【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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はじめまして。フリーライターの夏野かおるです。個人事業主として開業して3年。おかげさまで仕事の幅も広がり、今年の7月に会社を設立しました。いわゆる、「フリーランスからの法人成り」です。
「法人化するってことは、さぞ稼いでいるんでしょう?」と思われるかもしれませんが、2020年の事業収入は566万2553円、所得は407万9431円でした。リアルですね。
それでも法人化したのは、より信用を得て、活動の幅を広げたかったためです。事実、法人成りする前は、「フリーランス/1人会社って、生活実態は一緒でしょ?」と思っていたのですが、実際のところは、受注できる仕事が大きく変わりました。
というわけで、今回は法人成り(会社設立)後に感じたことを3つ書いてみます。
フリーランスの編集者・ライター。コンテンツマーケティングやディレクション、マネジメントに仕事の幅を広げ、2021年7月に1人会社を設立。高等学校教諭一種免許状(国語)保有。京都大学大学院博士課程指導認定退学(博士論文準備中)。趣味はゲーム。(Twitter:@Natsuno_Kaoru)
突然ですが、「決断」って得意ですか?
周囲を見渡してみても、「自分は決断が大好きです!」って方はあまりいないように思います。逆に、「決断が苦手で」って意見はよく見るので、もしかすると人間は、概して決断が苦手な生き物なのかもしれません。
しかし法人化すると、すべての決断を自らが下す必要があります。とくに設立直後は、税理士さん、司法書士さん、銀行などから「この内容で問題ありませんか?」「ここの内容はどうしますか?」「こちらの内訳を確認し、問題がなければその旨ご連絡ください」みたいなメールがわんさか来ます。
私のフリーランス仲間には、家族が会社を経営している方がおられるのですが、その方もやはり「社長業って決断することが多くて大変そう」とおっしゃっていました。マッチングアプリに出てくる相手をスワイプするがごとく、物事をサクサク決めていく姿勢が求められるわけです。
しかも、個人事業主だったころと比べると、判断を間違えた際のダメージが大きくなりがち。「重要な手紙やメールをついつい後回しにしちゃう」タイプの方は、会社設立を機に「見た瞬間に処理する」タイプに変身するつもりで臨んだほうがよいと思います。
法人化後、何よりもビビったのが「契約の重み」でした。当たり前ですが、個人と法人では求められる範囲が大きく違うんです。
わかりやすく説明するために、クライアントが「たこ焼き屋さん」だと仮定して話を進めましょう。
個人として活動する場合、委託されるのはせいぜい、「たこ焼きをうまく焼く」くらいの業務なことが多いです。もちろん、その人の実績によっては、「新メニューを開発する」とか、「たこ焼き機を改良する」とか、そういう事業の根幹に関わる業務を委託されるかもしれませんが、そのクラスの仕事はなかなか表に出てこないのがふつうです。
一方で法人になると、「今、この店舗の売り上げは5000兆円ある。これを8000兆円にする戦略を提案して欲しい」とか、「実はとっておきの新メニュー『ヨーグルトたこ焼き』を売り出したいと思っている。御社にはそのマーケティングを任せたい」みたいな仕事を打診されることがあります。開示される情報の質がガラッと変わるわけですね。
こうなると、契約の重みがずいぶん変わってきます。とくに差を感じたのが、「秘密保持契約」の重み。契約内容自体にはそこまで差がないものの、開示される情報の質が変わるため、万が一漏らしたときにクライアントに与える損害がケタ違いなのです。
再びたこ焼き屋さんの例に戻ると、個人として知りうるのはせいぜい「この角度でピックを差し込むとまんまるなたこ焼きになるぜ!」みたいな情報です。仮にうっかり漏らしたとしても(ダメですけどね)、競合他社からすれば、「そのくらい知ってるよ」ってレベルで、クライアントに与えるダメージは軽微にとどまる可能性が高いです(ダメですけどね!!!)。
