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テーマとコンセプト、どんな意味で使ってる?

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こんにちは、デザイナーのこげちゃ丸です。

デザインの仕事をしていると、異業種の人と関わることがよくあります。たとえば、建築デザイナーと一緒に腕時計のデザインをするという珍しい仕事もありました。そんなコラボレーションは、既成概念を壊し、新しいアイデアを生める最高のチャンスです。異業種と関わるからこそ、得られる刺激があるのです。

でも、刺激にはいい面と悪い面があります。コミュニケーションを間違えたコラボは悪い結果しか生みません。いい結果を生むには、異業種への理解や、業界特有の言葉の正しい解釈が不可欠なのです。

今回は以前ぼくがやってしまった、コミュニケーショントラブルについてお話させていただきます。

こげちゃ丸
こげちゃ丸

クライアントワークを中心に活動している、描いたり書いたりしているデザイナー。商品デザインからビジネスコンセプトづくりまで、幅広い領域で悪戦苦闘の毎日です。(Twitter:@onigiriEdesign

それってコンセプトですか?

まだ、デザイナーになって数年しか経っていない頃、言葉のとらえかたの違いを痛感したことがありました。ファッションブランドのデザイナーさんと一緒に仕事をしたときの話です。

当時、ぼくはプロダクトデザインを主に活動していて、そのファッションブランドで発売する置き時計をデザインして欲しいという依頼でした。依頼先の会社さんには、新人デザイナーがアクセサリー(服飾以外の小物すべて)を担当する風習があり、打ち合わせに出てきたのは、学生らしさが残る若々しいデザイナーさん。

簡単な挨拶のあと、「今回のコンセプトを教えていただけますか?」とぼくは質問しました。事前に勉強はしましたが、Webで知るには限界があるし、社員の方から直接聞く情報の方がより重要なのは言わずもがなです。そしてうやうやしく一枚のビジュアルがテーブルの上に並べられました。

「このテーマに沿ってデザインをお願いします」

依頼先が出してきたビジュアルとキーワードは、かなり抽象的です。

「抽象的なイメージではなく、具体的なコンセプトを教えていただきたいのですが……」

「チーフからは、このテーマに沿ってアクセサリーも展開しろ、と言われています」

このあと数分間、押し問答みたいな会話が続いたあと、ついに依頼先のデザイナーさんは怒ってしまいました。「テーマが大事なんです! このテーマでデザインしてもらえばいいんです!!」

さて、一体何が問題だったのでしょうか。このはなし、「デザインテーマ」と「デザインコンセプト」の違いを書かないと、何が問題なのか分からないので簡単に説明しますね。

一般的に、デザインにおける「テーマ」とは主題です。デザインを考える出発点ともいえます。たとえばデザインコンペのテーマが「暮らしを豊かにする置き時計」ならば、置き時計以外の応募は認められません。

一方、「コンセプト」は、デザインコンセプトのことで、そのテーマを具体化する手段です。「マグカップの蓋になる置き時計」や「壁にも付けられる置き時計」というようにデザインの方向性を決定するものがコンセプト。一つのテーマに対してコンセプトはいくつでも考えられます。

でも、ファッションの世界では真逆だったんです。「コンセプト」は、ブランドコンセプトとして一つしかありません。たとえば、かの有名なルイ・ヴィトンのコンセプトは「 旅を楽しみ、人生を楽しむモノづくり」。創業以来変わらない、ブランドの核として存在する言葉です。鞄からアパレル、アクセサリーにいたるまで、すべてのアイテムにその思想が反映されています。じゃあテーマは?というと「ゲーム・オン」や「タイムクラッシュ」などといった具合に、毎シーズン変わるんです。つまり、一つのコンセプトに対してその時代を反映したテーマが移り変わっていくのです。

同じ言葉をまったく違う意味で使っている二人が、ただ会話するだけでは永遠に分かり合えないですよね。異業種のデザイナーとの仕事は、相手の業界への理解が重要だと痛感した出来事でした。

抽象的な言葉が発想をひろげてくれる?

