ハローワークでは出会えない層に届ける。リファラル採用とアルムナイ採用の始め方

「……ゼロ。……今週も、我が社への求人応募は、ゼロ……」

ここは健王建材のオフィス。しがない人事・ひよ吉は、デスク上のPC画面を虚ろな目で見つめていた。

「給与も相場より少し高く設定したし、福利厚生にお弁当補助だって追加した。なのに、なぜ誰も応募してくれないんだ? もしかして、この世から『働きたい人』そのものが消滅してしまったのか……?」

極端な白か黒か思考に陥ってしまっているひよ吉の背後から、カッカッカッと買ったばかりであろう革靴の底が床を踏み鳴らす、軽快な足音がやってくる。

「そうやって安易に嘆く前に、自分の立ち位置を見つめ直してはいかがですか、ひよ吉さん」

背後から響く、冷徹なまでに冷静な声……振り返るまでもない! 我らがミスターHRだ!

【話し手】

ミスターHR
ミスターHR

歴20年のベテラン採用コンサルタント。このたび健王建材の人事部に採用コンサルとして参画することになった。

【聞き手】

人事 ひよ吉(じんじ ひよきち)
人事 ひよ吉(じんじ ひよきち)

健王建材の総務兼人事担当。「若くてリテラシーのある人」を採れと社長に言われている。これまでの施策を惰性でなんとなくやっているが、応募数は右肩下がり。うーん、どうしたもんかしら。

リファラル・アルムナイ経由の社員はなぜ定着するのか?

ミスターHR:
ひよ吉さん。あなたが今やっているのは、単なる条件の叩き売りです。スペックだけで比較される場所で、大手企業やほかの競合会社と1円単位の給与争いをして、結果に繋がると思いますか?

迷える人事:
ミスターHR! でもでも、ハローワークや求人サイトに出さないと、そもそも我が社の存在を知ってもらえないじゃないですか。少しでも求職者の目に留めてもらうためには、わかりやすく良い条件を提示しないと。

ミスターHR:
もちろん認知を得るのは採用活動において大切です。しかし、存在を知ってもらう方法は、広告だけではありませんよ。

むしろ、あなたが本当に求めているような層は、大手求人サイト経由では出会えない可能性もある……以前、そうお伝えしましたよね?

ひよ吉さん。「登録者数が多ければ、きっと良い出会いがあるはず」と考えるのは大きな誤りですよ。

たとえばあなたが大谷翔平だとして、自分に合う所属球団を探したい!と思ったとき、自らIndeedで検索して応募しますか?

迷える人事:
ああ、なんかおっしゃっていたような……。でもそれって、前に教えてもらったSNSでの採用活動とも別のルートがあるということですか?

ミスターHR:
ご明察!今日お話しするのは、リファラル採用とアルムナイ採用です。

迷える人事:
リファラル? アルムナイ? えっと、初めて聞く単語なんですが……。

ミスターHR:
ざっくりと説明しましょう。リファラルは社員紹介のことで、アルムナイは一度退職した社員がまた戻ってくることを指します。

リファラル採用
社員が、知人や友人を自社に紹介する採用手法のこと。企業文化や仕事内容を理解した社員が間に入るため、入社後のミスマッチが起こりにくい点が特徴。求人広告だけでは出会えない層にアプローチできるほか、採用コストを抑えやすいメリットも。一方で、紹介者との関係性に配慮したコミュニケーションが求められる。

アルムナイ採用
一度退職した元社員(アルムナイ)をふたたび採用する手法のこと。企業理念や業務内容を理解しているため、即戦力として活躍しやすい点が特徴。転職や独立を経て、新たな経験やスキルを身につけた人材が戻ることで、組織に新しい視点をもたらすケースも。近年は、人材不足を背景に注目が高まっている。

迷える人事:
なるほど。要は「ツテ(縁故)」ってことですね。

ミスターHR:
簡単な言葉で言うとそうなります。

なんといってもリファラルやアルムナイ採用の強みは、定着率の良さ。たとえ採用活動が上手くいって一度にたくさん採れたとしても、たくさん辞められては意味がありません。せっかく採用した人材が定着してくれるのは、大きなメリットです。

迷える人事:
ツテ採用にメリットがあるのはなんとなく分かります。でもそれって、いわゆる大企業がやるような施策じゃないんですか? うちみたいな建材会社にはハードルが高すぎる気が。

ミスターHR:
ハードルが高いと感じるのは、それぞれの本質を理解していないからです。今日はその誤解を、徹底的に解いてあげましょう。

定着率の秘訣はカルチャーマッチの深度

迷える人事:
ミスターHR、そもそも根本的な疑問なんですけど。リファラルやアルムナイで入った社員って、求人媒体を経由して採用した場合と比べて、本当に定着率が良いんですか?

