【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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読者のみなさん、ご無沙汰しております。2021年にフリーランスから法人成りし、株式会社を経営している夏野です。
会社を作ってから2年半が経ちました。今のところキャッシュもそれなりにあるので、無事に3周年も迎えられることでしょう。これもすべてお客様と、一緒にお仕事をしてくださるフリーランスの皆様のおかげです。
そんなわけで今回は、会社を作ってから2年半の歩みを「気持ち」の面から振り返ってみました。会社ってね、作ったらおしまいじゃないんですよ……。
元フリーランスの編集者・ライター。コンテンツマーケティングやディレクション、マネジメントに仕事の幅を広げ、2021年7月に1人会社を設立。高等学校教諭一種免許状(国語)保有。京都大学大学院博士課程指導認定退学(博士論文準備中)。趣味はゲーム。(X:@Natsuno_Kaoru)
まずは、「会社を作って良かったこと」を3つまとめてみます。
まずは何よりもこれです。組織的な動きができるようになったことで、生きていくには困らないほどの収入を得られるようになりました。
社長の月給にあたる役員報酬は、以下の通りに推移しています。
- 創業当初(2021年):350,000円(手取り275,928円)
- 昨年(2023年):600,000円(手取り467,326円)
- 現在(2024年):1,200,000円(手取り914,532円)
しかし、調子に乗って浪費するのは怖いので、今では月額60万円ずつ貯蓄しています(投資信託、iDeCo、NISA、小規模企業共済など)。今年は乗り切れても来年は分からないのが、会社経営の怖いところです。
前回「関わるフリーランスの数が増えた」という話でも触れましたが、ここまでの売上を立てるためにはそれなりの組織を作る必要がありました。
優秀な方と次々に面接をし、要望を聞いて、持続可能な業務フローを整備していくのは簡単ではありません。それでもなんとか今の規模まで組織を成長させました。
組織を拡大する過程で身についたのは、組織に合うパートナーさんを見つける力。「この方は活躍してくれそう」「長期的にお付き合いをするのは難しそう」という傾向を少しずつ感じ取れるようになりました。
現実には、契約が早期で終了してしまうケースも少しはあるのですが、1年目に比べればマッチ率はかなり上がっています。
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「売上が上がった」のところでも書いた通り、会社を作ったから一生安泰なんてことはありません。将来的には会社を畳み、どこかの企業のお世話になる可能性も充分にあります。
会社経営を通して組織規模の拡大とオンボーディング、トラブル時の対応などを学んできたことは、いつか会社がダメになったときの保険になると感じました。
たとえば、「闇雲に人を増やすと、各種のコストばかりかさんで効率が悪い」みたいなことは、身銭を切って組織を運営したからこそ学べたことです……。
精神的なところですが、たった2年半でもいろいろなトラブルを経験するもので、時を追うごとに肝が据わっていくのを感じます。
たとえば先ほど見たミスマッチにしても、最初の1年は「どうしてうまく行かなかったんだろう」と悩んだり、イライラしたりすることがありました。
それが2年目になると、仮にミスマッチでも「初めにこういう説明をしておかなかったのがよくなかった。次に活かそう」と切り替えられるように。言い表すなら、「キィーッ」となっていたのが1年目、「あらら(笑)」で済ませられるのが2年目、という感じです。
トラブルにいちいち動揺せず、「新たな失敗パターン、発見」と割り切れるようになったのはいいことです。一度も失敗しないチャレンジはありえないので、トラブルに直面することはあっても、めげずに試行回数を増やしていきます。
ここまで景気の良い話もしましたが、もちろん課題もあります。
何度も書いているとおり、会社を作ったからといってずっと商売を続けられる保証はどこにもありません。企業の5年生存率は81.7%。5年経てば、10社のうち2社は潰れることになるのです。
