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催眠術師の仕事とは? 失敗が許されない「究極の一発勝負」に勝つ方法

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「キャリアを築くには専門性が必要」と言われることが多くなりました。でも、専門性とは いったい何なのでしょうか。わたしはライターをしていますが、グルメに旅行におもしろ記事まで、書けそうなものは何でも手当たり次第に書いています。自分の専門性って何だろう……そんな悩みを持つ人も少なくないはず。

そんなとき、ふと気付いたのです。「ニッチでオンリーワンなお仕事をしている人の生き方に、専門性を身につけるヒントがあるのでは?」と。

今回お話をお伺いしたのは、フリーランスの催眠術師として活躍する夢幻颯人さん。どうやって催眠術を身に付けたの? 催眠術師はどうやって仕事を取ってるの? そんな気になる疑問の数々に答えてもらいました。

夢幻颯人
夢幻颯人

長女のADHDをきっかけにデザイナーを辞め、催眠術師に転向。現在はフリーランスとして芸能事務所に所属しTVやYouTube、ステージショーと一線で活躍するまでに。東海オンエアや鳥居みゆきを始め、数多くの人たちに催眠術をかけた実績を持つ。(Twitter:@mugen_hayato

聞き手:少年B
聞き手:少年B

「催眠術」と聞いて真っ先に思い浮かんだのは、ポケモンのスリーパーだったフリーライター。「少年B」は、ポケモン金銀攻略掲示板に書き込むためにつけた名前だったので仕方ないんです。(Twitter:@raira21

少年B:
催眠術って、あれですよね。5円玉をゆらして「あなたはだんだん眠くな~る」ってやつ……。

夢幻:
言葉で説明するより、実際にやってみましょうか。ゆっくり目を閉じて……だんだん心地よくなってきます。身体を揺らして、ほらどんどん深い眠りに落ちていきます。

ハッ! はい、あなたはもう立てません!

少年B:
あはは、そんなわけが……わけが……???

夢幻颯人さんの催眠術

▲爆速で寝かされるわたし

夢幻颯人さんの催眠術

▲身体が……重い??? 一瞬立ち上がったけどよろけてしまいました

少年B:
ぬおおおおおおおおおお!!!!!

はぁ、はぁ……。なんとか一瞬立ち上がりましたが、なんか死ぬほど身体が重いんですが。

夢幻:
あー、少年Bさんはちょっと警戒心が強いんですね。完全にはかかっていませんが、それでも身体が重いというのはある程度催眠にかかっている状態です。

少年B:
たしかに、何か怪しいから怖いな~と思ってました。完全にはかかってないんだ……。でも、充分催眠術のすごさは実感しました。

催眠術

▲なお、同行した編集部・齊藤(写真右)はわたし以上に深く催眠にかかっており、まったく身体が動きませんでした。

どうして催眠術師になった?

少年B:
さて、あらためて夢幻さんは催眠術師とのことですが、メインのお仕事が催眠術なのですか?

夢幻:
そうです。催眠術師のほか、YouTuberやタレント業、あとイラストレーターもやっていますが、収入の95%は催眠術で稼いでいます。

少年B:
YouTuberやタレント業もやってらっしゃるんですか!?

夢幻颯人さん

夢幻:
あと、もともとはデザイナーでして、マジシャンもやっていたことがあります。今でもそういったお仕事をちょこちょこすることもありますが、お小遣い稼ぎぐらいですね。

少年B:
多芸すぎる……! そんな夢幻さんが催眠術師になったきっかけは何なんですか?

夢幻:
僕は再婚しているんですが、妻の連れ子が学習障害を患っていて、うまく喋れなかったんです。IQも90いかないくらいで……。

何とかしたいと思って、数多くの病院やクリニックに行き、さまざまな検査を受けたんですが、どの医者にも「様子を見るしかない」としか言われなくて。そんなとき、たまたま本屋で「催眠療法」の本を見つけたんです。

少年B:
そんなことあります???

夢幻:
日本だと怪しいと思われるかもしれませんが、催眠療法は学問で、海外では医師免許が必要なケースもあります。そこで、「催眠」と名のつく本を片っ端から読んで、独学で催眠療法を勉強したんです。

少年B

少年B:
それで、娘さんはどうなったんですか?

夢幻:
催眠療法を行ったことで、娘は問題なく普通学級に通えるようになり、IQも110程度になったんです。

そこで、「催眠療法を必要としている人はたくさんいるはずだ」と実感し、デザイナーを辞めて催眠療法士として働くことにしました。

少年B:
なるほど、評判はどうでしたか?

