【社労士解説】ジョブ型雇用時代におけるフリーランスの生存戦略とは?
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「キャリアを築くには専門性が必要」と言われることが多くなりました。でも、専門性とは、いったい何なのでしょうか。わたしはライターをしていますが、グルメに旅行におもしろ記事まで、書けそうなものは何でも手当たり次第に書いています。自分の専門性って何だろう……そんな悩みを持つ人も少なくないはず。
そんなとき、ふと気付いたのです。「ニッチでオンリーワンなお仕事をしている人の生き方に、専門性を身につけるヒントがあるのでは?」と。
今回お話をお伺いしたのは、サイバーおかんとして、日本サイバー化促進活動をしているタナゴさん。
不思議な活動内容、派手なかっこうからテレビや大手メディアにも引っ張りだこの彼女ですが、じつは遊技機(パチンコ・パチスロ)デザイナーとしてもバリバリ活動されているそう。今回はあえてサイバー活動には触れず、遊技機ならではのデザインの魅力や、専門性の育てかたを教えてもらいました。
日本のサイバー化を促進すべく、活動を開始したサイバーおかん。サイバーと無駄に溢れたグッズを多数開発している。本業はフリーのデザイナー。遊技機をこよなく愛し、デザイナーとして関わるだけでなく、多数のグッズを蒐集している。(Twitter:@1_design)
オタク気質のフリーライター。サイバーなデザインや音楽を好む。あらゆるものに異様にハマりやすいため、パチンコに興味はありつつも、距離を取っている。(Twitter:@raira21)
目次
少年B:
「サイバーおかん」としてさまざまなイベントに出展し、「味皇様になれる重箱」などを開発。メディアにも取り上げられ、注目を集めているタナゴさんですが、本業はデザイナーなんですよね?
おせちが無くても大丈夫 pic.twitter.com/RyLy3YuRON
— サイバーおかん⚡️ (@1_design) January 1, 2021
タナゴ:
そうなんです。私はなんでもデザインする「よろずデザイナー」を名乗ってますが、いまの仕事の60~70%は遊技機(パチスロ、パチンコ)の映像や図柄などのデザインですね。
少年B:
遊技機の……図柄デザイン? いったいどんなデザインなんですか?
タナゴ:
口で説明するより、実際に見てもらったほうがわかりやすいと思います。Workship MAGAZINEのロゴを遊技機風にしてみましょうか。
少年B:
笑う。
タナゴ:
わかってもらえましたか?
少年B:
めちゃめちゃわかりました。フリーランスメディアから一瞬でパチンコ・パチスロメディアになりましたね。
タナゴ:
ありがとうございます。遊技機のデザインのなかでも、私が主にやっているのは印刷に関わる部分ですね。パチスロで回転する「リール」という箇所の図柄デザインだったり、ロゴが入ってる表面パネルの装飾デザインだったり。
そういう印刷に関わるDTP的なデザインから進行管理まで、全部やるのが私の仕事です。
少年B:
印刷関係のデザインに関してはすべてやる感じなんですね……! 遊技機のデザインならではの難しさとかってあるんですか?
タナゴ:
そうですね……印刷技術がかなり特殊な点でしょうか。
少年B:
印刷が特殊……?
タナゴ:
パチスロのリールって、シルクスクリーン印刷なんです。Tシャツなどにも使われる印刷方法で、1色ごとに版を作って順番に重ねて印刷しなきゃいけないんですよね。
色の順番とか掛け合わせとかをある程度こっちが指示して印刷屋さんに出さなきゃいけないので、専門的な知識がないとそもそもできないんです。
少年B:
なるほど、デザインだけやればいいってわけじゃないんですね……!
タナゴ:
シルクスクリーンはアートの世界で使われることもあって、「版を10枚重ねました」みたいな作品もあるんですけど、パチスロの図柄も同じかそれ以上に版を重ねて作っているんです。世間にはあまり知られていないけど、密かにすごいんですよ!
少年B:
アートとパチスロってまったく対極なもののように見えるけど、支えているのは同じ高度な印刷技術なんですね! でも、なんでそんなに面倒な方法で印刷するんですか? もっと簡単な方法もあるのに……。
タナゴ:
遊技機って、国による厳しい規制があるんです。
少年B:
規則とは?
タナゴ:
パチンコホールは、風営法に則って営業しなきゃいけないんです。その風営法のなかに、機械に関わる規定もあって。サイズや図柄デザインが規定に合致しているかとか、回ってる時に目視できるかとか、厳しい検定に合格しなきゃいけないんです。
少年B:
「真ん中のリールの“7”だけ色が違う」なんてわけにはいかないんですね!
