「専門スキルを伸ばす VS 幅広い領域に挑戦する」フリーランスの生存戦略討論
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自由度が高くて、理想的な働き方に見えるフリーランス。あこがれていざ独立してみると、想像以上の困難やトラブルが起こります。
今回はフリーランスと元フリーランスの5名の方に体験談をヒアリングし、フリーランスだからこそ味わった失敗談と、フリーランスから再就職に挑戦した際に感じたことをまとめます。
広告系の企画制作会社、教育事業会社での企画職を経て、2017年ライターとして独立。ビジネス領域のインタビュー記事執筆を中心に実績を重ね、2020年株式会社宿木屋を設立。チームで言葉を軸にした企業の発信支援を行う傍ら、個人名義でのコラム執筆や創作活動もしている。(X:@yuki_yadorigi)
目次
マニュアルも職場もなく、すべて自分次第のフリーランス。自由度の高さにあこがれる人は多いと思いますが、その自由度は、裏を返せば手痛い失敗にもつながっています。
メディアやSNSでは成功者の声がピックアップされがちですが、実際にフリーランスとして働く皆さんの意見や体験談を聞いてみると、きらびやかな成功談はごくわずか。独立してから想像とのギャップにおどろく方も多いようです。
フリーランスになって実感することは、何かしら失敗をしたとき、それをカバーしてくれる会社や上司がいないことです。加えて、営業や会計、マーケティングなど、組織では分業することをすべて一人で行うため、想定外のミスも起こりやすくなります。
中小企業庁のフリーランス実態把握調査によると、現職がフリーランスの小規模事業者のうち、56.5%は前職が中小企業の役員または正社員だったと答えています。なんらかのスキルがなければフリーランスとして働くことは難しいため、その多くは会社員時代に培ったものということでしょう。
一方で、会社員として実績やキャリアがあったとしても、フリーランスとして成功するとは限りません。フリーランスとして取引するのが難しい業界相手ではそもそも商売が成立しませんし、組織力を活かさなければ価値が生まれない領域もあります。
フリーランスになった多くの人が振り返る失敗の原因は、「過信」と「情報不足」です。
「自分なら大丈夫」とたかをくくっていたり、「会社ではこうだった」と過去に倣ってリサーチを怠ったりしたことで、大きな失敗をしてしまったといいます。
想像もしていなかったトラブルが起こる。フリーランスになるうえでは、この心構えをもちながら仕事に臨むことが、何より大切です。
ここからは、シーンに分けながら実際フリーランスの方から教えていただいた失敗談を紹介します。
はじめに資金繰りに関わる失敗談を紹介します。仕事のスキルよりも、自分の生活を維持するためにまず必要なのが「資金繰りの基礎」です。
会社ではなかなか想像しづらい失敗について、ピックアップします。
Aさんは会社員としては専門領域の実績があり、それが強みになると確信していました。そのうえで独立してすぐ営業活動を始めたものの、ネームバリューのないフリーランスに仕事を任せる企業はなかなか見つからず、成約までに3ヶ月かかってしまいます。さらにそこから全力で働いても、ひとつのプロジェクトが完結するまでには3ヶ月がかかりました。そのプロジェクト終了後ようやく請求したものの、初の報酬が振り込まれるまでには、すでに独立から7ヶ月が経っていました。働いていたのにも関わらず、半年以上無収入だったのです。
Aさんが生活費を安定して稼げるようになったのは、さらに複数案件を獲得した1年後のことだったそうです。正社員時代の貯金を切り崩しながら働く日々のストレスで、一時的に円形脱毛症になってしまったとか。
仮に前職の人脈やクラウドソーシングサービスを活かしたとしても、独立してすぐに理想の収入が入ってくることはまずないでしょう。独立前に、無収入でも半年〜1年は生活できる貯金をしておくことをおすすめします。
報酬が入金されるまでにはタイムラグが発生します。支払いサイト(支払いサイクル)は必ず取引開始前にチェックしましょう。
一般的には翌月末払いの企業が多いですが、なかには翌々月末払い、それ以上の企業もあります。月々の入金計画が崩れるとキャッシュフローが回らなくなるので、注意が必要です。
