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こんにちは。デザイナーのこげちゃ丸です。
「デザインの言語化って必要ですか?」と聞かれることがあります。この連載をしているのに恐縮ですが、実はぼくも、デザインの言語化があらゆる場面において常に必要とは思っていません。それでもやはり、クライアントのためにも、自分のためにも、言語化は大切だと考えています。
今回は、デザインの言語化がなぜ大切なのか、「デザインとアートの違い」を交えてお話します。
クライアントワークを中心に活動している、描いたり書いたりしているデザイナー。商品デザインからビジネスコンセプトづくりまで、幅広い領域で悪戦苦闘の毎日です。(Twitter:@onigiriEdesign)
「デザインの言語化は常に必要とは思っていない」と書きましたが、言語化がいらないデザインとは、どのようなデザインでしょう? ぼくはアートに近いデザインは、言語化は不要だと思っています。
ルミネ企業広告は、写真家・蜷川実花氏とコピーライター・尾形真理子氏の共作による、人気のシーズン広告です。この広告の良さを言語化するのは野暮だと思いませんか? それは、お二人が著名なクリエーターだからではありません。この広告は、受け手が自由に解釈できるようにデザインされているからです。
前述のビジュアルを見て、前を向いて歩きだした女性をイメージする人もいれば、悲しみに向きあっている女性を想像する人もいるでしょう。受け手に解釈を委ねている点で、この広告はアートに近いデザインと言えます。
アートに近いデザインでは、「計算された感じ」を見せないことが重要です。作り手の意図が見えるデザインをすると、受け手は感覚を誘導されたように感じ、気持ちが冷めてしまうからです。
実際、2014年からルミネ広告のアートディレクターを担当されている関谷奈々氏は、ブレーンのインタビューで「(コピーのレイアウトは)けっこう理屈で置いています」と語っておられました。でも、それを感じさせないように広告は作られていて、素晴らしいなと思います。
では、アートとデザインの違いはどこにあるのでしょうか? ぼくは以下のように考えています。
最大の違いは、目的です。デザインは「課題解決」のために存在しています。世の中の人が、何も困ってなかったら、デザインは必要ありません。
「座りやすくて美しい椅子が欲しい」「片手で簡単に開けられる缶詰があれば便利なのに」「この商品をもっと多くの人に買ってもらうにはどうすればいいのだろう?」……デザインの起点には、何かしらの課題があります。デザインとは、課題解決のための手段なのです。
課題を解決するとき、そこには必ずプロセスがあります。そのプロセスを説明できないとしたら、その解決は偶然によるものと思われても仕方ありません。
たとえば、歯が痛くて歯医者に行ったとします。治療後、「どう治したかは説明できないけど、もう大丈夫ですよ」と言われたら、あなたはどう思いますか? 普通の人なら、ふざけるな!と怒るでしょう。もう二度とその歯医者には行かないですよね。
課題解決を頼まれた人には、依頼主に対する説明責任が生まれます。歯医者、水道管の修理、塾での指導方針……。もちろん、デザインも例外ではありません。そして、説明のためには言葉にしなくてはいけません。つまり、言語化が必要なわけです。
逆に、課題解決型のデザインを依頼されてるのに、「これが自分のデザインの特徴なんです」と言うのは変ですよね。もし、デザインの言語化なんて必要ないと感じている人がいたら。自分が依頼された仕事が、「課題解決型」か「アート型」かを考えてみるといいと思います。
「デザイナーはこだわりを持たなくちゃいけないよ」。新人デザイナーのとき、先輩達に言われた言葉です。当時は言葉の意味を取り違えて、こだわり=自己表現だと思っていました。
でも、違うんですよね。自己表現はアートの領域なんです。ぼくたちデザイナーは、ユーザーが言葉にできない思いを表現する、代弁者でなくてはいけません。デザイナーがこだわるべきは、ユーザーの声を正しく伝えること。すなわち自己主張です。
たとえば、Webデザインを依頼されたとしましょう。あまりに多くの広告スペースを要望されたら、いくらクライアントの意向だとしても、きちんとユーザーの気持ちを代弁しなくてはいけません。「過度な広告表示は使い勝手が悪いだけでなく、離脱を促すのでやめましょう」と勇気を出して、主張するべきです。
基本的にアートとデザインの世界は交わりません。でも、ごくまれに高いレベルで融合し、素晴らしいデザインが生まれることがあります。Appleの製品は、アートに近い領域でデザインされている代表例ですよね。
今でもはっきり覚えている、ぼくの中で「最高のデザインとは何か?」を言語化できた瞬間があります。今から10年以上前の話です。
iPhoneが日本で初めて発売された日、同僚が徹夜で並んで買ったiPhoneを会社に持ってきてくれたときのことです。話題のプロダクトを目の前にして、チームメンバーは興奮していました。見せて見せての大合唱です。箱から取り出された、真新しいiPhoneを目にしたとき歓声が上がりました。
「かわいい!」「かっこいい!」。同時にふたりのデザイナーが声を上げました。そのときぼくは思ったんです。最高のデザインとは、「かわいい」と「かっこいい」が両立するデザインなんじゃないかと。
「綺麗なデザイン」を作るのは、実はそれほど難しくはありません。それは、「綺麗」の判断基準は個人差が少なく、老若男女でそれほど変わらないからです。努力は必要ですが、多くのデザイナーが「綺麗なデザイン」を作ることができます。
でも、「かわいい」と「かっこいい」の基準は個人差がとても大きいんです。性別や年齢はもちろん、さまざまな要因で基準は変わります。100人いたら、100種類の基準があると言ってもいい。だから、「かわいいデザイン」や「かっこいいデザイン」を作るのはとても難しい。ましてや、「かわいい」と「かっこいい」が両立するデザインとなると至難の技です。でも、だからこそやりがいがあるとも言えます。
「デザインの言語化は、依頼者への説明責任のため」と書きましたが、必要な理由はそれだけではありません。自分のなりたい姿や理想とするデザインを言葉にして、明確にすることは、自己の成長にも繋がります。つまり、デザインの言語化は自分のために必要なことでもあるんですね。
デザインの価値は、定量的に表せません。営業職なら明確な数値目標が立てられますが、デザイナーの仕事は数値化するのが難しい。去年と比べて、自分がどれくらい成長したかも数字では表しづらいですよね。ときどき、このままのやり方でデザイナーとして成長できるのだろうか?と不安になります。
その不安を払拭するためにも、明確な言葉で目標を立てることは、有効な手段の一つです。「いいデザインをする」という漠然とした言葉ではなく、自分を鼓舞する言葉で目標をたてるのです。
だからぼくは、「最高のデザイン」を言語化して自分の中で再定義しました。一つでも多く、「かわいい」と「かっこいい」が両立するデザインを作りたい。これが、ぼくのデザイナーを続けているモチベーションの源泉です。
このように、デザインの言語化は、自分の軸を決める事にも使えます。誰のためでもなく、自分のために。理想のデザインを言語化しておくことは、デザイナーとして活動していくうえで、必要なことだとぼくは思っています。
(執筆&イラスト:こげちゃ丸 編集:少年B)
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