌ですが、フリーランス協会でフリーランス向けに保険や福利厚生などを含めた「ベネフィットプラン」を提供しています(詳しくは下記の図を参照)。

 

フリーランス協会のサービス

山中:先ほど説明いただいた3つのトラブルとリスクに対応したかたちになっているんですね。たしかに平田さんが教えてくれた行政や民間のセーフティネットを活用すれば、「フリーランスはすべて自己責任」という苦しさから解放されそうです。

平田:意外とフリーランスを支える制度はあるけど、あまり知られていないんですよね。あと、知っていても手続きが面倒な制度もあるので、そこはフリーランス協会の役割として「手続きを簡単にしてください」と行政の方に伝えています。

「インボイス制度」はフリーランスいじめじゃない

山中:そういえば最近、フリーランス仲間で「インボイス制度」が話題になります。2023年10月1日から「インボイス制度」が導入されると、免税事業者である多くのフリーランスは免税事業者でいられなくなってしまう可能性がある。「フリーランスいじめ」みたいな制度じゃないかと。

平田:私の考えでは、「インボイス制度」そのものは悪いものじゃないと思っています。そもそも消費税を取引相手に請求して、それを正しく納めることは、課税事業者からすると当たり前の話です。むしろ免税事業者でいられることがラッキーだと思った方がいいんじゃないかな、と。

なぜインボイス制度が必要かというと、軽減税率を導入したから。ですが、軽減税率を導入している国では「インボイス制度」は当たり前のものなんです。

 

平田さん3

山中:なるほど。

平田:もし免税事業者だったフリーランスの方が「益税(※3)」、つまり取引先から支払われた消費税分の利益がないと食べていけない、というのであれば、それはそもそもその報酬の金額が間違っている。むしろ今までは、「益税」があるからこそ、「どうせ消費税を払ったって納めないんだから、内税でいいですよね?」と、発注側による消費税の買いたたきが横行してたのも事実ですから。

※3 益税とは、中小・零細企業の負担を軽くするために導入された特例により、消費者が払った消費税が国や自治体に納税されないまま企業の手元に残ることを指す

山中:報酬が低いことのほうが問題だ、と。きちんと交渉することで、自分がのぞむだけの報酬をもらえるようにすることが必要なわけですね。

平田:そうです。これを機会に、フリーランスが正当な報酬と消費税をもらえる社会にしていきたいですよね。

あと、私がフリーランスが税金を納めた方がいいと思っているもうひとつの理由が、セーフティネットの整備につながるからです。フリーランスも税金を正しく請求して正しく納めるからこそ、「そのぶん社会保障もちゃんとしてくださいね」という声を国に聞いてもらいやすくなるわけです。

山中:そうか。「税金を納めるのはいやです。でも、セーフティネットは整備してくださいね」だと、説得力がないですもんね。

フリーランスは「専門スキル」と「間接スキル」を高めることが必要

山中:フリーランスを取りまく制度や仕組みについて、だんだんとわかってきました。必ずしも「フリーランス=自己責任」ではないんですね。

平田:たしかにフリーランスはすべて「自己責任」だと思う必要はないけれど、私はフリーランスには「自己研鑽」が求められると思っています。

山中:「自己責任」よりも「自己研鑽」?

平田:そうです。ライフリスクに対してはセーフティネットを活用し、個人にかかる負担を分散させる。一方で、研修やマネージャーからのフィードバックがある会社員と比べて、自分のスキルを自分で上げていくことが欠かせません。とくにフリーランスとして食べていくには、専門スキルと間接スキルの両方が必要です。

 

平田さん4

山中:「専門スキル」と「間接スキル」?

平田:「専門スキル」は、特定の職域に関する専門知識やスキルのことです。たとえば山中さんみたいなメディアのお仕事をしている方であれば、最近のメディアをめぐる動向や文章力など、環境変化や技術革新に合わせて自らをアップデートし続けることが求められますよね。

一方、「間接スキル」は、対価をもらうための基盤となるスキル。たとえば経理や法務の知識、クライアントへの提案・交渉スキル、コミュニケーションスキルなどを指します。 フリーランスは「一人経営者」でもあるので、間接スキルを身につけることで身を守り、事業を成長させることが必要なんです。

山中:「専門スキル」については意識して身につけていますが、「間接スキル」についてはあまり意識していなかったかもしれません。

平田:「間接スキル」は大事ですよ。たとえば、クライアントへの提案・交渉スキル。フリーランスのなかには、ただ言われたことをこなすだけになってしまい、なかなか自分のバリューが発揮できず、結果として報酬も上がらない……というサイクルに陥ってしまう方もいます。

