デザインチームを円滑にする、愛ある“ダメ”の出し方

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あなたは英語が得意ですか? ぼくは苦手です。仕事で使わなければいけない場面もありますが、伝えたいことの半分も言えず、落ち込むことも多々あります。ただ、英語の会話で険悪になったこともありません。それも当然ですよね。共通言語が乏しい状態では、意思疎通が難しくケンカになりづらいのです。

逆に言えば、共通言語が多いほどケンカになりやすいとも言えます。言葉の機微が分かるからこそ、相手のひとことにカチンときてしまう。クライアントとデザイナー、共通言語が少ない間柄でトラブルがあるように、デザイナー同士の会話にも多くのトラブルの種があります。

今回は、デザインチームの上司が部下へダメ出しするときに気を付けたいことについて書きたいと思います。

こげちゃ丸
こげちゃ丸

クライアントワークを中心に活動している、描いたり書いたりしているデザイナー。商品デザインからビジネスコンセプトづくりまで、幅広い領域で悪戦苦闘の毎日です。(Twitter:@onigiriEdesign

デザイナーのこだわりポイントを理解しよう

デザイナーは、こだわりの強い人が多い職種です。色やフォント、レイアウトなど一般の人から見れば差異がわからない部分に妥協を許さず、「美は細部に宿る」と信じている人が多い。だから、デザイナーは自分のこだわりを知ってもらえると嬉しくなるものです。

まず、デザインチームの上司は部下のこだわりポイントを理解することがとても重要です。そのうえでアドバイスしないと、愛あるダメ出しになりません。頭ごなしに修正箇所を伝えても部下は納得してくれないのです。

デザインを構成する3つのレイヤー

ぼくは、デザインをディレクションするときに「CONCEPT、LOOK、ACCENT」3つのレイヤーに分けてアドバイスの仕方を変えています。

デザインにおいて、CONCEPTが一番大事なのは分かるけど、となりのラーメンの絵は何?と思った方もいますよね。実はこれ、デザインの3つのレイヤーと、ラーメンの味を決める3要素がとても似ているので、メタファーとして引用したんです。一つひとつ、事例と一緒に説明していきますね。

CONCEPTのズレは、醤油ラーメンを注文されたのに味噌ラーメンを出すがごとし

CONCEPTは、クライアントの意向を汲み、デザインの方向性を決める大切な土台です。ここがズレていては話になりません。でも、ときには部下がクライアントの意向を無視してデザインを提案してくることもあると思います。「このほうが絶対美味しいですから!」と、醤油ラーメンを注文されたのに味噌ラーメンを作ってしまったようなものです。

そこで、「なんでお客さんの注文通りにつくれないの!? やりなおし!!」と頭ごなしに否定してはいけません。まず、「味噌ラーメンもおいしいよね。どんな工夫をしたの?」と相手のこだわりを聞いてみましょう。きっと部下は、自分の工夫やデザインに込めた想いを熱く説明してくれるでしょう。

その上で、クライアントの意向とズレている部分を質問するといいと思います。

「濃厚な合わせ味噌が美味しいのはわかった。でも、クライアントはあっさりとした旨味を要望しているのに、なぜ真逆な味を提案するのかな?」

このとき、部下がクライアント視点で説明したなら、しっかりと耳を傾けるべきです。もしかしたら、クライアントが気づいていない、新しい視点がそこにあるかもしれません。逆に、「こっちの方が私はうまいと思うからです!」と自分視点で語るデザイナーには、きちんと諭してあげなくてはいけません。

「まず、クライアントの意向に沿ったモノを提案してから+αの提案をしよう。+αの提案だけでは、共感を生まない独りよがりなデザインになってしまうよ」

自分のこだわりを理解してくれた上で、目指すゴールとのズレを明確に教えてくれる。そんな上司の言葉には、必ず部下も耳を傾けてくれます。

LOOKのズレは、太麺を注文されたのに細麺を出すがごとし

LOOKは、色やカタチ、レイアウトなど、デザインの見た目を決める要素すべてを指します。気をつけるべき点は、LOOKは好き嫌いが出やすいことです。

ラーメンでたとえるなら、麺です。スープと同じく、味に大きな影響があるものの、個人の嗜好も分かれます。同じ醤油ラーメンでも、太麺のモチモチ感が好きな人もいれば、細麺の喉越しがたまらない!という人もいます。

