【漫画】フリーランスは“103万円の壁”にどう向き合うか?
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社員の副業を解禁する動きが加速しています。副業人材のなかには、単なるお小遣い以上の収入を稼いでいる方もいるようですが、そうなると税金のことも気になってきますよね。
結論から言えば、相当副業がうまくいっている会社員の方は、開業届を提出して個人事業主(フリーランス)になることで大きな節税効果を得られます。
ただ、副業会社員の所得が「事業所得(=個人事業主の本業で得る所得)」と認められることは基本的に難しく、かなりハードルが高くなります。
今回は、「副業をしている会社員は個人事業主になるべきか」というテーマで、それぞれの場合のメリット/デメリットを解説していきます。
前川秀和税理士事務所代表。お金の苦手が変わる、難しいことも分かりやすく伝える税理士。オンラインに強く、全国からの相談に対応。フリーランスや独立を目指す方へのオンラインコンサルティングに力を入れている。個人ブログ:https://www.hmj-blog.com/
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ここまで読んで、「えっ、会社員が個人事業主になるってどういうこと……?」と思われた方もいるかもしれません。たしかに「会社員と個人事業主は二者択一で、どちらかを選んでなるものだ」というイメージはありますよね。
しかし、実際に会社員は個人事業主になれますし、個人事業主も会社員になれます。会社員と個人事業主は択一式の働き方ではないのです。
ただし、副業会社員が無条件で個人事業主になれるわけではありません。個人事業主となる資格を得られるのは「独立して継続的に事業を運営している人」とされ、国税庁は個人事業主の定義を以下のように公表しています。
個人事業者の場合、例えば、小売業や卸売業をしている人をはじめ、賃貸業や取引の仲介、運送、請負、加工、修繕、清掃、クリーニング、理容や美容といった業を営んでいる人はすべて事業者になります。さらに、医師、弁護士、公認会計士、税理士などの人も事業者になります。
(引用:国税庁)
ここには記載がありませんが、いわゆる「フリーランス」としてよく知られるWeb系の働き方も、もちろん個人事業主に該当するでしょう。
なお個人事業主として認められるには、税務署に開業届を提出する必要があります。
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では、副業会社員が個人事業主になると何が変わるのでしょうか。
じつは、目に見える大きな変化はほとんどありません。個人事業主だろうが副業会社員だろうが、所得が20万円を超えれば確定申告は必要で、副業に要した経費は売上から差し引けます。
しかし、副業会社員に比べると個人事業主は税制上でかなり優遇されており、所得が「事業所得」として税務署に認められれば、数々の特典を利用できるのが大きなメリットです。
一方、個人事業主になったがゆえのデメリットもあるのも事実(くわしくは後述します)。たとえ規模は十分でも、あえて個人事業主にならないという選択肢もあります。
通常の副業収入は「雑所得」に区分されます。
個人事業主が税制上のメリットを得るには、副業で得た所得が「事業所得」と認められる必要があります。しかし、認定のハードルは非常に高く、税制上の「事業所得」に該当する所得について、裁判所は以下の基準を示しています。
事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得
(引用:最高裁判所)
過去の判例をもとに分かりやすく言うと「片手間の仕事(たとえば土日の空き時間だけ)などではなく、ガッツリ本業と同じようなリソースを割き、本業に並ぶような収入を手にして社会的にも認知される」ことが条件になるでしょう。
ただ、ネット上で調べると「月数万円のすきま副業でも青色申告できる!」「白色申告だと損するから副業会社員も青色申告するべき」といった声もよく目にします。日本の所得税は「自己申告」によって金額を算出するスタイルなので、月数万円の副業でも青色申告の承認を受け、申告することも可能ではあります。
しかしこの場合、青色申告が認められず、税務署の判断によっては追徴課税となる可能性があります。リスクを考えると、事業規模によほど自信がない場合はおすすめできません。
では、個人事業主としての事業所得が認められると、どんなメリットがあるのか。具体的にご説明します。
副業会社員が個人事業主になり、事業所得を得ていると判断されれば青色申告ができます。これが、副業会社員が個人事業主になる最大のメリットといえるでしょう。
青色申告を行うと、最大65万円の所得控除が得られる「青色申告特別控除」があります。この65万円の控除はかなり大きく、基礎控除と合わせれば最大で113万円の所得控除が適用されることになります。
