Workship MAGAZINE書籍化第3弾!#ADHDフリーランス の新常識 他
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「キャリアを築くには専門性が必要」と言われることが多くなりました。でも、専門性とは いったい何なのでしょうか。わたしはライターをしていますが、グルメに旅行におもしろ記事まで、書けそうなものは何でも手当たり次第に書いています。自分の専門性って何だろう……そんな悩みを持つ人も少なくないはず。
そんなとき、ふと気付いたのです。「ニッチでオンリーワンなお仕事をしている人の生き方に、専門性を身につけるヒントがあるのでは?」と。
今回お話をお伺いしたのは、パズル作家として活躍する田守伸也さん。さまざまなパズルを作り出す田守さんに、パズル作家という仕事の奥深さや楽しみながら働くコツを教えてもらいました。
雑誌やアプリ、TV番組などさまざまな媒体で多種多様なパズルの問題作りを手掛ける、プロのパズル作家。問題作りの他にもパズルグッズのデザインや講演、パズルイベントの指導員など、さまざまな角度でパズルに関わる。主な実績としては『脳内エステ IQサプリ』『パズラー』など。(Twitter:@tamori_puzzles)
フリーライター。パズルの類は極めて苦手だが、小学生時代はノートにさまざまな迷路を描いたり、なぞなぞの豆本を周囲に自慢したりしていた。難しい問題に直面した際の諦めの早さには定評がある。(Twitter:@raira21)
目次
少年B:
はじめまして。まずは田守さんの仕事について教えてください。
田守:
僕はプロのパズル作家として活動しています。
メインの仕事は書籍や雑誌のパズル問題を作ることですが、最近はアプリのゲームや謎解きイベントの問題も作っています。謎解きに関してはイベント全体をプロデュースすることもありますね。
少年B:
たしかに、パズルと謎解きって近いですね! 以前、この連載で謎解きイベント会社の社長にお話を伺ったこともあるんですが、気付かなかった……!
田守:
あとはテレビやラジオ、企業さんから作問依頼が来ることもあります。それから、「不可能物体」というパズルの制作もしています。
少年B:
不可能物体?
田守:
はい、こういうボトルにトランプが入ってるものがあるんですけども、これが「不可能物体」というパズルなんですね。
少年B:
ええっ!? これはマジックでは???
田守:
ぱっと見はマジックに見えるかもしれません。でも、マジックだと、たとえばボトルに切り目があったりとか、中に入ってるトランプが偽物だったりとかっていう「しかけ」があるんです。けども、この不可能物体というのは、仕掛けが一切ないんですね。
ボトルを割ったら、普通のトランプが出てきます。だから、これはパズルなんです。
少年B:
本当に種も仕掛けもないんだ……! まさかこれもパズルだったとは。あと、企業からのパズルの依頼ってのはどのようなものなんですか?
田守:
たとえば、社内報というものがありますよね。その隅っこに脳トレやパズルの問題がありませんか? ああいう問題を作っています。
少年B:
あーっ! たしかに広報誌とかにもクイズコーナーがあったりしますね。TVから雑誌、社内報まで、さまざまな仕事をされていますが、収入の割合はどれくらいですか?
田守:
昨年は新型コロナウイルス感染症のため、イベントや物販の売上がなかったのですが……。割合で言うと、だいたい雑誌・書籍が40%程度、アプリやゲームに関わるのが30%、テレビやラジオ、YouTubeが15%、企業のお仕事が10%、パズルに関する講演が5%、といった感じです。
少年B:
そもそもなのですが、田守さんはどうやってパズル作家になったんですか?
田守:
元々大学を卒業して2〜3年は一般企業で契約社員として働いていたんですが、『脳内エステ IQサプリ』というTV番組をきっかけにパズルの仕事をいただくようになり、その後パズル作家一本で食べていくようになりました。
少年B:
『IQサプリ』、ありましたね。なつかしい! では、田守さんとパズルの出会いについて教えてください。
田守:
はい、僕は幼稚園生時代に迷路が好きだったんですね。
少年B:
ああ~! 子どもは好きですよね。わたしもよくノートに書いて、友達に解かせたり、友達の作った迷路を解いたりしていました!
