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「悪くはないのですが……。違う案も出してもらえますか?」
デザイナーなら、誰もが一度は言われたことのあるセリフですよね。ぼくは夢の中でも言われ、うなされたことがあります。
こんにちは、デザイナーのこげちゃ丸です。「デザインの言語化ってなんだろう?」の連載も第15回を迎えました。書くほどに「デザインの言語化」は奥が深いテーマだと感じています。
デザイナーは言葉で説明することに苦手意識を持っている人が多いはず ── これが連載を始めたきっかけなのですが、それってデザイナーに限った話ではないんですよね。デザイナーが苦手なのではなくて、デザインを言葉で説明するのは誰にとっても難しいことなんです。
だから、クライアントから「悪くはないんですけど……」という曖昧な表現が出るのは仕方ないことなのです。デザイナーにとって、自分のデザインを言語化する力も必要ですが、他者の気持ちを汲み取り、言葉にすることも大事なスキルです。
今回は、クライアントの真意を引き出し、デザインのクオリティを上げていく「デザインの言語化」について書きたいと思います。
クライアントワークを中心に活動している、描いたり書いたりしているデザイナー。商品デザインからビジネスコンセプトづくりまで、幅広い領域で悪戦苦闘の毎日です。(Twitter:@onigiriEdesign)
修正依頼はされたものの、よくよく話し合ったら修正の必要はなかった、ということはよくあることです。デザインサンプルとともに、具体的に説明しましょう。
- 水族館のリニューアルオープンの告知ポスター
- 首都圏主要10駅にB0サイズ2枚の連貼り掲示
- 夏休みに合わせた告知キャンペーンの一環
- 訴求ターゲットは、小学校低学年の子を持つ家族連れ
この依頼に対して提案したデザインへの反応が、どうもイマイチです。そして、打ち合わせ早々に「悪くはないですが、違う案も出してくれませんか?」 というコメントをもらってしまいました。
明確な理由なく、追加案をお願いしてくるクライアントには二つのタイプがあるな、とぼくは思っています。
一つめは、ダメな理由を言葉にできない人。このタイプの方とは、時間をかけて会話するしかありませんが、めったに出会うこともありません。少なくても、ぼくが依頼をいただくクライアントの方々は、何かデザインのヒントにならないかと一生懸命コメントを考えてくれます。
圧倒的に多いのは二つめのタイプ、上司に報告するための選択肢が欲しい人です。「自分はこのデザインが好きだけど、案が一つしかないと上司に報告しづらいし……。もう一案お願いしちゃおう!」という心の声を持っている方ですね。新しく担当になった方に特に多い気がします。
だから、そんな雰囲気を感じたら、目の前にいる担当者が上司に報告する場面を想像しながら説明すると効果的です。
今回のポスターが貼られる位置は、床面から約80cmと、どの駅でもほぼ同じ高さです。子ども達のシルエットは、ポスターが貼られたときに小学2年生の平均身長と同じ高さになるようにレイアウトされています。水族館の水槽の前にいるような疑似体験を生む、ユーザーの目に止まるデザインを狙いました。
ポイントは、デザイナー目線でなくユーザー目線で伝えることです。クライアントの上司が気にするのはデザインの良し悪しではありません。
「そのポスターでターゲットユーザーにきちんと訴求できるのか?」
その一点です。相手の立場を考え、担当者が報告しやすい言葉で説明してあげれば、不要な追加案を出さずに済むこともあるんです。
次は事例1とは正反対で、クライアントのコメントが明確な場合です。修正指示が具体的だと嬉しい反面、困ってしまうこともあります。
「青い四角形の角丸をとってもらえますか?」と、かなり細かい修正指示をもらったとしましょう。なぜですか?と質問しても、「その方がいいと思うからです」と曖昧な返事。たしかにピン角の四角にしてもデザイン的に問題はありません。言われた通りに修正してもいいでしょう。
ただ、なにかスッキリしない展開ですよね。クライアントもデザイナーにも、モヤっとした気持ちが残ってしまいます。そんなときは、なぜクライアントが「ピン角の四角」にしたいのか、相手の気持ちを汲んで言語化するといいと思います。
ほんとうに何となく思いついただけなのか? よりシンプルなデザインにしたいのか? 一回で正解に辿りつかなくても大丈夫です。会話を繰り返しながらクライアントの本心に近づいていくことが重要です。
「ピン角の四角にしたいというのは、もっと先進感を出したいということですか?」「そう、それです! もっと先進感を出したいんです!」と正解に辿りつけたら、お互い嬉しい気持ちになりますよね。「だったら写真全体にブルーのグラデーションをかけましょう。その方が効果的です」とよりよいアイデアも提案ができます。
そうするとデザインもよくなるし、クライアントからの信頼も増します。デザインの言語化には、自分の思いを伝える以外にも、相手の気持ちを引き出し、デザインの方向性を明確にする力もあるんです。
最後は、デザイン用語を会話の中に上手に織り交ぜ、相手の理解を得る事例です。
シンプルなデザインを要望されて提案するも、クライアントからOKはもらえませんでした。「うまく言葉にできないのですが、もうちょっと軽くというか…… オシャレな感じにできませんか?」と抽象的なコメントが返ってきました。
こういう場合は「オシャレ」を深掘りして会話から相手の真意を引き出すのが王道ですが、ときには言葉とビジュアルで、クライアントの頭の中をカタチにしてあげることも必要です。
特に納期が迫ってクライアントも焦っている場合、デザインのディテールについて根掘り葉掘り質問すると「あんたプロのデザイナーでしょ? それくらい察して修正案持ってきてよ!!!」と逆ギレされてしまうなど、お互いにとって不幸な事態にもなりかねません。
シンプルなデザインを希望していたクライアントが、「もうちょっと軽く・もっとオシャレ」にと要望が若干変化した ── そこから相手の気持ちが推察できるはずです。
間違ってはいけないのは、「シンプル、軽さ、オシャレ」三つの言葉を満たすデザインが求められていること。「オシャレと言われたから、シンプルは忘れて装飾を派手にしよう!」と考えてしまっては、修正地獄へまっしぐらです。
「囲い線にすき間をつけて、ヌケ感を出してみるのはどうでしょう? こうすれば、シンプルながらオシャレなイメージも出せると思います」
このデザイナーからのコメントには、二つのポイントがあります。一つめは、「ヌケ感」というデザイン用語をさりげなく相手に伝えること。そうすると、クライアントも「こういうときはヌケ感と伝えればいいんだ」となります。言葉の引き出しが増えるんです。
もう一つ大事なことは、相手の言葉を不用意に言い換えないことです。ぼくは、自分からデザインの説明をするときは「オシャレ」という言葉は使いません。「オシャレ」は色んな意味を含むからです。だから「華やかになります」「シックなイメージを出せます」と、デザインに合わせて言葉を選びます。
でも、だからといって先ほどのコメントを「シンプルながら華やかになります」と答えたらどうでしょうか? 「オシャレにして欲しい」とコメントしたのに、「華やかになります」と返されたら、クライアントはどこか腹落ちしないかもしれません。ぼくが逆の立場だったら、自分の言葉をしっかり受け止めてくれるデザイナーと仕事がしたいと思うでしょう。
かなり細かいことですし、ここまで気にしない人がほとんどかもしれません。でも、相手の気持ちを言葉にするときは、それくらい誠実に向き合いたいとぼくは心がけています。
クライアントが気づかないほどの小さな気配りの積み重ねが、信頼に繋がることを誰も否定できないと思うんですよね。
(執筆&イラスト:こげちゃ丸 編集:少年B)
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