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通常、10万円を超える商品などを購入した際は、税制上は消耗品ではなく「個人の資産」として扱われます。資産と判断されると、一括で経費を計上できず、数年にわたって経費計上していく「減価償却」が必要になります。
しかし、青色申告をしている場合、特例で以下の条件を満たした場合は30万円未満の資産を一括で経費計上できます。
最近はiPhoneやMacの値段も高騰し、10万円の上限は個人事業主でも簡単に超えてしまいます。一括計上特例は大きなメリットといえるでしょう。
青色申告をしている場合、万が一副業で赤字が出てしまっても、最大3年間赤字を繰り越せます。繰り越した赤字は翌年以降の黒字と相殺できるので、節税につながります。
ちなみに、簡易な確定申告である白色申告の場合は「地震や台風で店舗が被災した」など、かなり厳しい条件でのみ赤字の繰り越しが認められています。
「業務でも使っているけど業務に関係ない時間も使っているものの料金」を業務使用分だけ経費に算入することができます。
青色申告ができると、家族に支払った給与を上限なく必要経費として認めてもらうことができます。ただし、当然のことではありますが、金額の妥当性は判断されます(「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要)。
白色申告の場合でも、家族への給与は経費にできますが、その上限は以下の条件のうち、低いほうの金額と決められています。
副業の場合は、家族への給与支払いが必要なケースは少ないと思いますが、いざというときに安心です。
個人事業主になると、会社員でも事業用の名前である「屋号」を名乗れるようになります。
正確には、開業していなくても屋号を名乗ることはできますが、たとえば屋号を使って「事業用の銀行口座」を開設しようとした場合は、開業事実の証明として開業届の提出を求められることも多いです。
屋号を名乗りたい場合は、開業しておくのが無難でしょう。
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通常、会社員を辞めてフリーランスとして独立する場合、退職後に「開業届」や「青色申告承認申請書」などを提出することになります。
しかし、開業届は会社員として在職中から提出することができ、退職後に発生する手続きを少しだけ簡単にすることもできます。
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これは完全に精神論ですし、個人差はあると思いますが、経験者の立場からすると「開業届を提出する」というのはかなり重要な出来事でした。「いよいよ個人事業主になった。これから頑張らなきゃ!」と気合が入ったことをよく覚えています。
特に、会社員にとって副業はマストではないことが大半で、モチベーションの維持が大変だとよく言われます。開業届を提出することで自分に気合を入れ、「あわよくば本業を超えてやるぞ」くらいの気持ちを持ってみるのも、成功のためには必要なことかもしれません。
副業会社員が個人事業主になるデメリットは、副業の規模によって左右されます。ここでは代表的なデメリットをまとめました。
メリットの項でも整理したように、副業会社員が個人事業主になるメリットの多くは税制面にありました。しかし、副業収入や規模が小さい場合、事業所得として認定されるのが難しく、個人事業主になるメリットはほぼありません。
また、そもそも収入が少なければ納める税金も少ないため、やはり副業収入の規模は重要です。
会社員が失業した場合、一定期間の失業給付金(基本手当)を得られることで知られる「失業保険」。しかし、個人事業主になっている会社員が失業すると、「個人事業に従事している(=仕事がある)」と判断され、給付の対象外になる可能性が高いとされています。
本業を超えるような副業収入があれば、たとえ会社をクビになっても収入面では深刻な問題にはなりませんが、お小遣い程度の副業だとかえってリスキー。
万一のときに失業保険をもらいたい場合、軽い気持ちで個人事業主になるのは避けたほうがいいでしょう。
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開業届や青色申告承認申請書の提出は、一度税務署に出向いて書類を提出すればOKです。しかし、副業にかなりの時間をかけている場合、本業も含め役所に行く時間を確保するのも大変でしょう。その意味で、手続きに多少の手間が発生するのも事実です。
また、最近は白色申告の厳格化や、クラウド会計ソフトの普及で両者の差が縮まっているものの、白色申告に比べて青色申告は会計処理が多少複雑になります。このあたりの手間をどう考えるかも重要です。