感覚的には理解できますけど、どんな手法で採用しても、結局、辞める人は辞めるんじゃないかなって思っちゃうんですが。

ミスターHR:
結論から言いましょう。定着率は圧倒的に高いです。 その理由は、カルチャーマッチの深度にあります。

迷える人事:
カルチャーマッチ、ですか。

ミスターHR:
求人媒体経由の採用では、その企業の良いところだけを見て入社する可能性が高いです。すると入社後に「思っていたのと違う!」というギャップ、つまりミスマッチが生まれる懸念がある。

しかし、リファラルやアルムナイは違います。

リファラルなら、現役社員から「うちの会社、こういうところは100点じゃないけど、こういうところはメチャクチャ良いよ」と、泥臭い部分も含めたリアルな情報を聞いたうえで入社することになります。これにより、「思ってたのと違った」を防げるわけです。

また、アルムナイなら、そもそも以前その会社にいた人間なわけですから、カルチャーも上司の性格も、仕事の大変さもすべて骨身に沁みているはず。入社後のギャップなんて、発生しようがありません。

最初から裸の付き合いができているからこそ、定着率が高くなるのは必然なのです。

迷える人事:
なるほど。良いところだけ見て入ってきた人と、現実を知ってて入ってきた人の差、っていう感じですね。

インセンティブ支給は、毒か薬か?

迷える人事:
リファラルやアルムナイが、効果的な採用手法なんだってことはわかりました。

だけど、社員が人を紹介してくれた場合、紹介料(インセンティブ)を払わないといけませんよね? それってどうなのかなってちょっと思っちゃうんですが。

たとえば社員に「友達を紹介したら40万円あげるよ」なんて言ったら、「金のために友達を売れっていうのか?」みたいな、変な空気になりませんか?

ミスターHR:
大前提として、リファラル採用の多くの場合、必ずしも該当社員に消化利用が発生しているわけではありません。

採用が決まった場合にのみ、あらかじめ決められたインセンティブが発生するケース。採用に至らずとも紹介のみでインセンティブが発生するケースなど、企業や制度によってバラつきがあるのが一般的です。

その前提を踏まえたうえで、ひよ吉さん。「そもそもインセンティブは効果的なのか?」……その考え方こそが、リファラル採用が停滞する最大の原因なんですよ。インセンティブの支給は、良い手であると言い切れます。

迷える人事:
おおっ、自信満々ですね。

ミスターHR:
考えてみてください。仮にエージェントを経由して採用活動をする場合、1人あたり年収の35%……仮に年収400万円だとすると、150万円程度の手数料を支払うのが普通です。

それを、大切な友人を紹介してくれた社員に還元して、何が悪いのですか? インセンティブは悪手ではなく、組織を強くしようとする姿勢に対する正当な評価です。

迷える人事:
正当な評価。

ミスターHR:
もちろん、中にはモラルハザードを心配する人も出てくるかもしれませんね。「紹介するだけで40万円もらえるなら、会社への適性なんて無視して、とにかくいっぱい連れてこよう〜!」と考えてしまうのでは、とか。その結果、会社に合わない人材が流入し、選考コストや離職コストが増えてしまうのでは、とか。

ですが、安心してください。自分の評判を落としてまで、会社に合わない変な人を紹介しようとする社員はまずいません。

むしろインセンティブがあることで、「会社が本気で人を求めているんだな」というメッセージが全社員に伝わるのです。

比較項目 人材紹介(エージェント) リファラル採用(社員紹介)
コスト 年収の30〜40%(非常に高い) 数十万円のインセンティブ(比較的安い)
信頼性 エージェントの営業トーク 社員のリアルな声
マッチ度 条件ベース カルチャーベース
副次効果 なし 紹介した社員の意識向上(エンゲージメント向上)

社員が「友人を誘いにくい」と感じる最大の理由

迷える人事:
よーし! ちょっと社長に直談判してみようかな。まずは手っ取り早く、リファラル採用の制度を作ってもらおう。

だけど、やっぱりちょっと不安なんですよね。張り切ってリファラルの制度を整えても、誰も人を紹介してくれないんじゃないか?って。誰からもリアクションがなかったら、社長に怒られそう。

ミスターHR:
仮に誰からも反応がなかったとしたら、その原因はもっと根本的なところにあるでしょうね。簡単に言うと、現役社員が現状に満足していないから、誰も知人を紹介してくれないのです。

迷える人事:
ぐはっ……! 相変わらず直球ですね……。

ミスターHR:
ひよ吉さん。あなたは自分が美味しくないと感じるラーメン屋に、大切な友人を連れていきますか?

迷える人事:
いや、それは絶対しないですね! なんでわざわざ連れてきたんだ? って恨まれそうですし、そもそもそんな行為はラーメンへの冒涜ですから!

