成功しているビジネスに忍び寄る「大手」の影。小規模事業者が潰れないための3つのコツ

成功しているビジネスに忍び寄る大手の影

こんにちは、夏野かおるです。今年の7月にフリーライターから法人成りをしたばかりの新米経営者です。

この記事でも書いたとおり、Web系の仕事はパソコンひとつあればできる、儲かりやすい業種です。うまくやれば、一人で立ち上げたビジネスが莫大な利益をもたらしてくれる可能性がある、夢のある業界と言えるでしょう。

しかし、だからこそ、うまくいきそうなビジネスモデルが誕生すれば、すぐさま大手が攻めてきます。豊富な資金力とマンパワーで、みるみるうちにユーザーを奪われるかもしれません。

この記事では悲しい実話を交えつつ、「小規模事業者がじょうずに生き残る方法」について考えていきます。

夏野かおる
夏野かおる

フリーランスの編集者・ライター。コンテンツマーケティングやディレクション、マネジメントに仕事の幅を広げ、2021年7月に1人会社を設立。高等学校教諭一種免許状(国語)保有。京都大学大学院博士課程指導認定退学(博士論文準備中)。趣味はゲーム。Twitter:@Natsuno_Kaoru

小規模事業者が偵察要員にされた話

昔アルバイトしていたお店の話をします。特定されないよう、ちょっぴりぼかして書きますが、以降はすべて実話です。

あるところに、地域密着・個人経営でそこそこ繁盛しているお店がありました。仮に、『パリピたこ焼き』とします。

毎日まじめに営業されていたところ、全国チェーンのたこ焼き店『チョベリグたこ焼き』から声がかかりました。話を聞くと、店長の腕を見込んで、『チョベリグ』系列店にならないかとのことでした。

『パリピ』は黒字でやれていますし、細々とやっていく道もあります。しかし規模が小さいため、材料や消耗品の仕入れが割高になっていたり、知名度がなくスタッフが集まりにくいなどの弱点を抱えていたのも事実でした。『チョベリグ』の系列になれば、こうした課題が解決できるかもしれません。

それでも店長は迷いました。安定した経営基盤は魅力だけれど、『パリピたこ焼き』の名前が消えてしまうのはイヤだなあ、と。ところが『チョベリグ』の営業マンは、「系列店になるといっても、お店のやり方はこれまで通りでいいですよ!」と言います。店長はいよいよ前向きに考え始めました。

しかも『チョベリグ』の営業マンは、「せっかくなら隣の大型駅にもお店を出しませんか。集客やオペレーションは全面支援しますので!」と応援してくれました。隣の駅に手を広げれば、いまのお店よりずっとお客さんが集まりやすくなります。店長は、今こそ勝負どき!と『チョベリグ』系列店になり、隣の駅に店舗を増やすことに決めました。

1年後、『パリピたこ焼き 駅前店』は繁盛し、お客さんの絶えないお店になりました。近くにたこ焼き屋さんがなかったこともあり、予想以上に反響が大きかったのです。

たこ焼きよろしくホクホク顔の『パリピ』店長。このまま行けば、定年後にはクルーザーにだって乗れちゃうかも!と思っていましたが……。

ある日、駅前を通りがかって言葉を失います。なんと、駅の真ん前の一等地に『チョベリグたこ焼き』の直営店がオープンしていたのです。

「こ、これはどういうことだ!」

実は、『チョベリグ』の狙いはここにありました。人々がたこ焼きを求めているかどうかを、『パリピ』を利用して調査していたのです。そして勝ち筋が見えた瞬間、豊富な資金力をもって一等地に出店したのでした。

『パリピたこ焼き』のお客さんは激減しました。『パリピ』は少人数で回している分、不揃いだったり、タコが入っていなかったりと、小規模ならではの弱点があったのです。

一方の『チョベリグ』は最新鋭のたこ焼き器を導入しており、店員もエリート揃い。流行りのキャッシュレスも取り入れ、立地もカンペキとなれば、お客さんがわざわざ小さな『パリピ』を選ぶ理由はないのでした。

