初心者がやってはいけない「デザインの言語化」3つのタブー

初心者がやってはいけない「デザインの言語化」3つのタブー

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こんにちは、デザイナーのこげちゃ丸です。

この連載が始まって2年以上経ちますが、以前より「デザインの言語化が大事」と考えるデザイナーが増えた印象があります。ぼくの職場にも「今年の目標は言語化能力を高めることです」という若手がたくさんいますし、SNSでも「言語化の練習に力を入れます!」といった書き込みをよく目にします。とても喜ばしいことですが、なかにはちょっと行き過ぎな言葉もあるんですよね。

「言語化できないデザイナーは成長しない」とか「いいデザインをしたいならまず言語化を学べ」という表現を見かけると、違和感を持ってしまいます。

「デザインの言語化」は、どんなデザインでもキラキラさせる魔法の呪文ではありません。使い方を間違うと、逆にデザインをダメにしてしまうのです。

こげちゃ丸
こげちゃ丸

クライアントワークを中心に活動している、描いたり書いたりしているデザイナー。商品デザインからビジネスコンセプトづくりまで、幅広い領域で悪戦苦闘の毎日です。(Twitter:@onigiriEdesign

言葉でデザインを盛ってはいけない

加工アプリを使って、写真の見栄えを良くする(写真を盛る)ことはもはや常識となりましたよね。SNSの写真は、実際の見た目よりもよく撮られてることがほとんどです。空は抜けるように青いし、パフェのさくらんぼはキラキラと本物以上に輝いています。でも、これをデザインの言語化でやってはいけません。言語化は、デザインの魅力を100%伝えるために使います。120、150%と盛って、相手を勘違いさせてはいけないのです。

八百屋の店員がいくらセールストークをがんばっても、甘くないバナナは甘くならないのと一緒。調子のいい言葉でおいしくないバナナを売りつけても、お客さんの信頼を失うだけです。

でも、バナナを買おうかどうか悩んでいるとき、「バナナは先っぽが太い方が甘いんです。だから右のヤツがおすすめですよ」と店員が教えてくれたなら、思わず買ってしまいませんか? これが言語化の力です。プロの知識を誰にでもわかる言葉で伝える、それこそが言語化の本質です。

では、「デザインを盛る」という行為はどんなときに起こるのでしょうか。ぼくはデザインが完成したあとに思いついた言葉は、全部「盛られた言葉」だと思います。もし、完成後によりよい言葉を思いついたなら、デザインを修正しアップデートすべきです。それができないなら、言葉でデザインを盛るのはやめましょう。プレゼンの場で思いついた薄っぺらい後付けの言葉は、自分が思ってる以上に周囲にはバレているものです。

真っ先に言語化の練習をしてはいけない

副業やフリーランスとして独立するためにデザインを学びたい、そう思っている社会人もいるでしょう。そんな人にとって、働きながら好きな時間に勉強できるWebデザインスクールはありがたい存在です。実践的で魅力的なカリキュラムを用意しているスクールもたくさんあります。ただ、なかには「それはちょっと違うんじゃないの……?」と思う教え方をしているところもあるみたいです。

ずいぶん前のことですが、SNSである投稿を見て驚きました。それは、「昨日からデザインスクールに入会しました。まずは来週の課題に向けて言語化をがんばるぞー!」というもの。一見やる気にあふれた言葉に見えますが、デザインの言語化は初めに学ぶものではありません。初心者がまずやるべきことは、デザインの基礎力を高めることです。

基礎力は、デザイン4原則や配色パターン、文字組のルールなどデザインのセオリーを学び、実践していかないと身につきません。デザインをして、やり直してはまた修正というプロセスを繰り返しながら学ぶ、時間のかかる行為です。とても1〜2ヵ月では身につくようなものではありません。

「言語化が苦手」と思っている人は、その分野のデザイン基礎力が足りてない可能性があります。言語化の勉強はいったん置いて、デザインのセオリーを学ぶことに注力するといいと思います。なぜなら、デザインを言語化する最も基本的な手法が、「セオリーとの距離感で伝える」ことだからです。

3分割法でデザインされたサンプル

上のサンプルは3分割法でデザインされています。波の境界を分割線に重ね、もっとも視線が集まる注視点(線と線の交線)に人物がくるようにレイアウトされています。

3分割法とは、画面を縦横3分割にしたガイドラインを基準にするとバランスが取れた構図になる、レイアウトの最も基本的なセオリーの一つです。このセオリーを知っていれば、「安定感のある3分割法で力強い構図を狙いました」とデザインの言語化ができますよね。

また、セオリーをひとつ知っていると、それを外した別の表現もできます。一粒で二度おいしい、というヤツです。

3分割法のバランスを崩したサンプル

このサンプルは3分割法のバランスを崩し、水平線を斜めにレイアウトしています。セオリーから外れていますが、躍動感を強調することを狙ったレイアウトです。ポイントは、セオリーを崩しながらも部分的に3分割線を使いレイアウトしていることです。

