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こんにちは、デザイナーのこげちゃ丸です。
みなさんメタファーという言葉を聞いたことがありますか? メタファーとは、ある物事を別の表現で「たとえる」ことです。小説のような言葉の表現はもちろん、デザインの世界でも様々なメタファーが使われています。
たとえば、多くのアプリで「設定」は、歯車アイコンが使われていますよね。これは、文字をアイコンに置き換えることで直感的なデザインとし、ユーザーに一目で理解してもらうためです。
デザイン表現だけでなく、自分の考えを分かりやすく伝えたい時にもメタファーは有効です。「彼は努力家で勉強も怠らず、常に向上心を持ち続けるわが社のエースデザイナーです」と説明するより「彼は努力と才能に溢れた、わが社のイチローです」と説明した方が聞き手のイメージも膨らむし、興味を持ってもらえますよね。
今回はデザインの言語化で強力な武器になる「メタファー」についてお話します。
クライアントワークを中心に活動している、描いたり書いたりしているデザイナー。商品デザインからビジネスコンセプトづくりまで、幅広い領域で悪戦苦闘の毎日です。(Twitter:@onigiriEdesign)
幼稚園の遠足のお弁当。フタを開けてタコさんウィンナーが入っていたら、嬉しいですよね。味はウィンナーなのにカタチが変わるだけでなぜだか美味しく感じてしまう。タコに見立てることで、見た目はもちろん気分まで楽しくなり、ウィンナーの魅力が何倍にもなります。これがメタファーの力です。
無印良品の壁掛け式CDプレーヤーは、メタファーの力でデザインを魅力的にした好例です。
本体からぶら下がったひもを引くと、CDが回りだし音楽が流れる。思わず引っ張りたくなるヒモも、本体に無数に開けられた穴も換気扇をイメージしています。見ただけでデザインの狙いが伝わる素晴らしいデザインです。
ネット配信全盛のいま、CDで音楽を聴く人はまれでしょう。高価なスピーカーと比べれば、音質もいいとはいえないかもしれません。
でも、このデザインには「欲しい!」と思わせる力があります。発売されてから20年以上経っても売り続けられているのも納得です。メタファーを上手に使えば、デザインの説明はいりません。デザイン自身が無言で語ってくれる、最強の言語化と言えるでしょう。
ここで気を付けなくてはいけないのは、メタファーの距離感です。見立ては、対象との距離が近すぎても遠すぎても効果を発揮しません。ウィンナーがリアルな豚のカタチをしていたら、ちょっと切ないですよね。また、超絶技巧で金閣寺のカタチに飾り切りされても食欲はわかないでしょう。
タコさんだからいいんです。切り込みを入れたウィンナーが、過熱することによって自然と足が開いていく。理にかなってますよね。理にかなったデザインは美しいんです。
見立てが近すぎると、それはメタファーではなくパロディになってしまうので注意が必要です。
たとえば、以前タイプライターを模したデザインのPCキーボードを見かけたときに、文字を打つ道具としての文脈が近すぎてパロディに見えてしまいました。パロディは面白いけど、安易に考えたデザインに見えるときがあるので注意が必要です。
メタファーはデザインの発想を助けてくれる力もあります。ある図書館のWebデザインを依頼されたとしましょう。クライアントからは「デザインはお任せします」と言われました。
「お任せします」ほど怖い依頼はないですよね。「お任せしますとは言いましたが、好きなようにデザインしていいとは言ってません!」という未来の会話が聞こえてきそうです。それを避けるには、明確で分かりやすいデザインコンセプトが必要です。
先方の要望がない場合、自分でいちからデザインを構築しなくてはいけません。オーソドックスな手法としては、図書館からイメージする言葉を列挙しデザインに落とし込めそうなキーワードを抽出していくやり方があります。
本、学ぶ、歴史、趣味、信頼、静か、落ち着く、憩い、コミュニティ……
シンプルに本をモチーフにするアイデアもありますが、もうひと工夫欲しい気がしますね。でも、信頼、静か、落ち着くなどはグラフィックでは表現しづらい言葉です。そんなときこそ、メタファーの出番です。抽出した言葉から図書館の世界観を「見立てる」何かを探してみましょう。
ぼくは、こんなメタファーを思いつきました。
枯山水です。枯山水とは、水を使わず石や砂で川や山を表現した庭園様式のことです。寺院の庭園を囲む縁側や部屋に大勢の人が静かに座っている。そこにいるだけで心が癒されるような、それでいて凛とした空気に包まれている。
図書館で感じる雰囲気に似てませんか? 「静かで落ち着く」を絵で表現してください、と言われたら困ってしまう。でも、枯山水を絵にしてくださいと言われたら、多くの人ができるはずです。同心円と帯のような線を組合せば、それっぽい絵になります。
このサンプルでは、「砂紋(白い砂に描かれた線)」と本をアイコニックにしたグラフィックを組み合わせてデザインを構成してみました。
メタファーで大事なことは、ふたつあります。ひとつめは、誰もが知っている言葉で表現することです。「図書館の雰囲気をマルタ島のイムディーナ(※)をメタファーにしてデザインしました」と言っても誰も分からないですよね。
※イムディーナ:静寂の街と呼ばれる観光名所
ふたつめは簡潔に表現することです。枯山水をメタファーとするとき、砂紋以外にも引用できる要素はたくさんあります。石組、借景、手水鉢(ちょうずばち)、どれも枯山水に欠かせない要素です。でも、「このボタンは手水鉢をイメージして、ゴツゴツとした石のテクスチャを使いました」と説明されて響くひとは寺院マニアだけでしょう。
メタファーは、相手に分かりやすく伝えるための手段です。ひねりすぎては意味がありません。メタファーが簡潔で明快なものになっているか? ぼくは「伝言ゲームで正しく伝わるか」を意識しています。
大手企業や行政がクライアントのとき、デザインの窓口は決裁者でなく担当者の場合が多いです。ぼくがプレゼンした内容を、担当者が決裁者に説明する場面が必ず生まれます。そのとき、デザインの考えが複雑だと正しく伝言されません。
「デザインコンセプトは枯山水。人が集う静けさを枯山水に見立て、幾何学模様で表現しています。」
これくらいシンプルにしないと、人から人へ伝わらないんです。優れたデザインコンセプトは、伝言ゲームを何度繰り返しても正しく伝わります。難しいですが、ぼくが常に心掛けているデザインの考え方です。
ぼくはデザインの方向性が決まったあと、よく担当者と雑談をします。「枯山水は英語でZen gardenと呼ばれるくらい、禅の考えがベースになってるんです。静かな空間で自分を見つめなおす、その雰囲気も図書館と似てますよね。」みたいな感じです。デザインと直接関係ないことでも、知ればクライアントのデザインへの理解が深まり愛着が湧いてくるからです。
日本を代表するデザインファームTakramの渡邉 康太郎さんは「FFLL」という考えを提唱されています。これは「Feel First, Learn Later」の頭文字をとったものです。理屈ぬきで最初にいいね!と感じてもらい、そのあとにデザインの背景を聞き、なるほど!と思ってもらうことが大事だよね、という考え方です。
ぼくはこの「FFLL」という考え方が大好きです。美しいだけのデザインは薄っぺらい。美しさの裏に感情を揺さぶる物語がある。ぼくが理想としているデザインの姿です。実現するのは簡単ではないですが、いつもそこを目指してデザインに向き合っています。
(執筆&イラスト:こげちゃ丸 編集:少年B)
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