個人事業主/フリーランスのiDeCo入門。上限額やメリット・デメリットを解説【FP監修】

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「今はフリーランスとして問題なく稼げているけれど、老後は一体どうなるの……」

そんな悩みを抱えていませんか?

国の制度として国民年金が用意されているものの、「受給開始年齢が引き上げられる」「受け取れる金額はせいぜい月5万円」なんて噂を聞くと、老後の生活を国民年金にだけ頼るのは心もとなく感じられます。

そこで今回ご紹介するのが「iDeCo(個人型確定拠出年金)」。iDeCoは老後の備えになるだけでなく、節税にも大きな効果を発揮します。

iDeCoとは一体どういう制度なのでしょうか?  今回は、フリーランス/個人事業主向けに、iDeCoの概要やメリット・デメリットなどをご紹介します。

監修:齊藤颯人
監修:齊藤颯人

FP事務所『トージンFP事務所』代表、ファイナンシャル・プランナー(AFP)。Workship MAGAZINEのマネー担当として、フリーランスや副業にまつわる記事の執筆・監修を行う。自身もフリーランス経験豊富で、当事者ならではの情報発信に強み。

iDeCoとは?

iDeCo ホームページ

▲出典:iDeCo公式サイト

iDeCoは、正式には「個人型確定拠出年金」といい、自分でお金を積み立てながら老後の資金をつくる制度です。

毎月一定の掛金を積み立てていき、この掛金で投資信託や定期預金などの金融商品を運用。運用の結果として得たお金を、60歳を過ぎた段階で年金として受け取れます。運用するといっても、基本的にはほったらかし投資で大丈夫です。

iDeCoの運営は各種金融機関(銀行、証券会社など)に委託されており、運用できる金融商品は、加入申し込みを行う金融機関によってさまざま。リスクをとって海外の株式を中心とする投資信託を選んでもOKですし、ほぼノーリスクの定期預金のみを選択することもできます。

iDeCo最大の特徴は、掛金が全額所得控除できる点でしょう。このスゴさをかんたんに説明すると、掛金を所得控除することで「節税」が可能になるうえ、老後に掛金は基本的にほぼそのまま(なんなら少し増えて)戻ってきます。しかも、運用で得た利益に税金はかかりません。

つまり、かなりラクな手続きで「節税」「資産運用」「老後資金の確保」ができてしまうのです。また、会社員に比べると老後資金が不足しやすいフリーランスは、iDeCoでは掛金上限などの面でかなり優遇されています。まさにフリーランス向けの制度といえるでしょう。

個人事業主/フリーランスのiDeCoの掛金上限は?

iDeCoの掛金上限は人によって異なります。しかし、フリーランスの場合は上限が基本的に全員共通で、月額68,000円まで(年額816,000円まで)となっています。これが会社員の場合、上限は12,000~23,000円と大幅に厳しくなるため、フリーランスは優遇されているといえます。

また、iDeCoは掛金額を自分で選べる点も特徴です。iDeCoにおける掛金の特徴は以下のとおり。

  • 最低金額は月額5,000円~
  • 1,000円単位で調整可能
  • 掛金額は原則1年に1度だけ変更可能
  • いつでも休止/再開可能

とくにフリーランスの場合「収入に波があって一定額を払い続けられるか不安……」「今年は収入がガツンと増えるから、掛金を増やしたい!」など、収入に合わせて金額を上下させたり、支払いを止めたりしたい、という需要も多いハズ。

つみたてNISAほど柔軟な金額変更はできませんが、ある程度は事業に合わせて掛金の拠出状況も調整できます。

個人事業主/フリーランスがiDeCoを使うメリット

先ほどから「iDeCoはフリーランス向けの制度」と繰り返しているように、フリーランスにとってのiDeCoはメリットの多い制度になっています。以下では、フリーランスがiDeCoを活用するメリットをまとめてみましょう。

メリット1. 積立金額が所得控除の対象になる

何度も繰り返すように、iDeCoの掛金は全額所得控除の対象となります。これが最大のメリットといっていいでしょう。

ただ「結局いくら節税できるの?」という点が気になる方もいると思います。所得税や住民税は、基本的に「売上-経費-控除」の式で「所得」を求め、所得に対して一定の税率をかけることで税額を算出するものです。

