「専門スキルを伸ばす VS 幅広い領域に挑戦する」フリーランスの生存戦略討論
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個人事業主として働いてきたけど、事業が拡大してきたし、そろそろ自分の会社を設立しようかな……と考えているフリーランスの方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は実際に会社を設立をした筆者が「法人成り」について説明します。
法人成りの概要からメリット、具体的に必要な手続き、そして法人成りしたほうがいい時期などについても、実体験をもとに詳しく解説します。どうぞ参考にしてみてください。
広告系の企画制作会社、教育事業会社での企画職を経て、2017年ライターとして独立。ビジネス領域のインタビュー記事執筆を中心に実績を重ね、2020年株式会社宿木屋を設立。チームで言葉を軸にした企業の発信支援を行う傍ら、個人名義でのコラム執筆や創作活動もしている。(X:@yuki_yadorigi)
法人成りとは、個人事業主(以下、フリーランス)が事業拡大に伴い法人化することです。
会社を設立するので「起業」と意味が重なりますが、起業の場合はゼロから事業を創り上げる必要があります。法人成りは個人事業主として積み重ねてきた資産や負債、事業内容を会社に移し、法人に成り代わるため、法人成りと区別されています。
法人とは、人間とは異なる法律上の人格を指します。したがって、個人事業主が法人成りすると、一人の人間ではなく、法人として事業を行うことになります。法人成りしても仕事内容は変わらないかもしれませんが、法律上の扱いは変わるということです。
そして法人は、人間と等しく権利や義務の主体として認められています。保険や物件を会社名義で契約できるのは、法人もこうした位置づけで認められているからなのです。
新しく設立する法人は、「株式会社」か「合同会社」かいずれかを選択できます。株式会社と合同会社の違いは、大きく分けて二つあります。一つはかかるコストの差、もう一つは資金調達に対する柔軟さです。
株式会社の場合、資本は株主が、経営は取締役が担います。したがって、株の発行による資金調達をもとに事業を拡大しやすいのが株式会社の特徴です。しかし、株式会社は株主総会による意思決定が必要で、取締役にも任期が設けられます。つまり、経営の自由度は株主に左右されるということです。また、決算公告も義務付けられており、諸々の手続きやランニングコストが多くかかります。設立時にかかる費用も合同会社と比べて10~15万円程度高いです。
合同会社は初期費用やランニングコストが株式会社に比べて低いことが最大のメリットです。また、経営者と出資者が同一であり、かつ出資者全員が有限責任社員となります。つまり、外部の資本が存在しないということです。役員任期もなく、代表社員と社員の意思がダイレクトに経営に反映されます。一方、合同会社という形式が新しいこともあり、取引における信用度は株式会社に劣ると言われています。
したがって、法人成りする場合、今後の事業展開で株による資金調達を必要とする方は株式会社、資金調達をせずとも安定かつ継続的な経営が見込める方は合同会社を選択すると良いでしょう。
法人成りするときに悩むことの一つが、法人名義です。個人事業主として開業する際に屋号を決めますが、そのまま屋号を引き継がなければならないルールはありません。「株式会社○○」や「合同会社○○」と想像してみて、違和感があるようならば名義を再考しましょう。
ちなみに、法人名義は銀行口座の表示名にもなりますし、定款や契約書などさまざまなところで表記することになります。パブリックに出しても問題なく、事業内容が伝わる名義にしておいたほうが、後悔しなくて済むでしょう。設立後の変更にはまた手続きが必要なので、その点も留意しておいてください。
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では、法人成りのメリットとは何なのでしょうか。フリーランスとして感じる課題と併せて、それを解決できる点を紹介します。
法人成りする最大のメリットは、取引先からの信用度が増すことです。法人成りすると、登記簿謄本や決算書、法人の確定申告書などさまざまな書類を作成することが義務付けられています。これらを準備するのは面倒ではあるのですが、これらが事業内容の確かさや法人としての信用性を担保してくれます。