夢幻颯人さん

夢幻:
……「催眠」というと、どうしても怪しいイメージがあるじゃないですか。世の中からはペテン師や詐欺師のように思われてしまう。なのでまったく繁盛しませんでした。

少年B:
確かに……。なんとなく怖いですもんねぇ。

夢幻:
そこで、エンターテイメントとしての催眠術をやろうと思ったんです。不思議なことに、療法としての催眠術には需要がないのに、エンタメとしては人気があるんですよね。

少年B:
確かに言われてみれば……! ちなみに、催眠療法の勉強は今でも続けているんですか?

夢幻:
仕事の比率としては少ないですが、催眠療法士の仕事は今でも続けていますよ。催眠術の勉強はずっとしていますし、たまにショーのなかで新しい催眠をかけることもあります。色々チャレンジしてみたいんですよね。

催眠術は「究極の一発勝負」

少年B:
そもそも、催眠術とはいったい何なんですか? さっきは身体が重くなりましたが、かけさえすれば、どんな人でも意のままなんですか?

夢幻:
いえ、催眠術っていうのは、あくまでかかる側の受け取るイメージによるので、かかりやすさや、かかりかたは人によって違うんです。

少年B:
と、いいますと?

夢幻:
たとえば、「鳥になってください」と催眠をかけることはできますが、どんな鳥になるかは人それぞれなんです。カモメになる人もいれば、インコになる人もいる。

少年B:
それこそ、ドードー鳥になる人もいるかもしれないと。

夢幻颯人さん

夢幻:
可能性はあります。以前、「憧れの芸能人になる」という催眠をかけたとき、ガタイのいい男性が「芦田愛菜だよ」と言ったこともあります。あまりにも意外だったので、会場は大ウケでした。

催眠術というと、「思うがままに人を操れる」というイメージがあるかもしれませんが、そんなことはないんですよ。もちろん、自分の思った通りになることもありますが、想定していない反応も返ってきます。

少年B:
予想外の反応が返ってくるとなると、大変そうですね。

夢幻:
いえ、僕はそれも楽しんでいますから。想定通りじゃつまらない。「あっ、そうかかるんだ」となったら面白いじゃないですか。

少年B:
ショーの中でいきなり新しい催眠術を試すぐらいですもんね。なるほど……。逆に、催眠術師として大変なことはありますか?

夢幻颯人さん

夢幻:
催眠術師って、よくマジシャンと一緒にされがちなんですが、大きな違いがあるんです。マジックは常日頃練習していることを本番でもしっかり出せればいい。

でも、催眠術はお客さんがかからないと意味がないんです。自分がいつも通りに催眠をかけても、誰もかからないというリスクがある。とくに、テレビのオファーは毎回胃が痛くなります。

少年B:
なるほど、人によって「鳥」や「アイドル」のイメージが違うんですもんね。かからないこともあるんだ。

夢幻:
フィクションでは都合のいい催眠術ですが、基本、相手が嫌がることはできないんです。たとえば相手を惚れさせたいと思っても、最初から嫌われてたら絶対無理です。

催眠術は、かけられる側が7割。信頼関係というか、ポジティブに「催眠術にかかってみたらおもしろいな」と思ってもらえないと、なかなかうまくいきません。

少年B:
じゃあ、テレビに出るときはどうしているんですか?

夢幻颯人さん

夢幻:
かけるタレントさんが決まっていれば、どんな人なのか、どんなことで楽しむか、どんなことに怖がるかを徹底的にプロファイリングします。1人あたり、3〜4日くらいは下調べしますね。

少年B:
そんなに!? 催眠術をかける時間よりはるかに長い時間を下調べに当ててるんですか!

夢幻:
だって、催眠術にかからなかったら番組として成立しないじゃないですか。テレビはひとつの番組に何十人もの人が関わっているので、絶対に失敗するわけにはいきません。

少年B:
いわば、究極の一発勝負ですもんね……。そりゃ胃も痛くなります。

夢幻:
アイドルグループとかならまだいいんですよ。複数人いて、全員がかからないってことはまずないですから。でも、「この人にかけてください」ってピンポイントで来られると、もう大変です。事前に情報がないときはかなりキツいですね。

少年B:
なんたって、1/1の成功が求められるんですもんね。催眠の成功率を上げるための工夫はあるんですか?

夢幻:
先ほどもいいましたが、催眠術は相手が嫌がることはできないので、「こんなやつに催眠かけられたくないな」と思われたらおしまいなんです。なので、安心して催眠にかかってもらえるように、清潔感のある恰好をしたり、話し方や立ち居振舞いにも気を付けています。

少年B:
催眠術って、そんなところから始まってるんだ……!

自信がなさそうな人の催眠術はかかりにくい

少年B:
催眠術を会得するためのコツや練習方法はあるんですか?

