Workship MAGAZINE書籍化第3弾!#ADHDフリーランス の新常識 他
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「フリーランスは専門性が必要な時代」と言われることが多くなりました。でも専門性っていったい何なんでしょうか。わたしはライターをしていますが、グルメに旅行におもしろ記事まで、書けそうなものは何でも次第に書いています。自分の専門性って何だろう……そんな悩みを持つフリーランスも少なくないはず。
そんなとき、ふと気付いたのです。「ニッチだけどオンリーワンなお仕事をしている人の生き方に、専門性を身につけるヒントがあるのでは?」と。
今回は音ゲー(音楽ゲーム)の作曲家・譜面制作者のYamajetさんにうかがった「好きが高じて職人技を身につけた話」をお届けします。
音ゲーを中心に曲を提供する作曲家。おしゃれなハウス・ラウンジ系からネタ曲まで、レパートリーの多さに定評がある。同時に音ゲーのキモである「譜面制作」も数多く手掛ける。その他、同人音楽、DJ、飲酒など活動は多岐にわたる。(Twitter:@Yamajet)
音楽好きのフリーライター。高校時代に友達の家で音ゲーの様子を眺めていたほか、たまにライブイベントでDJをすることがあります。(Twitter:@raira21)
少年B:
Yamajetさんのお仕事について教えてください。
Yamajet:
大きく言えばフリーの作曲家ですね。音楽ゲームを中心に曲を作ったり、いくつかの会社で音楽ゲームのデータ、いわゆる「譜面」も作ったりしています。
少年B:
Yamajetさんはどういう経緯で音ゲーの作曲家になられたんですか?
Yamajet:
元々、趣味で同人音楽をつくってたんです。音ゲーが好きだったので、「BMS」というゲームとしても遊べるフォーマットで曲を発表していました。
大学を1年で辞めてフリーターをしていたんですが、BMS界隈で交友関係が広まって。当時所属していた同人音楽サークルのメンバーに誘われて、25歳のころ音響・音声制作会社に就職しました。主題歌やBGMはもちろん、SEや声優さんのアフレコまで、主に美少女ゲームの音声まわりを一括で請け負うような会社でしたね。
少年B:
会社員はどれくらい続けていたんですか?
Yamajet:
4年くらいですね。そこを辞めてからはフリーランスとして活動をしています。フリーになって今年で8年目になりますね。
少年B:
フリーの作曲家になって変わったことはありますか?
Yamajet:
正直、同人からはじまったので、やってることは昔から変わってないんです。営業活動もほとんどしてなくて。界隈の交友関係であったり、ゲーム会社の人が僕を見つけてくれたりして仕事につながっていくということがほとんどなので、正直「どこからプロになったのか」とか、「これは遊びなのか仕事なのか」とか、その境目がわからない感じはあります(笑)
将来について考えるのが苦手なので、「まぁ何とかなるだろう」って感じで、流れ流され今に至る、って感じですね。
少年B:
音ゲーの譜面制作もされているとのことですが……どのようなお仕事なのでしょうか?
Yamajet:
譜面制作と作曲は、まったく別物なんです。基本的に、作曲者は譜面を作らないんですよ。一般的な音ゲーって、「もともとある音源にあわせて、流れてくるノート(音符)が判定ラインに合ったらボタンを押したり、タップする」って感じで遊ぶものが多いんですけど、そのノートの配置をするのが譜面制作ですね。曲に合わせて、音階を考えつつ、見た目や遊び心地を意識してノートを配置していく仕事です。
少年B:
見た目というのは?
Yamajet:
たとえば、「ドミソミド」という音があったとします。一度上がって下がる音階なのに、ノートが階段状に配置されていたら、ちょっと腑に落ちない感じがしますよね。「本当にこの音を叩いてるのか?」って不安になるというか。そういったことを考えたり、前後のフレーズを考えながら総合的にノートを配置していきます。
少年B:
なるほど! 譜面制作はゲームのステージをデザインするようなものなんですね。難易度の調整とかも、ノートが多くなると難しい、みたいな感じでしょうか。
Yamajet:
基本的に外注スタッフとして参加しているので、僕がレベルを決めるってことはないんです。ディレクターさんに「かんたん、ふつう、むずかしい」という感じでざっくりオーダーされることもありますが、こちらがおまかせで作ったものを会社さんが調整して出す、というパターンのほうが多いですかね。
少年B:
譜面制作が仕事になったのは、やはりBMSが大きかったんでしょうか。
Yamajet:
それが大きいと思いますね。BMSは『beatmania(ビートマニア)』という音ゲーを模したフォーマットなので、ボタンを押してフレーズを演奏するゲームなんです。そうすると、作った曲の音を切り取って、ボタンに対応させて、ゲームとして遊べるように組み上げる作業が必要になってくるんですよ。その組み上げる作業というのはまさに、いまやっている譜面制作そのものなんですよね。
Yamajet:
僕はBMSが楽しくてずっと遊んでいたんですが、いつの間にか経験を積んでいて、気づいたら仕事になっていた……という感じです。あの時、よくワイワイ遊んでいたBMS界隈の人たちも、気づけばみんな出世されていて……。
少年B:
界隈の人たちがみんな作曲家に……!?