そこにはお客様との関係性も影響してくるでしょうし、頼りにしていたフリーランスが離れ、業務がうまく回らなくなるリスクもあります。自分が事故に遭ったり、体調を崩したりする可能性もゼロではありません。
こういう不安が常にあるため、一時的に高収入を得ても、のほほんと過ごすことはできません。
たとえるならば、回し車に乗せられたハムスターのように、力尽きるまで走らされている感覚。「止まったら死ぬ」という不安感は、フリーランスから1人法人になった今でもまったく消えていません。
長くやっていると、取引先の担当者がいろいろな事情で代わることがあります。ときには前の担当者と進め方が大きく異なり、期待されるパフォーマンスががらりと変わることもありました。
たとえばメディア事業では、これまでは「PVは控えめでも、ブランディングにつながる記事を作ろう」という方針だったものが、「◯ヶ月で◯◯万UU、◯◯万PV」などの定量的な目標がベースになったり、「可能な限りAIを活用して、業務時間を◯◯時間削減したい」と相談されたり。
ときには取り組んだことのないタスクを課されることもありましたが、契約を切られたくないのであれば、(そして、見合う予算をもらっているのであれば)必死で食らいついていくほかないんですよね。
そうなると、気になってくるのが年齢の問題です。次々と新たな課題が生まれる環境で、パパッと順応し、新しいことを吸収しながらアウトプットしていくのは、やはり若手のほうが得意な印象です。
しかも夏野が活動しているのは、全国各地から活きの良い若手が集まってくる東京。うかうかしていたら、より優秀な若手に取って代わられるでしょう。
歳をとるごとに体力的には衰えていくなかで、いつまで気力を維持できるのか? 本格的に「ベテラン」の年齢になる前に、唯一無二のスキルを身につけておかないと……という危機感が常にあります。
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先輩経営者から聞いていたことではありますが、1人法人の売上限界はだいたい「3000万円ぐらい」だそうです。
この規模までは、代表1人+フリーランス体制で小さくやれる。一方で、ここから次の段階(1億円規模)に育てるには、組織を単純に大きくするか、自社のプロダクトを持つなどして、大幅にテコ入れをする必要があるようです。
ただそうなると、「本当にそこを目指したいのか?」を真剣に考えなければなりません。
1人法人の場合、協力してくれる方もいますが、なんだかんだ会社にフルコミットしている人間は自分だけです。
しかし、組織をさらに大きくし、自社プロダクトを開発する場合、社員を雇用することも視野に入ってきます。自分ひとりなら「会社が潰れたら土手の草でも食えばええねんガハハ」ってなもんですが、他人様の人生を預かるのならば、そうはいきません。
1人で気楽に、食べていく分だけ稼げばいいのか。それとも、信頼できる仲間たちと大きな夢を追いかけたいのか。
それを考える分水嶺が、「年商3000万円」というラインのようです。難しい……。
はい。リクルート社の社風を表す言葉として有名なフレーズですけれども。この2年半は、ひたすら「お前はどうしたいの?」の連続でした。
たとえば、お仕事を受けるのか、辞退するのか。フリーランスに参画してもらうのか、見送るのか。なんなら、今日は働くのか、休むのか。すべてが自分の裁量にゆだねられている環境は、もちろん充実していたけれど、苦しくもあったなという感想です。
というかね……。やってみて分かったのですが、会社経営って、思った以上に気力勝負みたいです。
なにせ、「会社で決まっているから」「上司に言われたから」という外発的動機がないわけで、すべてを内発的動機で突き動かさなきゃいけない。
ダルければ好きなだけ寝てたらいいよ、ただし会社は潰れるけど。っていうプレッシャーに負けずに長くやるのは、それなりにハードな道でした。
そんなわけで今回は、私が歩んできた2年半を振り返ってみました。必ずしも景気の良い話ばかりではありませんでしたが、それもまたリアルな一面でしょう。いずれは法人化! と考えている方の参考になれば幸いです。
(執筆:夏野かおる 編集:少年B イラスト:あずさ)
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