夢幻:
催眠術を覚えたいんですか? ワルいことに使っちゃダメですよ(笑)。自分は先ほども言ったように独学で、催眠療法の本を読んで学びました。コツはないんですが、強いていうなら、身近な人で練習するのは難しいかもしれません。

少年B:
えっ、練習台は身近な人にお願いするもんだと思ってました。

夢幻:
知ってる人だと、催眠術師と認識されづらいのでかかりにくいんですよ。それから「僕いま催眠術の練習してるから、かけさせて」と頼むのもダメです。

催眠術に身をゆだねるのって、どうしてもちょっと不安があるじゃないですか。なのに、練習中の人や自信がなさそうな人にかけてもらいたいと思いますか?

少年B:
確かに、解けなかったらどうしよう……ってなりますよね。怖すぎる。

夢幻:
僕も最初は家族を相手に練習をしたんですが、あまりかからなかったですね。娘も「お父さん」と認識していたので……。でも、不安を見せてはいけないと思ったので、娘には自信満々を装って催眠をかけていました。内心ビビってましたけどね、最初は。

夢幻颯人さん

少年B:
勉強のためには、他の催眠術師の映像を見たりも?

夢幻:
他の人は見ませんね。同業者に興味がないって部分が大きいですが、人のスタイルに引っ張られちゃうのが嫌なので。

少年B:
あ、その気持ちはちょっとわかります……!

夢幻:
催眠術のかけ方は数百種類あると言われています。人によってかかりやすい催眠、かかりにくい催眠があるので、事前に相手のことを調べたり、会話の中で観察したりして、どの手法を使うかを決めています。

少年B:
すごい。なんかもう心理学ですね。メンタリズムというか。

夢幻:
催眠術の成功率を上げるためには、知識や経験、分析が大事なんです。メンタリズムだって、僕に言わせれば催眠術の一種ですよ。

催眠術をかける夢幻颯人さん

▲催眠術をかける夢幻さん

夢幻:
あとは自分の容姿によってもかけ方は大きく変わります。たとえば、髭の長い仙人みたいな人だったら「ハァッ!」みたいなかけ方が有効ですし、クールでスマートな人だったら指を鳴らすとか。相手が術者に抱くイメージを利用する感じですね。

少年B:
催眠術、究極のコミュニケーション術のような気がしてきました……! なんかハードルが高そうですが、勉強すれば誰でもできるものなんですか?

夢幻:
じつはアマチュアで催眠術師をされてる方はかなり多いんです。だから、しっかり練習すればできると思いますよ。

少年B:
そうなんですか!? 催眠術師、意外とたくさんいるんだ。

夢幻:
でも、メディアに出るような人は10人いるかどうか……というレベルです。というのも、失敗したときにしらけてしまうリスクが大きすぎるので。だからみんな出たがらないんですよね。

ちなみに、「催眠術を教えてほしい!」という人向けの個人レッスンも行ってるので、もし学んでみたければぜひお声かけください(笑)。

催眠術師が教える「催眠営業術」

少年B:
ところで、夢幻さんはどうやって仕事を取ってるんですか? 催眠術師が営業している姿はいまいち想像できないんですが。

夢幻:
最初は飲み屋やバーで「面白かったらチップください」的な営業をしていました。そのうちに芸能人の方とも知り合うようになって、ちょこちょこテレビのお仕事がくるようになりました。

なかでも、お笑いタレントの鳥居みゆきさんに催眠術をかける番組に出たのが大きかったですね。鳥居さんは過去5回ぐらい催眠術を体験したものの、一切かからなかったそうなんですが、自分はどっぷりかけることができて。それ以降、番組を見た方々からお声をかけていただくことが増えました。

少年B

少年B:
テレビ出演はハイリスク・ハイリターンなんですね。お声をかけてくれたのはどういった方々なんでしょう。

夢幻:
催眠術師は意外と地方での需要が多いんです。企業から忘年会や新年会の出し物としてお声かけいただいたり、お祭りや町おこしイベントへの出演、大学の文化祭などですね。ほとんどはステージショーです。

少年B:
なるほど、「テレビであの芸能人に催眠術をかけた人を呼びます!」となると話題性も大きいですもんね。

夢幻:
そうだと思います。だから、口コミで営業先が広がっていくことは多いですね。呼ばれたら全国どこにでも行きますよ。

少年B:
気になる収入はどれぐらいなんでしょう。

夢幻颯人さん

夢幻:
お客さんの人数や時間によって金額は変わりますが、大人数の場合は1回のショーで新卒の手取りぐらいの金額をいただくことが多いでしょうか。地方の場合は宿泊費と交通費を別途いただきます。

少年B:
おお、時給にしたらすごい……! と、思ったんですが、確かに拘束時間を考えると、ショー1回でもけっこうな時間がかかりますね。

夢幻:
そうなんです。ショーは1回45分ぐらいで長くても2時間ですが、企業のイベントだと基本夜ですから、泊まりが前提で2日がかりになります。とはいえ、それでも割はいいほうだと思いますね。地方で遊んで帰ってくることもありますし。

少年B:
催眠術って、営業にも使えたりするんですか? たとえば催眠をかけた相手に高額の依頼をさせたりとか……。

夢幻:
さすがにそれは無理ですが(笑)、人の心理をうまく使って、心のドアを開けることはあります。せっかくなので、営業に使える催眠術師の技を教えましょうか。

夢幻颯人さん

少年B:
なんと、そんな技が……!?