どんなにスキルが高くても、フリーランスはあくまで個人です。自身の事業について裏付ける書類は確定申告書しかなく、確定申告書の内容も法人と比べて情報量は少ないです。取引を行う上での信用度は、どうしても法人に劣ります。
この信用度の差によって逃しているチャンスを得られることは、大きなメリットと言えるでしょう。
フリーランスの場合、個人のスキルをサービスとして提供するケースが多く、生産量に限界があるため、事業拡大には必ず頭打ちのタイミングが来ます。また、専門技術職の場合、時代の変化に応じたキャリアチェンジが難しいことも課題です。
法人成りすると社員を雇用したり外注したりできるため、自分自身は経営者として事業転換や事業拡大といった選択をしやすいです。リソースが増えることで請けられる仕事が増え、同時に新しい分野への挑戦もしやすくなります。
法人成りすると、融資を受けたり、法人向けの助成金制度を利用したりすることができます。フリーランスの場合、自分が稼いだ売上から次の挑戦に向けて投資しなければならないため、あまり大きな投資はできません。一方、法人であれば、すぐには利益にならない新規事業開発などに対しても、時間やリソースを費やすことができるのです。したがって、自分が働き続けなければならないフリーランスと異なり、大きなリターンを生み出す事業にも挑戦できます。
こうしてメリットを挙げていくと、今すぐにでも法人成りした方が良いと思うかもしれません。ただ、法人成りには適したタイミングがあります。いくつか法人成りのタイミングと考えられるときを挙げますので、参考にしてみてください。
一人では請けきれないほどの仕事に恵まれている方や、専門外の相談まで受けるようになった方は、「誰かに仕事を依頼したい」と感じるでしょう。こう感じる頻度が高まってきたなら、法人成りして信頼できるチームを育てたほうが、売上を伸ばせるはずです。もちろんフリーランスのままでも他者に仕事を発注できますが、受注側は相手が法人である方が安心して取引できるのではないでしょうか。
節税を目的に法人成りを検討する人も多いでしょう。一般的には、個人事業の利益が800万円以上になったら法人成りした方が良いと言われています。これは、法人税のほとんどが800万円を境に比例税率を採用しているためで、それより利益が上がった場合、フリーランスの方が納税額が高くなる可能性があるからです。
ただし、所得控除や事業以外の所得なども加味すると、この条件に当てはまらない場合もあります。「納税額が高い」と感じたら、一度税理士に相談してみると良いでしょう。
フリーランスは法人と直接取引すると立場が弱いことが多く、厳しい条件で仕事をさせられることも珍しくありません。契約書の締結もままならず、口約束だけで不当な扱いを受けることもあります。
こうした経験を苦しく思ったならば、法人成りすることでその多くの問題は解決できます。法人であるだけで、公平な契約書を交わせたり、フェアな取引をしてもらえる確率がぐんと上がります。
クライアントワークを続けてきたけれど、自分自身の商品やサービスを開発して売上を伸ばしたいと感じたならば、法人成りすることをお勧めします。商品を販売するとなると、商品軸での営業やマーケティングが必要になるからです。この場合、クライアントの課題を解決する役割としてスキルを提供するフリーランスと異なり、個人名での商売は信用性やブランディングの観点で弱いです。
フリーランスにとって、収入が安定したり、継続してやりとりできる取引先が定まったりすることは、大変ありがたいことです。一方で、営業も挑戦もせず自分自身を養える状態が一定期間以上続くと、漠然とした不安や停滞を感じるのではないでしょうか。
法人成りすると、新しい取引先に出会ったり、誰かに仕事を依頼したりするようになるため、仕事の内容や質が高まっていきます。また、一人で経営している会社でも、事業内容を開示したり理念を作ったりすることで、自分自身のキャリアの見直しができるでしょう。
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本記事を書いている筆者は、2020年1月に法人成りした元フリーライターです。フリーランスとしても十分続けていけましたが、前項で挙げたタイミングが複数重なったこともあり、法人成りを決心しました。法人成りして1年半経ってみて、どのような恩恵を感じたか紹介します。