「これから、どうすれば……」

うなだれる『パリピ』の店長ですが、もはや、なすすべはありません。

このまま店を畳み、もとのお店で細々とやるか。『チョベリグ』に頭を下げて、『パリピ 駅前店』を『チョベリグ2号店』に改名し、テイクアウト専門店の雇われ店長になるか。

日に日に膨らむ赤字を眺めつつ、決断を迫られることになるのでした。

誰もが「うまいビジネス」に目を光らせている

付け加えますと、もとの話はもう少し悲惨で、オーナーはもとの店を手放した上、自己破産されました。詳細な部分は推し量るほかないのですが、もともとのお店で学生バイトと同列に扱われ、小さくなっておられた背中を思い出すたび心が痛みます。

フリーランスや一人会社の社長は、これを他山の石とする必要があります。世の中には、個人・小規模事業者の弱みを痛感させられる事件がたくさんあるからです。

たとえば、2019年の「ティラミスヒーロー」商標事件。もとのお店とは全く関係のない会社が勝手に商標登録し、大々的にブランド展開しようとした事件です。SNSで炎上したことからひとまず落着を見ましたが、ひと昔前であれば、泣き寝入りするほかなかったかもしれません。

「ティラミスヒーロー」商標問題は今どうなっているか?

また最近では、インディーゲーム『Among Us』に酷似した内容が『フォートナイト』の新モードとして発表され、開発者が意見を表明する事件もありました。

『フォートナイト』の新モードに『Among Us』スタッフが不満げ。人狼ゲーム風「インポスターズ」

上ではたこ焼き屋さんの例を出しましたが、個人での起業となると、Web系のビジネスを考える人は多いでしょう。初期投資があまり要らないため、個人でも参入しやすいうえ、利益率も高いからです。

しかし、それは大企業にとっても同じこと。今は様子を見ているだけで、ひとたびそのビジネスが「当たる」と分かれば、全力で攻めてくるかもしれません。

残念なことですが、ビジネスの世界においては、「ヒット=うれしい!」と単純に捉えるのではなく、「他社に見つかってしまった」と捉え、危機意識を強めなければいけないのです。

大手とうまく棲み分ける3つのコツ

では、小規模事業者はもはや、なすすべないのでしょうか。結論から言えば、そんなことはありません。競争を回避し、平和にやっていく方法はちゃんとあります。

ビジネスの先輩から聞く限り、大手との競合を避けるコツは、以下の3つにまとめられます。

コツ1. 地域密着で小さくやる

「兵庫県東部に特化した編プロ」のようなやり方です。地域密着系ビジネスには、その地域に関するそこそこ深い知識が必要になるため、大手企業が攻めてきても優位を取れる可能性が残されているからです。

たとえば、かつて私が住んでいた京都市(洛中エリア)はほとんど坂がない、非常に平坦な地形です。ここで自転車屋さんを営んでいたとして、ある日、全国チェーンの大人気ショップ『坂がバリバリ上れる!バリバリ自転車』が攻めてきても、たぶん競合しないでしょう。「おたくの『九条ねぎホルダーつき自転車』のほうがよっぽどええわ」と思ってもらえる可能性大です。

こんな感じで、地域に特化したビジネスを小さくやっている限りは、競合性は低いままでいられます。とはいえ、何かの拍子に『九条ねぎホルダーつき自転車』がバズった場合、大手にアイディアを盗まれて、ねぎの聖地・千葉県などで大々的に展開されるリスクがありますので、そのあたりの対策は必要です。

コツ2. 市場規模の小さな領域でやる(=トガる)

「地域を限る」と似た発想ですが、そもそものマーケットが小さければ、「そんなところわざわざ参入しないよ」と判断される可能性があります。

「マーケットが小さいところでやる」とは、たとえば、「沖ノ鳥島のリアルを発信するメディア!『LOVE沖ノ鳥島』」のようなやり方。おそらくですが、沖ノ鳥島にものすごく関心がある人は多くないですよね。いや、排他的経済水域を考えるとめっちゃ重要な島なんですが……。