夢幻:
たとえば取材先に電話でアポを取るとき、「今日の○時と明日の×時ならどっちがいいですか?」と聞いてみてください。断られる確率が一気に減ります。

YESかNOかではなく、YESの2択を提示することで、断るという答えが出づらくなるんですよね。催眠術師はこうやって、人の心にアプローチをしていきます。

少年B:
なるほど……。この技は色んなところでも使えそうですね。

夢幻:
女の子をデートに誘うときに「デート行ける?」じゃなくて「映画館と遊園地どっちがいい?」って聞くとかね(笑)。

逃げ場をなくし、あえて「面倒」な道を進もう

少年B:
夢幻さんの今後のキャリアプランを教えてください。

夢幻:
エンタメの催眠術もいいんですが、やっぱり元々の催眠療法に軸足を移して、困っている人を助けたいと思ってますね。催眠術は楽しいので一生やっていくつもりですが、あとは音楽活動もしたいですし。

少年B:
音楽活動ですか!?

夢幻:
自分はやりたいことがいっぱいあるんですよ。だから、今の状態はあくまで途中経過です。デザイナーもやったし、イラストレーターもマジシャンもやったし、興味があるけど仕事にできていないのは音楽だけなので。やってみたいですね。

もちろん、催眠術の新しい技を作ったり、深くかける技術は研究していくつもりです。

少年B:
なるほど……。最後に、自分の個性や専門性を身につけて、それを仕事にしていきたいと思っている人に一言声をかけるなら、何と言いますか?

夢幻颯人さん

夢幻:
催眠術師的な言い方かもしれないけど、「自分の子供の頃、何が夢だった?」と聞きますね。子どもの頃に好きだったものって、純粋な「好き」なので、今からでも燃え上がる可能性があると思うんです。

でも大人になると、日々の忙しさで夢を忘れてしまう。だから、好きだったことをまずやってみよう。そして逃げ場をなくしてみよう、と言いたいです。

少年B:
逃げ場をなくす……。

夢幻:
ひとつの夢に対して、いろんな道がありますよね。たとえば独学で勉強する、会社に入って働きながら学ぶ、スクールに通う……。そうなったとき、自分はなるべくめんどくさい方法をとるんです。

かんたんに覚えたものは、すぐに忘れてしまいます。自分の力になりにくい。めんどくさい方法は覚えるのが難しいぶん、自分の力になるし、ずっと残っていきます。為せば成るという言葉がありますが、逃げ道をなくして面倒なほうを選んで追い込んでいけば、かならず夢は実現できると思います。

少年B:
うっ、自分はかんたんな方法を取りがちなので、その言葉が刺さります……!

夢幻颯人さん

夢幻:
もちろん、あとで後悔しなければいいんですけどね。後悔しない方法を選ぶべきだと思います。苦労して身に付けた技術に対して、後悔することはないと思うんですよ。

少年B:
それは確かに……。

夢幻:
僕は子どものころ、漫画家になりたかったので、しっかり絵の練習をしてきました。今は催眠術師ですが、自分が抱いていた夢は音楽以外は全て仕事にしてきたので、後悔はありません。

最後に、一番大事なのは「楽しむこと」。面倒だな、やだなと思っても、それを楽しむことです。

少年B:
面倒なことを楽しむ?

夢幻:
幼稚園や保育園ではきっとやっていることだと思うんです。たとえば、掃除の時間に先生が「この中からお米を何粒見つけられるかな?」みたいなゲームをやってた記憶はありませんか?

それと同じで、大変さの中にも楽しみを見つけていけばいいと思うんですよ。その先には、自分の夢が待っていますしね。

夢幻颯人さん

▲最後に、ちゃんと催眠を解いてもらいました

【記事のまとめ】

  • 催眠術師は相手によって結果が左右される仕事
  • 催眠術をかけるために、信頼されるような振る舞いが大切
  • 自分の見た目やキャラによって、催眠術のかけ方は変わる
  • かんたんな道は身につかない。めんどくさい道を選んで後悔しない生き方を
  • 面倒なことを楽しもう

(執筆:少年B 編集:齊藤颯人 撮影:じきるう)

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