法人間でしか契約を結ばない企業は、意外と多いものです。そういう企業はそもそもフリーランスに仕事を依頼しようという考えがないので、私は今まで選択肢にすら入れていない状態でした。
法人化してから、さまざまな企業からオファーをいただくようになりました。私が一人で経営していることは大した問題ではなく、法人成りできるだけの土台や信用性を示すことが重要だったんだな、と改めて感じます。また、新しく取引が始まった企業から評価されることで、自分の提供しているサービスは法人としても戦えるレベルなんだ、とうれしくなりました。
法人成りしてからは、フリーランスの方に仕事をお願いすることが増え、仕事がきっかけで仲良くなる方も多くなりました。振り返れば、フリーランスの頃はずいぶんと閉じた世界で仕事をしていたな、と思います。未熟ではあるものの経営者として話すことも増え、肩書きや業界の枠にとらわれない出会いに恵まれています。
私の場合、法人成りしてからも社員は雇用せず、基本的にはフリーランス時代と同じ働き方をしています。しかし、給与を自分に対して支給するようになって、月々の収入は安定するようになりました。今のところそれは全額自分の稼いだお金なのですが、体裁上は月々固定の給与が発生している状態です。極端な話をすれば、100万円売上がある月も10万円しか売上がなかった月も、同じ給与が月末に支給されます。会社員だった時代は意識もしませんでしたが、同額の給与が毎月発生していることは、メンタルの安定や、計画的な家計節約に効果があります。
どんなに今稼げていても、いつかは仕事がなくなるかもしれない……。フリーランス時代はそんな漠然とした不安がありましたが、今は自分が最低限満足に生活できる給与を毎月支給し、残りの資金でどうやって事業を育てていくべきか、新しい挑戦ができるか、など前向きに計画しています。今後は助成金や融資なども検討しつつ、社会に役立つ価値を提供していきたいな、と考えられるようになりました。
では最後に、実際法人成りするときの手続きについて紹介します。
いざ法人成りしようと決めても、何から始めればいいのかわからず、戸惑ってしまう人が大半ではないでしょうか。このとき、適切な窓口に相談することがとても大切です。まず、お住まいの地域の創業支援センターや、中小企業支援センターなどに問い合わせてみましょう。
これは私の失敗談ですが、はじめに相談した税理士の方の言葉に流されてしまい、創業前に相談すべきだった窓口にアクセスすることなく、このあと説明するステップを進めてしまいました。大きな声では言えませんが、本来の期日を超えてから未提出であることに気付き、急いで提出した書類もあります。
書類の手続き順序、税理士や司法書士に何をどのタイミングで相談すべきか、法人成り後どんな事務作業が発生するかなどの情報を、事前に知っておいたほうが確実に対応ができますし、スケジュール調整もしやすいです。市や地域が運営する創業支援センターのサポートの多くは無料なので、これから法人成りする方は、まずわからないことを相談できる窓口を見つけておきましょう。
さて、ここから事務的な法人成りの順序を紹介します。まず、法人設立には資本金が必要です。資本金に下限はなく任意で設定できるので、最低1円でも設立できます。ただし、資本金は信用度につながる指標の一つでもあるので、安易に設定しない方が良いでしょう。ちなみに、私はあまり深く考えず100万円に設定したのですが、その金額をまるまる法人銀行口座開設時に振り込まなければならないことを後から知り、当時は焦りました。自分の生活費と分けて資本金を準備しておきましょう。
また、次のステップの定款作成や法人登記の諸々で法人印が必要になりますので、事前に印鑑を作成しておきましょう。法人印、代表印、銀行印の3点がセットになっているものを選ぶと便利です。オーダーなどにこだわりがあると届くまで時間がかかるので、早めに準備しましょう。
次に定款を作成しましょう。定款とは、会社の運営規則を会社法に基づいて明記する書面です。昨今は印紙代のかからない電子定款が普及していますが、電子定款の承認プロセスでは仔細な手続きが必要です。ゼロから自分自身で調べて作成することもできますが、大変時間がかかるので、プロに依頼することをおすすめします。
