「数年しかやってないのに弱音吐いてる自分マジ甘いぜ!」マニア道を仕事にする方法

「フリーランスは専門性が必要」と言われることが多くなりました。でも専門性とは、いったい何なのでしょうか。

わたしはライターをしていますが、グルメに旅行におもしろ記事まで、書けそうなものは何でも手当たり次第に書いています。自分の専門性って何だろう……そんな悩みを持つフリーランスも少なくないはず。

そんなとき、ふと気付いたのです。「ニッチだけどオンリーワンなお仕事をしている人の生き方に、専門性を身につけるヒントがあるのでは?」と。

そこで今回は、珍スポット専門のツアー運営や、マニアの集まった即売会イベント『マニアフェスタ』の主催・運営を生業にする、松澤茂信さんにお話をうかがいました。

松澤茂信(まつざわ しげのぶ)
松澤茂信(まつざわ しげのぶ)

1982年東京都生まれ。いろんなジャンルのマニアが勢ぞろいする祭典『マニアフェスタ』や日本中に点在する珍スポット、珍イベントをご紹介するサイト『東京別視点ガイド』を主催・運営する、合同会社 別視点の社長。(Twitter:@matsuzawa_s

聞き手:少年B
聞き手:少年B

フリーライター。第1回マニアフェスタに遊びに行ったことがきっかけでライターとなるほか、第3回、第4回には出展者として参加している。(Twitter:@raira21

「こんなことをして何になるんだ」を数十年続けてる人たちとともに

少年B:
さっそくですが、松澤さんの手掛けているお仕事について教えてください。

松澤:
主に『マニアフェスタ』をはじめとしたイベント企画事業と、珍スポットを巡るツアー業を展開しています。ツアー業は新型コロナウイルスの影響でいまは動けていませんが……。

少年B:
『マニアフェスタ』とはどんなイベントなんでしょうか。

松澤:
いろんなジャンルのマニアが勢ぞろいする出展型イベントです。そこから派生して、東急ハンズさんの催事としてマニアフェスタの出張版をしたり、gooブログさんと「マニアが各々の好きを語るブログ」の企画をしたり……最近はマニアフェスタを軸に、いろいろな企業さんのやりたいことを一緒に展開する事業が多いですね。

少年B:
さまざまなマニアさんと一緒に活動している松澤さんですが、なぜマニアに注目したのでしょうか。

松澤:
もともと日本各地の珍スポットを回って『東京別視点ガイド』というブログを運営していたんです。でも、珍スポットを回るうちに「場所っていうか、人だな」とだんだん思うようになってきて。

少年B:
どういうことでしょうか?

松澤:
最初はみんな「ウケ狙い」で珍スポットを運営しているのかな?と思っていました。けど、館長さんたちのお話をうかがっているうちに、しっかりとした考えや、強い意志を持って運営していることに気づいたんです。

少年B:
強い、意思……?

松澤:
時には珍スポットに対して反発が起こることもあるんですよね。みんなが喜んでくれるわけじゃなくて、お客さんからクレームがきたり、周りの人たちから批判をされたり……。でも、あの人たちはお客さんを楽しませたいと、数十年に渡って珍スポット運営を続けてきたわけで。これはものすごいことなんじゃないかって思ったんです。

松澤:
珍スポットをまとめて文章を発表しても、そんなにバズるわけでも稼げるわけでもないし、世の中の役に立つとも限らない。いまの会社を作る前は珍スポット専門のライターをしてたんですが、何年も珍スポットのことばかり書いていると、ときおり「こんなことをやって何になるんだ……誰かの役に立つのか……」って思うときもありました。

でも、珍スポットのおじさんたちって「こんなことをして何になるんだ」を数十年続けてる人たちなわけですよ。そう思うと「数年しかやってないのに弱音吐いてる自分マジ甘いぜ!」って思えてきて。いつしか珍スポットの館長さんたちを、人生を後押ししてくれる先輩のような感じで取材するようになったんです。

少年B:
なるほど!