そこで、以下の状態にあるフリーランスのAさんが、iDeCoを使わなかった場合と、月3万円積み立てた場合の節税効果をかんたんにシミュレーションしてみます。

  • 売上:600万円
  • 経費:150万円
  • 控除:100万円
  • 所得税率、住民税率ともに10%と仮定
    (かんたんシミュレーションのため、そのほかの要素は一切考慮しません)

【iDeCoを使わなかった場合】

  • 所得:600万円-150万円-100万円=350万円
  • 所得税額:350万円×10%=35万円
  • 住民税額:350万円×10%=35万円
    合計税額:70万円

【iDeCoを使った場合】

  • 所得:600万円-150万円-136万円=314万円
  • 所得税額:314万円×10%=314,000円
  • 住民税額:314万円×10%=314,000円
    合計税額:628,000円

かなり大ざっぱな計算ですが、このケースだと72,000円の節税効果があることがわかりました。さらに、今回はシミュレーションしませんでしたが、後で触れるように運用で利益が出ていればその部分も非課税ですし、受け取り時も退職金・年金扱いで多額の所得控除を受けられます。

節税効果は非常に大きいと考えていいでしょう。

メリット2. 運用で得た利益などが非課税

通常、株などの投資で得た利益には20.315%(国税15.31%、地方税5%)の税金がかかります。一方、iDeCoの運用で得た利益については非課税です。つまり、いくらお金が増えても税金は一切かかりません。

たとえば資産運用で3万円の利益が出た場合、普通は約6,000円の税金がかかり、手元に残るのはおよそ24,000円。ところがiDeCoでは、3万円がまるまる手元に残ります。

また、運用で得た利益をさらに運用へ回せば「お金がお金を稼ぐ」ような状況をつくることも可能。20代〜30代の人であれば受給開始までまだ数十年残っているため、運用を続けると大きな運用益を得られる可能性もあります。

メリット3. 受け取り時も控除が受けられておトク

積み立て・運用していた資産は60歳以降に受け取ることになりますが、iDeCoはここでも節税効果があります。

年金方式で受け取った場合は公的年金等控除の対象に、一時金で受け取った場合は退職所得控除の対象になります。つまり掛金同様、受け取り時にも税金を大幅に抑えることができるのです。

老後は体力が落ちて収入が少なくなりがちですから、税負担が減れば生活の助けになるでしょう。

メリット4. 老後資金を準備できる

フリーランスの老後資金の手薄さは、誰もが感じるところでしょう。実際、過去に記事で検証したところ、老後資金対策をしないと毎月60,000円以上の生活費が不足する計算になりました。

しかし、仮に25歳から毎月5万円の掛金で40年積み立てた場合、年利1%で運用しても3000万円近い資金が手元に残ります。税金を考慮しても、いわゆる「老後2000万円問題」をiDeCoだけでクリアできてしまう金額です。

老後資金に不安がある方は、まずiDeCoの利用を検討してみるといいでしょう。

メリット5. 自分で金融商品を選べる

国民年金や厚生年金は、良くも悪くもお金を年金機構に預けることになります。リターンも保証されていますが、一方で自分の思い通りに年金を運用することはできません。

しかし、iDeCoを使えば、数多くの金融商品のなかから自分の好みのものを選べます。投資の世界では、資産運用の効率を示す「シャープレシオ」という指標があり、自分で金融商品を選べればシャープレシオを高めていくことも可能です。

個人事業主/フリーランスがiDeCoを使うデメリット

フリーランスにとってのiDeCoはメリットが多めですが、そもそもiDeCoという制度には賛否両論あり、デメリットが多いのも事実です。以下ではデメリットも詳しく見ていきましょう。

デメリット1. 原則60歳になるまで資金を拘束されてしまう

一度積み立てた掛金は、原則60歳を迎えるまで引き出せません。株や外国為替のように換金できないため、掛金はすべて老後の備えとして割り切る必要があります。

「機材が故障して買い換えなければいけない」「事故に遭ってしまい、しばらく仕事が受けられない」など、突然の大きな出費に慌てる事態はフリーランスにとってつきもの。掛金はあまり高く設定しすぎず、無理のない範囲に設定しましょう。

