フリーランス新法とは? 下請法との違い、いつから施行かを解説【弁護士監修】

フリーランス新法

「新しい働き方」として脚光を浴びたフリーランス。しかし、法整備が追いつかない状態が続き、フリーランスの立場の弱さが問題視されました。その証拠に、政府もフリーランスの実態調査を進め、2021年には結果をまとめた『フリーランス実態調査』が公表されています。

実態調査によって明らかになったのが、取引先との「トラブルの多さ」です。フリーランスの約4割が取引先と何かしらのトラブルを経験したと回答しており、政府内でも対応の必要性が認識されました。

こうした状況を踏まえ、政府は「フリーランスの取引を適正化するのための新たな法律(以下、フリーランス新法)」を制定する方向に動き出しました。そして2023年4月28日、いよいよ国会でフリーランス新法が成立しました。

そこで今回は、フリーランス新法の内容や対象者、施行時期を解説します。

監修:堀田 陽平(ほった ようへい)
監修:堀田 陽平(ほった ようへい)

弁護士(日比谷タックス&ロー弁護士法人所属)。2020年9月まで経済産業省産業人材政策室に任期付き職員として就任し、兼業・副業やテレワーク定着等の柔軟な働き方の促進、フリーランスの活躍、人材版伊藤レポート策定等、生産性向上に向けた働き方改革の推進に従事。現在の法律事務所復帰後も兼業・副業の促進等働き方に関する寄稿やセミナー等をおこなう。

フリーランス新法とは?

フリーランス新法とは、正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律案」(フリーランス・事業者間取引適正化等法案)といいます。字面は難しいですが、ようは「フリーランスの取引を適正化し、就業環境を整備するための法律」です。

この法律は、政府の成長戦略や全世代型社会保障を検討するなかで議題として浮上し、冒頭で示した『フリーランス実態調査』のような各種調査によって「フリーランスの立場の弱さ」が改めて証明されたことで整備がスタートしました。

内容は後ほど詳しく解説しますが、おもに発注者による以下のような行為が「違反」と認定されるようになりました。

  • 取引条件を明示しない(ハッキリ示さない)
  • 正当な理由のない成果物の受領拒否/修正依頼/報酬減額/返品
  • 極端な買いたたき
  • 虚偽の募集要項を出す
  • (申し出があったにもかかわらず)育児や介護などと業務の両立に配慮しない
  • ハラスメントに対する相談窓口など、必要な体制を整備しない
  • 30日前までに契約解除を通告しない

違反が発覚した場合、公正取引委員会や厚生労働省などから改善指導・命令などがなされます。これらを無視orそもそも検査を拒否した場合、50万円以下の罰金に処することも定められました。

フリーランスにとってはメリットの多い法律で、今後は発注者のムチャぶりともフリーランス新法を根拠に戦えるようになるでしょう。

フリーランス新法の内容

では、改めてフリーランス新法の詳細を深掘りして解説します。

フリーランス新法の対象者

今回のフリーランス新法では、明確に「フリーランスとは~」とフリーランスの定義が示されているわけではないものの、この法律の対象者は示されており、保護対象となるのは以下の事業者です。

業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの(特定受託事業者)

ここでいう「業務委託の相手方」とは、つまり「業務を委託される人」とも言い換えられます。また、「従業員を使用しないもの」という条件があるので、対象は「ひとりで働く人」であることがわかります。これはフリーランスも基本的に当てはまりますし、税金対策などで法人化した場合も、自分以外に役員や従業員がいない「ひとり会社」も保護対象になります。

なお、国会答弁や内閣官房の資料によれば、ここでいう「従業員」には、週20時間未満の短時間・短期間労働者は含まれません。そのため、こうした人を雇用しているだけの場合は、保護の対象となります。

逆に、今回の法律で規制を受けるのは以下の事業者です。

特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、従業員を使用するもの(特定業務委託事業者)

このように「従業員を使用している」ことが原則の条件になるため、ひとり社長がフリーランスに業務を委託する場合は、基本的には法律の対象になりません。

この法律から見えてくることとして、フリーランス新法では多様な実態がある「フリーランス」という存在のうち、「従業員を使用しておらず、業務を委託される事業者」を保護対象としている、と考えていいでしょう。

ちなみに、『フリーランス白書』などの発行で知られる団体・フリーランス協会によるフリーランスの定義は、「特定の企業や団体、組織に専従しない独立した形態で、自身の専門知識やスキルを提供して対価を得る人」となります。

両者の違いは、

  • 政府見解:形式面を重視(業務委託の有無、使用者の有無)
  • 協会見解:実態面を重視(専従先の有無、専門性の有無)

