説得力がグンと上がる、コンセプトのつくり方

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こんにちは、デザイナーのこげちゃ丸です。

コンセプトをつくる簡単な方法があると聞いたら、あなたはどう思いますか? 怪訝な顔をするでしょうか。それとも、教えて教えて!と前のめりになるでしょうか。

魅力的なコンセプトを作るだけなら、実は簡単なんです。例えば、「安くて、美味しい、ボリューム満点のステーキハウス」。どこかで聞いたことのあるフレーズですが、つい行ってみたくなりますよね。でも、実際にはそういうお店は少ない。なぜでしょうか?

それは、実現するのが難しいコンセプトだからです。「安い」と「美味しい」という相反する要素を両立しながら、利益を確保することは困難です。どんなに素晴らしいコンセプトでも、実現できなければ意味がありません。コンセプトを作るときには、ちゃんと実現性を考慮しなくてはいけないのです。

今回はコンセプトづくりで気を付けるべきことをテーマにお話します。

こげちゃ丸
こげちゃ丸

クライアントワークを中心に活動している、描いたり書いたりしているデザイナー。商品デザインからビジネスコンセプトづくりまで、幅広い領域で悪戦苦闘の毎日です。(Twitter:@onigiriEdesign

コンセプトの鉄板、A&B構文

コンセプトを表現するカタチはさまざまです。句読点があるような文章タイプ。ひとことで言い切るワンワードのもの。そして、ぼくが鉄板だと思うカタチがA&B構文です。

A&B構文とは、「Cute & Pop」のようにふたつの言葉を「&」でつないで表現するものです。このカタチは、キャッチコピーでもよく使われます。見た目が良く、音読したときリズムが良いのが、A&B構文の特徴です。

ふたつの言葉を組合せるだけで、コンセプトらしくなる便利な構文ですが、注意が必要なカタチでもあります。ただ闇雲に言葉を置いてはダメなのです。

A&B構文の代表的な3つの型を例にして、どのような場面で使うべきか。その効果と注意すべきことを書きたいと思います。

商品やサービスのコンセプトに有効な「動詞型」

レジなしスーパーというコンセプトを世界で初めて打ち出し実用化した、米国のAmazonが展開する「Amazon Go」。店舗コンセプトの「Grab & Go」は動詞型の代表格です。2つの動詞を「&」で繋げ、商品やサービスの魅力を伝えるものです。

Amazon Go

▲出典:the econocom blog

「商品をつかんで(Grab)、そのまま店外へ(Go)」。通常、スーパーでこの行為をするのはタブーです。万引きですからね。しかし、Amazon Goは、無数に配置されたAIカメラによる画像解析を駆使してこのコンセプトを実現しました。

レジがない無人決済システムの店舗は、最近日本でも見かけるようになりましたが、Amzon Goのコンセプトが発表された2016年は流通業界が騒然となりました。

動詞型は、その商品やサービスがどんなものなのか、ユーザーが想像しやすいのがメリットです。言葉もキャッチーになりやすい。でも、どうやって実現するのか、具体的な方法がない場合は使ってはいけません。

「開発費を融資してほしい、新しい移動装置のコンセプトは、『Attach & Fly』。頭に付けるだけで、誰でも簡単に空を飛べる夢の装置です!」と言われても、誰も融資してくれませんよね。「ドラえもんがお好きなんですね」と軽くあしらわれるのがオチです。

逆にアイデアに具体策があるときは、A&B構文の動詞型を使うとアイデアを伝えやすくなるのでオススメです。

キャッチーではないが信頼感ある「同義型」

同義型とは「Soft & Warm」のようにイメージが近い言葉を「&」で繋げるものです。個々人のイメージにブレがなく、安定感があります。デザインを出したときに先方とのギャップが少ない反面、キャッチーさには欠けます。定番商品のキャッチコピーでよく目にするカタチですね。

表現に新規性が乏しく、コンセプトにはいまいち使いづらくも感じる同義型ですが、効果的な場面もあります。例えば、初めてのクライアントとの案件です。

ある食品メーカーからWeb制作を依頼されたとします。初回の打ち合わせでクライアントが目指したい世界観や伝えたいメッセージをヒアリングし、二回目の打ち合わせでサイトのコンセプトを提案する場面を想像してみてください。

前回、御社が商品の品質に強い拘りをお持ちなのが分かりました。もうひとつ、私が感じたのは徹底した「食の安全性」への拘りです。前回の打ち合わせ後、各種媒体の御社の記事を拝見しました。社長の〇〇さんが、安全への想いを語られていたインタビュー記事がとても印象的でした。サイトのコンセプトは、「Quality & Safety」しかないと思います。

「Quality & Safety」は、それほどキャッチーな言葉ではありません。しかも、Webのトンマナやカラーにも展開しづらい言葉です。でも、このコンセプトの狙いは別にあります。それは「御社の理解を深め、表層的なデザインではなく、本質的なサイト構築からお手伝いしたい」とアピールすることなんです。

とかく、デザイナーは見た目をキレイにする人と思われがちです。たとえば「Fresh & Clear」という当たり障りのないコンセプトで、見栄えのする色を多用し、キレイなWebサイトをデザインするのもひとつのアプローチだとは思います。

でも、社長のインタビューを見つけ熟読し、自分たちが大事にしている「食の安全」というキーワードをデザイナーが提示してくれたら。「このデザイナーは信頼できる」と思うクライアントは多いはずです。事業方針や企業文化を徹底的に調べて生まれたコンセプトは、たとえ平易で見栄えがしない言葉でも、相手の心を動かします。そういう場面では、ためらわずに同義型を使って良いと思います。

魔法の構文、どんな言葉も魅力的に見える「対語型」

「Traditional & Modern(伝統的だけど新しい)」のように、相反する言葉を 「&」 で繋げるのが対語型です。どんな言葉でも、魅力的に見える魔法の構文です。

たとえば、「塩しょっぱいおせんべい」と「甘じょっぱいおせんべい」があったら、どちらを食べたいですか? 大多数の人が「甘じょっぱい」を選ぶでしょう。

相反する言葉を組み合わせると耳当たりの良い、魅力的な言葉になるんです。「Sweet & Bitter」「High & Low」など、キャッチーな言葉をつくりやすいのがA&B構文の王様、対語型です。

上の2つのコンセプトを提示されたら、Aを選ぶ人が多いのではないでしょうか? なぜなら、Aを実現する方が難しいからです。実現が困難なことは魅力的に見えるんですよね。Bのほうは、同義型に近いですね。Webデザインにも落としやすいコンセプトですが、既視感がありキャッチーな言葉とは言いがたいです。

コンセプトより大事なことは、「最終デザインが、クライアントの期待を超えること」です。対語型のコンセプトは、簡単にクライアントの期待値を飛び越えることができます。でも、気を付けないと、「コンセプトは良かったけど、デザインは……」とクライアントをがっかりさせてしまいます。それでは逆効果ですよね。

コンセプトは目的地へ向かうための「地図」のようなもの

コンセプトは、あくまで商品やサービス、そしてデザインの方向性を絞り込むためのものです。勝負は、あくまで最終アウトプット。デザイナーならデザインで。プランナーなら、その企画が実現したときにエンドユーザーがハッピーな気持ちになれるのか? それが大事なんです。

打ち合わせをスムーズに進めるためだけに、耳当たりの良い言葉でキャッチーなコンセプトを提案してはいけません。サービスも、商品も、デザインも。よりよいカタチでエンドユーザーに届けることが、最大で唯一の目的です。それを常に心がけて、ぼくはデザインをしています。

(執筆&イラスト:こげちゃ丸 編集:少年B)

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