部下がLOOKにこだわってると感じたら、上司は覚えておくといいことがあります。それは、LOOKに正解はないが、セオリーがあるということです。

デザイン要素で好みがもっとも分かれる「色」を例にしてみましょう。デザインは単色で構成されることは少なく、いくつかの色を組み合わせることが多いです。つまり配色が必要となります。そして配色にはセオリーがあるのです。

配色のセオリーでもっとも使いやすいのは「トーン配色」でしょう。色の明度と彩度に注目して配色すると調和がとれたデザインになります。

▲ちぐはぐな配色もトーンを揃えるだけで調和がとれます

次に、より具体的な事例で見てみましょう。「華やかながら落ち着いた印象を感じる『日本の模様』をテーマにしたグラフィックをお願いしたい」というクライアントのオーダーに、あなたの部下が下のデザインを出してきたとします。

イラストAC(花和柄)の色調を加工

グラフィックはとてもいいのですが、「華やか」というキーワードを意識するあまり、色数が多くトーンが合っていません。もうひとつの要素である「落ち着いた印象」が弱いですよね。彩度の調整、特にメイン色のマゼンタに手をいれると、クライアントの要望に応えるデザインになりそうです。

ここで、「マゼンタの色味が浮いているから彩度を調整してくれる?」と短い言葉だけを伝えるのはNGです。「デザインの完成度は高いけど、クライアントの要望からはズレているね」というように、自分のデザインが否定されたのではないと、部下に感じてもらうことが大切なんです。

デザイン全体の印象を決めるメイン色は、デザイナーが一番こだわる部分。それを理由も言わずに、「修正」の二文字で片付けてはいけません。

また、修正方向を具体的、かつ部下が自分で考えられる余地を残しながらコメントすることも重要です。

「華やかさを色数を使って表現している部分はとてもいい。けれど、『落ち着いた印象』が表現できていない。色の彩度を低めに合わせて、トーンを揃えよう。彩度を落とすと華やかさが減るはずだから、何色か足して全体のバランスを取ってみて」

大きな方向性を明示しつつ、部下が試行錯誤できる余地を残すことが、デザインのディレクションではとても大切だと思います。1から10までコメントしては、単なる作業指示になってしまい、部下のやる気が下がってしまう可能性があります。

▲華やかながら落ち着いた印象を感じるように修正されたデザインサンプル

ACCENTのズレは、部下のセンスに任せてみよう

ACCENTは、デザインを完成させる細部の仕上げのことです。LOOKとACCENTの線引きは難しいですが、変更してもデザインのクオリティが変わらない部分と考えてもらっていいと思います。LOOKとACCENTの差を見極め、部下に任せる部分は口は出さないことも上司に必要なスキルです。

ラーメンでいえば、ACCENTはトッピングです。煮卵ラーメンもチャーシューメンもそれぞれの良さがあります。味の決め手になるスープと麺が美味しくできていれば、どんなトッピングをのせても美味しいでしょう。煮卵とチャーシュー、どちらがトッピングとして優れているかを議論することは意味がありません。

誰でも、自分の提案が採用されたときは嬉しいものです。その嬉しさが仕事へのモチベーションに繋がります。逆に、たとえそれが正解だったとしても、1から10まで上司に言われて出来上がった仕事はモチベーションを下げてしまいます。

部下の提案で自分のセンスと違う部分は気になりますよね。つい細かい修正コメントをしたくなるものです。でも、デザインのクオリティが変わらないなら、部下の提案を積極的に採用する方がいいと思います。それが自信となり、部下の成長にも繋がるのです。

部下や外注先、もしくは一緒に働くチームメンバーに対してだって、デザインのダメ出しをするのは骨の折れることです。本当はメンバーの思い通りにデザインさせてあげたい、でもデザインのクオリティは妥協できない。そんな相反する気持ちと向き合わなくてはいけません。

衝突することもあれば、これなら自分でデザインした方が早い! と思ってしまうこともあるでしょう。でも、それを乗り越えていいデザインが出来たときは、ひとりでは感じられない喜びと充実感が得られます。

それがデザインをディレクションする醍醐味だし、少しでもメンバーが気持ちよくデザインできるように、チームを円滑にする言語化が大切だな、と日々感じています。

(執筆&イラスト:こげちゃ丸 編集:少年B)

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【連載】デザインの言語化ってなんだろう?

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