先ほどのAさんの例でも挙げましたが、数ヶ月単位のプロジェクトで終了後請求となる案件に携わると、その間をつなぐ案件がほかに必要です。フリーランスのBさんは、入金のタイミングが遅い案件ばかりで生活費がゼロになってしまった経験から、毎月最低限の生活費を稼ぐためのライトな仕事を足したそうです。
生活費が不足すると精神的なプレッシャーが大きくなるので、早めに計画しながらスケジュールを調整しましょう。
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こうしたキャッシュフローの観点から、一社から大型プロジェクトだけを受託するスタイルはおすすめできません。できれば複数社と同時に取引し、どの会社の振込が遅れても問題がないような継続案件を積み重ねるのが理想的です。
フリーランスになりたての頃に高額案件を見ると、つい挑戦したくなってしまうものです。しかし、他の案件に手が出せないほど労働時間を費やしたのに、振込はずっと先……なんてことがあると、生活ができなくなるので注意しましょう。
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次は取引先とのトラブルについてです。「お仕事をいただけるだけでありがたい」というスタンスは前提として、取引先にへりくだって言いなりになってしまうと、必ず身がもたなくなります。
場合によっては条件を交渉したり、その仕事は辞めたりといった判断が必要になる事例を紹介します。
フリーランスは企業と比べて立場が弱いだけでなく、取引する企業側もフリーランス向けの契約書の雛形を有していないことがしばしばあります。つまり、内容がフリーランスにとって不利な内容だったり、必要な内容が書いていない場合があるということです。
何らかのトラブルがあったとき、自身を守るための命綱になるのが契約書です。読み飛ばして押印せず、理解できるまで読み込みましょう。また、気になる点は契約前に確認し、必要であれば修正を依頼しましょう。
これは立場の上下関係なく、自分を守るためにフリーランス側が徹底すべきことです。
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フリーランスが長年一社と取引を続けていると、まるで社員のように信頼されることがあります。それ自体はとてもうれしいことなのですが、業務内容まで社員扱いされるのは避けなければなりません。
フリーランスのCさんは、2年間お世話になっている企業からの依頼を断りづらく、深夜や土日を挟んだ緊急案件も引き受けていたそうです。やがてそれがエスカレートし、報酬は変わらないまま、業務外の雑務や社員教育の範囲まで任されるようになり、交渉が立ち行かなくなったところで取引自体をあきらめることになってしまいました。
「ノー」と言う判断基準を決めておくことも、フリーランスにとってはリスクマネジメントの一つになるわけです。
良い条件だから引き受けた仕事だったのに、担当者が変わって状況が一変したという失敗談も聞きました。
Dさんが引き受けたある案件の前任担当者は、フリーランスをパートナーとして扱い、働きやすさが保たれるよう納期や内容を調整してくれていました。しかし、仕事を引き継いだ後任担当者はフリーランスを「外注」と割り切り、無理難題を押し付けてくるように。契約の都合上途中で案件を降りることもできず、一年間ストレスフルな仕事が続いたそうです。
たとえ業務内容は引き継げても、フリーランスの扱いについて社内で明文化されている企業は多くありません。担当者と1対1の関係になりやすいフリーランスは、その担当者によって仕事のしやすさが左右されることを忘れないようにしましょう。
次は自身が受け持つ仕事全般についてです。
労務や会計など、フリーランスだからこそ一手に引き受ける仕事面での失敗談を中心に紹介していきます。
好きなタイミングで休みを取れるフリーランスにあこがれたはずが、会社員時代よりも休んでいない……そんな「セルフブラック企業」状態に陥る人は意外と多いようです。