といえるでしょう。

個人的にはどちらも一理あるとは思いますが、政府見解の「人を雇っていたら保護対象ではない」は少々厳しい気も……。たとえば、フリーランスが家事に専念するパートナーを事務員として雇い、青色申告専従者控除を利用するケースなどが考えられるためです。

内容1. フリーランスへの取引条件の明示義務

ここからは、フリーランス新法の中身を見ていきましょう。

まず、フリーランスへの書面(メールなども含む)交付義務が盛り込まれました。具体的にどのような情報を明示する必要があるかについては、以下のように定められています。

<記載事項>
・業務委託の内容、報酬額、支払期日 など

つまり、「業務内容や報酬について明記されたメールや書面(発注書など)をフリーランスに示しなさい!」という内容で、下請法に近い義務が課されていますが、下請法と異なり、書面による交付が必須ではありません。

もっとも、メールなどの電磁的方法(電子データ)で明示した場合に、特定受託事業者から書面の交付を求められた場合は、書面を交付する必要があります。

なお、この義務のみは「特定業務委託事業者」ではなく「業務委託事業者」に対して課せられていますので、「従業員を使用しない事業者(例:フリーランスや法人成りしたひとり社長)が、フリーランスに対して業務委託を行うとき」にも課されます。したがって、小規模事業者の事務負担増加は避けられない見通しです。

また、別の条文では「契約の途中解除・終了にあたっては、原則として契約解除の30日前までにフリーランスに通知する義務も発生する」とあり、フリーランスだからといって即日発注を停止するようなことは難しくなります。

内容2. 正確な募集内容の明示義務

この条項は、後ほど触れる下請法にはないフリーランス新法特有の条項といえます。具体的には、事業者はフリーランス募集の際に以下の義務を負います。

広告等により募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならないものとする。

分かりやすい例でいえば、クラウドソーシングサービスなどで実際には記事1本500円で契約するつもりにもかかわらず、「記事1本1万円のご依頼!」と大々的に宣伝され、それを信じてしまうような被害を防ぐための条項といえるでしょう。

交渉の結果、募集内容と実際の契約内容が変わってしまうこと自体は問題ないですが、もし募集内容と実際の条件が異なる場合、事業者にはその理由を説明しておくべきでしょう。

ちなみに、労働者については「職業安定法」という法律で似たような規制があるため、フリーランスの場合にもこうしたルールが適用されたと考えることもできます。

内容3. 報酬支払い日の義務

事業者は、フリーランスからの給付(例:成果物の納品)を受領した日から60日以内かつ、できる限り短い期間で報酬の支払日を設定しなければなりません。また、その期間内に報酬を支払わなければならないとも明記されています。

よくある支払いサイクルの「月末締め翌月末払い」なら基本は大丈夫ですが、たとえば「成果物の公開月の翌月末払い」のようなサイクルになっていた場合、作業完了から60日以上経過後に報酬が支払われるケースはあるでしょう。

上記が即違反になるのは、個人的にはやや厳しいようにも感じましたが、ともかく法整備されることになりました。

なお、「A社→B社→フリーランス」のように、業務が再委託であることが明示されていた場合は、元委託者から特定業務委託事業者への支払期日から30日以内かつ、できる限り短い期間で報酬の支払日を設定しなければなりません。その期間内に報酬を支払わなければならないこと自体は、再委託でない場合と同じです。

内容4. ハラスメント防止措置義務・妊娠、出産、育児介護などへの配慮

業務委託の場合、パワハラやセクハラなどの被害に遭った際も、泣き寝入りを余儀なくされるケースが多数見られます。こうしたハラスメントの防止措置を講じる義務が盛り込まれました。

これは、企業が労働者を雇う際、労働者に対してすでに課されているハラスメントの防止措置義務を、特定受託事業者に対しても拡大した措置と言えます。

また、一定期間の契約があるフリーランスで、フリーランス側から申し出があった場合、出産・育児・介護と仕事を両立させるための配慮を行う必要性も生じます。具体的な配慮の内容はまだ不明ですが、たとえば納期の延長が考えられます。産休や育休などの制度がないフリーランスは、会社員とは別の側面でライフイベントによるキャリア形成の難しさがあるからです。

この条項は、フリーランスにとってかなりメリットが大きいといえるでしょう。

違反したらどうなる?