松澤:
同じような観点で、マニアの人たちにもすごく興味が出てきて取材を始めたんです。最初は十数人からのスタートでしたが、せっかくなら知り合ったマニアさんたちを一堂に会して何かやりたいなと思って、マニアフェスタを立ち上げました。

珍スポットを始めたかった

少年B:
では、原点とも言える「珍スポット」を巡るきっかけはなんだったんですか?

松澤:
大学を卒業して3年くらいは友達とカフェを開いていました。週末はいろいろ変なイベントをしていたので、カフェというよりもイベント小屋のような感じですが……それを辞めたタイミングで、一人でまた「変わった店」を始めたいなと思っていました。

少年B:
単に珍スポットを巡りたかったんじゃなく、ゆくゆくは自身でお店を始めたかったんですね!

松澤:
はい。そのリサーチがてらいろいろな珍スポットを回っていました。せっかくならある程度収益化もしたいと思ったのが、記事を書き始めたきっかけです。

少年B:
変なもの、珍スポットは元々好きだったんですか?

松澤:
実はそういうわけでもなくて。俺の趣味は大喜利で、自分で大会を開いてたくらい好きなんですよ。で、ある日ふと「珍スポットって、大喜利の回答みたいなお店だな」と思ったんです。自分たちはホワイトボードに書いて終わりにしているのに、それを人生かけて実現している人たちはすげぇなと。

少年B:
そこから珍スポットやマニアの世界にハマっていったんですね。そんな松澤さんですが、ぶっちゃけ稼げているのでしょうか?

松澤:
フリーになりたての7年~8年前はブロガーやライターとして生活していたんですが、ギリギリ生活できる最低限度の仕事しか受けていませんでした。依頼も結構断ってて。

少年B:
えっ、それはなぜですか?

松澤:
なるべく働きたくなかったので……。

少年B:
その気持ちはめちゃめちゃわかります!(笑)

松澤:
ライターで稼ぐ人ってめっちゃ書くじゃないですか。でも俺、働きたくなかったので……。当時はライターとしてもかなり仕事は少なくて、ブログのアフィリエイトも含めて毎月14万〜15万円くらいで生活してましたね。

少年B:
いまはいかがですか?

松澤:
会社を立ち上げたので、以前より仕事量は増えました。さすがに社長の立場で働きたくないとか言ってられないので……(笑)

いまは自分で書く仕事はほとんどしてなくて、イベントや企業さんのプロモーション活動の企画や運営をしたり、マニアの視点を活かした地域振興の仕事が多くなりましたね。イベントのPR記事やレポート記事なども、自分よりうまい人に依頼することが増えました。

少年B:
比率はマニアフェスタ関係の仕事がほとんどですか?

松澤:
そうですね、マニアフェスタから派生する仕事の依頼は多いですね。いまはツアーができる状況じゃないのもありますが、2019年でもツアーやコンテンツ制作が2〜3割、自主イベントの運営や催事やプロモーションイベントの企画実行などが7〜8割くらいの感じでしたね。企業さんといっしょにやる仕事は、表に出ない部分もかなりあるので、仕事の比率としてはイベント関係が圧倒的に多いです。

コンテスト優勝をきっかけに日本一周の旅へ

少年B:
この「好き」が「仕事になる」と思えたのはいつごろのことでしょうか。

松澤:
別視点ガイドを始めた9年前は、コールセンターで働きながらブログを書いてたんですが、書き始めて半年後にlivedoorのブログコンテストで大賞を受賞して、賞金が120万円出たんです。

少年B:
120万円!?

松澤:
すごいですよね。1年間で割れば月々10万円。当時は友達と一緒に暮らしてたんですが、実家に戻って固定費を削れば月10万円でも生活できそうだと思い始めたんです。実家なら家賃や食費がかからないので(笑)

少年B:
(笑)

松澤:
そのタイミングでちょうどGoogleアドセンス(※)が通ったので、プラスで月に4万〜5万円入ってきたんですよ。そうすると仕事を辞めてもなんとか生活ができる。そういった確信が持てたので、最初の3ヶ月間は日本一周珍スポ巡りをしようと思いました。

※Googleが提供する、Webサイト運営者向けの広告サービス。広告クリック数などに応じて、運営者に報酬が支払われる

少年B:
月収15万円で日本一周を!