本記事を書くにあたってヒアリングした5名の方は、全員「過労ぎみ」と答えており、かと言って仕事を減らすのも難しい状況とのこと。ちなみに、前述した中小企業庁の調査によると、フリーランスの約1割は1日12時間以上労働していることが明らかになっています。
誰に勤怠管理をされるわけでもないフリーランスは、やろうと思えばいくらだって働けてしまいます。せっかく独立したのに生活の幸福度が下がってしまわないよう、スケジュール管理と休日設定を徹底しましょう。
フリーランスの人がだいたい毎年頭を抱えるのが確定申告です。多忙な時期が重なると、「面倒だから適当にやっちゃえ」と考えたくなる気持ちはよくわかります。しかしここで申告漏れがあると、あとで痛い目を見ることになります。
フリーランス三年目のEさんは、入念なチェックをせず確定申告して、翌年一部の申告漏れに気がついたそうです。しかも、気付いたきっかけは住宅金融支援機構の住宅ローン審査。審査を通すために支払いを済ませなければならず、再申告したところ、想像以上の延滞税がかかることになってしまったのだとか。確定申告のミスには、くれぐれもご注意ください。(参考:国税庁「延滞税の計算方法」)
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フリーランスになると、営業手段のひとつとしてSNSアカウントを作る人が多いです。仕事について投稿しながら自身の強みを伝えていく方法は、決して間違ってはいません。
しかし、投稿内容には注意が必要です。Cさんはまだ公にしてはいけない内容をSNSに投稿したことで、取引中止になってしまいました。普段から仕事の経過をSNSに投稿していたため、深く考えずに成果物の一部を投稿してしまったそうです。
取引先がフリーランスについて事前に調べるとき、知人からの紹介でない限り、WebサイトやSNSしか信用性を判断するものがありません。そこでの振る舞いが信用に欠けると、多くの企業は取引したくないと感じるものです。
「案件が特定できるレベルの詳細については触れない」「報酬に関わる内容は書かない」「情報公開の時期を入念にチェックする」。SNS運用時は、この3点を意識すると良いでしょう。
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最後に、フリーランス仲間についての失敗談を紹介します。仕事と比べて直接的なダメージは少ないものの、どんなコミュニティに属するか、誰と接するかで、フリーランスの幸福度は大きく変わります。
実際にあった失敗談をもとに、仲間づくりのリスクを想像していきましょう。
友だちとして交流を深め、互いの悩みを打ち明け合う。こうした時間は、一人で働くフリーランスにとってかけがいのないものです。
しかし、信頼が深まったころに月額制や年会費が必要なサロンに勧誘されることも。心から惹かれる内容なら参加するのも良いですが、信頼関係を盾に断れない状況を作り出されることも珍しくありません。
フリーランス界隈には、フリーランス同士で知識や仕事を共有し合うことをビジネスにしようと企むフリーランス“もどき”が一定数います。フリーランスになりたてのころは、漠然とした不安から仲間やアドバイザーを求めがちなので、こうした類の勧誘には注意が必要です。
AさんはSNSを通じて同職種のベテランフリーランスと知り合い、高い頻度でアドバイスを受けるようになりました。はじめは快く聞いていたものの、次第に違和感を覚えるように。ふと気になって相手の経歴を調べたところ、想像していたような実績はなかったそうです。
学校や会社では、年齢相応の経験や実績が重なるため、先輩や上司の多くは自分よりも優秀です。しかし、フリーランス業界は年齢によるスキル差はまったくあてになりません。
極論を言えば、それほどスキルが要らない仕事を10年間続けたフリーランスより、スキルアップを意識してレベルの高い案件に挑戦し続けた3年目のフリーランスのほうが、仕事の質においては優秀かもしれません。
この前者と後者、どちらの働き方が良いという話をしているわけではありません。ただ、先輩だからといってアドバイスを鵜呑みにすることはないのはたしかです。なぜかやたらと先輩風を吹かせるフリーランスもいるのですが、実績が見合わない相手なら気をもまずに軽くスルーしておきましょう。