Yamajet:
作曲家になる人もいますし、メーカーに就職してゲームを作る側に回った人もいます。みんなゲームが大好きな人たちですから。そこで、ふとした拍子に思い出してもらって、お仕事をいただけることも多いですね。
少年B:
BMSでの経験が譜面制作に活きて、人との繋がりが仕事になった、という感じですか?
Yamajet:
そうですね。BMSから始まって、同人音楽や即売会、ライブイベントやDJとかも含めて、界隈に顔を突っ込んでいって。またそれに関連する界隈にもまた顔を出してたら、作曲家だけじゃなくて、ムービーを作る人だったり、プレイヤーだったり、友達がめっちゃ増えていきました。そういう繋がりは、仕事面でも本当にありがたいなと思います。
少年B:
Yamajetさんは作曲と譜面制作の両方を手掛けていますが、収入の割合はどうなっているんですか?
Yamajet:
「作曲1:譜面2」くらいの稼ぎですね。作曲も3〜4年前に比べるとかなり単価を上げていただいてるんですが、譜面制作は大きなところで3つやらせてもらってるので、そちらの収入のほうが高い感じです。譜面制作の仕事は、基本的に名前は出ないことが多いですね。
少年B:
でも、プレイヤーからすると「神譜面をプレイしたい!」「譜面制作者の名前を知りたい!」って気持ちはありますよね。
Yamajet:
そうだと思います。曲もそうですけど、譜面にもけっこう個性が出るんですよ。だから、クレジットがなくても予想できるパターンもありますけどね。僕もそうですけど、遊ぶ側もオタクなので(笑)
少年B:
「この譜面、〇〇さんっぽいな〜!」とかあるんですね!
Yamajet:
そうそう、想像しながらプレイするのも楽しいんですよね。譜面の場合は曲よりも「内部データ」に近いので、あまりクレジットされないのかな、という感じはしますね。最近は譜面制作者の名前をだす音ゲーもだんだん増えてきましたが。まぁ、名前の出る出ないにはあまりこだわってないですね。
Yamajet:
譜面制作は本来は内製でやることが多いんでしょうけど、僕の場合は作曲と譜面「両方できるから」仕事に繋がった面も多いと思います。譜面制作で呼んでもらった会社さんに「僕、曲も作ってるんですけどどうですか?」ってアピールをしたら曲も発注してもらえたりとか。
少年B:
譜面制作ならではの苦労や楽しさを教えてください。
Yamajet:
たとえば、『beatmania』や『太鼓の達人』は一方向からノートが流れてくるゲームですが、画面上のいろんな位置にノートが出現するタイプのゲームは「見やすさ」も考えなきゃいけないので、やっぱり気を遣いますね。
少年B:
ゲームごとに仕様が違うのか……それは大変ですね。
Yamajet:
逆にいろんな音ゲーがあるからこそ、飽きずに仕事ができるのはありますね。いま譜面を手がけているゲームもみんな個性があって。たとえば、キャラクターの動作に合わせてフリックするゲームもあります。足を右に蹴り上げる動作に合わせて右にフリックしたり……。譜面制作の手間はかかるんですが、没入感が増すので、プレイしてて楽しいです。
少年B:
ご自身も音ゲーマーだからこそ、大変な仕事も楽しめるんですね。
Yamajet:
うん。あと、プレイするハードで全然違うのもおもしろいですよ。たとえばスマホの音ゲーなら、ノートが落ちてくるラインが5つあった場合、真ん中のラインに長押しがあるときに左右どちらの手で押したらいいのかわかんないんですよね。左手で長押しして、次のノートが右側に降ってくればいいけど、左に降ってくる可能性もあるので。プレイヤーの意識を、譜面でうまく誘導しないとだめなんです。
Yamajet:
スマホの音ゲーは、基本的にはスマホを横にして、左右2本の親指でプレイするように作られているんです。自分は親指だけじゃなくて、ほかの指も使っていたのでまったく気にしてなかったんですが、譜面を作る側になってはじめて気にするようになりました。いまでも油断すると、たまにリテイクを言われます(笑)
少年B:
なるほど……。自分の感覚だけではだめな場合もあるんですね。
Yamajet:
あと、作曲ソフトでは譜面は作れないので、基本的には専用の譜面制作エディターがメーカーさんから支給されて、それを使ってプレビュー画面を見ながら仕上げる場合が多いんです。でも、メーカーさんによってはエディターが支給されないケースもあって、その場合は自分で工夫しなくちゃいけない。
少年B:
そんなことがあるんですか!