田守:
僕は地元が和歌山県なんですが、砂浜に迷路を描いて遊んでいました。本屋さんでも迷路の本が売られていたんですが、小学校低学年用の迷路は「簡単すぎてつまらないな」って思って。そこで、「もっと難しい迷路をつくってやるぞ!」と意気込んで、色んな迷路を描いていたのが最初のきっかけだった気がします。
少年B:
そうか、迷路もパズルの一種ですよね。クロスワードなど、一般的なパズルにハマったのはいつごろからですか?
田守:
小学4年のころです。『パズラー』というパズル専門の雑誌を購読するようになって。最初は読者として楽しんでいたのですが、パズラーには投稿コーナーもあったので、高校生の時に初めて問題をつくって投稿しました。実際に掲載していただくことも多く、だいたい月に4万円ほどの原稿料をいただいていました。
少年B:
高校生で月4万円!? 充分アルバイトの代わりになりますね。それで編集部に認められて、出版社付きのパズル作家として活動していった感じでしょうか。
田守:
いえ。同じ投稿仲間には出版社の方から声をかけられた方もいたし、僕もあと少し続けていれば他の方と同じようなポジションに行けたかもしれない。でも、当時の僕は「もし声をかけられたとしても、そこに自分の居場所はないな」と思ったんです。
少年B:
えっ!? なんでですか???
田守:
僕よりも先に活躍されている方々が本当にすごかったので……。その同じ場所でパズル作りをしても敵わないなと思ったんです。そこで、もういっそのこと違う路線に行こうと思って。当時作ってる人が極めて少なかった「ひらめきクイズ」を作ろうと思ったんです。
少年B:
ひらめきクイズ?
田守:
はい。いま人気の「謎解き」の原点みたいなクイズですね。そしたら、これを作り始めた時にちょうど『IQサプリ』というTV番組がスタートしたんです。
少年B:
『IQサプリ』にはどのようにして関わっていったんですか?
田守:
元々『マジカル頭脳パワー』などのクイズ番組が好きだったので、IQサプリも最初はいち視聴者として見ていました。『IQサプリ』は「あっ、こういう出題の仕方があるのか!」という学びがたくさんあっておもしろかったんです。
少年B:
おもしろい、というと……?
田守:
たとえば漢字を組み合わせて熟語を作る「合体漢字」という問題があるんですが、筋肉という漢字を「竹+内+力+人+月」と出題した問題には驚きました。「漢字を分解するときに、有名人の名前を混ぜこんで魅せる」という一工夫は、すごく勉強になりました。
少年B:
パズル好きだけじゃなく、一般の視聴者にもおもしろがってもらえるような工夫があったんですね!
田守:
そうですね。当時読んでいたパズル雑誌にはなかった感覚なので、すごく新鮮で。そんなふうに毎週楽しんでいたのですが、番組の最後に「問題募集!」ってテロップが出ていたんですよ。
これだ!と思って投稿してみたら、ありがたいことに採用されまして。何度も応募をしていたら、そのうち番組側から依頼が来るようになりました。
少年B:
番組が好きで、見ていたからこそ繋がった縁だったんですね……!
田守:
そうですね。もしかしたら公式サイトなどにも募集フォームがあったのかもしれませんが、当時はまだインターネットもあまり一般的ではなかったので、僕の場合は番組を見ていなかったら知らなかったと思います。
少年B:
ちなみに、投稿した時はゆくゆくはお仕事にしたいとか、そういう気持ちだったんでしょうか。
田守:
うーん、あまりそういう意識はなかったです。ただ、テレビという全国に流れるメディアで自分の作った問題が放送されてるっていう広がりにうれしさはありました。あとは、いい勉強をさせていただいているという意味で、問題を投稿し続けていました。
少年B:
そうして『IQサプリ』で一躍名を上げた田守さんですが、その後どのようにして仕事の幅を広げていったのですか? 営業のコツなどあれば、教えてください。
田守:
うーん、僕自身は営業が苦手なので、あまり積極的な営業はしてこなかったんです。
一般的に、高校生や大学生になると何かしらアルバイトをする人が多いですよね。ところが、僕はパズル制作をして雑誌に掲載されるのがバイトの代わりだったので、接客の仕事をしたことがなかったんです。ましてや営業なんて……という感じで。
少年B:
わたしもあんまり営業が得意なほうではないので、気持ちはわかります……。
田守:
その代わり、といってはおかしいですが、大学時代からパズルの集まりによく顔を出していました。
少年B:
パズル好きの集会みたいなものがあったんですか?