私の場合は司法書士の方に依頼し、30万円程度で定款作成から次のステップの設立登記までお任せしました。そのほか、MoneyforwardやFreeeなどのクラウドサービスを利用し、必要な項目を入力して定款を作成する方法もあります。こちらも自分で少し触れてみたのですが、入力項目が何を意味するか確認するためには、やはり最低限の知識が必要だと感じました。
自分が会社を設立する地域を管轄する法務局に、設立登記申請書を提出します。この際、ステップ1.で作成した定款や謄本、申請内容に応じた添付資料が必要なのでチェックしましょう。オンライン申請も可能ですが、一般的なクラウドサービスなどと比べてユーザーインターフェースや説明が非常にわかりづらいので、覚悟して臨みましょう。
私はここも司法書士の方にお任せしました。必要な書類をそろえる手間や、提出内容を間違えるリスクを鑑みた判断です。不備がなければ、2~3週間程度で法人登記が完了します。
法人設立はステップ3までで完了するのですが、設立した法人について各所に届け出る必要があります。私はこの工程が当時わかっておらず、慌てて対応しました。
まず、国税や地方税を納税するため、税務署や市町村役場に法人を設立したことを届け出る必要があります。税務署やお住まいの地域の役所のホームページを調べると、提出しなければならない書類の一覧があるのでチェックしておきましょう。
これらの書類をチェックして提出するまでは、特に専門知識はいりませんが、とにかく時間がかかります。私は自分でやりましたが、確実に効率よく書類一式を提出したいならば税理士に相談しましょう。
併せて健康保険や雇用年金の加入手続きの書類を年金事務所に提出します。さらに、労働基準監督署に労働法に関する届け出を行い、社員を雇用する場合は、ハローワークに雇用保険に関する届け出を提出します。いずれも所定のページを見ながら必要事項を書き込んで提出すれば良いのですが、初めてだと内容が正しいかどうか不安になるものです。誰かに確認したい場合は、法人設立をサポートしてくれるサービスを利用するのも一つの手段です。
事業用に口座を開設している方も多いとは思いますが、法人の場合は新たに法人口座を開設しなければなりません。個人口座の設立と比べ、法人口座は審査が厳重で時間がかかります。
私は自宅の住所で法人登記しているうえ、インターネットを介したサービスしか提供していなかったため、審査に1ヶ月もかかりました。IT系のサービスで、なおかつ自宅オフィスで法人成りする方は、玄関に看板を設置したり、過去の請求書を印刷したり、事業が存在することを証明する何かを準備すると良いでしょう。
フリーランス時代の取引先に、法人成りしたことを伝えましょう。締結済みの契約書の名義が変わること、振込口座が変わることなどについては、迅速に対応してもらうために自ら確認することをおすすめします。多くの場合、ふだんの業務を担当してくれている方と、会計や契約周りを担当している方は別部署なので、コミュニケーションエラーが起こらないよう配慮することが大切です。
最後に、法人成りすればフリーランスではなくなるため、廃業届を税務署に提出しましょう。廃業届を出さないとフリーランスとして事業が継続している扱いになり、確定申告提出の義務が続くので、気をつけてください。
法人成りというと、何かと大変なことがたくさんあるのでは……と不安を感じる方もいるかもしれません。たしかに、設立時にコストや手間がかかったり、決算書をまとめたりといった事務作業はあります。しかし、それ以上に新しい取引先や外注先との出会いが増えたり、事業を別の視点から考えたりできることは、自身のキャリアに多くの価値をもたらしてくれます。法人成りというと大規模な事業開発を想像する方も多いと思いますが、私は法人成りを一人のビジネスパーソンが選ぶキャリアアップの手段として選択しても良いと感じました。
今回紹介した法人成りのステップや、実際法人成りして感じたことは、あくまで私のケースです。業態や目指すビジョンによって、一人ひとり適切な法人成りがあると思います。このままフリーランスのままで大丈夫だろうか。フリーランスとしての自分に限界を感じてきた。そんな不安を抱える方は、ぜひ一度法人成りについて検討してみてください。きっと仕事に対して新しい価値観を持つことができます。
(執筆:宿木雪樹 編集:少年B)
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