沖ノ鳥島のイラスト

▲沖ノ鳥島のフリーイラスト

仮にこのメディアが大バズりしたところで、沖ノ鳥島はこんな島↑ですから、大規模ツアーを組めるわけでも、移住ビジネスを推進できるわけでもありません。うまみがなければ、大手がわざわざ参入する理由もないため、平和に沖ノ鳥島業界の圧倒的No.1でいられることでしょう(なんだよその業界)。

こう言うと、「いや、私たち小規模事業者だってうまみのないマーケットには興味ないよ」と感じるかもしれませんが、ちょっと待ってください。大手の想定する「うまみ」の規模と我々のソレは、大きくかけ離れています。

多くの社員を抱える大手企業にとっては、たとえ数百万円の利益が出たところで、はした金どころか機会損失(マイナス)です。だって、同じ労力をもっと大きなマーケットに注げば、もっと大きなリターンが見込めるわけですから。

一方、小規模事業者にとっては、年間数百万円程度でも利益があればうれしいもの。このズレを利用し、小さなマーケットでほそぼそと商売することで、大手との競合を避けつつ圧倒的No. 1の地位を築くのです。これもまた、我々に許された戦い方と言えるでしょう。

ただし、これも万能ではありません。たとえば大手企業が「全世界の島を網羅する!『LOVE島たち』」みたいなメディアを始め、その過程において、沖ノ鳥島の情報もガンガン発信する……なんてやり方をすれば、潰される可能性はあります。心して臨みましょう。

コツ3. むしろ事業譲渡する

最後は大手と戦うのではなく、積極的に手を組む(売却してしまう)方法です。

たとえば、プロのアフィリエイトブロガーさんだと、複数のWebサイトを運営しているケースも珍しくありません。仮に「たこ焼き」「お好み焼き」「串カツ」の3領域で展開していたとしましょう。

このうち「たこ焼き」の売上は1億円、「お好み焼き」は500万円、「串カツ」は赤字続きだったとしたら、継続可否をどう判断すればよいでしょうか。

とりあえず、赤字の「串カツ」サイトは閉鎖するとして、「お好み焼き」はたった500万円とはいえ、黒字です。もっと記事数を増やしたり、SEO対策に本腰を入れたりすれば、1億クラスに化けるかもしれません。

とはいえ、主力は「たこ焼き」ですから、あまり「お好み焼き」に力を割きたくない。閉鎖はもったいないけど、継続も面倒だな……。

そこで行われるのが「事業譲渡」です。「日本一の『お好み焼き』サイトに成長させまっせ!」と考える、ソウルフルな大阪人にサイトを売却してしまうのです。いや、別に大阪人じゃなくてもいいんですけども。

体感ですが、Webの世界では、Webサイトをはじめとした事業譲渡がわりと頻繁に起こっている印象です。「個人では面倒を見切れないから」と大手に売却するケースもあれば、「うちがやるには市場規模が小さいから」と中小企業に売却するケースも耳にします。

中には、Webサイト売買に特化したサービスもあります。「M&A(合併・買収)」なんてドラマの世界かと思いきや、わりとカジュアルに行われているのですね。これもまた、立派な戦略のひとつと言えるでしょう。

サイト売買のラッコM&A

一人社長は悲観主義者たれ

何事も、「はじめ方」と同じくらい「終わり方」が大事です。

私はゲーム制作が趣味で、何度かサークルを立ち上げたことがあります。その経験から言うと、作っている間がどれだけ楽しくても、畳むときに揉めると「二度と思い出したくない、最悪の出来事」という記憶になりがちです。

事業も同じで、たくさんよい思い出ができても、最後の最後に大失敗したり、マーケットを退場するような出来事が起きたりすると、「会社なんか作らなきゃよかった」と思ってしまうはず。傷が癒えるには、それなりの時間がかかることでしょう。

そうならないためには、多方向からリスク要因を洗い出し、対処しておくことが大切です。

甘い話に乗らないのはもちろん、商標をはじめ、法律まわりの脇を固める。大手と競わないマーケットで戦う。うまくいきそうなら、平和的に事業譲渡できないか考えておく、など。

人間に寿命がある以上、廃業のときはいつか必ずやってきます。「終わりよければすべてよし」となれるよう、準備を進めておきましょう。

(執筆:夏野かおる 編集:少年B イラスト:あずさ)

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