例外として、高度障害になった場合は障害給付金、死亡した場合は死亡一時金として積立金が払い出されます。しかし「自分が死んだ後に掛金を返してもらっても……」という声もよく聞きます。老後のことはあえて考えず、いまを生きることに“投資”するのであれば、iDeCoを使う必要はありません。

デメリット2. 手数料がかかる

iDeCoでは口座の開設、維持に手数料がかかります。

開設はほとんどの金融機関で2,777円、維持手数料は最安で171円です。大した金額ではないと思うかもしれませんが、10年や20年支払い続けると考えれば無視できません。

実際、資産運用によって増えていく金額もまちまちのため、あまり調子が良くないと「運用益<手数料」となる「手数料負け」と呼ばれる状況に陥ることも……。

なお、維持手数料は金融機関によって500円近く開きがあり、ネット銀行や証券会社は費用が安い傾向にあります。安易に銀行や郵便局の窓口で開設してしまうと損をする可能性が高いため「手数料最安」をアピールしている金融機関を選ぶといいでしょう。

デメリット3. 元本割れ(=損)のリスクがある

iDeCoでは金融商品を自分で選ぶため、得られる結果は人によって違います。投資信託を選べば大きなリターンが望める一方、元本割れをしてしまうリスクがあることも忘れてはいけません。

投資のリスクを恐れて、あくまで定期預金として考える方もいるでしょう。しかし上で述べたとおり、iDeCoには口座維持手数料が発生するため、手数料以上の利益を得ることは難しいです。運用益を出したいのであれば、積極的に投資していく姿勢が必要となります。

まずは投資のメリットやリスクを知り、運用する金融商品を組み合わせながら最適な資産運用を目指しましょう。

デメリット4. 金融商品を自分で選ぶ必要がある

上で述べた「金融商品を自分で選ぶ」という仕組みは、それ自体をデメリットと感じる方も多いでしょう。もちろん、金融機関によってある程度商品は絞り込まれていますし、ネットで調べればおすすめの商品はすぐに見つけられます。最近では、AIによるアドバイスを受けられる証券会社(ロボアドバイザー)もあるほどです。

しかし、そもそも「iDeCoについて考えるのがめんどくさい」「本当にお金に弱くて、何を書いてあるのかわからない……」という方もいるかもしれません。無理にiDeCoをやって精神的な負担を感じるくらいなら、iDeCoをやらずに楽しいひとときを過ごしたほうが心がラクになるでしょう。

デメリット5. 政治の動向に左右される可能性がある

iDeCoの特徴は、良くも悪くも長い積立期間が必要になるということです。人によっては40年以上の付き合いになることも想定されますが、それゆえに政治の動向に左右されるリスクも小さくありません。

たとえば、改革派の首相が政権を握り、「iDeCoに関連する控除を廃止し、税収アップを目指します!」と宣言した場合。こうなると、iDeCoの節税メリットはほぼ失われて大損することになるでしょう。しかし、受け取り直前まで積み立てていれば、今さらどうしようもありません。

このように、長い年月の積立中に制度が大きく変わってしまうのはリスクです。ただし、逆にiDeCoが大幅に改良され、いまよりもっとおトクな制度になる可能性もあります。むしろ、改良される可能性のほうが高いかもしれません。

iDeCo以外で老後資金の確保に使える制度

ここまで、フリーランスにとってのiDeCoを解説してきました。しかし「iDeCo以外に老後資金対策で使える制度はないの?」と思われる方もいるかもしれません。

結論から言えば、もちろんあります。以下では、iDeCo以外に老後資金の確保に使える制度をご紹介します。

制度1. 付加年金/国民年金基金

付加年金と国民年金基金は、iDeCoと同じで年金を増額させられるオプション制度です。具体的には、以下のような制度といえます。

概要 保険料
付加年金 老齢基礎年金に「付加年金を納めた月数×200円」が加算される。
例)30歳から60歳まで30年間納めると、「360ヶ月(30年分)×200円」で計72,000円のプラス
月400円
国民年金基金 会社員の厚生年金に相当する制度。口数制で加入し、将来の年金受取額を増やすことができる。
加入すると、60歳まで(国民年金に任意加入している場合は65歳まで)掛金の支払いが続く
月額上限68,000円

