なぜフリーランスの税金は高いのか?税理士さんにわかりやすく教えてもらった

住民税や国保の決定通知書や納付書を見て、働くモチベーションが一気に削がれたフリーランスはどれくらいいるのでしょうか?

何を隠そう、私もそのひとりです。

どうしてこうも、フリーランスの税金は高いのでしょうか? 納税は国民の義務、それは重々承知しています。しかし、だけど、だからこそ! 払うのなら「なぜこんなに高いのか?」の理由をちゃんと理解してから気持ちよく払いたい!

あまりの税金の高さにいてもたってもいられず、税理士・伊沢成貴先生の元へ突撃し、フリーランスの税金が高くなってしまう理由について聞いてきました。最後まで読んでいただければ、税金の額に怯えることなく、健やかに働き続けられるヒントが得られるかもしれません!

伊沢 成貴(いざわ しげき)
伊沢 成貴(いざわ しげき)

税理士。伊沢成貴税理士事務所代表。1987年生まれ、東京都亀戸出身。2012年に七松公認会計士税理士事務所にて、中小法人・個人の会計税務に携わる。2017年に公認会計士山内真理事務所にて、アート・クリエイティブ・カルチャー領域の会計税務に専念する。2023年に「つくる」領域を支援する、伊沢成貴税理士事務所を設立。荒川区ファッション領域起業支援拠点イデタチ東京メンター。伊沢成貴税理士事務所公式サイト

聞き手:北村 有
聞き手:北村 有

フリーランス歴6年目。年数としては中堅どころだが、マインドもお金に関する知識もまだまだ半人前フリーランス。X:@yuu_uu_

どうしてフリーランスの税金は高くなる?

「フリーランスって、こんなに税金が高いの……?」

フリーランスとして独立した方で、国民健康保険や住民税の納付書を受け取った方なら、一度はこんな疑問を抱いたことがあるのではないでしょうか? 実は、フリーランスの税金が高く感じるのには、いくつかの理由があります。伊沢先生は、次のように解説してくれました。

理由1. 給与から天引きされていた税金をすべて自分で払うから

伊沢成貴先生(以下、伊沢先生):
会社員時代は、給料から税金や社会保険料が天引きされていたので、あまり意識していなかった人も多いかもしれませんね。しかしフリーランスになると、これらの税金をすべて自分で支払うことになります。

会社員時代には会社が給与から天引きしてくれていた所得税、住民税、健康保険料、年金など、すべて自分で支払うことになります。大きい金額の納付書が届き驚く方も多いと思います。これが、税金が高く感じる大きな要因の一つと言えるでしょう。

理由2. 納付回数が増えるから

伊沢先生:
また、税金や社会保険料の納付回数が増えることも、フリーランスになってからお金の負担を大きく感じる理由の一つです。

会社員は、住民税は12ヶ月で分割されていますが、フリーランスになると基本的には年4回の納付になります。1回に支払う金額が大きくなるため、どうしても「税金が高い!」と感じてしまうのも無理はありません。

▲出典:©伊沢成貴税理士事務所

理由3. 前年の所得によって税金の額が決まるから

伊沢先生:
さらにフリーランスの税金は、前年の所得を元に計算されるという特徴があります。今年がんばって稼いだぶんに応じた所得税や住民税は、来年払うことになるのです。収入が不安定になりがちなフリーランスにとっては、注意が必要なポイントです。

今年は所得が少なかったとしても、前年の所得が多ければ、税金の支払いが負担になってしまう可能性もあります。収入が安定しないうちは、税金の支払いに備えて、計画的に貯蓄しておくことが大切です。

理由4. フリーランスならではの税金があるから

伊沢先生:
また、会社員にはないフリーランスだけが支払う税金があるって、知っていましたか? それが「個人事業税」です。

ただし個人事業税は、すべてのフリーランスにかかるわけではありません。業種によって、納税義務の有無があらかじめ決まっています。東京都主税局のWebサイトによると、個人事業税を支払うのは「法定業種の事業を行っている個人の方」とされ、以下の業種が指定されています。

▲出典:東京都主税局

また、個人事業税は年間290万円まで所得から控除が可能な事業主控除という制度があるため、法定業種の事業を行っているフリーランスでも、所得が大きくなければ結果的に個人事業税がかからないことがあります。

理由5. 給与所得控除がないから

伊沢先生:
会社員時代にはあまり意識しなかった「経費」も、フリーランスの税金計算においては重要な要素です。

フリーランスは、事業に関連する費用を経費として計上することができます。しかし、会社員時代と同様に給与所得控除(=給与を得るために必要な経費の概算経費控除を認める等の趣旨をもった制度)は受けられません。そのため、経費をもれなく適切に計上しないと、所得が減らないため、税金が高くなってしまう可能性があります。事業でかかった支出はレシートをもれなく集めて経費計上することが、税負担を抑えるポイントです。

フリーランスが働きすぎると損なのか?