田守:
そうです。学生から大学の教授、有名企業の社長さんまで……色んな人が参加されていて。みんな「パズル好き」ではあるんですが、パズル作家もいれば、パズルを解くのが好きな人、パズルを収集するのが好きな人といった感じで、パズルへの向き合い方が違う人たちが集まっていました。パズルのなかでもルービックキューブだけが好きな人もいたりと、本当にいろんな方と出会いましたね。
少年B:
たしかに、パズルって趣味としては括りが大きいのかも……! そこからお仕事に繋がった感じなのでしょうか。
田守:
はい、名前を覚えてもらっていたので、そこで出会った方経由でお仕事を頂くことがありました。
少年B:
名前を売ることって大事なんですね……! もちろん田守さんの実力があってのことだとは思うんですが、何か覚えてもらうためのコツはあるんですか?
田守:
いや、単純に本名が「田守」なので、よく「タモさんですね」「いいともですか」みたいなことをよく言われるんです。名前自体にインパクトがあるので、覚えてもらいやすかったんじゃないかなと思います。
少年B:
確かに、「この前の集会にタモさんおったな! なかなかいい問題を作ってはったわ!」って印象が残ったら、それもう絶対忘れないですよね。
田守:
もちろん、まずは自分のスキルが絶対に必要だと思いますが、覚えやすさも大事だなと思います。場合によってはビジネスネームを名乗るのもありですよね。
少年B:
パズルって先ほど田守さんがおっしゃったようにさまざまな種類があるので、一般的には作家さんも「クロスワード」とか「なぞなぞ」とか専門の領域があると思うんですが、田守さんはジャンルを問わず色んな種類の問題を作っていますよね。
田守:
そうですね。いちばん得意としているのは高校時代から数多く作っている「ナンバープレース」です。ただ、30年以上パズルに親しんでいるのもあって、どんなパズルでも作りますし、解きもします。あと、パズルの歴史についても好きでいろいろ調べてもいます。
田守:
いただける依頼もさまざまで、「チェスを使った今までにないパズルを考案してください」とか「25年前のパズルの答えがわからないので解いてください」というお願いをされたこともあります。
少年B:
依頼の難易度、高すぎません???
田守:
そういう時も僕はワクワクしてしまうタイプの人間なので……。あまり仕事で苦労をしたことはないんですよね。
少年B:
締め切りの前日になっても問題ができていない、思いつかない、どうしよう……!みたいなこともないんですか?
田守:
そういう状況になったことがないんですよ。メディア向けの問題を作っている時、連絡ミスで締め切りの12時間前に作問依頼が来たこともありましたが、なんとかなりました。これが1時間前ならさすがに無理だったかもわかりませんが……。
少年B:
それでもできてしまうんですか!? すごすぎる……!
田守:
ハードといえばハードなのかもしれないですが、「いま目の前の仕事を乗り越えたら、また何かおもしろいものが見えるんだろうな」と考えているので、何でも楽しんで仕事をさせていただいていますね。
少年B:
その楽しさのモチベーションはどこにあるんでしょうか。
田守:
リアクションがあるとうれしくなって、もっと工夫をしたくなりますね。単純に解いてもらえるのもうれしいですけど、ひっかけ問題とかだと「ひっかかった」って声もうれしいです。
少年B:
なるほど……。パズルだと難易度調整とかも難しそうですよね。人によって感覚も違うでしょうし。
田守:
そうですね、出版社さんによっても違いますし、ターゲットが20代と小学生ではやはり変わってきます。
少年B:
作った問題が「思ったよりも難しかったんだな」とか、逆に「意外と簡単だったな」みたいなことはないんですか?