以上の内容がおもなフリーランス新法の条項ですが、違反した場合はどうなるのでしょうか。これについては、以下のような記載があります。

公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣は、特定業務委託事業者等に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができるものとする。

※ 命令違反及び検査拒否等に対し、50万円以下の罰金に処する。法人両罰規定あり。

つまり、下請法と同じように違反した事業者の公表や、指導・勧告などが行われ、悪質な場合は罰金もあると考えていいでしょう。ただ、新しい法律ということもあり、以下の点はやや未知数です。

  • 助言や指導などがどれくらいの違反から行われるのか
  • 助言や指導などにどれくらいの強制力があり、どれくらいの影響力があるのか

なお、法違反に対して即刑事罰が課されるわけではなく、違反の改善が命じられたにもかかわらず、この命令に違反した場合に刑事罰が課されることになります。

こうした運用の実態は施行後にわかるでしょう。

フリーランスが国に相談・報告しやすい環境の整備へ

フリーランス保護新法の違反に遭遇したフリーランスは、国の行政機関にその事実を報告できます。事業者側が、報告を行ったことを理由にフリーランスとの契約を解除するなどの扱いも禁止されるため、ある程度安心して国に相談できそうです。

ただ、逆に言えば国側が事業者を積極的に取り締まることは考えづらく、フリーランスがきちんと新法の中身を理解し、自分で違反を報告する必要があります。国側も新法制定にあたる相談環境の整備などには取り組むとのことなので、相談しやすい環境が生まれることを期待しましょう。

現在、フリーランスからの相談に応じる体制としては、第二東京弁護士会が厚生労働省から委託を受けている「フリーランス・トラブル110番」があります。弁護士への無料相談が可能なので、トラブルになった場合はこちらに相談してみましょう。

これまでフリーランスを保護してきたのは「下請法」

ここまで見てきたように、たいへん魅力的に思えるフリーランス新法。ですが、じつはこの法律の成立以前から、フリーランスを保護する法律自体はありました。それは「下請法」と呼ばれる法律です。

ものすごくザックリ説明すると、下請法とは「下請業者(フリーランスなど)を守り、発注業者(クライアントなど)のムチャぶりを制限する法律」です。つまり、フリーランス新法と似たような法律で、フリーランスにとって大きな味方となってきました。

法律が制定されている理由は、発注者に比べて下請業者の立場が弱いからです。たとえば、下請法によって違反とされる行為に、以下のようなものがあります。

  • 発注がいつも口頭(発注書面の交付義務)
  • 成果物を受け取ってくれない(成果物の受領拒否)
  • 勝手に報酬を減らされる(下請代金の減額)
  • 期日までに報酬を払ってくれない(下請代金の支払い遅延)
    ※正当な理由がある場合を除く
下請法の違反事例

▲下請法の違反事例(出典:公正取引委員会)

下請法に違反した場合、公正取引委員会による勧告や指導の対象となるほか、悪質な場合は発注にかかわった個人と会社に最高で50万円の罰金が科されます。

そんなに大した罰則じゃなくない?と思われるかもしれませんが、「公正取引委員会を怒らせた」という事実が広まれば、会社の評判を大きく下げるでしょう。一定の効果はあると考えられます。

下請法の義務と禁止事項

▲下請法の義務と禁止事項(出典:公正取引委員会)

現行の下請法の弱点:「資本金1000万円以下の法人」には適用されない

このようにパッと見は「最強の味方」に思える下請法ですが、じつはフリーランス新法にはない大きな弱点があります。

それは、下請法が適用される発注者は「資本金1000万円超の法人クライアント」だけに限られることです。

現行の下請法適用基準

▲現行の資本金要件(出典:公正取引委員会)

「資本金1000万円」と言われても、どのレベルの企業か分かりにくいと思います。

一般的に、資本金が5億円以上の会社は「大企業」と呼ばれることが多いです。一方で資本金1000万円以下は、中小企業が中心となります。

しかし中小機構の調査によると、日本にある企業の約99.7%は中小企業。さらに令和3年経済センサスによると、資本金1000万円未満の企業は全体の約58%を占めます。

資本金1000万円以下の企業や事業者とかかわる機会は、決して少なくないはずです。こういったクライアントとの取引時に、下請法の適用されないトラブルが発生するリスクはあるでしょう。

当初の想定は「下請法改正」

下請法には上記のような弱点があったため、当初は下請先がフリーランスの場合、「資本金の制限」を撤廃するという形の、「下請法改正案」が検討されていました(実際は下請法の改正ではなく、フリーランス新法の制定に方針転換されています)。

実際、資本金要件がなくなれば、フリーランスに業務を発注する法人のほとんどが下請法の適用対象になります。

資本金1000万円以下 資本金1000万円以上
現行の制度 ×
改正案

もともと政府は、Uber Eatsの配達員などに代表される「ギグワーカー」について、事実上発注者の指揮や命令を受けている場合、「みなし労働者(=法的にはフリーランスではない存在)」と解釈し、労働関係の法律を適用できるとの見解を示しています。