どちらもiDeCoに近い制度で、節税効果も似ています。iDeCoとの併用も可能ですが、iDeCoを利用している場合は掛金上限額がシェアされてしまうので、上限を増やす効果はありません。

iDeCoと比較した際のメリット、デメリットは以下の通りです。

【メリット】

  • 自分で金融商品を選ばなくて済む
  • 元本割れがない

【デメリット】

  • 自分で金融商品を選べない
  • 金額が固定されている(付加年金)
  • 口数制や種別が少し複雑(国民年金基金)

制度2. 小規模企業共済

先ほどから何度か触れているように、おそらくiDeCoと並んでもっともニーズのある老後に向けた制度でしょう。こちらは中小機構が提供する「フリーランスが自分で積み立てる退職金制度」といえるもので、iDeCoとは仕組みが非常に似ています。全額所得控除になる点や、受け取り時の控除も共通です。

異なる点は、小規模企業共済は掛金に対してリターンもほぼ決まっている点。iDeCoのように資金を自分で運用することはできませんが、逆に運用の手間は発生しませんし、一定期間積み立てれば元本割れの可能性もありません。

「自分で資産運用したいかどうか」が選択のポイントですが、どちらも一長一短な制度なので、併用するのもおすすめです。

【メリット】

  • 自分で金融商品を選ばなくて済む
  • 一定期間積み立てれば元本割れがない
  • 柔軟性が高い(掛金変更、解約はいつでも可能)
  • 手数料がない

【デメリット】

  • 自分で金融商品を選べない
  • 大幅な利益は望めない
  • オンライン手続きに非対応
  • 手続きをする代理店に昔ながらの企業/団体が多い

制度3. 個人年金保険

個人年金保険は、iDeCoとは異なる民間の年金です。おもに保険会社などが提供しています。

メリットとしては、終身年金/有期年金/確定年金など色々な種類があるので、自身の価値観やライフプランなどに合わせた保険を選べる点です。

一方、全額が所得控除になるiDeCoに比べると、全額所得控除にならない点は大きなデメリット。また、受け取り時の控除もiDeCoよりは控えめで、節税効果はあまり高くないといえるでしょう。

【メリット】

  • さまざまな保険を選択できる
  • 保険会社にある程度手続きを投げられる
  • 柔軟性が高い(掛金変更、解約はいつでも可能)

【デメリット】

  • 節税効果で劣る
  • 割高な保険を押し売られる可能性がある
  • 保険会社や保険プランを比較検討するのが手間

【参考】つみたてNISAは老後資金の確保に使える?

皆さんは、「iDeCo」と同じように「つみたてNISA」についても聞いたことがあるかもしれません。2つの制度は「運用益が非課税」「積立型の資産運用制度」という点で似ており、「どっちを選んだらいいの?」と悩む方も多いでしょう。

しかし、両者は似ているようで全然違う制度なので、基本的には併用がおすすめです。そもそも、「自分で積み立てる年金制度」であるiDeCoに対し、つみたてNISAは「国民にもっと投資をしてもらうための制度」です。国民にもっと投資をしてもらうための仕掛けは豊富ですが、非課税期間が最長で20年と、老後の資金確保にはあまり向いていません。

ただし、2024年からNISA制度は大幅に変化するため、非課税期間が無制限になるといわれています。そうなれば老後の資金確保目的でもNISAを活用できるようになるでしょう。NISAには所得控除の効果がないため、その点をどう考えるかが選択のポイントになりそうです。

まとめ

iDeCoは年金としてだけでなく、節税の面からも見逃すことのできない制度です。

フリーランスになって確定申告を始めた方の中には、自分がどれだけ税金を収めているかがより身にしみて分かり、できるだけ税金を減らしたいと考えるようになった方も多いでしょう。

また会社員時代に比べて収入が大きく増え、税負担が重くなってしまった方も多いはず。

節税は所得が多い人ほど大きなメリットを得られます。ぜひこの機会に、iDeCoへの加入を検討してはいかがでしょうか。

(執筆:山田ユウキ 編集:Workship MAGAZINE編集部 監修:トージンFP事務所)

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