北村:
フリーランスとして独立したからには、バリバリ働いて収入を増やしたい! と考えている方も多いと思います。私もそうなんですが、会社員からフリーランスになった方ならなおさら、自分のやりたい仕事や好きなことでお金を得るのは、やりがいや喜びに直結しますよね。

それなのに、がんばって働いてお金を稼ぐほど、税金が高くなってしまうのなら、働くモチベーションが下がってしまうのでは……?

伊沢先生:
そう考えてしまう気持ち、とてもよくわかりますよ。ただ結論から言うと、必要以上に「税金」を恐れて働き方をセーブする必要はありません。

北村:
え、そうなんですか?

伊沢先生:
確かに、日本では所得が増えるほど税率が上がる「累進課税制度」が採用されているために、高所得者ほど税負担の割合は大きくなります。しかし一般的なフリーランスの所得水準では、税率の差はそこまで大きくないんです。

たとえば、所得が330万円から900万円までは、その所得の範囲内では所得税率は大きく変わりません。多くのフリーランスの方がこの税率の範囲に該当すると思います。所得が900万円を超えると、税率が10%上がります。所得が900万円を超えるとなると、年収が1,000万円に到達していることも多いと思います。かなり稼いでいるような状況ですね。そのため、まずは自分の目標とする収入を得られるように、仕事に集中することが大切です。

もちろん収入が増えてきたら、節税対策を検討する必要はあります。しかし税金を恐れて、やりたい仕事や挑戦を諦めるのはもったいないことですよ。

北村:
年収1,000万円なんて、私にとっては夢のまた夢です……! いまのところは、必要以上に節税について考えすぎなくてもいいのかもしれないですね。

フリーランスができるもっとも簡単で効果的な節税対策は?

「フリーランスとして賢く働くためには、効果的な節税対策を知っておくことも大切です」と話す、伊沢先生。ここからは伊沢先生おすすめの節税対策を3つ、詳しく解説していきます。

対策1. ふるさと納税

伊沢先生:
ふるさと納税は、自分が応援したい自治体に寄付をすることで、税金の一部が控除される制度です。

ふるさと納税の魅力は、税金の控除を受けられるだけでなく、返礼品として該当地域の特産品などを受け取ることができる点です。自分の好みに合わせて、お得に節税できるのがメリットと言えるでしょう。

厳密に言うと、ふるさと納税は節税というより「税金の前払い」です。ただ納税するよりも、ふるさと納税として税金を前払いしたぶん、米や肉などの返礼品を受け取れますので、少しお得感がありますよね。

対策2. 経費をきちんと計上する

伊沢先生:
フリーランスにとって、経費の計上は節税の基本です。 経費とは、事業のために使ったお金のこと。事業に関連する費用をきちんと経費計上することで、所得を減らし、税金の負担を軽減できます。

フリーランスとして認められる経費は、意外と幅広いんですよ。たとえば仕事で使うPCやAdobeなどのソフト、書籍代はもちろん、自宅の一部を仕事場として使用している場合は家賃の一部を経費計上することも可能です。

注意したいのは「経費の計上漏れ」。 レシートや領収書を保管せずに、経費計上を忘れてしまうと、本来受けられるはずの節税効果を逃してしまうことになります。日頃からこまめに経費を記録し、管理しておくことが大切です。

最近は、便利なクラウド会計ソフトが多くあります。これらのツールを活用すれば簡単に経費管理ができるので、おすすめです。

対策3. 小規模企業共済に加入する

伊沢先生:
小規模企業共済とは、個人事業主や中小企業の経営者向けの退職金制度です。毎月一定額を積み立てていくことで、廃業時や退職時に共済金を受け取れます。

小規模企業共済の最大のメリットは、掛け金が全額所得控除になる点です。節税しながら、将来のための資金を準備できるという点で、非常におすすめの制度です。

フリーランスにおすすめの「文美国保」とは?

フリーランスにとって、税金対策と並んで重要なのが保険です。 会社員時代は、会社の健康保険組合に加入しているのが一般的でしたが、フリーランスになると基本的には国民健康保険に加入します。

伊沢先生によると、国民健康保険以外にフリーランスが加入できる保険組合は「文芸美術国民健康保険組合(文美国保)」がおすすめ、とのことです。

文美国保ってどんな保険?