しかし、フリーランスのエンジニアやデザイナー、ライターなどは法的に「労働者」とは言えず、保護が難しい点が課題となっていました。こうした事情を踏まえて改正案が検討されたと考えられます。

フリーランス新法の影響

ここではフリーランス新法が施行された後の影響を考えてみます。

影響1. フリーランスの保護が加速する

フリーランス新法により、当然ながらフリーランスの保護が加速することになるでしょう。フリーランスの買いたたきや一方的な契約破棄、業務のムチャぶりなどが減少する可能性も高く、トラブルに遭遇したときの対処もカンタンになります。

たとえば今後起こりそうなトラブルとして、資本金1000万円以下の事業者からインボイス制度への対応に関して「課税事業者にならなければ取引を打ち切ります」と一方的な通告を受けた場合、フリーランス新法を根拠に戦えるようになるかもしれません。

影響2. フリーランスの線引きがカンタンになる

先ほども触れたように、フリーランスの定義はかなりあいまいで、「いったい誰がフリーランスなのか」を明確にすることが困難でした。

しかし今回の法律は、政府が「フリーランスとは、従業員を使用しておらず、業務を委託される事業者である」という見解を出したと解釈することも可能で、国内のほかの事業者も政府の見解を参考にする可能性があります。

そうなると、私たちがなんとなくイメージする「フリーランス」がしっかりと定義されるため、「誰がフリーランスなのか」を線引きしやすくなるでしょう。

影響3. 小規模事業者の負担・リスクが増大する

下請法にあった「資本金要件がなくなる」のはフリーランス側にとってメリットが大きい一方、今までは下請法の対象外だった小規模事業者の負担やリスクが増大するデメリットもあります。

「買いたたきや一方的な値下げをしなければいいだけでは?」と思われがちですが、取引条件の明示義務があったり、契約解除の通告期限が定められたりと、小規模事業者が考えなければならないポイントも多いです。

小規模事業者のなかには、売上が上がってきたフリーランスが法人化しただけの「ひとり会社」なども少なくないでしょう。その場合、なんとなくの口約束や、ごくカンタンな発注書で業務をフリーランスに外注するケースも多いかもしれません。

しかし、書面の交付義務はひとり会社による業務委託であっても課されるため、事務負担が増加することは否めません。

ただ、取引条件を明示することには、トラブルの際に発注者側を保護する効果も期待できます。

影響4. フリーランスへの発注控えが発生する(かも)

そもそも良くない状況ではありますが、フリーランスに業務を発注する理由として「雑に・気軽に発注できるから」と心の底で思っている小規模事業者もいるでしょう。

しかしそうした事業者も、今後はフリーランスを相手にする場合はフリーランス新法が適用されることになります。そうなれば、「じゃあフリーランスじゃなくて法人を選びます」と発注を控えられる可能性が考えられるでしょう。

ここまで悪質なケースではなくても、「フリーランス相手でも法人相手でも、同じ事務コストやリスクが発生するなら、法人に発注したい」と思う小規模事業者はいるかもしれません。

フリーランスとの取引適正化に関する法整備は、ある意味で「発注側がフリーランスを選ぶうま味」が損なわれる側面もあるといえます。

フリーランス新法はいつから施行される?

ここまで、下請法改正・フリーランス保護新法のポイントを解説しました。改めて想定される影響をまとめると、以下のとおりになります。

  • フリーランスの法的な保護が加速する
  • 小規模事業者の負担が増える
  • フリーランスへの発注控えが発生する可能性がある

では、最後にフリーランス新法の成立・施行スケジュールを見ていきましょう。

フリーランス新法は2023年春の通常国会に提出され、衆議院と参議院での審議を経て2023年4月28日に成立しました。その後、2023年5月12日に公布されています。

施行日がハッキリと定められているわけではないものの、フリーランス新法の附則では公布から1年半以内に施行するとされているため、早ければ2023年中に、遅くとも2024年には施行される見通しです。

また、フリーランス新法の施行前には、ガイドラインや政省令も策定され、実際の運用の考え方が明確になるでしょう。

まだ少し先の話にはなりますが、フリーランスや小規模事業者にとって影響の大きい新法制定です。法律の要点をしっかり抑え、上手に付き合っていきましょう。

(執筆:齊藤颯人 編集:じきるう 監修:堀田 陽平弁護士(日比谷タックス&ロー弁護士法人)

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