田守:
ひらめきクイズや謎解きイベントだとありますね。ひらめきってどうしても人によって差が出る部分なので、そういうクイズだと難易度の幅をすこし広めに取っています。
少年B:
逆に、ほかはけっこう厳密に難易度調整ができるんですか!?
田守:
できますね。私の場合、一番最初に購読した『パズラー』が基準になってるところはあります。ほかのパズル作家さんに仕事をお願いしたり、お願いされたりすることもあるんですが、難易度の感覚は同じなんですよ。同じ雑誌で育っているので、「ちょっとむずかしめ」とかでスムーズに話が進みます。
少年B:
難易度設定がみんな共通になっているの、おもしろすぎますね……!
少年B:
田守さんが今後、やってみたいお仕事や夢はありますか?
田守:
そうですね……。最近「脳トレ」とか「脳を活性化」って言葉をよく耳にすると思うんですけど、じつは一番脳を活性化させるのはパズルを解くことじゃなくて、身体を動かすこと、つまり「運動」だと科学的に証明されているんですね。
少年B:
えっ!? そうなんですか???
田守:
パズルでももちろん活性化はするんですけど、「運動の方が何十倍も効果があるよ」ということが検証されていると。
でも、世のなかには身体を動かしたくても動かせない人がいる。そういう方に向けて、運動と同等かそれ以上に効果が得られるパズルを考案したいと考えています。
少年B:
壮大な夢ですね……! すごい。
田守:
以前発達障害の子を持つ親御さんから連絡をいただいて。いま僕はYouTubeでマッチ棒パズルを出題しているんですが、読み書きもままならないお子さんが、マッチ棒パズルをものすごいスピードで解くそうなんです。
そして、マッチ棒パズルをきっかけにすごく学習意欲が湧いてきた、ということをおっしゃってくださって。僕のなかでは、夢の第一段階がクリアできたんじゃないかって手ごたえを感じているので、今後も続けていきたいなと思っています。
少年B:
では、最後に田守さんが「何者かになりたい」と思う人や「自分だけのスキル」を見つけたい人に対して、声をかけるなら、何と言いますか?
田守:
そうですね……。「スキルを身につける」より先に「好きを見つけてますか?」と聞くかもわからないですね。たとえ専門的な技術を身につけても、それ自体が苦手だったり好きじゃなかったりしたら絶対に長続きしないし、研究もできないと思うので。
スキルは後からついてくるものだと思うので、やっぱ好奇心が大事なんですよね。「好きなことを突き詰めていったら、楽しんでいるうちに自然とスキルが身に付いていた」っていう形が一番いいと思います。なので、まずは好きなことを見つけたうえで、誰も開拓していないジャンルを見つけて行動を起こすのがいいと、お伝えしますね。
少年B:
では、「自分には趣味がない、無趣味だ」って人はどうしたら……?
田守:
うーん、本当に無趣味の人ってそうそういないと思うんです。「趣味がない」と言ってもたとえば映画が好きだったり、タピオカが好きだったりするわけじゃないですか。そういうレベルでもいいと思うんですよね。
とりあえず目の前の「これ好きだな」と感じるところからやってみるといいんじゃないでしょうか。だって、行動しないと何も始まらないですから。
【記事のまとめ】
- パズル作家はTVから雑誌、企業の社内報まで、さまざまな場所でパズルを作る仕事
- 好きなことを楽しんで、突き詰めていくことで仕事になった
- 趣味の集まりに顔を出して、覚えてもらったことが仕事に繋がった
- 「目の前の仕事を乗り越えたらおもしろい景色が見える」と思えば全部楽しい
- 目の前の「これ好きだな」をやってみることが大切
(執筆:少年B 編集:泉)
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