伊沢先生:
文美国保は、文芸・美術・音楽・演劇など、主にクリエイティブ分野で働くフリーランスが加入できる健康保険組合です。

文美国保の最大の特徴は、保険料が所得に関係なく一律であるという点です。そのため、収入が多いフリーランスにとっては、国民健康保険よりも保険料を大幅に抑えられる可能性があります。

文美国保の加入条件は?

伊沢先生:
文美国保に加入するには、以下のような条件があります。

  • 対象となる職業に就いていること:ライター、デザイナー、カメラマン、イラストレーターなど、主にクリエイティブ系の職業が対象
  • 文美国保組合団体に加入していること:文美国保組合に加盟する、主にクリエイティブ系の同業種団体に加入している必要があります。

加入条件を満たしていれば、文美国保への加入を検討してみる価値は大いにあるでしょう。ただし、文美国保への加入には保険料はもちろん、加入条件となる団体や協会に加入するための費用もかかる場合があります。加入前に、必ずご自身で加入資格や保険料などを確認するようにしてください。

フリーランスにおすすめの資産形成方法は?

フリーランスとして安定した収入を得られるようになってきたら、老後のことを考えて、資産形成についても考えていきたいところですよね。

将来のために、そしてより自由な働き方を実現するためにも、早いうちから資産形成に取り組むことはとても重要です。伊沢先生に、フリーランスにおすすめの資産形成方法について聞きました。

節税効果もある! iDeCoと国民年金基金

伊沢先生:
フリーランスが資産形成をする場合、ぜひ検討してもらいたいのがiDeCo(個人型確定拠出年金)全国国民年金基金です。

iDeCoと全国国民年金基金は、どちらも掛金が全額所得控除になるという大きなメリットがあります。節税しながら将来の資産を築くことができる、まさに一石二鳥の制度と言えるでしょう。

iDeCoは、自分で運用方法を選択できるのに対し、全国国民年金基金は運用方法が決まっているという違いがあります。どちらの制度が適しているかは、それぞれの状況や投資経験、リスク許容度などを考慮して判断する必要があります。

フリーランスの資産形成、成功の秘訣

伊沢先生:
フリーランスは、会社員と比べて収入が不安定になりがちです。そのため資産形成を成功させるためには、ドカンと大きく狙うのではなく、無理のない範囲でコツコツと継続していくことが重要です。

まずは、毎月の収入と支出を把握し、無理なく積み立てられる金額を決めましょう。目標金額を設定しておくことも、モチベーション維持に繋がります。また投資初心者の方であれば、少額から始められる積立投資など、リスクを抑えながら運用できる方法からスタートするのがおすすめです。

フリーランスが適度に稼ぎ、健やかに働き続けるには

税金を納めることに対して過度に不安になる必要はないと分かり、節税対策や資産形成など、フリーランスがやるべきことが見えてきたのではないでしょうか。

最後に伊沢先生に、フリーランスがより前向きに働き続けるために実践したい、+αのアドバイスをいただきました。

自分だけの事業計画を立てよう!

伊沢先生:
フリーランスとして自分らしく、自由に働くことは素晴らしいことです。 しかし、その自由の裏側には、自分自身で責任を持って、お金や働き方を管理していかなければならない側面も存在します。

フリーランスとして長く安心して働き続けるためには、お金に関する知識を身につけること、そして自分のやりたいことを見極め、事業計画を立てていくことが何よりも大切です。事業計画と聞くと難しいイメージがあるかもしれませんが、やりたいことを決めてそれに向かって計画を立てることが基本です。事業計画に関する本はいろいろとありますが、フリーランスの方で初めて計画を立てる時の考え方を学ぶには以下の本はとても読みやすくておすすめです。

「生きのびるための事務」(坂口恭平)

会計ソフトを活用して、お金の流れを「見える化」しよう!

伊沢先生:
日々の収入や支出を把握し、お金の流れを「見える化」することは、フリーランスにとって必須のスキルと言えるでしょう。

おすすめは、freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを活用すること。銀行口座やクレジットカードと連携することで、自動的に収入と支出を記録してくれるので、簡単に帳簿をつけることができます。

まとめ

今回は、税理士の伊沢先生に、フリーランスの税金について詳しくお話を伺いました。

「一生懸命働いても、お金がどうせ税金で消えてしまうなら意味がないし、やる気も出ない……」とモチベーションが下がってしまうのは、ときには仕方のないことかもしれません。

しかし、だからこそ「やりたい仕事」を見極め、集中することが大切だと、伊沢先生のお話を聞きながら感じました。適度に稼ぎつつ、自分に合った節税対策や資産形成をしていきましょう!

(執筆:北村有 編集:Workship MAGAZINE 編集部)

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