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【社労士解説】フリーランスは社会保険に入れない!? 社保加入サービスの違法性も解説

フリーランス 社会保険
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フリーランスと会社員の大きな違いといわれる「社会保障」。なかでも、会社員が加入できる「社会保険」の保障は手厚く、会社員の長所として知られています。

一方、フリーランスの加入する「国民健康保険」は、保険料が割高になるケースが多く、保障も社会保険に比べると手薄です。そのため、社会保険への加入を希望するフリーランスは多いです。

そんなフリーランスの声に答えるように、昨今は「フリーランスも社会保険に入り、社会保険料を削減できる」とうたった「フリーランス向け社会保険加入サービス」が増加していることをご存じでしょうか?

しかし、社労士の石川弘子先生は「通常、フリーランスが社会保険に入ることはできず、そうしたサービスの利用はリスクが大きい」と警鐘を鳴らします。

今回は、フリーランスと社会保険の関係を社労士に聞いてみました。

石川 弘子
石川 弘子

社会保険労務士(フェリタス社会保険労務士法人)。1973年、福島県生まれ。青山学院大学経済学部経済学科卒業。フェリタス社会保険労務士法人代表。特定社会保険労務士、産業カウンセラー、セクハラパワハラ防止コンサルタント。労働・社会保険手続き代行、就業規則作成等の他に、中小企業から上場企業まで、様々な企業の労務相談を受けている。また、障害年金請求手続きや、産業カウンセラーとして、企業のメンタルヘルス対策などにも携わる。著書:「あなたの隣のモンスター社員」(文春新書)、「モンスター部下」(日本経済新聞出版)

聞き手:北村有
聞き手:北村有

ライター。WorkshipMAGAZINE編集部在籍。一番怖い言葉は「税金」。

そもそも「社会保険」とは?

北村:
そもそも、社会保険とはどのような制度なのでしょうか?

石川:
「社会保険」とよく言われますが、この言葉には「広義の社会保険」と「狭義の社会保険」という2つの意味があります。広義の意味だと「労働保険(労災保険・雇用保険)」と「社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)」を合わせたものを指し、狭義だと「健康保険・介護保険・厚生年金保険」を指します。

労働保険とは?

石川:
労働保険とは、会社に雇用されている、労働者の立場にある方が入れる「労働者のための保険」で、フリーランスは原則加入できません。

そのため、フリーランスはたとえ怪我をしたり病気になったりしても労災は適用されませんし、失業給付を受け取ることもできません。

▲石川先生

北村:
なるほど。ただ、最近「フリーランスも労災保険に入れる」と聞いたことがあるのですが……。

石川:
はい。一般的にはフリーランスは労災保険に加入できないのですが、「労災保険の特別加入制度」を使うと加入できるケースがあります。

というのも、じつはフリーランスに限らず、企業の社長や役員も労災保険には入れません。登記簿に記載されている取締役や役員は「労働者」にはあたらないため、労災が適用されないんです。

ところが、たとえば小さな町工場などで、他の従業員同様に社長も作業しているような場合、その社長には仕事上における怪我の保証がない形になってしまいます。仮に健康保険に加入していたとしても、原則として健康保険は「仕事以外の怪我や病気に対する保証」のため、仕事中はいわゆる“無保険状態”になってしまうんです。

こうしたリスクに備えられるのが、労災保険の特別加入制度といえます。通常の労災保険と違い、保険料を自分で負担しなければいけないなどの違いはありますが。

▲通常の労災保険と特別加入の違い

そしてこの特別加入制度は、じつは一部の個人事業主・フリーランスも対象に含まれています。分かりやすいところでは、IT関連のフリーランスは特別加入が認められていますね。

フリーランスは(狭義の)社会保険に加入できない

北村:
広義の社会保険として、例外的に労災保険に加入できるケースがあることはわかりました。では、同じようにフリーランスは狭義の社会保険(健康保険・厚生年金保険)には加入できないのでしょうか?

石川:
こちらに関しては、労災保険のように特別加入制度はありません。ですので、原則としてフリーランスは、狭義の社会保険には加入できません

ただ、詳しくは後で触れますが、フリーランスの方が個人事業主ではなく、マイクロ法人(一人会社)であれば「その法人に雇われている」という認識になるため、社会保険に加入できます。いずれにせよ、社会保険に入るためには「誰かに雇われている」という形が必要、ということです。

フリーランス向け社会保険サービスとは?

北村:
フリーランスが社会保険に入れないことはよくわかりました。しかし、最近「フリーランスも社会保険に入れる!」とうたう社会保険加入サービスがあるようなんです。これはどういう仕組みなんでしょう……?