ミスターHR:
採用も同じです。社員自身が「この会社で働けて幸せだ」と感じていなければ、知人を紹介しようなんて気になりません。

リファラル採用を成功させたいなら、まず着手すべきは従業員満足度(ES)の向上です。

以前も伝えましたが、とにかく社内サーベイを行ってください。社員がどこに不満を持ち、どこに希望を見出しているのかを把握するんです。

まずは社内を良くすること。それが、最強のリファラル戦略になります。

退職時にどのようなコミュニケーションを取るべきか

迷える人事:
リファラルを成功させるには、まずESを向上させて、紹介したい! と思われる会社にする。採用活動ってホント、一朝一夕には成功しないんだなあ……。

気を取り直して、もう一つのアルムナイ採用についても教えてください。要するに「古巣に戻ってきてもらう」ってことだと思うんですが、一度退職した人が戻ってくるなんて、現実的にあり得るんですかね?

ミスターHR:
ズバリ「あり得る」と言わせてもらいましょう。ただしその成否は、別れ際のコミュニケーションで決まります。

迷える人事:
別れ際、ですか。

ミスターHR:
「辞めるヤツには興味がない」と冷たくあしらったり、無理な引き止めをしたりするのは最悪です。別れ際が汚いと嫌われるのは、人も会社も同じです。

どういう経緯で退職するとしても、将来的には有力な顧客やパートナーになる可能性だってある。「自分は辞めたけど、お前には向いてるかも」なんて、知人に宣伝してくれるかもしれません。

退職者はいわば、未来のアンバサダー。塩対応するなんて、愚の骨頂です。

迷える人事:
なるほど。「辞めてしまう」という短期的な視点だけじゃなく、将来的な関係性まで視野に入れておかないといけないんですね。

ミスターHR:
その通り! ですから、社員の退職が決まったときこそ、上司や経営者はこう伝えるべきです。

「これまで貢献してくれて、本当にありがとう。君の新しい夢を心から応援しているよ。もし外の世界で挑戦して、また一緒にやりたいと思ったら、いつでも連絡してほしい!」

この一言があるだけで、数年後のアルムナイ成功率は劇的に上がるでしょう。

迷える人事:
ポジティブなサヨナラですね。確かにこれなら、「戻ろうかな」って人も出てくるかも。

ミスターHR:
アルムナイのメリットは計り知れません。教育コストはゼロですし、カルチャーも理解している即戦力中の即戦力。

もし御社の代表が「辞めた人間をふたたび雇うのは示しがつかない」なんて古いプライドを持っている人間だったら、そんなもの、今すぐゴミ箱へ捨てなさい! と言ってあげますよ。

採用=投資

迷える人事:
リファラルもアルムナイも、結局は日頃の人間関係や、会社の雰囲気が大事ってことなんですね。なんだか、テクニック以前の話な気がしてきました。

ミスターHR:
その気づきは正しいですね。採用活動は、人事が事務的に行う業務ではなく、経営者が先頭に立って行う未来への投資です。

さて、ここでクイズを出しましょう。リファラルやアルムナイを検討している人が、必ずチェックする場所があります。どこだか分かりますか?

迷える人事:
えーっと……自社のWebサイトとか、SNSですか?

ミスターHR:
大正解! 知人から「いい会社だよ」と誘われたり、昔の社員が「戻ろうかな」と考えたりしたときに、Webサイトが数年前から更新されておらず、SNSの投稿は曇り空の写真ばかり……こんな状況だったら、どう思いますか?

迷える人事:
「……やっぱり、やめておこうかな」って思うのが自然だと思います。

ミスターHR:
その通り。良くない発信を放置していると、せっかくの縁が切れてしまうんです。

ですから、リファラルやアルムナイを加速させるためには、「外から見て、動いていることが分かるWebサイトを維持すること」が不可欠です。

迷える人事:
うっ。ここで、以前教えてもらった話(採用サイト更新の重要性)に戻ってくるのか。

ミスターHR:
採用活動において、すべては繋がっているのです。

社内を良くする(ES向上)

リアルな情報を発信する(Webサイト・SNS更新)

縁を大切にする(リファラル・アルムナイ)

このサイクルを回し続けること。それが、ハローワークでは出会えない層を獲得するための唯一の道です。

迷える人事:
ミスターHR。僕、まずは徹底的な社内サーベイから始めてみます。「うちの会社、友達に勧められますか?」って。

ミスターHR:
いいですね。手厳しい回答が返ってくるかもしれませんが、それが現実です。そこから目を逸らさずに一つずつ改善していく。そして、そのプロセス自体を、WebサイトやSNSで発信していけばいいのです。

リファラル候補者がWebサイトを訪れたとき、「この会社、めちゃくちゃ活発だな!」と感じさせられたら、あなたの勝ちですよ。

(執筆:北村有 取材・編集:夏野かおる)

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