そうならないためにも、たとえば「この記事はもっとこういう視点で書きたいんだ」とか、「ここはこうした方がもっとよくなるはず」とか、第三者だから言えることをきちんと伝える。そして自分にしかない価値を提供し、報酬についてもきちんと論理的に交渉することが必要です。

山中:同じ「専門スキル」を持っていても、コミュニケーション力のような「間接スキル」によって提供価値も報酬も変わってくるんですね。

平田:よく「フリーランスって、コミュニケーションが苦手な人がやってるんでしょ?」という方もいるんですが、とんでもない。フリーランスの人こそ、コミュニケーション力が大事です。

私たちが2019年にフリーランスを対象に行った調査『フリーランス白書』では、直近 1 年間で仕事に繋がった実績がある主な仕事獲得手段は、「人脈(80.4%)」、「過去・現在の取引先(59.4%)」、「自分自身の広告宣伝活動(Web・SNS・新聞・雑誌など)(30.7%)」でしたよ。

山中:たしかに僕も、人とのつながりでお仕事をもらうことが多いです。

平田:とくに、自分の業界や職種の方はもちろん、それ以外の方とも積極的につながりを作ると、結果として情報が集まり、切磋琢磨することもできる。さらに、フリーランスはチームを組んで大きな案件取りにいくこともあるので、相手を巻き込む力や巻き込まれる力も必要になります。そうしたつながりを作るコミュニケーション力は、フリーランスにとって大事なスキルです。

企業側の受け皿を整えることも必要

平田さん5

山中:今回の取材テーマである「2025年のフリーランスの働き方」についてですが、平田さんはどうなると思いますか?

平田:個人・行政・企業、それぞれの観点からお話しすると、まず個人としては、先ほどお伝えしたように「自己研鑽」をしていくことが必要だというのは変わらないはずです。

あとは、行政の視点では、フリーランスに対するセーフティネットの整備は急務ですね。「2025年問題」が叫ばれているように、2025年には定年を延長できなかった人達の多くがフリーランスになる可能性があるわけです。そうした「高齢者のフリーランス」が今後どんどん増えていくので、健康保険の整備など、国としてしっかりやっていかないといけない。

山中:フリーランスの中には、何年も健康診断を受けていない方もいますよね。

平田:そうでしょう。でもそれって、その人達がみんな病気になったら医療費が膨らんでしまうので、将来的な社会保障コストを増やしているとも言えます。だから、フリーランスのセーフティネットを整備するのは行政にとっても合理的な判断ですし、そうなるようにフリーランス協会としても働きかけていきます。

山中:企業の視点からはどうでしょう?

平田:企業側は不可逆な労働人口減少のなかで人材をシェアしていくことが求められているので、フリーランスの受け皿を整える方向に向かうことを期待しています。

フリーランスになりたい方や、副業をしたい方は今後さらに増えますが、まだ企業の受け皿が整っていない。とくに地方の企業に多いですが、そもそも業務委託で仕事を発注するという発想がなかったり、あったとしてもフリーランスを安価に、かつ労働基準法を気にせずに活用できる労働力としてしかみていないような企業もあるんです。

山中:フリーランスが増えても、受け皿が整わなければ活躍の場がないですもんね。

平田:なので、フリーランス協会でも、法人向けセミナーを開催するなどして企業側の発注リテラシーを高めるための取り組みをしています。日本全体で、フリーランスをはじめ多様な働き方が選択しやすい社会を実現したいですよね。

2025年のフリーランスの働き方を探る取材は続く

取材を終えて、フリーランスとして働いていくことに対する漠然とした不安は小さくなっていました。かわりに胸に残ったのは、平田さんの「自己責任ではなく、自己研鑽」という言葉。

フリーランスである以上、スキルや知識を高めていかなければいけません。そして、今回の取材のように、自らフリーランスという働き方についての情報を得ていくことは、将来も働き続けることにつながる、大事な自己研鑽なはずです。

というわけで、これから僕と同じくフリーランスとして葛藤を抱える仲間たちと、「2025年のフリーランスの働き方」を探る取材を続けていきます。連載名は、「2025まで働けますか? フリーランスの進路相談室」。フリーランスとしてのキャリアに悩んでいる方、これからフリーランスになろうとしている方は、どうぞお付き合いください。

(執筆:山中康司 編集/写真/アイキャッチデザイン:Huuuu)

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