一方で法人になると、先述の通り、事業戦略の根幹に関わる情報を知り得てしまいます。サイゼリヤで酔い潰れてペラペラ秘密をしゃべっちゃって、もしも隣のテーブルに競合他社がいたら? 虎の子の「ヨーグルトたこ焼き」のアイディアが盗まれてしまうかもしれません。そうなれば、クライアント企業のこれまでの努力はパアになってしまいます。
事実、クライアントさんにも何度か「襟を正してね」といった趣旨のアドバイスをいただきました。これまではお目こぼししてもらえたことでも、法人になるとそうはいかなくなります。
もちろん、「個人だからいい加減に仕事をしていい」ということでは全くありませんが、これまでが100%だとしたら、体感5000%くらい品行方正に生きなきゃなあと感じているところです。
最後は「委託する側」になって感じたことの話です。
会社設立にあたり、自分の中で大きなテーマとなっていたのが「属人的な仕事からの脱出」でした。というのも、1人で動いている限り、1人分の仕事しか受注できないからです。
たとえば、私の通っているパーソナルトレーニングジムのオーナーさんは、「人を雇わなきゃスケールしない(事業拡大しない)んだけど、性格上、なかなか人に任せられない。それに、各種ルールの整備もめんどうに感じてしまう」と言っていました。
私も人に任せるのが苦手なたちなので、気持ちは痛いほど分かります。でも、会社のオーナーって、仕事をうまく仕組み化しないと、時給で働いているのと何ら変わらないんです。実際にそのトレーナーさんも、利益率が思うように上がらないことを嘆いていました。
だからこそ私は、会社設立してすぐにアシスタントさんを募りました。まずは、ごくごく限られた範囲から、人にお願いすることに慣れようかなと。
おかげさまで素晴らしい方と出会うことができ、「こんな出来たての会社に力を貸してくださって、ありがとうございます」という気持ちでいっぱいなのですが、やはりプレッシャーは感じています。「この方に継続してお仕事をお願いできるように、売り上げを安定させなければ」という気持ちになるのです。
会社を設立する目的は人それぞれなので、もしかすると、「このまま1人で、小さくやっていこう」と考えている方も多いかもしれません。しかしそうでない場合は、事業がうまく行けば行くほど、どなたかの力を借りる場面が増えてきます。
それはプレッシャーだけれども、別の角度から見てみれば、仕事に身が入る理由にもなる。小心者ゆえ、正直なところ怖気づいておりますが、これもひとつの通過儀礼と受け止めて、まじめに頑張ろうと思います。
以上、個人の視点から、法人成り後に感じたことを書いてみました。なんだか「リスク」と「責任」まみれですね。私がネガティブ寄りなこともあるでしょうが、なんとなく、法人化が「無条件にハッピーな選択」でないことが伝わったかと思います。
じゃあ、それだけ気が小さいのに、なぜ起業したの?とたずねられると、「最悪、こっちで食べていこう」という逃げ道があったから、というのが大きいです。というのも、私は教員免許を持っているほか、学習塾での指導経験がそこそこあり、生活費くらいはなんとか稼げそうだな……と見込んでいたのです。なんなら、今でも定期的に求人チェックしています。経営が危うくなったら即バイトしたい!
ひとくちに起業家といってもスタンスはいろいろです。もちろん、中には豪放磊落、武将かな?ってマインドの方もおられます。しかし、一方で、「アルバイトを続けながら起業した」という方も少なくありません。
生活スタイルや起業の事情は人それぞれですから、どちらがいいと決めつけるわけではありません。でも、なるべく、起業のいい面だけでなく、リスクも正面から見据えることが大事なんじゃないかなと。経営一本では安心できないと感じるなら、週に1〜2日はアルバイトをしたっていいと思うんです。
健全な経営は健全なマインドから。無理なく、気持ちよく働ける会社を、自分なりに作っていきましょう。
(執筆:夏野かおる 編集:少年B イラスト:あずさ)
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