タナゴ:
それどころか、少し色が剥げたとか角が欠けたとか、ちょっとした印刷ミスも許されません。だから、デザインは非常に厳しく管理してますね。難しい印刷方法を取っているのは、色を安定させるためなんですよ。
少年B:
検定に落ちた時だけ、やり直すとかではダメなんですか?
タナゴ:
検定料が1機種あたりパチンコだと144万円、パチスロだと162万円かかるんです。(変動あり、2021年4月現在の検定料)
タナゴ:
しかも1回検定するのに1ヶ月半〜2ヶ月くらいかかります。デザインのミスで通らなかったなんてことは許されないんですよ。メーカーの販促や売上の計画が狂ってしまうので……。
少年B:
それは確かにシビアだ……!
タナゴ:
そういう法律も考慮しなきゃいけないので、参入障壁はやっぱり高いと思います。その代わり、ちゃんとできる人のところには仕事がたくさん来ますね。
少年B:
パチスロの図柄って、7のほかにもベルやスイカやチェリー、あと爆弾?ってイメージがあるんですけど、図柄の種類も法律で決まってるんですか?
タナゴ:
あ、あれは爆弾じゃなくて「プラム」というフルーツですね。
タナゴ:
図柄は法律で決まってるわけじゃなくて。たとえばベルは1899年に世界で初めて作られたスロットマシンのもの、フルーツの柄は1910年に誕生したスロットマシン「リバティベル・ガム・フルーツ」の流れを汲んでいるものと、昔のデザインが今でも受け継がれているんです。
少年B:
100年以上も柄が変わらないなんて!
タナゴ:
遊ぶ人が混乱しないように、という意味合いもありますね。そういう伝統がずっと変わってないところに痺れるんですよ。
メーカーによっては「うちのスイカは横切り」「うちは縦斬り」とか決まってたりするので、私は最初の企画の時に「スイカどうしますか?」と聞くようにしてますね。
少年B:
おもしろい! 同じように見えるけど、各社それぞれの個性があるんだ!
タナゴ:
デザイナー目線では「このメーカーの“7”は素晴らしいな」と思ったり、「あのメーカー、デザイナー変わったな」って気付いたりすることもありますね。
タナゴ:
パチンコ・パチスロデザインの仕事ってなんでもできるから、おもしろいんですよね。
アニメや映画とのコラボもできますし、パチスロオリジナル機種制作のときには、イラストからロゴ、キャラも自分で作れるので。
少年B:
オリジナル機種?
タナゴ:
たとえば「海物語」シリーズのマリンちゃんって女の子を知りませんか?
少年B:
はいはい、よくパチンコ屋さんにのぼり旗が立ってますね。
タナゴ:
マリンちゃんみたいなオリジナルキャラクターを作るのも、遊技機デザイナーの仕事なんです。パチスロのキャラ作りがおもしろいのは、ファンと一緒にキャラを作っていけることなんですよ。けっこう自由度が高いので。
少年B:
キャラをファンと一緒に作る?
タナゴ:
たとえばパチスロファンに人気の「ドンちゃん」ってキャラクターは3兄弟なんですけど、この設定はファン発祥なんです。スロットにドンちゃんの図柄が3つ並んでいたところ、ファンに長男、次男、三男って呼ばれはじめて、公式が乗っかって3兄弟という設定になりました。その後、兄弟それぞれ単独のパチスロがリリースされたり……。
少年B:
そんなことあります?
タナゴ:
そういう面白さも遊技機デザイナーの楽しさですね。「このキャラにあの声優さんの声を当てたい」とかもできちゃうので、オリジナルのキャラやストーリーを作りたい人はけっこう遊技機業界が向いていると思います。
少年B:
自分のキャラクターに推し声優さんの声を! そんなの最高じゃないですか……!
タナゴ:
図柄デザイナーは高齢化が進んでいるので、若い人は狙い目だと思います(笑)
少年B:
ぶっちゃけた話、収入はどうなんですか?
タナゴ:
他の業界と比べると高いみたいで、周りからはよく「結構もらってるね」といわれます。私はロゴと印刷物系だけだからそこまで……って感じですが、映像のデザインもできるともっと稼げるんじゃないかなぁ、と思います。
少年B:
タナゴさんが遊技機デザイナーになったきっかけは何なんですか?