副業が会社にバレる原因は、以下の2つのパターンが多いとされます。
このうち、後者はアルバイトなどで雇用された場合のため、個人事業主にかかわるのは1の「住民税額」となります。ただ、住民税については徴収方法を自分で支払う「普通徴収」にすると、会社に住民税の通知額が伝わらないというテクニックがあり、個人事業主になってもこれは問題なく使えます。つまり、気をつけていれば制度的に会社に副業バレすることはありません。
しかし、個人事業主になるレベルの副業を行っている場合、その事実を隠し続けるのは意外と難しいもの。同僚にうっかり副業のことをしゃべってしまったり、ネット上で有名になって同僚にバレてしまったりというケースも考えられます。
そこから会社に密告される可能性は0ではなく、個人事業主になることが副業バレにつながるかもしれません。
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多くの副業禁止企業は、副業をすることで本業がおろそかになるリスクを警戒しているといわれています。
たしかに、本業を今すぐ辞めてもいいほどの規模/収入の副業をやっていれば、どうしても本業に身が入らなくなる人は多いでしょう。副業の規模が大きければ大きいほど、本業がおろそかになる可能性は上がるかもしれません。
両立が難しい場合、選択肢として「会社を辞める」ことも頭に入れて動いてもいいかもしれません。
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ここまで、副業会社員の個人事業主化について考えてきました。では、具体的にどんな人が個人事業主になるべきなのでしょうか。ケース別にいくつかのパターンで検証していきます。
まず、Aさんの収入や働き方を以下のように仮定します。
- 本業:フルタイムで年収400万円
- 副業:フリマアプリで日用品を何度か売り、年間売上5万円
この場合、Aさんの副業は「事業」といえるレベルにはないと判断でき、個人事業主となる資格を満たしているとはいえないでしょう。そもそも、個人事業主になることはできないと考えられます。
Bさんの収入や働き方は以下のように仮定します。
- 本業:フルタイムで年収400万円
- 副業:土日を中心にデザイナーとして継続的に働き、年間売上20万円
まず、副業でデザイナーとして継続的に働いているため、開業届を提出すれば個人事業主としては認められそうです。しかし、所得を事業所得と判定してもらうのは、以下の点から難しいと思われます。
また、万が一事業所得として認められたとしても、売上の額から考えて税制上のメリットはほぼ得られないので、開業せずに副業を行っていくのが無難ではないでしょうか。
Cさんの収入や働き方は以下のように仮定します。
- 本業:週4日で年収1000万円
- 副業:本業の空き時間で執筆、講演活動を行い、年収300万円
収入や働き方的に、士業や研究者を想定したパターンです。副業収入はかなり高額ですが、副業は事業所得と認められるのでしょうか。結論から言えば、この場合も事業所得とは認められない可能性が高いようです。
じつは、この事例と近いケースは実際に裁判が行われ、「営利性、有償性、反復継続性をもった活動によって生じた所得」とは認められています。しかし、この例では「営業活動など記録が不正確だったため、企画遂行性が乏しい」「本件業務に一定の精神的肉体的労務を投入しているとしても、限定的なものにとどまっていた」「本業で十分な収入を得ている」という理由で、雑所得と判定されています。
Cさんも、同様の判断を下される可能性が高いでしょう。個人事業主にならなくても問題ありません。
Dさんの収入や働き方は以下のように仮定します。
副業年収そのものは、Cさんの例よりも下がります。しかしこれまでの判例などを総合すると、Dさんの副業収入は事業所得と認められる可能性が高いと推測できます。
まず、Dさんの事業には「営利性、有償性、反復継続性」が明らかにあります。そして、副業を反復継続する意思は投降頻度から、客観的な地位は再生数で証明できます。
作業時間/労力もかけており、本業の収入も高いとはいえません。最後は税務署などの判断になりますが、これだけの条件がそろえば、事業所得と認められるのではないでしょうか。これらの理由から、個人事業主になるべき働き方だと考えられます。
個人でもお金を稼ぎやすい時代だからこそ、本業以上の熱量を投じ、大きな収益を得ている方も少なくないはず。
税理士への相談なども踏まえ、自信をもって「事業を運営している」と思える方は、個人事業主になってみてはいかがでしょうか。税制上の大きなメリットがありますよ。
(執筆:齊藤颯人 編集:少年B 監修:前川秀和税理士事務所)
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