石川:
あくまで推測ですが、こういったサービスでは、まず社団法人などの法人を設立します。その法人の理事や役員といった形でフリーランスを登記するんです。

たとえ会社に雇われていても、週2日や1日3時間勤務など、労働時間の少ないパートさんなどは社会保険に加入しないのが一般的です。なぜなら、社会保険に加入するためには、その会社におけるフルタイム勤務の3/4以上働いている必要があるためです。

ただ、役員に関しては労働時間という概念がありません。登記して、役員報酬さえ発生していれば、社会保険に加入できます。つまり、業者がつくった法人に役員という形でフリーランスを登記し、そこから報酬をもらう形で、フリーランスでも社会保険に加入できる仕組みにしていると考えられます。

▲フリーランス向け社会保険加入サービスの仕組み(イメージ)

北村:
その場合の法人は、どのように事業を展開しているのでしょうか?

石川:
これも推測ですが、おそらくペーパーカンパニーのような形でしょう。実際の事業実態はないのでは、と認識しています。

フリーランス向け社会保険サービスに違法性はない?

北村:
ペーパーカンパニーに形だけ所属して社会保険に入るというのは、少し危険な感じもします。そういった社会保険サービスに、違法性はないのでしょうか?

石川:
事業の実態がない法人を設立し、そこの理事や役員として登記して報酬を発生させることで、社会保険に加入できるようにする……と聞くと、違法性がありそうにも思えますよね。しかし、このスキームであれば、じつは現行の法律では違法性がないとされています。

たとえペーパーカンパニーでも、役員を登記して社会保険に加入させること自体を規制する法律はないんです。実際、いくつかの業者のWebサイトを見てみると「リーガルチェック済み」「年金事務所の審査を通過できる」と、適法性をアピールしています。

石川:
ただ、こういった社会保険制度といったものを、完全なるボランティアで提供しているとは思えません。

こうしたサービスのWebサイトを見ると、利用するフリーランス側は一定の会費を払っている場合が多いようです。法人側は、受け取った会費の何%かを役員の報酬として支払っている。その報酬に対して社会保険料がかかる仕組みなので、法人を設立する負担を差し引いても、法人側に利益が出る仕組みになっているはずです。

そう考えると、一法人のお金儲けの手段として社会保険制度を使うのは、モラルとしてどうなのだろうか? と思ってしまいます。

将来的に違法となる可能性は?

北村:
このような社会保険サービスが、将来的に違法となる可能性はありますか?

石川:
「現時点ですぐ法律で規制されるか?」と言われると、なかなか難しいところでしょう。ただし、明らかに法律の趣旨に反したスキームであることは言うまでもありません。

今のところ法律上は問題がありませんが、今後サービスを運用していく過程で「よろしくない」と通達される可能性は高いと思います。

加入するフリーランス側に賠償責任などが及ぶリスクは?

北村:
たとえばこの法人が重大な法律違反などを犯した場合、このような社会保険サービスを利用したフリーランス側に、賠償責任など何かしらのリスクが及ぶ可能性はありますか?

石川:
たとえ形式上のものとはいえ、取締役や理事は一般の労働者とは立場が違いますから、法律上の責任は発生します。実質的に何も知らなかったとしても、法的な責任が免除されるわけではありません。推定ではありますが、ペーパーカンパニーの理事や役員になって報酬を得るという行為には、それなりの責任が発生すると考えておきましょう。

社会に与える影響は?

北村:
お話を伺っていると、こういったサービスを利用して社会保険料を節約する行為は、あまり社会にとって良い影響を与えるようには思えないのですが……。

石川:
「いくら年金を払ってもリターンが少ない」「コスパが悪いから年金制度に入りたくない」とよく聞きますよね。しかし、社会保険制度とは、そもそもそういった概念のシステムではありません。

「障害で働けない」「高齢で働けない」「病気や怪我で苦しんでいる」など、苦しい立場の方のために、少しずつみんなで収入に見合った額を出し合って支えましょう、といったシステムが社会保険制度です。

▲社会保険制度のしくみ

石川:
そのため、収入に余裕のある方、多くの利益を出しているフリーランスの方などが、社会保険料を節約したいがためにこういった制度を利用することは、社会保険制度の根底を揺るがしてしまいます。

北村:
なるほど……。それは大きな問題ですね。

社会保険加入のためにマイクロ法人化するのはアリ?

北村:
先ほど「マイクロ法人を設立すれば社会保険に入れる」というお話がありました。私自身、法人を設立することも、保険料の節約や節税に効果的と聞いたことがあります。

石川:
フリーランスとして個人事業の所得が増えてくると「法人にしたほうが保険料や税金を節約できる」といった話が多く聞こえてくると思います。従業員を雇わないひとり法人として、これまで個人でやってきた事業をシンプルに法人化する形であれば、問題なく節税に繋がる面もあるでしょう。

こちらに関しては、たとえひとり法人であっても、れっきとした活動実態のある法人のため、脱法的な側面もありません。

マイクロ法人化の注意点

北村:
マイクロ法人の設立にあたり、注意すべき点はありますか?

