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こんにちは、デザイナーのこげちゃ丸です。
「デザインの言語化」は、論理的にデザインを語ることだと思われがちです。でも、感性で語らなくてはいけない場面もあります。
好き嫌いで判断されやすい「色」は、その感性領域の代表格です。「渾身の力で提案した色が、クライアントの好みで変更になってしまった……」デザイナーなら一度は経験したことがありませんか?
どのデザインジャンルでも共通して求められことの一つが色の説明。「なぜこの色にしたのですか?」これはデザイナーが必ず聞かれる質問です。感性領域をしっかり言語化できると、デザインに説得力が増してクライアントからも信頼を得やすいんです。
今回は、「色」に関する言語化についてお話します。
クライアントワークを中心に活動している、描いたり書いたりしているデザイナー。商品デザインからビジネスコンセプトづくりまで、幅広い領域で悪戦苦闘の毎日です。(Twitter:@onigiriEdesign)
「このデザインはここが良くないですね」と理由付きではっきり指摘できる人は少ないですが「この色はちょっと……」なら言える人は多いです。色は、デザイナーでなくても自分の判断軸を持ちやすいんですよね。
日々の生活のなかで、色の選択をする場面は多岐にわたります。服や家具に雑貨、コンビニで買うお菓子のパッケージまで、何色を買うか毎日迷っていると言ってもいい。その過程で自分の好きな色、嫌いな色、いまのトレンドカラーを肌で感じています。だからこそ、デザイナーはプロ目線でその色を使った理由を説明できなくてはいけません。
「色」の言語化で大事なことは、色に関する知識を深めることです。「赤は情熱的、青は誠実」という色の持つイメージはもちろん。色にまつわるエピソードの知識を深めることが、「色」の言語化には不可欠なんです。
紫色を例にお話ししますね。
紫色は古来、原料となる紫草が貴重だったため、高貴な色とされていました。しかし、たとえば『北斎と印象派の巨匠たち』という展示会のテーマカラーを決める会議で「今回は高級感を狙いたいので、皇族のみが着用できたという紫色にしたいと思います」と発言したらどうでしょう。引用したエピソードがちぐはぐな気がしませんか?
では、この説明だったらどうでしょう。
「今回は赤みが強いパープル(purple)よりも、青みが強いバイオレット(violet)がいいと思います。バイオレットは江戸紫と呼ばれる色に近い色です。江戸時代に活躍した北斎に影響を受けた印象派の画家たち、その展示会のテーマカラーにぴったりな色です」
より紫色に対する見方が深まった印象がありませんか?
この説明のポイントは二つあります。一つは、バイオレットをテーマカラーに選んだ理由を知識に基づいた説得力ある言葉で伝えること。もう一つは、専門知識をさりげなく伝えることです。
しかし、説明を次のように始めてはいけません。
「パープルとバイオレットの違いをご存じですか?」
これ、声のトーンにもよりますが、百害あって一利なしです。まず、相手が違いを知らなかった場合。バカにされた印象を持ち、気分を悪くする可能性があります。相手が知っている場合は最悪です。「赤みと青みの差ですよね?」と返されたら説明のリズムがとぎれてしまう。
専門知識はさりげなく相手に伝える方がいいです。ドヤ顔で説明すると聞き手がしらけてしまうので、注意した方がいいでしょう。
デザインする対象をリサーチし、コンセプトを練り、具体化する。デザイナーは常に順序立ててデザインをしてるわけではありません。テーマを聞いた瞬間、文字通りアイデアが閃くこともあるんです。一瞬で閃いたアイデアを言語化するのは、難しい。自分でも理由が分からないけどいいアイデアが突然思いつくときが、まれにあるんです。
ある食品のパッケージデザインを依頼されたときのこと。商品の特徴、ターゲットユーザーを聞いた瞬間、ぼくの頭のなかに紫色が思い浮かびました。今回のデザインのメインカラーは紫色しかない!と初回の打ち合わせで強く思ったことを鮮明に覚えています。
ただ、その食品では紫色がタブー視されていることも知っていました。理由は簡単。「紫色を使うと売上が伸びない」という過去データがあったからです。でも、どうしても紫色を使いたい。その商品のパッケージは神秘的なイメージのある紫色以外には考えられませんでした。
打ち合わせの帰りみち、駅まで歩きながらアイデアがどんどん湧いてきます。パッケージからWebバナー、はてはキャッチコピーまで。依頼されていない領域までデザインのイメージが膨らんでくる。早くスケッチが描きたくて仕方ない状態です。
でも、今回のデザインの肝である紫色の説明の仕方だけが思いつきません。デザインワークに入る前にデザインの方向性をクライアントと合意しておきたい。いっそのこと、「エモい雰囲気にしたいから紫色を使いたいです」と言ってしまおうか、とさえ思いました。
悩んだ結果、最終的にクライアントに見せたムードボード(デザインの方向性を視覚的に共有するツール)が以下のものです。(※一部表現は変えてあります)
通常、ムードボードはいくつもの写真やイラスト、カラーパレットをコラージュして作成します。simple, warm などのキーワードを入れることはあっても、文章は使いません。デザインのムード(雰囲気)を共有するのが目的だから、文章を使うとイメージが固まってしまい発想が広がらなくなるからです。
でも、このときはあえて文章を使いました。文章が主役で写真やカラーパレットはおまけと言ってもいい。引用した文章は、夏目漱石の小説「虞美人草」の一節。主人公の儚い未来を予感させる、不思議な魅力を持った言葉です。名文には、想像力をかき立て、読む人に幾重もの情景を見せる力がある。そして、名文は自分で書かなくていいんです。語り継がれる言葉を引用すればいい。
正直に言うと、これは賭けみたいなものでした。依頼先の反応が悪かったら、デザインの構想をやり直す覚悟で出したムードボードです。ところが、3人いた担当者全員が「この雰囲気、いいですね!」と共感してくれました。
「想像してなかった方向だけど、アリかもしれません」
クライアントの想像を超えたデザインを提案し、喜んでもらう。デザイナー冥利につきる瞬間でした。
デザインの言語化は、自分の言葉で語ることが基本です。でもそれは、プロジェクトを進める為の手段であって、目的じゃない。目的はただひとつ、自分がいいと信じるデザインを実現することですよね。誰かが書いた名文を引用することがベストなら、迷わず使うべきです。
色の言語化に必要なのはただ一つ、「知識」です。一見、デザインと関係ないジャンルの知識でも、いつか役にたつときがくる。小説や映画にマンガ、花言葉や星占い。デザイナーはどんなジャンルのものでも、貪欲な姿勢でインプットしたほうがいいんじゃないかなぁと思っています。
(執筆&イラスト:こげちゃ丸 編集:少年B)
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【連載】デザインの言語化ってなんだろう?
描く、書く、つたえる
デザイナーには、文章力が必要かも
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