Yamajet:
僕はプログラムを組めないので、作曲ソフトとExcelを使って変換とかを頑張って、譜面を組み上げることもあります。でも、これもだいぶ経験を積ませてもらったので、なんとなくどんな状況にも対応できるようになりました。
少年B:
Excelで! それができる人はそうそういないのでは……!?
Yamajet:
そうですね、作曲ができて、音ゲーに詳しくて、かつどんな状況でも譜面が作れるって人は、確かに少ないかな、と思います。最初の頃は「エディターないのか〜!」とも思ったんですが、逆に言えば「こんな状況で譜面作れるの、俺しかいないよな」って(笑) 他にできる人がいないなら、当分は仕事に困らないなと。
少年B:
楽しさややりがいについてはどうですか?
Yamajet:
やりがいはすごくありますよ! BMSもそうですが「自分で曲作ってそれで遊びたい」から始まってるので。自分の作った譜面が遊んでもらえるのは嬉しいし、ゲームが公開されてるってことは自分でも遊べるわけですよ。自給自足をしつつお金ももらえるわけですから、こんなに楽しいことはないですよね。
少年B:
思い出に残る仕事はありますか?
Yamajet:
サービスが終了してしまったゲームのことが思い出に残りますね。尖ったゲームはなかなか長く残らないんだけど、だからこそ僕らみたいなゲーマーには記憶に残ります。スマホのゲームで「親指以外を使ってもいい」って言われたので、雪崩のようなノートを降らせてみたりとか(笑)
Yamajet:
あとはそうだなあ……曲もそうだけど、僕はあんまりメッセージ性を持たせないので、単純にいい音の響きであったり、プレイして楽しい譜面が作れればいいなと思ってますね。そう考えると、思い出に残る仕事ってそんなにないかもしれません。美味しかったラーメンやビールは残ってるんだけど(笑)
少年B:
(笑) 毎日楽しく働いているんだなというのが伝わってきます。
Yamajet:
楽しくやってるのもそうだし、フリーランスだから、自分でぜんぶマネジメントできるので。会社員時代はそんなに仕事ができるほうじゃなかったので、みんなの足を引っ張ってしまったな、申し訳ないなって気持ちがけっこうあったんですが、今はやるもやらないも全部自分に返ってくる。精神的に楽になりましたね。
少年B:
今後、Yamajetさんが挑戦したい仕事や夢があれば教えてください。
Yamajet:
そうですね……もっと新しい音ゲーに貪欲に参加していきたいですね。音ゲーが好きなので、新しいアイデアの作品は遊びたいし、関わっていけたらうれしいです。いま参加しているものだと、『D4DJ』ってゲームはDJみたいな操作ができて。フェーダー操作やスクラッチとか、ほかのゲームにはない要素があるので、遊ぶのも楽しいし、みんなを遊ばせる譜面を考えていくのが楽しいです。
あとは海外ゲームも担当したいですね。東南アジアはおもしろいメーカーさんが昔から多いんですよ。
最後の夢は、作曲&譜面担当したゲームが海外展開して、ゲストに呼んでもらって、旅費を負担してもらって海外のイベントに遊びに行くことですね(笑)
少年B:
(笑)
Yamajet:
最初から最後まで遊びでしか考えてないな(笑) でもほんとなんですよ。だから、遊びが仕事になったのはラッキーだったなと思っています。
少年B:
最後に、「自分だけのスキル」を見つけたいフリーランスに一言お願いします。
Yamajet:
自分は成り行きだからな〜〜〜!(笑) でも、好きなことを信じてみるのがいいんじゃないかな。自分の身の周りにある遊びが、じつは仕事になるかもしれないですし。趣味でも人間関係でも、「これ仕事とは関係ないな」と切り捨てずに、自分を深堀りしてみるのもいいかもしれないです。「仕事仕事!」と考えるんじゃなくて、本気で遊ぶことも大事だと思います。好きがスキルになる感じです。
【記事のまとめ】
- 本気で遊び、いろんなところに顔を出していたことで仕事に繋がった
- 作曲と譜面、「どちらもできるから」で仕事が増えることも
- 自分にしかできない仕事があると、食べていける
- 「仕事ばかり」ではなく、趣味も含めて自分を深堀りしてみることも大事
(執筆:少年B 編集:イズミカズキ 撮影:じきるう)
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