石川:
まず、基本的に社会保険は加入したら抜けられません。フリーランスで収入に波がある場合、安易に法人化してしまうと節税どころか損になってしまうこともあります。

石川:
法人化をしたら、毎月の役員報酬額を定めます。これが仮に40万だったとすると、原則は次の決算までこの役員報酬額を変えることはできません。

そして、社会保険料はこの「40万」と決めた報酬に対してかかります。つまり、仮に利益がどれだけ下がっても、報酬額の調整はできないため、年間を通して売り上げの変動が激しい場合は損をする可能性があります。加えて法人税もかかってきますので。

法人を立ち上げるということは、決算の処理をする必要もありますし、それに伴って事務の負担も増えます。法人化することが節税その他のメリットになるかどうかは、現状によって大きく異なってくるでしょう。

フリーランスのまま国民健康保険料を抑える方法

北村:
社会保険加入サービスを使わないのはもちろん、法人化もしないとして、フリーランスが国民健康保険料を節約する方法には、どんなものがありますか?

石川:
フリーランスとしての売上や以前の経歴、家族構成によっても変わってくるのですが、大きく2つの選択肢が考えられるかなと思います。

方法1. 国民健康保険組合へ加入する

石川:
まず一つは、通常の国民健康保険に加入すること。ただ、これだと保険料が上がってしまう問題を解決できないので、業種によりますが「国民健康保険組合(国保組合)」への加入がおすすめです。

国保組合とは、業種ごとに組織された保険組合のこと。実態は団体によりさまざまですが、加入できると国民健康保険料が収入にかかわらず一定になり、保険料の節約につながります。

たとえば「社労士 国保組合」のように、自分の業種で検索していただき、「自分が加入できる国保組合があるか」「保険料や保険内容はどうなっているか」を確認することがおすすめです。

方法2. 会社員時代の健康保険を任意継続する

石川:
もう一つは、これまで会社員だったけれども、独立してフリーランスになった場合、会社員時代の健康保険を任意で継続すること。

会社員時代に加入していた健康保険には、会社を辞めた後も一定期間は保険に加入し続けられる「任意継続」という制度があります。

▲退職後の保険の選択肢

石川:
会社員時代と違って保険料は全額自腹ですが、それでも収入によっては任意継続したほうが安く済む場合もあります。

適切な保険料の納付は、フリーランスの地位向上につながる

北村:
病気や怪我で働けなくなるなどのケースで、フリーランスがリスクヘッジするために必要なことはなんでしょうか?

石川:
フリーランスは自由である一方、責任やリスクも背負っています。仕事中の病気や怪我など、有事に備えるための保険を検討してほしいですね。

国民年金だけだと老後の不安もあるかと思いますので、iDeCoなど個人での資産形成も視野に入れてもらえばリスクヘッジになります。

また、女性の場合は妊娠や出産で働けない期間などがある場合も。人生何があるかわかりませんから、所得を保障してもらえる保険を探しましょう。

北村:
所得を保障してくれる保険を探す、大事ですね。

石川:
フリーランスに限らず、以前まで「手取りが減るから」といった理由で社会保険への加入を避ける方も多かった印象ですが、最近は安定志向なのか、社会保険完備を希望する若い方が増えているようです。

フリーランスは好きな仕事を好きなだけできる、夢のある働き方。頑張れば頑張ったぶんだけ収入も上がる一方で、会社員には“雇われているからこその保証”があるのも事実です。身も蓋もないですが、安定志向で、社会保険完備を希望する方は、そもそもフリーランスには向かないかもしれません。

フリーランスという働き方は、バイタリティを持って社会に対峙する、若い世代にも夢を与える仕事。保険料なんて気にならないくらいに大成功し、社会や経済をまわしてもらえると嬉しいですね。

そして、ぜひとも社会に意義のある仕事をして、適切な税金や社会保障費を払い、社会からみたフリーランスの地位向上に繋げてほしいと感じます。

「税金を払わない」「できるだけ節約したい」といった考えばかり目立つと、「フリーランスは脱税ばっかりしている」と騒がれ、フリーランスが不利になってしまいますから。社会において一定の地位を獲得していかないと、フリーランスの声が政治に届きません。ルールをきちんと守ったうえで、地位を上げてもらうのが一番だと思います。

(取材・編集:齊藤颯人 執筆:北村有 協力:石川 弘子社会保険労務士(フェリタス社会保険労務士法人))

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