松澤:
泊まる場所は、友達の家やマンガ喫茶でやりくりをしていました。意外とそれでなんとかなりましたね。3ヶ月で全国の珍スポットを巡ったし、記事もたくさん書いたので、検索でも自分の記事が上位に表示されるようになってきて。日本一周という話題性もあるので、これはもっとPVが伸びるし、稼げるぞ!と思ったんです。

少年B:
なるほど! 結果はどうでした!?

松澤:
それが思ったほど伸びなくて(笑) 「すげぇおもしろいサイトがあるぞ!」と話題になるかと思いきや、まったくならなかったんですよね〜!

少年B:
まぁ、ニッチな分野ですもんね……!

松澤:
ツアーをやるようになって「ずっと見てました!」と言ってくれる人が現れるようになったものの、それまでは誰が見てるかもよくわからず……。当時は反応を得られなかったので不安でした。

少年B:
ポジティブな意見を発信してくれる人は少ないですもんね……。

松澤:
周りのガジェットブログの人たちはどんどん稼いでるのに……って当時は思ってました。でも、日本一周したあとにライティングの仕事がちょこちょこ来るようになったんです。文章自体は素人に毛が生えたレベルだったんですが、旅行先や珍スポット記事の執筆依頼が来るようになりました。

少年B:
日本一周していろいろな珍スポットを巡ったことで、専門性が生まれたんですね。

松澤:
そうですね。それでライター+アフィリエイトの収益を合わせれば、賞金がなくなったあともなんとか食べていけるようになりました。だから、賞金をもらったタイミングですね、仕事にできると思ったのは。

少年B:
かなり早いですね!

松澤:
賞金をもらえてなかったら、また違ったとは思います。でも、ライターとして単価が変わったタイミングは明確にありましたね。

少年B:
本当ですか!? ぜひ教えてください!

松澤:
6年前に「東京別視点ガイド」のSNSアカウントを作ったらフォロワー数が急増したんです。それまでは個人のTwitterアカウントで珍スポットの情報を発信していたんですが、個人アカウントなのでご飯やダジャレなどのツイートも好き勝手にしていて。

少年B:
わかります、自分もそんな感じです。

松澤:
でも、それだと「珍スポット好き」に加えて「松澤個人のことを好きって思ってくれる人」しかフォローしてくれないから、ぜんぜんフォロワーが伸びないんですよ。間口がめちゃくちゃ狭いんです。

少年B:
なるほど。

松澤:
雑多な情報を整理して珍スポットに絞ったら、フォロワー数が急に5万人くらい(現在は11.1万人)まで伸びて、そこから単価も一気に変わりました。記事の納品だけじゃなくて、PRの面でも予算を割いてもらえるようになったんでしょうね。発信力を上げられたことで、ライターとしての価値も上がりました。

ニッチな仕事には「気持ちが通じる人」が集まってくる

少年B:
しかし、松澤さんはライターではなく、起業の道を選びました。

松澤:
ライターとして書く仕事を突き詰めるか、やりたいことをやるために起業するか、迷っていました。でも、ライターのすごい人はほんとすごいじゃないですか。書く技術だけじゃなく熱意もあって、その土俵で勝てる気がしなかったんですよね。なので、ライターを降りるようなかたちで起業の道を選びました。

少年B:
この仕事をしていて、よかったなと思うことを教えてください。

松澤:
やっていることが特殊なので、協力してくれるマニアさんやイベントやツアーにお越しいただけるお客さん、パートナーとして一緒に課題解決に取り組んでるクライアントさん含めて「気持ちが通じる人」が周りに多いことです。一緒に動いていて純粋に楽しいし、「あの人たちが喜んでくれるなら」というプラスな気持ちで仕事ができていますね。

少年B:
逆に、大変だったことはありますか?

松澤:
うちだけじゃないと思うんですが、新型コロナウイルスのせいでツアーがダメになったことですね。

松澤:
あとは、同じことをやっている会社がないので、最初は何をやっていいか分かりませんでした。マニアフェスタならさまざまな出展型イベントといったように、ある程度似たものを参考にするようにしています。

少年B:
思い出に残る仕事はありますか?