「とにかくテーマに合わせてください!」

思わず声を荒げてしまった自分にビックリしたのでしょう、慌てて平謝りする依頼先のデザイナーさんとじっくり話し合いました。聞けば、そのファッションブランドのコレクションは1シーズンで300アイテム越え。アクセサリーだけでも50アイテム以上とのこと。それを一人で切り盛りし、テーマに合わせてデザインを揃えていくのは大変です。ついイライラして、思わず怒鳴ってしまった依頼先のデザイナーの気持ちも分かります。

ぼくもファッション業界の「テーマ」の定義を知らずに「抽象的なことば」と軽んじた自分の発言を反省しました。多くの異なるアイテムに展開されるテーマは、あえて抽象的な言葉を使うそうです。言葉の解像度が高すぎると、デザインを発想する余白をなくしてしまうんですね。トップスやボトムス、靴やアクセサリーなど、複数アイテムのコーディネートで世界観を表現するファッション業界ならではの手法だな、と驚いたのを覚えています。

抽象から具体化するのは大変!

テーマは理解したものの、それをプロダクトデザインに落とし込んでいくのは苦労しました。参考に他のアイテムでは「柔らかい光」をどう解釈しているかを聞いたんです。

「シャギーなフェイクファーやニットで表現してるアイテムが多いですね」

???

聞きなれない言葉に頭の中は大混乱。生地サンプルを見せてもらい、ようやく理解できました。シャギーとは、英語で「毛むくじゃら」という意味で、毛足の長い素材のことなんです。モコモコとした質感が可愛らしく、光があたると柔らかい光沢感がある。テーマにぴったりの素材でした。

でも、この素材をそのまま使うのは難しい。置き時計の一部にシャギーな素材を貼る方法もありますが、着物に英語の文字がプリントされたような唐突感があります。テーマをアイテムに合うように翻訳できなければ、いいデザインとは言えません。固い工業製品で「柔らかい光」を表現する。難しいテーマでしたが、最終デザインは自分でも納得のいくものができました。

依頼先のブランドコンセプトは「遊び心のあるフレンチシック」だったので、形状は極力シンプルに、素材感でテーマを表現しました。外装に使った起毛塗装は、樹脂素材の表面をスエード調にする、プロダクトデザインでは一般的な技術です。でも、ファッションデザイナーの目には珍しく映ったようでした。布の専門家にとっては、樹脂を布風に見せるフェイク処理が新鮮に感じるのは面白いですよね。

異業種コラボで新しいアイデアは生まれる

アメリカの実業家、ジェームズ・W・ヤング氏はこんな言葉を残しています。「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない」。

ひらたく言えば「自分が知っていることを、やったことがない方法でつなげる」ことです。

このときの仕事でいえば、初めて聞いたシャギーという言葉と起毛塗装の知識を、置き時計の外装で使ったことです。実は当時、起毛塗装の耐久性に課題があったのですが、工場に出向いて解決策を模索し、なんとか量産条件をクリアしました。その結果「手触りが心地よい置き時計」という新しいコンセプトが出来上がったのです。

同じ業界でずっとデザインしていると、経験値と共にデザインが洗練されていきます。ただ、気を付けないと自分の得意パターンに頼るようになってしまうんですよね。たとえば、「高級感を出したいときは青色と金色を組み合わせる」みたいなヤツです。自分でも知らないうちに既成概念という枠を作ってしまうことってあるんです。そして、その枠は居心地がいいからやっかいです。外に出るのがおっくうになってしまう。

その枠を強制的に壊してくれるのが、異業種デザイナーとのコラボです。デザイナーは主張が強い人が多いから、衝突することもあります。言葉を丁寧に重ねていかないと理解しあえない。正直めんどうなこともあります、枠の中の方が楽ちんです。でも、その先には一人では考えつかないワクワクするデザインが待っているとしたら……。伝えるための言葉を磨いて、外に飛び出してみたくはなりませんか?

*注:文中に出てくるクライアントのブランドコンセプト、テーマ、置き時計のデザインは本記事用にアレンジしており実際の製品とは異なります。

(執筆&イラスト:こげちゃ丸 編集:少年B)

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デザインの言語化書籍

【連載】デザインの言語化ってなんだろう?

描く、書く、つたえる

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