案件が増えすぎて抱えきれなくなったフリーランスが、知り合いのフリーランスにヘルプを求める。この構図を周囲でよく見受けるのですが、成功した例をほとんど見たことがありません。
一番よくある失敗は、友人ノリで仕事をしてしまうことです。相手が知り合いのフリーランスだからと納期がゆるくなったり、カバーしてくれることを前提にしてクオリティが担保されなかったり、信頼が揺らぐ成果物が出てくることがしばしばあります。逆に依頼する側が価格を下げて依頼したり、振込が遅れたりと、関係性に甘えた不義理をしてしまうことも珍しくありません。
本来、成果物をもとに報酬が発生する場合は、どんなに少額でも契約書を結び、取引として相応のリスクヘッジをしなければなりません。しかし、見知ったフリーランス同士となるとそこがゆるくなることが多く、失敗だと気付いたときのリカバリーができないケースも見受けます。グレーゾーンの多い頼み仕事や頼まれ仕事は、なるべく避けましょう。
フリーランスがチームを組むとどうなる?お仕事の請け方やお金はどうなっているの?
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度重なる失敗や、思い描いたフリーランスとのギャップに苦しみ、廃業を検討する人もいるでしょう。
今回話を聞かせてくれた一人であるDさんは、2年間フリーランスとして働いた後、再就職して現在は会社員として働いています。Dさんの経験談をもとに、再就職のリアルについて解説します。
フリーランスが再就職する際は、自分の力で成約した実績をもとに就職活動が可能です。会社員よりもビジネスの仕組みについて理解していることは、スタートアップ企業などの一人あたりの裁量権が大きい職場ではアピールポイントになるでしょう。
Dさんは転職と同じフローで再就職活動をしましたが、元フリーランスだからという理由で門前払いされることはなかったそうです。
フリーランスのポートフォリオ作成方法。事例やおすすめの制作ツールも解説
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一方で、これまでまったく取引のなかった企業に就職活動をする場合、フリーランス歴が長い人材を敬遠する企業は珍しくありません。
というのも、フリーランスは就業時間やチームプレーなどに縛られない働き方に慣れています。会社員一本で生きてきた人材と比べて「組織で使いづらい」と判断される可能性が高いのです。フリーランスの年月が長ければ長いほど、こうしたリスクはふくらみますし、自分自身の腰も重くなっていきます。
Dさんも、就職活動をしながら「あまりに厳格な組織にはもう耐えられないだろう」と感じたそうです。
最終的にDさんが再就職先として選んだのは、フリーランスとして取引していた会社でした。互いに信頼していた担当者が「正社員も募集している」と声をかけてくれたので、承諾する形で再就職しました。
ただし、このパターンは安定した給与をもらう代わりに他社取引をやめるスタイルなので、キャリアアップやキャリアチェンジとは言えません。Dさんは給与が安定することが最優先の条件だったため、現状に満足しているそうです。
なお、フリーランス・副業向けマッチングサービス『Workship』にも、互いに希望があえば正社員採用ができる仕組みがございます。
このように、フリーランスからの再就職は不可能ではありませんが、再就職先は絞られます。
もしも会社員に戻りたくなる自分が想像できるならば、勢いで退職せず、まずは副業やパラレルキャリアなどの形でフリーランスの「お試し期間」を設けることをおすすめします。
フリーランスになると、会社員時代には想像もしなかったトラブルや失敗がついて回ります。あなたを守ってくれる人や組織はいませんから、自分で自分を守りながら働いていく慎重さが求められます。また、一度フリーランスになると再就職は簡単ではないのも事実です。
これから独立を検討している方は、今回紹介した失敗談を想像しつつ、十分検討してからフリーランスを目指しましょう。
(執筆:宿木雪樹 編集:少年B)
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