シンプルとミニマルの違いってなに?

デザインの言語化ってなんだろう?

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デザイナーの皆さん、クライアントからの要望で一番困ることは何ですか?

無茶な納期やコスト、度重なる修正。様々な場面で頭を抱える人も多いと思いますが、漠然とした依頼内容も悩ましいですよね……。

  1. 「とにかくカッコよくしてください!」
  2. 「洗練された今っぽい雰囲気が希望です!」
  3. 「シンプルなデザインでお願いします!」

これは、ぼくの中でやっかいな依頼のトップ3です。今回はそのなかでも一番気をつけている、「シンプルなデザイン」について書きたいと思います。

こげちゃ丸
こげちゃ丸

クライアントワークを中心に活動している、描いたり書いたりしているデザイナー。商品デザインからビジネスコンセプトづくりまで、幅広い領域で悪戦苦闘の毎日です。(Twitter:@onigiriEdesign

シンプルという言葉の解像度を上げる

なぜ「シンプル」に気をつけなくていけないのでしょう? それは、シンプルという言葉を共通言語と勘違いしている人が少なからずいるからです。「カッコいい」や「今っぽい」は、人によって捉え方が違うことをみんな知っています。だから「カッコいいとは具体的にどのようなイメージですか?」と依頼先に確認しますよね。でも、シンプルという言葉は、相手が自分と同じイメージを持っていると思い込みやすい言葉なんです。これは、クライアントだけでなくデザイナーも一緒です。

シンプルなデザインという依頼に対し、ヒアリングを細かくせずに無印良品っぽいアウトプットを出して「あっ、いいですね!」と一発OKをもらえることもあるでしょう。シンプルといえば無印というブランドイメージを作り上げた良品計画ってホントに凄いですよね。でも、そんなラッキーヒットが起こるのは珍しいはずです。「ん~、なんか違うんだよなぁ」とNGをもらうことの方が多くないですか?

良品計画

▲出典:無印良品

ぼくは「シンプル」という言葉は、人によって捉え方がまったく違う、奥深い言葉だと思っています。なので「シンプルなデザインで」と依頼されたときは、クライアントの要望を丁寧にヒアリングをします。「シンプル」の解像度を上げずにデザインワークに入ってしまうと、修正地獄になることを分かっているからです。

シンプルとミニマルの違いを説明できますか?

「シンプル」に似た言葉に、「ミニマル」というのがあります。最近はミニマリストというライフスタイルもよく聞くようになりましたね。ぼくは逆に、部屋が散らかってないと落ち着かないんです。「ひらめきはカオスから生まれる」という言葉もあるくらいで、それを実践してるんです。けっしてズボラなわけではないんですよ。

脱線してしまいましたが、話を戻します。

いきなりですが、シンプルとミニマルの違いを説明できますか?

これ、デザイナーでもバシっと答えられる人は少ないです。理由は簡単で、二つの言葉の定義が曖昧で捉え方が人によって違うからです。だから「シンプルなデザインで」と依頼したクライアントが、じつはミニマルなデザインにしたかった、ということもあるんですね。そのクライアントにシンプルなデザインを提案しても「なんか違うんだよね」とOKがもらえないのは当たり前ですよね。

ぼくが考えるシンプルとミニマルの違いはこうです。

シンプルとミニマルの違い

ぼくは、クライアントにデザインを提示する前に、このようなメモを書いています。なんのためにするかというと、何気なく使っている言葉の解像度を上げるトレーニングなんです。普段使っている横文字を日本語に置き換えることはとても良いトレーニングになります。しかも、なるべく簡潔な言葉にしようとすると個性が出てくるから面白い。

シンプルとミニマルの違いをデザイン仲間と一緒に書き出してみてください。全員同じ言葉が並ぶ……ということは絶対ありません。各々が大事にしているデザインへの姿勢が言葉になって現れているはずです。その違いについて議論することも良いトレーニングになると思います。個人練習だけでは限界があって、チーム練習が必要なのはスポーツと一緒ですね。

クライアントの気持ちを代弁したり、自分の考えをきちんと相手に伝えるためには言語化能力を鍛えなくてはいけません。それは良いデザインをする為に必要なことですし、なにより「シンプルとミニマルの違いってなんですか?」と聞かれて即答できた方がカッコいいですよね。

クライアントへの伝え方

「最大限に削るとか、言葉だけではクライアントに伝わらなくない?」

たしかにそのとおりです。ここはビジュアルと言葉を合わせて説明できるデザイナーの腕の見せどころです。ぼくがシンプルやミニマルの説明をするときに使っているシートをご紹介します。

シンプルとミニマルの違い

▲画像引用元:左)eN テープディスペンサー 右)ClipTape

ポイントは、依頼されたデザインと違うジャンルの画像を使うことです。Webデザインの仕事ならプロダクトデザイン、プロダクトデザインの仕事なら店舗デザインのサンプル、というように、違うジャンルのビジュアルを使った方がクライアントの本音が聞きやすいです。

たとえば、マグカップのデザイン依頼を受けたとしましょう。上の資料を見せ、「この左の白いヤツみたいなデザインでお願いします」と言われたら困っちゃいますよね。しかも、なんとか頑張って白いシンプルなデザインにまとめたのに「なんか違うんですよね……」と言われたら「はぁ???」と心の中で愚痴りますよね。「言ってることが違うじゃないか!」と。

視覚情報の影響力はとても強く、ビジュアルで議論してしまうと「なんとなくカッコいいから」というように表層的な会話になりがちです。だから、クライアントとデザインの方向性を深く議論するときは、あえて依頼されたジャンルと違うビジュアルを使い言葉で議論することをオススメします。上の資料を見て、「このテープカッターみたいなWebデザインにしてください」という人はいないですよね。クライアント自身の依頼に対する解像度を上げるためにも、この手法は有効なんです。

もうひとつ大事なことは、依頼内容に合った文脈の言葉で伝えることです。「シンプルなデザインを希望と言われましたが、このテープカッターのように使いやすく美しいということでしょうか? Webデザインだと、直感的で使いやすく美しいナビゲーションが重要ということですかね……?」とプロダクトデザインの言葉をWebデザインの言葉に翻訳し、クライアントの意向を探ることが重要です。そうすれば相手の気持ちの根っこを引き出すことができるはずです。

デザイン、好きですか?

デザインの言語化をする秘訣は何ですか?と、4〜5年前に聞かれたことがあります。そのときは上手く答えられなかったのですが、いまならこう答えます。

「デザインを好きになることです」

急に話が変わりますが、ラーメン好きですか?

ぼくは大好きで友達にもラーメン好きが多い。「シンプルな味ならどの店が一番かなぁ?」とぼくが呟いたら大変なことになります。「あの店の塩ソバは最高だよ! 淡麗なのに鯛の旨味があとからガツンときてさ」「そうそう! 極細麺だけど低加水だから繊細な味わいのスープとよく絡むんだよなぁ」「いやいや、去年みんなで行った店の醤油ラーメンの方が……」話が尽きませんね。なんでこんなに熱く語れるのか? どうして解像度高い言葉でラーメンを表現できるのか? それは好きだからですよね。好きだから知りたくなるし調べたくなる。そして語りたくなるんです。

デザインの言語化能力を上げるには、トレーニングも必要です。でも、それ以上に大切なのは、デザインが好きな気持ちです。その気持ちは誰にも負けないぞ!という意気込みでデザインと向き合っていけば、自然に言語化能力が上がっていくと思うのです。

(執筆&イラスト:こげちゃ丸 編集:少年B)

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【連載】デザインの言語化ってなんだろう?

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