タナゴ:
私は高校卒業してデザイン学校に入ったんですが、1日でやめて……(笑) 5年くらい、ふらふらパチスロばかりしてたんです。
少年B:
元々パチスロが好きだったんですね!
タナゴ:
そうなんですよ。でも、このままだったら10年後もずっとこの生活続けちゃうだろうなと思って。それで、好きだったイラストやデザインの求人をネットで探したんです。そしたら偶然ビックリマンシールを作ってた「グリーンハウス」さんを見つけて、見習い弟子になったんです。
少年B:
ビックリマンシールもデザイン的にはパチスロのキャラと似たような感じがしますね。線の太さといい、デフォルメ具合といい。
タナゴ:
昔からデフォルメキャラが好きだったんですよ。ビックリマンシールとパチスロのキャラが似てるってのは、最近人に言われて気付きました。でも、遊技機デザイナーは40代以上の人が多いので、ビックリマンシールからパチスロ好きに繋がった人はけっこういそうな気がしますね。
そんな縁もあって、グリーンハウスさんでは1年間、イラレやフォトショの使いかたからデザインの基本まで、しっかり勉強させてもらいました。何せ入社の課題はWindowsのペイントツールで描いてたぐらいだったので、かなり鍛えられたと思います。
少年B:
ペイントで!?
タナゴ:
いま思うと、よくこのレベルで面接受けたよなって感じでしたね(笑) でも、奇跡的に内定をもらって育ててもらえたので、受けてよかったです。
グリーンハウスにお世話になった後は、やっぱりパチスロのデザインやりたいなーって思って、高砂電器産業ってメーカーに入社して、11年働きました。オリジナルキャラクターも描いてましたよ。
少年B:
遊技機デザイナーとして、ニッチな世界で技術を磨いてきたタナゴさんですが、「自分だけのスキル」を見つけたい人に声をかけるなら、何と伝えますか。
タナゴ:
自分の好きをどこまで突き詰められるかだと思います。
同じくらいの技術力の人がたくさんいる時、クライアントが仕事相手を選ぶ決め手は「熱量」だと思うんですよね。だから、「好き」がある人にお仕事がくると思っています。好きすぎるがゆえにクライアントと喧嘩になることもありますけど(笑)
少年B:
わたしは趣味がたくさんあるんですが、好きなものがありすぎる人はどうすればいいんでしょう。
タナゴ:
全部やればいいんじゃないですか。全部やることで、自分に向いていることかがわかってくると思います。
私は遊技機のデザインの経験があったからこそ、LEDの光らせ方がわかったし、自分のサイバー活動にも大いに役立ちました。いずれつながってくるので、好きなものは全部追いかけていいと思います。
少年B:
好きなものに自分の技術をかけ合わせていくって感じですね。
タナゴ:
あともうひとつ。営業をしても、自分のことをちゃんと見てもらえるかわからないですよね。だったら自分から発信して、相手から見つけてもらう方法を探すといいんじゃないかなと思います。
少年B:
タナゴさんのサイバー活動みたいな感じですね。ちなみに遊技機デザイナーの仕事が、いまのサイバー活動に繋がっている部分もありますか?
タナゴ:
それは間違いなくあると思いますね。だってパチンコってサイバーじゃないですか。
少年B:
たしかに……ピカピカして派手でデザインにグッとくる、みたいなところは共通してますね。サイバー活動をしてからお仕事は増えましたか?
タナゴ:
増えました。遊技機デザインはニッチな仕事なので、いままではあまり外に知られることがなかったんですけど、活動を始めてから見つけてもらいやすくなりましたね。
タナゴ:
遊技機デザイン以外の収入は、サイバー活動から入ってきた仕事がほとんどなんです。「何やってるかわからないけど、一緒にお仕事したいです」って言われることも多くて。
少年B:
「わかんないけど一緒に仕事をしたい」って言ってもらえるのすごいですね!?
タナゴ:
声をかけてもらえたおかげで、遊技機デザイン技術を生かせる場も広がっていきました。だから、好きなものは全部追うのがいいし、いろんなことをして、見つけてもらうことが大事だなぁって最近改めて実感しています。
【記事のまとめ】
- 広く世に知られていない仕事でも、「技術」と「広げる力」があれば食べていける
- 遊技機デザインは「何でもやりたい」デザイナーにおすすめ
- 技術が同じなら「熱量」が勝つ
- 好きなものは全部追えばいい
- 営業よりも発信。「相手に自分を見つけてもらう」ことも大事
(執筆:少年B 編集:泉 撮影:じきるう)
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