松澤:
東京別視点ガイドを始めたばかりのころ、青森を2泊3日でまわるツアーを開催したことです。10万円のツアーなのに、10人も参加してくれたんですよ。

少年B:
10万円!? ずいぶん高額ですが、よくそんなに集まりましたね!

松澤:
その額を払ってでも来たいと思ってくれたのはありがたかったです。あと、そのツアーはめちゃくちゃ一体感があったんですよ。人生で初めてってぐらいの。

少年B:
ツアーは日帰りもありますが、泊まりとはまた違う雰囲気ですか?

松澤:
日帰りは偶然乗り合わせたメンバーってイメージで、コンテンツを楽しむためのツアーです。でも、泊まりは参加者すらも重要な要素になります。知らない人同士でも感想を言い合える。なんならその会話の方が、珍スポ巡りよりも大事な思い出になるかもしれません。珍スポットに行って価値観が変わることもあるけど「近い趣味の友達がひとりできる」ことも同じくらい人生が大きく変わると思うんですよね。

本業スキル×ニッチスキルで自分だけの仕事を

少年B:
今後、挑戦したい仕事や夢があれば教えてください

松澤:
こんど高円寺で『まちの視点の百貨店』という屋外を巡るミッション形式の散歩イベントを開催します。地域住民とマニアがそれぞれの「視点」で発掘したまちの魅力を、スタンプラリーやウォーキングガイドツアーで追体験していただきます。

少年B:
具体的にはどんな感じのイベントですか?

松澤:
人の顔に見える壁や床を巡る「顔の視点」や道路の隅っこからにょきにょき生える雑草を巡る「はみ出す緑の視点」、アスファルトの靴跡などを巡る「誰かがいた跡の視点」など、普通はただ通り過ぎるだけの風景を巡って歩くイベントです。これをいろんな地域と組んで横展開していって、日本中の「うちの街には何も無い」をひっくり返していきたいんです。

まちの視点の百貨店

▲出典:マニアフェスタ

少年B:
それはおもしろそうです。

松澤:
あとはマニアフェスタの世界大会を開きたいですね。海外のマニアもすごくニッチで。たとえば、ヨーロッパには「聖なる水を入れる桶マニア」、ベトナムには「放置されたほうきを撮りまくってるマニア」がいるんですよ。

少年B:
聖なる水を入れる桶、ですか?

松澤:
日本で言うところの手水舎みたいな感じですね。世界は広いので、想像のつかないものを集めている人がたくさんいます。好きなことを介して、世界のマニアと日本のマニアを繋げていけたらいいなって思ってます。

少年B:
最後に「自分だけのスキル」を見つけたいフリーランスに一言お願いします。

松澤:
しっかりした本業スキルひとつがあって、プラスでなにかニッチな分野が強ければ、お仕事が来るようになると思います。たとえば「珍スポットのブログを書く」ことも、俺の前にやってる人たちがたくさんいて、ある程度確立した界隈だったんです。でもオモシロ記事の味つけでツッコミっぽいやり口で書いている人があまりいなかったんですよね。

少年B:
松澤さんは他の人と切り口が違ったんですね。

松澤:
自分がもともとやっていた大喜利の視点と珍スポットをかけ合わせた結果が「東京別視点ガイド」なんです。マニアフェスタはマニアの方々と出展型イベントのかけ合わせですよね。

少年B:
なるほど……!

松澤:
最初はかけ合わせがうまくできなくても、数をこなせば経験やスキルが伴ってきます。長く続けて、志をともにする人たちとコミュニケーションしていけば、なんとかなるんじゃないでしょうか。

【記事のまとめ】

  • スキルのかけ合わせで唯一無二の視点を
  • 固定費を下げて、少ないお金で食べていく
  • 単価を上げるコツは発信力を上げること
  • 目先に惑わされず、続けることも大事
  • ニッチな仕事は「気持ちの通じる相手」と働ける

(執筆:少年B 編集:木村優美 撮影:じきるう)

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