セオリーから外れすぎるとデザインのバランスは崩れます。でも、程よい距離でセオリーを外すと個性的なデザインになるんです。

セオリーを守る部分と意図的に外すところを意識してデザインすると、クオリティも上がるし言語化もしやすいのでおすすめです。ぜひ、言語化の練習をする前にデザインのセオリーを一つでも多く学んで自分のものにしてください。

見てわかることを言語化しても意味がない

SNS上でデザインの言語化の練習をしている方も見かけますが、もったいないなぁと思うことがあります。それは、目に見えることしか言語化していないからです。青色のポスターを見て、「爽やかな印象を受ける」と言葉にしても、それは感想であってデザインの言語化ではありません。ただ感想を書き連ねているだけでは、いつまでたっても言語化能力は向上しません。

デザインの言語化は、そこに至ったプロセスやデザインの狙いを相手に理解してもらうためにするものです。そのためにも前段で書いた、セオリーを学びデザインの基礎力を高めることが大事になってきます。

デザインの基礎力は、料理でいえば「出汁」みたいなものです。いくら見栄えがよくても、出汁の入っていない料理は美味しくありません。だから、デザインの基礎力を身に付けないまま、表面的なことだけを言語化しても意味がないんです。

「このスープをご覧ください。黄色の輝きが食欲をそそるコーンスープです」。こんな説明をされても嬉しくないですよね。誰が見ても分かることを言語化しても意味がありません。

でも、「見た目は普通のコーンコーンスープですが、隠し味に京都の白味噌を使っています。味の奥行きをお楽しみください」。こんな説明をされたら食欲が湧きませんか。産地や調理法など、目に見えない情報を言葉で伝えられると納得感が生まれます。

さて、ここで問題です。次のサンプルは、クライアントから指定されたコピーを使い、賃貸住宅サービスのLP(ランディングページ)をデザインされたものと仮定します。あなたならこのデザインをどのように説明しますか?

クライアントから指定されたコピーを使ったランディングページのサンプル

「青色が落ち着いた印象を与え、よい物件がありそうだと思わせるLPです」

「青色が高級感を演出し、下に続くコンテンツの期待感を高めます」

どちらも目に見える情報をそのまま伝えている印象がありませんか? 少なくとも、この説明を聞いたクライアントに新しい驚きは生まれないでしょう。ぼくは次のように考えてこのデザインをつくりました。

「青色は後退色と呼ばれ、視覚的に実際の距離よりも遠くにあるように見える色です。指定コピーの『奥行き』をビジュアルでも強調するデザインを狙いました」

クライアントがコピーを指定する場合、そこには商品やサービスで伝えたいことが詰まっています。デザイナーが、そのコピーをどうデザインに生かしてくれるのかを期待しているんです。それを無視して「落ち着いた・高級感」と言葉を変えて説明しても、クライアントには響きません。

青色は後退色と呼ばれる

並べてみると、赤色より青色の方が奥にあるように見えませんか? このような図でデザインの補足説明をするのも効果的です。デザインの言語化というと、言葉にしなければいけないと思われがちですが、図を使ってもかまいません。デザインのアイデアやコンセプトが伝わるような手段を使うことを心掛けましょう。

言語化への近道はデザインを好きになること

「デザインの言語化ってなんだろう?」の連載は今回で最終回となります。ここまで続けてこれたのは、Workship MAGAZINE編集部の絶大なるサポートと多くの読者に記事を読んでもらえたおかげです。本当にありがとうございました。

ぼくが本格的に文章を書き始めたのは、いまから4年前の2019年です。といっても、最初はブログに日記を書いていただけ。デザインについて書いた記事は、ひとつもありませんでした。ご縁があり、この連載が始まりましたが、デザインの言語化のために蓄えていた知識が、文章を書く上で役に立ちました。そして、連載を通じて「デザインの言語化」について考えを深めてきたことが、本業のデザインワークにも還元されている気がします。

言語化を苦手とするデザイナーは少なくありません。もともと絵を描くのが大好きで、書類を書くのが嫌だからデザイナーになった人もいるはずです。でも、そんな人たちに伝えたいことがあります。それは、言語化能力を上げる一番の方法は、デザインを好きになることだということです。好きになれば、もっと深く知りたくなるし調べたくなる、そして語りたくなります。

デザインの言語化能力を上げるためには、トレーニングも必要です。でも、それ以上に大切なのは、デザインが好きな気持ちです。その気持ちは誰にも負けないぞ!という意気込みでデザインと向き合っていけば、自然に言語化能力は上がっていきます。

デザインは、一生をかけて取り組む価値のある仕事だとぼくは思っています。デザインの仕事はゴールがないマラソンレースみたいなものです。苦しいときもあります。つらいときもあります。でも、あきらめずに一歩づつ進んでいけば、いつのまにかとても遠くにまで進めているものです。ぼくもみなさんに負けないくらいデザインが大好きです。その気持ちを大事に、これからも一緒にがんばりましょう!

(執筆:こげちゃ丸 編集:少年B)

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【連載】デザインの言語化ってなんだろう?

描く、書く、つたえる

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